クラシック音楽が、Z世代、ミレニアル世代で人気上昇する理由とは
新型コロナウィルスの影響が、あらゆる音楽ジャンルのアーティスト活動に課題を突きつける中、クラシック音楽のジャンルが、若者を中心に人気が高まっている、という新しいレポートが発表されました。
「The Classical Revival in 2020」レポート
イギリスの音楽ストリーミング利用者では、過去12カ月でクラシック音楽を聴いたリスナーの34%が18-25歳だったことが調査で明らかになっています。
同時期に、イギリスではクラシック音楽を再生した35歳以下は前年から17%も増加したことが分かっています。
コロナ禍でのクラシック音楽へのニーズの高まり
またイギリスの音楽リスナー層で、ロックダウン(外出規制)期間にクラシック音楽を聴いた35歳以下は59%にものぼりました。
これはイギリスの平均的な音楽リスナーがクラシック音楽を視聴した比率(51%)を上回る数値だったことも、調査が明らかにしています。
この調査を行ったのは、ロンドンのロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団と、音楽ストリーミングサービスのDeezer、イギリスの音楽業界団体である英国レコード産業協会(BPI)で、イギリスに住む若者音楽リスナーを中心に行った調査です。
10年前、イギリスではクラシック音楽を聴く人の大多数(70%以上)が50歳以上でした。そして30歳以下のクラシック音楽のリスナーはわずか10%未満と、若者層が聴きたい音楽のジャンルからは遠い世界でした。
10年後の2020年、コロナ禍の影響も重なり、クラシック音楽の存在は、明らかに若者層の間で拡大してきました。
クラシック音楽を若者が求める理由の一つは、コロナ禍で生じる日常生活のストレス緩和の利点が大きいことが指摘されます。
それはストリーミングでの再生傾向にも数値で現れています。
Deezerのデータによれば、3月以降の3カ月で、Deezerで再生された全楽曲と比較して、18-25歳のクラシック音楽リスナー数が全世界で11%も伸びています。
今回の調査に回答した35歳以下のリスナーのうち、35%以上がクラシック音楽はロックダウン中のストレス緩和に繋がり、平穏やウェルビーイングを維持するために役立ったと答えています。
ストリーミングを歓迎するクラシック作曲家や演奏家
マックス・リヒター(Max Richter)、レイ・チェン(Ray Chen)、ジェス・ギラム(Jess Gillam)、アレクサンドル・デスプラ(Alexandre Desplat)など、クラシック音楽の作曲家や演奏家も、今回の調査結果をポジティブに捉えています。
マックス・リヒターは、「誰もが不安を感じる時期に、新しいオーディエンスがクラシック音楽を聴いていることは、素晴らしいことです。音楽ストリーミングサービスは、膨大な音楽の世界の中を、リスナーが制限無く興味関心を追い求める機会を作っています。多くの人がクラシック音楽に初めて触れる機会をえていることを嬉しく思います。クラシック音楽は、歴史ある芸術ですが、同時に現代を反映する音楽でもあり、それが多くの人に受け入られているのです」と述べています。
アレクサンドル・デスプラは、「クラシック音楽が若いオーディエンスに受け入られていることは心強いことです。音楽との出会いとつながりがストリーミングによってシンプルになったことが大きいと言えます。同じように、クラシック音楽からインスパイアされた映画のサウンドトラックの世界的なリーチと影響力も貢献しているはずです」と述べています。
全世界のDeezerで2020年に最もストリーミング再生された演奏家/作曲家
- Ludovico Einaudi
- Yann Tiersen
- Andrea Bocelli
- Ramin Djawadi
- John Williams
- Max Richter
- Lindsey Stirling
- Luciano Pavarotti
- Sofiane Pamart
- Ólafur Arnalds
イギリスのDeezerで2020年に最もストリーミング再生された演奏家/作曲家
- Ludovico Einaudi
- John Williams
- Andrea Bocelli
- Max Richter
- Luciano Pavarotti
- Ólafur Arnalds
- Ramin Djawadi
- Lindsey Stirling
- Gavin Greenaway
- Yann Tiersen
プレイリストがクラシック音楽再生のトレンド
Deezerによれば、クラシック音楽の聴き方では、従来のアルバム再生から、プレイリストの再生が増加していると答えています。
プレイリストで聴かれる曲も、これまで人気の演奏や、過去の作曲家だけではありません。
ストリーミングサービスのクラシック音楽のプレイリストに掲載されることで、若手クラシック演奏家が、ストリーミングで人気を集めることにも寄与しています。
Deezerで人気のクラシック音楽プレイリストに「Classical Goes Pop」は、Deezerの若年層ユーザーに最も人気のあるプレイリストの一つです。このプレイリストでは、若手クラシック演奏家がポップミュージックや様々なジャンルの楽曲をクラシック音楽でカバーするクロスオーバー系プレイリストで、若手演奏家がクリエティビティと現代の解釈で、演奏を披露する場所になっています。
イギリス人の若手演奏家シェク・カネー=メイソン(Sheku Kanneh-Mason)の場合、ロックダウン期間中に自身のストリーミング再生数は、64%も増加したと言います。
ストリーミングのプレイリストを聴く若者層が、クラシック音楽を初めて聴いたり、好きな演奏家を知ったりすることで、クラシック音楽に興味を惹かれ、コンサートに行きたくなるというサイクルが生まれているのなら、クラシック音楽とストリーミングの親和性の高さと言えるでしょう。
「ムード・リスニング」の音楽トレンド
クラシック音楽のプレイリストで伸びている、もう一つのトレンドは、「ムード・リスニング」プレイリストの需要高です。
ムード・リスニング系プレイリストは、ジャンルやアーティスト軸で構成されるプレイリストとは異なり、「Feel Good」「Calm」「Relax」「Study」「Sleep」など、日常の行動や感情を反映した「コンテクスト系プレイリスト」と呼ばれるプレイリストに分類され、クラシック音楽の人気上昇を後押ししています。
Deezerで人気のムード・リスニング系プレイリストの中でも、「Feel Good Classical」や「Classical For Sleep」の再生数も、ロックダウン期間中に急上昇しました。
「Feel Good Classical」の場合、3月に再生数が424%上昇し、リスナーの36%を35歳以下が占めるほど、若者リスナーの存在がここでも目立ちます。また、「Classical For Sleep」の再生数も同時期に284%も上昇しました。
プレイリストが、クラシック音楽のジャンルでも新しいオーディエンスにアプローチする重要なツールになっていることは、注目される点です。
Deezerに限らず、Spotifyには、クラシック音楽専門のプレイリスト・エディターを揃えて、ジャンルを横断した選曲を行っています。また、クラシック音楽専門のストリーミングサービスであるIdagioやPrimephonicでは、プレイリストの編成チームが最新の演奏からカタログ曲にフォーカスしてプレイリストを展開しています。さらに、海外の音楽業界には、レーベル向けにプレイリストを編成するキュレーターやプロモーション企業の中にもクラシック音楽専門のプレイリスターが存在しています。
クラシック音楽全体を見れば、現在もコンサートのチケット購入などで年々支えているのは、50代以上のオーディエンスの存在が目立つはずです。だが、コロナ禍でコンサートが開催できない現状では、音楽ストリーミングがオーディエンスにリーチできる効果的な手段であることが分かってきました。これは、オーケストラや演奏家にとって、新しいアピール方法の一つとして、重要な取組みになっていくでしょう。特に、デジタルツールや音楽ストリーミングの利便性の高さを考慮した手法は、新世代のオーディエンスにアプローチする手段は、コンサートが復活したニューノーマル時代にも有効だからです。従来のコンサートやイベントと、音楽ストリーミングやプレイリスト、DSPとの連携を融合させて現代のオーディエンスにアピールする方法は、クラシック音楽のジャンルで試されていくのではないでしょうか。
source:
Mozart goes mainstream as younger fans hit play on Classical(bpi)
Classical Music Attracts Older Audiences. Good.(The New York Times)
記事提供元:All Digital Music
Jay Kogami(ジェイ・コウガミ)
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