2020年ドイツ音楽市場が過去10年で最高売上更新。サブスク前年比25%増、CD縮小でシェア2割
ドイツの音楽業界団体、BVMI(ドイツ音楽産業連邦協会)は、同国の音楽業界の売上は、新型コロナウィルスに直面しても、前年比9%増加したことを発表しました。2020年は、世界4位の音楽市場のドイツでは過去10年で最高売上を記録しました。
BVMIによれば、ドイツの音楽市場は2020年の成長は、デジタル音楽領域の伸びによって牽引されました。
2020年でドイツ市場は売上が17億9000万ユーロ (約2333億円) に達しました (小売ベース)。デジタル音楽ビジネスはコロナ禍でさらに成長し前年比20.3%増加。一方、フィジカル音楽はCD売上の低迷が続いており、売上は前年比11.7%減少しました。好調なデジタル音楽が、旧来ドイツのCD市場に取って代わり市場の収益源を牽引しています。
ドイツの音楽業界では売上全体の71.5%をデジタル音楽が占めました。近年では、音楽ストリーミングがCDを売上で抜いて音楽業界最大の収入源となるほどサブスク・シフトの取り組みが成功して市場シェアを成長させてきました。
音楽ストリーミングの売上は前年比24.6%増加し、11億3000万ユーロ (約1470億円)に達し、この領域が着実に収益源として成長していることを意味しています。
音楽ストリーミングからの売上は、2019年には全体の売上の55.1%を占めていましたが、2020年には63.4%まで急成長が続いています。
好調なストリーミングに反して、売上減少が続くCDビジネス。2020年の売上は前年比18%減少し、3億8700万ユーロ(約505億円)に留まりました。
ドイツは日本と並び、世界で数少ないCD大国の一つで知られてきました。ですが近年はデジタルシフトが業界全体で加速した影響もあり、CD売上は大幅な減少が続いています。CD売上は全体で21.6%のシェアまで下がってきました。
フィジカル音楽領域では、コロナ禍でもアナログレコードは好調を維持しました。2020年の売上は24.7%増の9900万ユーロ (約129億円)。全体の売上で5.5%のシェアを占めています。
ダウンロード音楽の売上は24.8%と大幅減少ししました。これでダウンロードは市場の売上でシェアがわずか4.2%となり、アナログレコード以下の売上となりました。
GfK EntertainmentとBVMIが運営するドイツの公式音楽チャートが発表した、シングルとアルバムの2020年の年間チャートは次のようになっています。シングルでは最も人気のジャンルはヒップホップで、次がポップスでした。
シングルチャート年間2020トップ10
The Weeknd – Blinding Lights
Tones And I – Dance Monkey
Apache 207 – Roller
SAINt JHN – Roses
Topic feat. A7S – Breaking Me
Ufo361 – Emotions
Jawsh 685, Jason Derulo – Savage Love (Laxed – Siren Beat)
DaBaby feat. Roddy Ricch – ROCKSTAR (BLM Remix)
Regard – Ride It
Apache 207 – Fame
アルバムチャート年間2020トップ10
AC/DC『Power Up』
Bohse Onkelz『Bohse Onkelz』
Sarah Connor『Herz Kraft Werke』
Die Arzte『Hell』
Various Artists 『Sing meinen Song – Das Tauschkonzert, Vol.7』
Fynn Kliemann『POP』
Metallica『S & M2』
Kerstin Ott『Ich muss Dir was sagen』
Thomas Anders & Florian Silbereisen『Das Album』
Bonez MC『Hollywood』
BVMI会長のフロリアン・ドリュッケ(Dlorian Drücke)は、「昨夏の兆候が現実となりました。ドイツの音楽企業が過去数年、デジタル領域にシフトしたことによって、音楽業界は売上低下の危機を乗り切り、パンデミック対策で、音楽ファンは多くのデジタル音楽を消費するように変わった結果、年間9%の成長に繋がりました」と2020年を振り返ります。
しかし、好調な結果に満足することなく、さらなる業界構造の改革をドリュッケCEOは目指します「(2021年6月7日からドイツ国内で開始する)新たな著作権指令の施行によって、音楽企業やアーティストの繊細なライセンスモデルが破壊されるのを防がないといけません。ヨーロッパでの合意はその反対を目指しています。クリエイターとパートナーがYouTubeなどUGC型プラットフォームの収益分配に参加する必要があります。動画ストリーミングは最も人気あるチャンネルの一つですが、ドイツの音楽市場の売上ではシェアがわずかです」
フィジカル市場が低迷する中で、ジャズやクラシック音楽など、CDやアナログレコードが主力製品だったジャンルの売上も減少しています。現地のメディアSchwäbische Zeitungの取材で、ドイツ人ジャズアーティスト、トーマス・シフリングは、今でもライブの後にCDを購入する人がいると答えています。シフリングはまた、音楽ストリーミングを市場リサーチに活用するとも答えています。ファンの年齢層、性別、地域など重要なデータを知れるからで、再生数の多い都市を把握できれば、ライブの機会へ繋げます。ドイツでは、クラシック音楽市場はメジャーレコード会社がシェアの大多数を占めているため、インディーレーベルが売上を生み出すためには利益率の高いフィジカル製品が有効的な手段でした。しかし、CDアルバムの需要が減少すると、レーベル契約するアーティストの取り分も大きく減少します。レーベルも制作コストをカバーできなくなり、中にはコンサートの収入をレーベルに渡す条件で契約するアーティストもいるほどです。フライブルク・バロック管弦楽団は、レーベルとの契約でほとんどの権利を手放さなければならなかった、とマネージングディレクターのHans-Georg Kaiserは答えています。
前述の通り、EUではデジタル・クリエイターをはじめとするデジタル領域で活動する人の経済圏確立を進めるため、2019に新しい著作権保護の法令である著作権指令を定めました。これによってEU加盟国は著作権法が新しく導入され、ストリーミングで活動する個人アーティストや音楽プロデューサー、映像クリエイター、オンラインサービス、ジャーナリストなど、多くの人がデジタルプラットフォームから公平な収益を受ける権利が保障されたり、著作権使用で正当な対価を交渉したり要求できるようになります。
ドイツを含むEU加盟国は今年6月の期限までに、国内の著作権法を新たに改正することが求められています。
この著作権指令は、音楽業界で旧来の仕組みが一変すると考えられます。権利を保有するインディーアーティストは、オンライン上で配信された作品の収益分配や、著作権使用料などで、公平な報酬を要求できるだけでなく、料率の見直しも要求できるようになります。また、収益に関する情報や、著作権使用などの権利情報の開示を要求できるようになるため、著作権保有者や、自分で権利を管理するクリエイターにとってプラスと働くメリットがあると見られています。
この著作権指令は、特にコロナ禍の影響にも後押しされ、契約条件の見直しにも関係していく大きな議案です。多くのアーティストが、コロナでライブやフェスの収入が絶たれた中、デジタルプラットフォームからライセンス収入を収入を伸ばすための新しい分配の仕組みが求められているからです。フィジカル時代の条件や、レコード会社主導の条件による契約からストリーミングに最適な条件で契約を結ぶことを業界全体で進めば、アーティストや権利者で分配される収益も増やせると予想されます。
source:
MUSIKINDUSTRIE 2020 MIT 71,5 PROZENT DIGITALANTEIL (BVMI)
Die Musikindustrie zwischen Hoffen und Bangen
Photo by Christian Lue on Unsplash
記事提供元:All Digital Music
Jay Kogami(ジェイ・コウガミ)
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