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人工知能は作曲をどう変えるか

コラム MusicTechがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!

今回から5回にわたってMusicTech(ミュージックテック)の今とこれからについてコラムを書かせていただきます。

 

■MusicTechとは

“〜Tech” とは、この10年ぐらい非常に頻繁に使われている言葉です。AdTech、FinTechなどは皆さんも耳にされたことがあるのではないでしょうか? 

テクノロジーの進化と通信デジタル環境の変化、半導体等の技術革新が相まって、あらゆる産業が自らのビジネスについて再定義を促されています。

ピンチでもありチャンスでもある、変化の激しい時代の新しい業種や新しいサービスに対して、〜Techという表現をしているわけです。

 

MusicTechもまったく同じ文脈で使われています。既存の音楽ビジネスや音楽サービスがデジタルの進歩によって全く様相を変えてきている現状にどう向き合うかです。

毎年フランス・カンヌで行われ、50年以上の歴史を持つ音楽見本市MIDEMは、以前は国ごとに権利を許諾しあうことで活況を呈していましたが、今やMusicTechのイベントになっています。

テクノロジーとスタートアップの力を借りて音楽ビジネスを活性化していこうと欧州の音楽業界は真摯に取り組んでおり、日本にも見習うべきことがたくさんありました。興味がある方は以下レポートもご覧ください。

MIDEM2019レポート〜欧州MusicTechの現在地 https://note.mu/yamabug/n/nbd51a0d619e7

 

■スタートアップ・スタジオの役割

また、僕が経営しているスタートアップスタジオについても説明させてください。

ベンチャーに関する話なのでアメリカ西海岸から始まった言葉です。

ハリウッドの映画スタジオを意識して「スタジオ」と言う言葉が使われています。ハリウッドで同時並行的にいくつもの映画が作られるようにスタートアップも作っていこうと言う意味合いです。

背景には、最初にお金を集めて会社にするのではなく、いわゆる0から1のところをなるべく丁寧に作って、検証ができてから会社にしようと言う発想があります。企業に関する有効なコミュニティ形成の手法とも言えます。

音楽プロデューサーの出自の僕には、新人アーティストの育成手法とも似ていてしっくりきました。昨年の11月に、おそらく世界初のエンタメに特化したスタートアップスタジオとしてVERSUSを設立し、代表取締役を務めています。

 

現在、日本だと、ベンチャーキャピタルなどから、音楽系サービスには投資をためらうケースが多いと言う話を聞くことも少なくありませんが、欧米ではMusicTechに対する積極的な投資が始まっています。

新しいサービスやプロダクトを育成していくスタートアップスタジオの業態で、世界でも珍しいEnterTech を旗頭にしているVERSUSの代表としてビジネススケーラビリティに着目して語るつもりです。

 

音楽表現や音楽業界が、これからどう変わっていくのか、それはMusicTechとともにあると言っても過言ではありません。

海外のトレンドと日本の状況などを理合わせながら、この連載を展開していこうと思っていますのでお付き合いください。ご質問なども喜んで受け付けます。

編集部宛のメールや僕のTwitterに直接質問など自由な形でご活用ください

 

 

第一回. 人工知能は作曲をどう変えるか

では本題です。最初のテーマはAI作曲。人工知能は、今のITにおける最大のトレンドの1つですから、AI作曲についても先駆的な試みがたくさん行われています。

主な動きを表にまとめましたのでご参照ください。

AI作曲一覧表

人工知能は、近年の最も注目されている分野といっても過言ではないと思います。

深層学習と呼ばれる、データを人工知能自体に学ばせる方法が洗練され、大きな効果が出るようになりました。

ネットの普及により、ユーザの行動履歴がビックデータとして取得できるようになってきたこともあり、様々な使い道が語られています。

 

※本稿は、人工知能についても説明するまでもないので、文末に初心者向けの人工知能関係本をご紹介しました。興味のある方、人工知能についてもっと知りたい方は記事末尾を参照ください。

 

では、人工知能で作曲をするというのはどういうことでしょうか?

人工知能に作業をさせるためには、まず「作曲とは何なのか」について覚えさせる必要があります。

 

今は、パソコンひとつでクオリティーの高い音楽を作ることが可能な時代になっています。

僕は6年以上、「山口ゼミ」と言う作曲家育成のプログラムを行っていますが、卒業生は全員DAWを駆使してプロアーティスト向けの楽曲を制作しています。

 

テクノロジーが進化したからこそコミュニケーションが大切だと考え「コライティング」と言われる共同創作のやり方を提示をしています。

一般的に、ボップスを作る際のソングライティングは、アレンジや歌詞ミックスダウンなどすべての工程を総称して作曲と呼びます。しかし基本的な定義では、作曲といえばメロディー旋律を生み出すことです。別表にあるような実験も、ほとんどはメロディーの生成をAIに行う実験になってます。

 

結論から言うと、この分野は普及はまだ難しいと考えています。理由は、ユーザーからのニーズが薄いからです。

 

囲碁や将棋など勝敗がつく分野では「人工知能が人間を打ちまかす」といったわかりやすい結果が提示できます。

しかし、優れたメロディーの判断には主観性が伴うので「人よりコンピューターが良いメロディーを作った」などと言う事実がなかなか証明できません。

 

また、ここでいうユーザーニーズとは「ポップスの分野において求められていない」ことを指しています。音楽ファンは「誰がどういう背景、物語を持ってその曲を作ったのか」と言うことに感情移入します。歌詞の要素も大きいです。歌詞とメロディーの組み合わせ、そしてそれを作った人たちがどういう思いだったのか、という事まで含めてファンはその楽曲を楽しんでいます。

2年前の大失恋がきっかけでこんな悲しい曲を作りました、仲が悪くなっていたバンドメンバーが初心に戻って共作しました、と言うようなことも楽曲を楽しむ際の要素含まれているわけです。

僕がよく使うたとえは「100メートル競走にしろ駅伝にしろ、バイクに乗ったり新幹線を使ったほうが早いのに、なぜ人が走ってる姿だと観客は感動するのだろうか」というものです。これと同じことが、作曲にも当てはまると思っています。

 

ユーザーが求めてないサービスを作っても意味がありません。現状ではまだ、アカデミックな実験としてAI作曲は行われていると言うのが僕の認識です。

ただ、技術開発に意味がない訳ではありません。「音楽家の創作活動をサポートする」と言う意味では非常に有益で、ますます発展していくと思います。「コード進行の次の展開にはこういうパターンがあり、過去の楽曲ではこんなことがあった」と言ったことをAIが次々示してくれれば、作曲家にはとても便利でしょう。

クリエイターのサポートツールとしてのAI作曲機能と言うのは、これから大きな影響力を持つようになると思っています。

 

また、匿名性が高く、誰が作ったかが重視されない音楽、例えば廉価な映像のBGMなどはAIで作られるようになっていくでしょう。

 

クリエイターがどんどん便利になって、自分のセンスを簡単に表現できるようになる。音楽にに限らず、AIの活用はそれをサポートする方向で伸びていくと僕は思います。

 

また、個人的にはAI作曲の発展は「音楽に関わる人のカテゴリを越えていく」と考え、興味を持ってます。

単純に言うと、音楽好きのプログラマーと音楽家が一緒に音楽を作る、ということが増えてくるだろうと思います。

 

ちなみに、僕は、5年前から音楽家とエンジニアのハッカソンイベントを定期的に開催しています。

音楽好きのプログラマーとデジタルリテラシーの高い音楽家の共同作業は、様々な可能性を持っています。その中から生まれた「TECHS」は、生まれました。映像表現テクノロジー表現とライブパフォーマンスを組み合わせるライブイベントとして、最近注目を浴びるようになってきています。

 

我々スタートアップスタジオVERSUSでも「VERSUSイノベーションスクール」という、AI作曲をテーマにした講座をこの秋から行う予定です。一定のスキルを持ったエンジニアやクリエイターを対象に、エンタメ要素を取り入れた講座を行うというユニークな場にしようと思っています。AI作曲講座も、一流の音楽家を交えて行いますので、興味ある方はぜひご参加ください。

 

AIについて考えることは、人間について考えることです。以前、アメリカで行われているSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)のJAPAN HOUSEのコーファウンダーとして、マツコロイドで有名な石黒浩先生を教示をSXSWのキーノートスピーチにお連れしたことがありました。

 

石黒教授生との会話は哲学者のようで、アンドロイドについて考えることは人間とは何なのかについて研究することになるのだということを身をもって知りました。AI作曲に取り組めば、「作曲とは何なのか」「音楽とは何なのか」ということを改めて考える機会になります。それは

テクノロジーが発達した時代に人間が担う役割は何なのか、ということを突き詰めて考える機会でもあなります。

 

AIはまだ普及が難しかったり、技術的な問題も多いですが、物事や人間の本質について真剣に考える良い機会になると言うのは、AIの1つの価値ではないかと僕は思います。

 

初心者からの人工知能入門おすすめ3冊

時代感があり、読んでいて楽しい本を選びました。どれもわかりやすい書籍なので、人工知能についての全体像を把握するためにも、ぜひ3冊まとめて読むことをおすすめします。

AI入門講座 人工知能の可能性・限界・脅威を知る

AI vs. 教科書が読めない子どもたち

    人工知能はなぜ未来を変えるのか

山口哲一

山口哲一(やまぐち のりかず)

音楽プロデューサー、エンターテックエバンジェリスト、「デジタルコンテンツ白書」(経済産業省編集)編集委員。

アーティストマネージメントからITビジネスに専門領域を広げ、2011年から著作活動も始める。

エンタメ系スタートアップを対象としたアワード「START ME UP AWARDS」をオーガナイズ。プロ作曲家育成の「山口ゼミ」やデジタル時代のコンテンツプロデューサー育成する「ニューミドルマン養成講座」を主宰するなど次世代育成にも精力的に取り組んでいる。

クリエイティブディレクターとして『SHOSA/所作〜a rebirth of humon body〜』でAsia Digital Art Awards FUKUOKA2017〜インタラクティブ部門で優秀賞を受賞

日本音楽制作者連盟など業界団体の理事や省庁の委員などを歴任する一方でスタートアップの新規サービスをサポートする、“新旧“双方のコンテンツビジネスに通じた異業種横断型のプロデューサー。