テクノロジーが生み出す新たなライブ演出!「IINNOVATION WORLD LIVE PLUS」レポート
音楽×テクノロジーLIVE「J-WAVE 30th ANNIVERSARY INNOVATION WORLD LIVE PLUS supported by CHINTAI」(通称・イノプラ)が、1月24に豊洲PITにて開催された。
本イベントは、2018年9月にJ-WAVEが主催したテクノロジーの祭典「INNOVATION WORLD FESTA 2018 Supported by CHINTAI」(通称・イノフェス)の2日目が台風により中止となり、アーティストとクリエイターからの「ぜひ実現させたい!」という声を受けて実現したもの。
「ASIAN KUNG-FU GENERATION feat. AR三兄弟」「androp feat. 武藤将胤」「カサリンチュ×宇宙兄弟」「Awesome City Club feat. Nu.ink」の4組が出演し、テクノロジーと音楽を組み合わせた、これまでにない斬新なパフォーマンスが繰り広げられた。
インタラクティブな演出で高まる一体感! Awesome City Club feat. Nu. ink
Awesome City Clubは、筑波大学の学生によるクリエイティブチーム「Nu ink.」とコラボレーション。
メンバーをステージに呼び込む場面では、まずモニターに表示されたQRコードを観客がスマートフォンで読み込み、スマホの画面に数字を表示させる。その数字はスマホをシェイクすることでカウントアップされ、それにあわせてステージ両端にある縦型のサイドモニターに表示されたパワーゲージが溜まっていくという仕組みだ。観客が力を合わせて1万回シェイクしてパワーゲージが満タンになると、満を持してメンバーが登場した。
演奏中は「オーディオリアクティブ映像」がバックモニターに流れ、観客の反応をリアルタイムで映像に反映。『Catch The One』ではモニターに赤と青の水滴のような模様が現れては消え、『Don’t Think, Feel』ではモニターに映るドットがドラムに合わせて大きさを変える。また『SUNNY GIRL』では、観客の拍手の音量や波形がモニターに映し出され、観客がリズミカルにハンドクラップすると、ビル群のような白い四角柱が音に合わせて伸び縮みし、気泡も拍手に合わせて弾ける。観客を巻き込んだインタラクティブな演出に、会場の熱量が一気に上がった。
マンガの世界と現実がリンク! カサリンチュ×宇宙兄弟
カサリンチュと『宇宙兄弟』は、AR三兄弟の力も借りながら、『宇宙兄弟』の世界観を拡張した演出を展開。
『OPENING〜ASIVI〜』では、タツヒロが『宇宙兄弟』の主人公ムッタ(南波六太)に変身。モニターに投影されたタツヒロの自撮り映像では、タツヒロの顔がムッタに。表情や口の動きもシンクし、まるでムッタが現実世界でパフォーマンスしているよう。『宇宙兄弟』27巻のテーマソングである『あと一歩』では、楽曲歌詞とシンクロしたストーリー展開のMVが放映され、その世界観に没入した観客の中には目をうるませている人の姿も。
さらに、10周年を迎えた『宇宙兄弟』のために書き下ろされた楽曲『満月』では、歌詞から抜き出した単語(キーワード)を打ち込むと、リアルタイムで『宇宙兄弟』の物語の中を検索。そのキーワードが出てくる漫画のコマがモニターに映し出され、歌詞とマンガの世界がリアルタイムでリンクする。最後には楽曲タイトルであり、『宇宙兄弟』の物語には欠かせない「月」が映し出され、煌々と会場を照らした。
目でVDJ! androp feat. 武藤将胤
andropがコラボしたのは、”EYE VDJ MASA”こと、ALS患者でクリエイターの武藤将胤。メガネ型ウェアラブルデバイスを使い、眼球や顔の動きだけで音や映像をコントロールするEYE VDJを披露した。
演奏前には、武藤のインタビュー映像を放映。昔から音楽を愛し、DJを始めようと思っていた矢先にALSを発病。それでも、自分の感じたことを音楽や映像で表現するという夢を諦めず、EYE VDJという方法に行き着いたという。
ステージ中央にいる武藤の前にはPCが置かれ、眼球、首をわずかに動かして操作。曲に合わせてモニターに映し出された図形を回転させたり、映像エフェクトをかけたりと、リアルタイムでリンクしていることが伝わってくる。
『MirrorDance』と『World.Words.Lights.』では、キーボードをたたく内澤(Vo.)が手を挙げると、それを合図に武藤が音を歪ませるといった掛け合いも。また、曲間のVDJでは、モニターに武藤の目がアップで映し出され、まばたきや眼球の動きが観客に伝えられる。
MCでは、「うまくいった! 今、すげえことしてんすよ。リハでは音が出ないこともあって、どうなるかと思っていたけど、本番は成功した! よかった!」と内澤が興奮気味に話し、武藤が行なっていることについて「遠目だとわからないよね」「目でエフェクトをかけたり、音を操作したりしてくれて、僕らはバンドでかけあいをしてました」と説明。武藤も「メンバーのみなさんと一緒に、思いを込めて、時間をかけて準備をしてきたので、“限界”を超えたステージができてうれしいです。障害なんて関係なく、音楽で繋がってくださったみなさんに心から感謝します。盛り上がっていきましょう!」と喜びを伝え、観客は大きな拍手を送った。
デジタルとリアルの融合! ASIAN KUNG-FU GENERATION feat. AR三兄弟
ラストを飾ったのは、ASIAN KUNG-FU GENERATION feat. AR三兄弟。『未来の破片』でステージの幕が上がり、AR三兄弟の手がける映像には「トカゲ」「光る」など歌詞に合わせてポップなイラストが映し出される。
『荒野を歩け』では、跳ねるようなメロディに合わせて、AR三兄弟がVJのために行なったというLINEの軽快なやり取りが、『ロードムービー』では電車のアニメーションが流れる。映像の中で電車の窓から光が差し込むと会場もライトで照らされ、曲の終盤では激しいドラムに合わせて映像の町並みが崩れ落ちていく。
MCでは、「集まっていただいてありかとうございます」と後藤正文(Vo.)。本来の公演が台風で中止になったことについて「俺たちが特別なことしようとすると台風が来るんだよね」と苦笑しながら、「いろいろ準備してて悲しかったから、リベンジできて嬉しいです。見ての通り、ほがらかなおじさんたちなんで、ほがらかに楽しんでいただけたら」と観客の笑いを誘う。この日が喜多建介(Gt.)の誕生日であることにも触れ、会場は祝福ムードに。
続く『リライト』では、ポリゴンで作られた六本木ヒルズ全体が映し出され、空中飛行するようにカメラが動いて、ライブが行われる予定だった六本木ヒルズアリーナへと舞い降りていく。すると次の瞬間、六本木ヒルズが光に包み込まれ豊洲ピットに。観客からは驚きと興奮の声が上がる。最後の曲『君という花』では、モニターに映し出されたCGの「次元花火」が弾け、レーザービームとなって客席にも降り注ぐ。光に満たされた会場に、大きな歓声が響いた。
4組それぞれに異なるテクノロジーを駆使しながら、ライブパフォーマンスの未来を見せてくれたイノプラ。2018年9月に上がったイノフェスの幕が、いまようやく下りた。
撮影:後藤壮太郎
ライター:坂本 泉(Izumi Sakamoto)
ロンドン在住、フリーランスのライター/エディター/フォトジャ
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