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広告代理店Deutschがチャーリー・プースとブランド戦略で契約

コラム All Digital Music

広告代理店Deutschが期待の若手アーティスト「チャーリー・プース」とブランド戦略で契約。アルバム制作からTVCMまで拡がる、音楽と広告業界のパートナーシップ広告代理店Deutschがチャーリー・プースとブランド戦略で契約

アメリカの広告会社「Deutsch」は過去にテイラー・スウィフトやImagine Dragonsなどアーティストをブランドのマーケティングの中心に置き、消費者とブランドの接点を強める戦略を実践してきたことで有名なエージェンシーです。そして今回Deutschは、クリエイティブなアドバイザーの役割を拡大させて、直接クリエイターを支援する新しい取り組みを始めようとしています。

DeutschはYouTubeで人気を集めた期待の若手シンガーソングライター、チャーリー・プース(Charlie Puth)と、アーティストのブランディングとクリエイティブなプロジェクトで契約を結びました。Deutschが2014年に作った、インハウスの音楽戦略専門チーム「DeutschMusic」が戦略的パートナーとしてチャーリー・プースのプロモーションを支援していきます。

Deutschで音楽クリエイティブ・ディレクターを務めるデイヴ・ロッコ(Dave Rocco)は、2015年後半からチャーリー・プースとのプロジェクトを始めました。

音楽業界とDeutschは、これまでも数多くのプロモーションやブランディングで協力関係を築いてきました。特に元レディーガガのマネージャーで、音楽のマーケティング会社Atom Factoryの創業者兼CEOトロイ・カーター(Troy Carter)との関係があります。トロイ・カーターがマネジメントを担当するアーティストは、チャーリー・プースに加えて、アメリカ人シンガーソングライター、メーガン・トレイナー(Meghan Trainor)やリン・ウィーヴァー(Ryn Weaver)がいます。さらにワーナーミュージックのA&R部門を統括する社長マイク・カレン(Mike Caren)も今回のプロジェクトに関わっています。

チャーリー・プースは、Deutschの音楽部門が契約した唯一のアーティストです。DeutschのCEOマイク・シェルドン(Mike Sheldon)は、エージェンシーは他のアーティストやバンドとも接触したが、プースが最もフィットしたアーティストだったと語っています。Deutschは今後も少なくとも12組のアーティストと話し合いを進めている段階にあると言います。

1月29日にリリースされたプースのデビューアルバム「Nine Track Mind」では、トラックのタイトル、ビジュアルアート、パッケージを、DeutschMusicが担当しています。またDeutschMusicはソーシャルメディア戦略のアドバイザー役も担当しています。

シェルドンはDeutschMusicの役割について、「私たちはレーベルを置き換えるわけでも、レーベルと競争しようとするつもりは全くありません。私たちはレーベルの機能を拡張するのです。レーベル、チャーリー、マネージャーと話し合い、私たちの役割は、必要に応じて重要な戦略的かつ実働パートナーとなることです」と説明しています。

プースのマネージャーで起業家でもあるトロイ・カーターは、今回の取り組みがアーティストにさらなるクリエイティブを与えるイノベーティブなアプローチだと考えています。プロジェクト開始当初は全員が連携することに時間を要しましたが、最終的には理解し合える関係が築けたとカーターは言います。

レーベルのトップでもあるカレンによれば、Deutschの支援を受けることで、新たな分野を開拓するための斬新な考え方が生まれたことがメリットの一つだと言います。

最も重要なことはというと、プロジェクトに参加する全員が熱意を持って取り組んだことが大きい。なぜなら熱意が無ければ、本質の無いマーケティングが生まれてしまう。マーケティングはアーティストの本質を反映しなければ成立しない

Deutschと音楽業界は、Deutschが手掛けるブランドのマーケティングにアーティストの作品を組み合わせた斬新な取り組みを過去に何度も実践してきました。

広告代理店Deutschがチャーリー・プースとブランド戦略で契約

Deutschで最も有名な音楽マーケティングの取り組みは、米大型チェーン店「ターゲット」のプロジェクトです。例えば、Deutschはテイラー・スウィフトの「Red」や「1989」の大成功を収めたターゲット限定キャンペーンに関連したクリエイティブ戦略を担当しました。

 

また新しいクリエイティブな取り組みとしては、2015年2月9日にアメリカで全国放送された「グラミー賞」で、ターゲットのTVコマーシャルにロックバンド「Imagine Dragons」をライブで出演させ、ターゲットの特設ステージから最新シングル「Shots」を演奏して初披露させる、前例の無いコマーシャルの形を実践しています。
 

さらにターゲットはコマーシャルのオンエア直後に、Imagine Dragonsの新アルバム「Smoke + Mirrors」を独占パッケージで販売することをSNSで発表して、ファンの購買につなげています。

 

グラミー賞に関連すると、チャーリー・プースはヒット映画「ワイルド・スピード SKY MISSION」のエンディング曲「See You Again」のソングライターとして、グラミー賞最優秀楽曲賞にノミネートされています。また今年も音楽ファンからの注目が高まるグラミー賞で、Deuschのようなエージェンシーによる音楽マーケティングが披露させるかもしれません。
 

飲料水メーカーからクレジットカード会社まで、世界ではアーティストと作品、ブランドを通じて消費者と繋がる音楽マーケティングを実践する企業が増えて、プロモーションやブランド価値向上の観点からレコード会社や企業のマーケティング担当者は、新しいアイデアが求められるようになっています。例えばターゲットとImagine DragonsのTVコマーシャルは、ライブ映像を中継することでファンに新曲を届けることをメインコンテンツとして提供しつつも、ターゲットがバンドの新作を限定販売することも同時に伝えている、ネイティブ広告的なアプローチのクリエイティブで、これまでとはまた違う新しい音楽マーケティングの可能性の一つとも言えるでしょう。

こうした取り組みは、ブランド側では今後ますます増えていくことが予想されます。そのためにはレコード会社は単体で動くだけでなく、エージェンシーやマネジメント会社と協力して、クリエイティブなプロジェクトをデジタルでもオフラインでも動かす戦略とチーム作りが必要になるはずです。逆に今後は、一つの組織がばらばらに動くことが、クリエイターや作品の価値を最大化する機会を損ない、結果的にファンや消費者を音楽で動かす推進力が生み出しづらい環境へと繋がっていく気がしています。

定額制音楽配信が音楽流通の構造に変化を与えていることと同じように、音楽のマーケティングの構造がブランドやクリエイティブ・エージェンシーの影響によって変わり始めています。この波が大きくなれば、既存の考えを刷新する新たな手法を実践する人や組織が生まれやすくなり、新しい手法によって音楽を通じた非日常的体験がさらに一般化していくだろうと、期待しています。このブログや個人の活動からも、音楽マーケティングの新しい手法に役立つ情報を少しでも提供できればと思っています。

■記事元http://jaykogami.com/2016/01/12671.html


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Jay Kogami(ジェイ・コウガミ)
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