ウータン・クランが世界でただ一枚のアート・アルバムとオークションでパトロン文化を作ろうとしている
ウータン・クランが世界でただ一枚のアート・アルバムとオークションでパトロン文化を作ろうとしている
ウータン・クランのファンには朗報かもしれません。
昨年、ウータン・クランが突如新作となるダブルアルバム「Once Upon A Time In Shaolin」をレコーディングしていることが明らかになり、グループはこの作品を世界で一つだけのアートワークとして発表する斬新なアプローチを仕掛けました。詳細も明らかにされていない、世界で一つしかないアート・アルバムとして話題になったこの謎の作品、ようやくラッキーな買い手が見つかるかもしれません。ウータンのRZAはこの作品の提供方法として、オークションにかけると発表しました。
RZAは、アート作品としてアルバムを作る狙いには、音楽を芸術品であることを音楽シーンに再認識させ、作品の価値を向上させるためであるとして、簡単に真似できないほどに洗練されたアートとしてアルバムをパッケージして、世界の美術館で展示ツアーを行い、その後オークションによって高額で発売すると説明してきました。昨年ウータン・クランは別のアルバム「A Better Tomorrow」をリリースしましたが、その間にもアート・アルバムを購入したいと謎の人物から500万ドルのオファーがあったとRZAは言います。
アート・アルバムは今月にオンラインオークション・ハウスのスタートアップ「Paddle8」によってオークションにかけられます。
現代アーティストのダミアン・ハースト、アートディーラーのジェイ・ジョプリング、UberやBuzzfeed、Vimeoなどに投資するVCのFounder Collective、多数のアート関係団体や大学のパトロンでもあるメロン・ファミリーなどが出資するPaddle8は、2011年に創業されたファインアート専用のオークション・サーヴィス。非営利団体や美術館、キュレーター、アーティストとも組んで作品のオークションやチャリティーオークションをオンラインで手掛けています。
RZAはビジネスメディアのフォーブスに対して「Paddle8が正式なオークションハウスに決定した」と回答しました。アートアルバムはオークションではなく、プライベートなセールで購入者が選ばれることとなり、Paddle8で買取のオファーが受け付けられられる予定です。
アートアルバムはいつから販売を開始するか、ウータン・クランがどの程度受け取るのか、現在はまだ明らかにされていません。
RZAはインタビューで買い手がどうアルバムを扱おうが自由と言っています。つまりコピーを作り販売することも可能ですし、プライベートなコレクションとして所有することもできます。もしかすると、世の中にこの作品が出ることは無いかもしれません。クラウドファンディングでこのアルバムを購入して、配信することもできるかもしれません。
この取り組みは作品のプロモーション、音楽の価値、マネタイゼーションの面で現代の音楽ビジネスのデモルに疑問を投げかけています。ウータンは大量のプロモーションやマーケティングとそのコスト、無料でどんな曲でもリークされるネットの世界、ダウンロードや音楽ストリーミングによるロイヤリティの分配などとは全く違った方向性で、このアルバムを世に送り出そうとしています。
彼らのアプローチは、音楽を大量に発信する現代のモデルとは異なり、アートを愛し数百万のお金を惜しみなく出すパトロンとアートを作るクリエイターのようなルネサンス期のモデルに似ています。おそらくこのアルバムにも数百万円、数千万円のオファーがつけられるでしょう。同じ金額を普通の販売方法で得ようとすると、どれくらいのアルバムを販売しなければいけないか、想像してみてください。
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*音楽とパトロンのモデルについては、小室哲哉さんが独自の哲学を語っていますので、こちらもご覧ください。
ウータンのアルバムを見ていると、音楽の届け方についていろいろ考えを巡らせ、これからの時代はどうなっていくのか、関心が高まります。今の時代では音楽を聴かせるためそして売るために、新しいテクノロジーやツールに目が行きがちになってしまいます。ですが新しければ全てが解決するわけではないことを忘れがちになります。作品の本質的な部分、例えば音楽に紐付いた「感動」や「興奮」、「ストーリー」、「普遍性」をリスナーに届けて感じてもらうことを考えた場合の最適な手法は、全てが新しいアプローチでなくても、過去のアプローチを使ってもそれらを伝えることができるということです。アナログレコードが人気の理由はそこにあるといえます。だから今回ウータン・クランが、アナログレコードよりもさらに古いパトロンを見つけるアプローチを実践したことは、斬新でした。
iTunesやSpotify、YouTubeなど音楽の届け方は便利になった反面、クリエイターがリスナーの音楽への関心を長時間持続させることが難しくなってきました。ですので、音楽ファンの持続的関心が音楽の価値であることまでを感じることができることがこれから音楽で生き残る条件の一つで、その可能性とも言えるアプローチがウータン・クランのアート・アルバムなのです。
■記事元:http://jaykogami.com/2015/01/10488.html
記事提供:All Digital Music
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