テイラー・スウィフトの新曲「Look What You Made Me Do」の誕生裏話
先週金曜日に発売されたテイラー・スウィフトの新曲「Look What You Made Me Do」。作詞作曲家で5人の名前がクレジットされている。テイラー・スウィフト、ジャック・アントノフ、リチャード・フェアブラス、フレッド・フェアブラス、ロブ・マンツォーリ。ジャック・アントノフは「ウイ・アー・ヤング」の大ヒット曲を持つfun.のギタリスト。テイラー・スウィフトの前作「1989」ではテイラーと一緒に曲を書き、プロデュースもした。
では残りのリチャード・フェアブラス、フレッド・フェアブラス、ロブ・マンツォーリは何者か。ディスコ好きの洋楽ファンなら分かる。イギリスのポップ・バンド、ライト・セッド・フレッド のメンバーだ。1991年に「アイム・トゥー・セクシー」の大ヒットがある。実は「Look What You Made Me Do」の主要なメロディーとリズムは「アイム・トゥー・セクシー」から借りている。メンバーのフレッド・フェアブラスによると、テイラー・スウィフトの音楽出版社からフレッド達の音楽出版社に借りたい旨の連絡があり、その時は誰が使うかは明らかにされていなかったという。ただ有名な女性シンガーだとは言われた。そして初めて曲を聴いたのは一般人と同じ、先週の金曜日だったそうだ。
最近、この手の話が多い。盗作しようがパクろうが、似ていたら裁判をせず、クレジットに加えて著作権印税を払って解決する。エド・シーランの大ヒット曲「シェイプ・オブ・ユー」。スティーヴ・マックとジョン・マクデイドとエド・シーランが書いた事になっていた。しかしその後3名が作家でクレジットされる事になる。新たに加わった作家はカンディ・ブラスとタメカ・コトルとケヴィン・ブリッグスだ。この3人は1999年に全米ナンバーワン・シングルとなるTLCの「ノー・スクラブズ」を書いた。理由は明らかにされていないが、「シェイプ・オブ・ユー」が「ノー・スクラブズ」の曲に大変似ている事だ。
2013年の大ヒット・シングル「ブラード・ラインズ」の盗作問題。「ブラード・ラインズ」が故マーヴィン・ゲイの大ヒット曲「黒い夜(Got To Give It Up)」に酷似しているとして、マーヴィン・ゲイの遺族が曲を書いたロビン・シックとフィーチャリング・アーティストのファ レル・ウィリアムスとT.I.ことラッパーのクリフォード・ハリスの3人を訴えた。マーヴィン・ゲイの「黒い夜」は1977年にビルボード・シング ル・チャートで1位になった大ヒット曲。裁判所は「ブラード・ラインズ」の作家達に6億3600万円を遺族に支払うよう命じた。また今後「ブラード・ラインズ」から得られる著作権料の50%を遺族に分配するようにも命じた。
2015年のグラミー賞で作詞作曲家に与えられる「最優秀楽曲賞」を受賞したサム・スミスの「ステイ・ウィズ・ミー」。ロック・ミュージシャンのトム・ペティ側からクレームがついた。ジェフ・リン(エレクトリック・ライト・オーケストラ)と書いた1989年のヒット曲「アイ・ウォント・バック・ダウン」にそっくりだと。大人の解決で、トム・ペティとジェフ・リンはこの「ステイ・ウィズ・ミー」の作家にクレジットされ、音楽著作権料の12.5%を受け取る事になった。
普通、曲の盗作騒ぎは決着まで時間がかかる。有名なケースではジョージ・ハリソンの「マイ・スィート・ロード」がある。シフォンズという女性グループが歌って全米で1位になった「イカした彼(He’s So Fine)」だ。作曲家ロナルド・マックが書き、音楽出版社ブライト・チューンズが保有していた。ブライト・チューンズはジョージ・ハリソンを著作権侵害で訴えた。裁判は10年間にもおよび、ジョージ・ハリソンが敗訴。約60万ドルもの賠償金を払う事になった。
CD時代になった80年代から、アメリカではシングル盤がほとんど発売されなくなった。儲からないからだ。しかしiTunesストアーでのダウンロードでシングル売り上げが復活する。そして定額制音楽ストリーミング・サービスが始まる。音楽業界誌ビルボードは、テイラー・スウィフトの「Look What You Made Me Do」はiTunes他の有料ダウンロードで、発売初週に50〜60万枚を売るだろうと予測、スポティファイは初日で全世界で800万の聴取があり新記録だと発表した。
盗作(著作権侵害)は長く裁判をやるよりも、共作にする方が簡単な時代だ。往年のヒット曲を書いた作家は、似ている曲があったら大金を手にする事が出来る時代でもある。今回は盗作ではなく、許諾を取って借用した。ライト・セッド・フレッドの3人は大金を手にする。