ソニーミュージックが新規事業「ポッドキャスト」に本気の理由。投資や人材引き抜きが加速
ソニー・ミュージックは欧米で急成長を続けるポッドキャスト・ビジネスに本格参入するため、音声コンテンツのクリエイティブと新規ビジネスを事業化する新組織を社内に設立した。
Rasekhの役割は、ソニーミュージックのポッドキャスト市場における収益モデル、コンテンツのディストリビューション、パートナーシップを含む全体戦略を拡張させることとなる。ソニーミュージックに参画する以前は、Entercom(米国で業界2位のラジオ企業)でパートナーシップやディストリビューション戦略を統括する役職を務めてきただけに、複雑な音声コンテンツビジネスでの経験は豊富だ。
彼女以外の幹部もいずれもポッドキャストまたはデジタルラジオ業界の出身者が揃った。ポッドキャストのマネタイズ戦略を担当するHallは以前、米国最大のラジオ型ストリーミングサービスのPandoraでポッドキャストやラジオコンテンツなどの音声広告事業を担当した経験を持つ。
Zackはポッドキャストのディストリビューションサービス「Megaphone」の広告ソリューションを統括する立場からソニーミュージックへ引き抜かれた。それ以前にも、ポッドキャスト業界の大手ディストリビューションサービスのAcastやSpotifyで広告事業に携わってきた。
ブランドマーケティングを統括するMirabalも、企業のポッドキャストやネットラジオのストリーミングを支援するプラットフォーム「Stitcher」から引き抜かれてきた。以前はPanoply Media(現Megaphone)でポッドキャストの新規顧客獲得を統括してきた経験を持つ。
音楽業界のポッドキャストの事業化は現在、それほど際立った成功例はまだ存在しない。そんな中、ソニーミュージックはポッドキャストへの事業拡大を2019年に入り加速させ、他社よりも一歩先を行っている印象がある。
今年ソニーミュージックが発表したポッドキャスト関連の取り組みを上げてみたい。5月にはアメリカでポッドキャスト・スタジオのジョイントベンチャーThree Uncanny Four Productionsを立ち上げ、9月には最初のオリジナル・ポッドキャスト番組として、ジェフリー・エプスタインの性犯罪を追った調査報道ぽどキャスト「Broken: Jeffrey Epstein」を配信開始した。
10月にはイギリスで新たなポッドキャスト・スタジオBroccoli Contentをジョイントベンチャーで開始。ソニーミュージックUKの社内クリエイティブエージェンシー4th Floor Creativeと連携して、番組制作に加えてイギリスのポッドキャスト市場で才能の発掘からソニーミュージック所属アーティストのサポートを行う。
11月にはアメリカの社会風刺ニュースサイト「オニオン」とポッドキャスト制作で戦略的提携を結び、2020年から番組を開始する。ソニーミュージックはコンテンツ制作の支援からマーケティング、収益化を目的としたテクノロジーを提供する。オニオンのポッドキャストはApple PodcastやSpotify、Luminary、Stitcherなどで配信している。
そして12月、ソニーミュージックは数々の賞を受賞している著名なポッドキャスト・スタジオであるネオン・ハム(NEON HUM)への投資を発表した。オリジナル・ポッドキャスト番組のクリエイティブで提携を結んだ。
ロサンゼルスのネオン・ハムは、5000万回以上ダウンロードされた人気番組「Dr. Death」の制作をはじめ(Wonderyとの共同制作)、Crooked Media、Stitcher、NBC、The Ringer、Spotify、Wondery、Endeavor Audio、LAタイムズなどをクライアントに番組制作を行なっている。
ポッドキャストにこれほど注力するソニーミュージックの背景には、同社の組織変更と、一人の幹部の存在がある。それは2017年にユニバーサルミュージック傘下のリパブリックレコードの上級副社長職から引き抜かれたTom Mackayの就任だ。19年に渡り、リパブリックレコードでA&Rと映画およびテレビの新規事業に携わってきたMackayは、大成功を収めた音楽オーディション番組「ザ・ボイス」の立ち上げと、ユニバーサルミュージックの連携に大きく貢献したことで知られる(番組優勝者はユニバーサルミュージックから契約が提示される)。
また映画『ハンガー・ゲーム』やドラマ『ウォーキング・デッド』のサントラの成功も手掛けてきた存在で、映画やテレビと音楽を横断した新規ビジネスに評価が高い人物である。
2017年にリパブリックレコードからソニーミュージックに移籍したMackayは、新設された映画およびテレビ部門A&R担当社長に就任。現在はプレミアムコンテンツ担当A&R社長というポジションに変わり、現在のポッドキャスト事業チームの上司となっている。
こうして見ると、ソニーミュージックはポッドキャストのオリジナル番組を自主制作もしくは共同制作し続け、テレビや映画、NetflixやAmazon Primeなどで映像化する、プレミアムコンテンツ・ビジネスでの収益化を狙う戦略に沿ったものだろうと想像がつく。将来は、アップルのApple TV+やディズニーのDisney+など、オンデマンドな映像ストリーミングの需要はさらに高まるはずだし、子供向けコンテンツも需要が増えるだろう。
2020年以降では、新たに登場するPlayStation5を含むゲーム事業も世界的な成長が見込まれるだけに、ソニーミュージックが今後どんなコンテンツビジネスを業界を横断して仕掛けるのか、レコード会社の進化を理解する上でも面白いテーマとなる。
ちなみにMackayをライバルのユニバーサルミュージックから引き抜き、新たに映画やテレビの新規事業化を進めたのは、2017年にソニーミュージックのCEOに新任したばかりのロブ・ストリンガーだったという、経営陣の変更の影響も興味深い。
記事提供:All Digital Music
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