グレイトフル・デッドが、次世代に残していった音楽ビジネスのヒント
結成50年目最後のライブを終えたグレイトフル・デッドが、次世代に残していった音楽ビジネスのヒント
チケット売上だけで60億円越え!
キャリア50年を締めくくる最後のツアーを終了した伝説的なバンド、グレイトフル・デッド。サンタクララとシカゴで開催された5日間の「Fare Thee Well」コンサートは、熱狂的なフォロワーとバンド独自のユニークな演出とが重なり合い、ファンやメディアから高い評価を得たライブとなりました。
そしてもう一つ、見逃せないのが、グレイトフル・デッドのビジネス面での成功です。その緻密な戦略とスケールは、バンド活動50年を迎えたバンドとは思えない程、最先端のレベルでファンがバンドの音楽に触れられる環境を生みだしています。音楽専門メディアBillboardがレポートしています。
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旅の終焉を迎えたグレイトフル・デッドは、最後まで音楽マーケティングとテクノロジーのパイオニアだった
バンドがサンタクララで開催したライブには二日間で合計151,650人が参加。シカゴのソルジャー・フィールドで開催したライブでは、三日間で210,283人を動員し、同フィールドの歴代最高記録を叩き出しました。
そして収益面でも大成功を収めています。サンタクララでのチケットからの収益は、2150万ドル(約26億6700円)。シカゴのライブでは3070万ドル(約38億円)。5日のライブでチケット売上は計5220万ドル(約64億7700万円)と驚異的な売上を記録しました。
さらに、バンドはライブの模様をテレビやネットで有料配信するストリーミング戦術も大きな成功を収めました。まずケーブルテレビのペイ・パー・ビュー(PPV、コンテンツ単位で支払う課金システム)やオンライン配信で視聴した数は40万件以上に上り、これは音楽イベントのPPVとしては過去最高の売上でした。ライブの動画は8月までアーカイブとして期間限定で視聴が可能なため、この数はさらに伸びると予想されます。音楽イベントでのPPVの購入が10万件を最後に超えたのは、1999年のバックストリート・ボーイズの16万件が最後で、これでもグレイトフル・デッドの半分にも及びません。
今回、映像配信をプロデュースしたのは「Live Alliance」。ニューヨークに拠点を置くメディア制作、イベントストリーミング専門のLive Allianceは、「ロラパルーザ」や「オースティン・シティ・リミット」など人気フェスを手掛けるプロダクション会社C3 Presentsや、「ボナルー・フェスティバル」運営会社のSuperfly、音楽スポンサーシップ専門のエージェンシーMAC Presentsなどをクライアントに持つ、映像やイベントの配信に定評のある会社です。
グレイトフル・デッドのストリーミング配信も、Live AllianceはケーブルテレビやVOD(Video on Demand)サービス、ネット配信などあらゆるプラットフォームとパートナーシップを組み、大規模なオーディエンスへのリーチを成功させています。DirecTV、Dish、iNDEMAND、Bell Canada、Rogers CanadaなどPPVテレビ放送、またYouTube初の音楽有料配信、さらにはメジャーリークベースボール(MLB)のメディアテクノロジー会社MLB Advanced Mediaとパートナーシップを結び、テレビやネットなどあらゆる層のファンが視聴できる環境を作り上げました。
例えばネットからライブを視聴したい日本や世界中のファンや、もう一度視聴したいファンは、ライブ1日分を9.95ドルで視聴が可能。5日全てだと39.95ドルで約10ドルお買い得になっています。
アメリカとカナダに住んでいるファンはケーブルテレビのPPVを支払ってライブを19.95ドルから見ることができます。どちらもライブが終了してから1カ月は映像がアーカイブされるため、期間限定で何度でもライブを見返すこともできます。
またバーや映画館でもライブ視聴会も実施され、そのためのイベント用チケットサイトも開設されました。
この他に公表はされていませんが、Tシャツやグッズ、限定CD、ボックスセットなどマーチャンダイジングでも収益を上げているので、
このようにビジネスでも大きな成功を収めているグレイトフル・デッドは、チャリティ活動もライブ会場で行っています。実際にライブで使用されたギターがオークションを通じて52万6000ドルで落札されるなど、合計75万ドルをオークションで集め、17のチャリティ団体に寄付する社会活動も行っています。
過去に日本でも報じられてきましたが、グレイトフル・デッドは毎回ライブのセットが異なり、ほとんどの演奏を即興でプレイするため、同じ演奏を繰り返すことが少ないため、そういった驚きやハプニングが散りばめられたライブを何度も見に来るリピーターが多いことで有名です。グレイトフル・デッドはこれまでもツアーが大きな収入源だったため、「また行きたい」「絶対に見たい」と思わせる雰囲気を作り、長年かけてロイヤルなファンを生み出してきました。当たり前といえば当たり前ですが、人気曲や新曲を聴いてもらうために同じセットリストを繰り返す現代のライブと比較して考えると、リスクのあるチャレンジングなライブ演出ですが、ファンの楽しみを優先するグレイトフル・デッドは自分たちのやり方をやり続け、その結果として成功したと言えます。
現代ではライブビジネスは音楽を体験する上で貴重な機会であり、ファンにとってもダウンロードやストリーミングとは全く違う聴き方で音楽を楽しめる貴重な時間といえます。特に没入感や意外性、熱狂を増幅させて、アーティストとファンの距離を近づける意味で、ライブが果たしている役割を無視することはできません。グレイトフル・デッドは、その一歩先まで考え、ライブ会場に来ている35万人だけでなく、参加できないファンをバンドとつなぐアプローチとして、ライブをテクノロジーで開放する方法を選びました。
その過程でライブをビジネスの機会と捉え、さまざまなメディア、価格帯、オプションをファンに提案し、ファンが好む形でのライブ視聴を実現させる戦略を実施します。ただ生配信するだけでは足りない、何がファンに好まれるのか、までを考えた結果、あらゆる選択肢が選べる楽しみ方を作る映像戦略は、まだ映像ストリーミングが定着していない日本の音楽業界でも、特に海外へのアプローチを考えた場合、ヒントになるのではないでしょうか?
image by naleck via Flickr
image by Trevor Bexon via Flickr
■記事元:http://jaykogami.com/2015/08/11816.html
記事提供:All Digital Music
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