米ライブビジネス大手のAEGがチケット販売のAXSを子会社化、ライブ・ネイションに対抗。チケット業界勢力図は2強時代に
世界規模でライブビジネスを展開するグローバルエンタテインメント企業のAEGは、ライブコンサートや音楽フェス、スポーツなどで幅広く導入されるオンラインチケット販売プラットフォーム「AXS」の株式100%を取得し、AEGのグループ傘下に加えた。
AEGの傘下には、ツアーやライブを運営するプロモーション会社のAEG PresentsやConcerts West、コーチェラ・フェスティバルの運営会社のGoldenvoiceをはじめとしたフェス・プロモーター、世界各地のメルセデス・ベンツ・アリーナやスタジアムなど会場やエンタメ施設の運営を手掛けるASM Globalなどが展開している。加えてパートナー企業にはMessina Touring Groupなどがあり、これらの企業と会場、チケット販売を通じて、AEGはテイラー・スウィフトやローリング・ストーンズ、エルトン・ジョン、BTS、エド・シーランなどのツアーを成功させている。
世界的に需要が高まるライブビジネス市場において、業界2位のAEGは、最大のライバル企業である業界1位のライブ・ネイションとの間で激しい競争を繰り広げてきた。
AXSを子会社化することで今後AEGは、ライブ・ネイションが運営する世界最大のチケット販売プラットフォームであるチケットマスターと、世界規模でチケット販売ビジネスと技術開発でも本格的に競い合う企業体制を整備し始めた。
AXSは2011年、チケットマスターと直接競争するために、AEGとシルク・ドゥ・ソレイユ、Outbox Technology、元チケットマスターのCEOのフレッド・ローゼンによる共同事業として設立された。AEGはAXS設立からの共同オーナーとなっており、2015年にはオンラインチケット販売のライバル企業のVeritixとも合併した後も運営に携わっていた。
AXSの買収には、ヨーロッパ最大のチケットプラットフォームEventimも関心を示していた。
AXSはAEGのオンラインチケット販売に関する多種多様な技術を開発し、自社サイトでのチケット販売や第三者のイベントアプリ、パートナーとなるイベント会場のチケット販売サイトの運営を技術サポートしている。
ライブ・コンサートのプロモーターやスポーツイベントの会場には、モバイルチケット・アプリやチケット認証システム、グループ購入、チケット転売のプラットフォームを提供している。
AEGが手掛けるライブやツアーではAXSのチケット販売技術が導入され、購入者の行動データや、チケットのデジタル化、一時販売と転売を安全かつ公平に行うための専用ソリューションとして活用されている。また、紙チケット発行のわずらわしさを払拭したり、イベント会場の長い行列や入退場の混乱、チケットの在庫管理など、オペレーションの改善にも寄与する。
さらに独自の「ホワイトレーベル技術」を活用して、チケット販売時の名義をAXSだけでなく、ローカルのプロモーターや会場名義でも販売できる、柔軟性あるチケット販売技術も実現している。
AXSは2018年、日本進出を果たしている。
AXSは2018年に、エイベックス・ライヴ・クリエイティブとヤフー株式会社が合同設立したオンラインチケット販売サービス会社のパスレボ株式会社に出資し、パートナー契約を締結した。パスレボはヤフーが展開する「Yahoo!チケット」の強化を目的としてチケット販売技術の開発を行っている。
AXSはパスレボに対して最先端のチケット販売テクノロジーを提供しており、RFIDチップを使ったリストバンドでの入退場や来場者のデータを管理するツール、360度3Dビューで購入する座席が確認できるチケット販売システムが、ULTRA JAPANや福岡ソフトバンクホークスなどのチケットで導入されてきた。
米国のライブビジネスとチケット販売業界は、2020年を分岐点に大きな変化が予想されている。その理由には、ライブ・ネイションとチケットマスターと米司法省反トラスト局との間で定められた同意審決が影響している。この同意審決は、ライブ・ネイションとチケットマスターによるチケット販売の独占や自社に有利な販売戦略、他社プロモーターや会場経営者に対する圧力を阻止するため定められた。
今年8月にも、米上院議員のリチャード・ブルーメンソール議員とエイミー・クロブシャー議員が司法省に対して、チケット販売業界の独占禁止法違反を調査する申請書を提出したが、対象がライブ・ネイションとチケットマスターであることは明白である。これに対して、ライブ・ネイションのCEOのマイケル・ラピーノは「違反行為はない」と反論している。
記事提供:All Digital Music