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イギリスで突如成長する新世代インディー音楽。聴かれた音楽の25%以上を非メジャーレーベル作品が占める理由

コラム All Digital Music

イギリスの音楽業界団体、BPI (英国レコード産業連盟)と、同国のインディーズレーベルのビジネス活動を支援するNPO団体のAIM (Assosiation of Independent Music)が発表したレポートによると、2020年にイギリスで消費された音楽の26%が、インディーレーベルまたはインディペンデントアーティストの作品だったというデータを明らかにしました。BPIとAIMは、過去5年でインディーアーティストがイギリスで市場シェアを拡大し続けているとも説明しています。

26%はアルバム相当売上 (AES、Album Equivalent Sales)。

2020年の売上の内訳をフォーマット別に見てみると、インディーレーベル発の作品がアナログレコード市場では35%、CD売上では30%、音楽ストリーミングでは24.5%を占めました。

BPIによれば、イギリスの音楽消費量は6年連続で増加傾向を示しています。2020年は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けたにも関わらず、音楽の消費量は前年から8.2%増加するなど、音楽への需要が高まっていることが数値でも明らかになっています。

消費の増加に勢い付けられたイギリスは音楽市場の売上もプラス成長が続いています。2020年は前年比3.8%増し、5年連続の右肩上がりになっています。

via BPI


音楽市場の成長はインディー音楽コミュニティにとってプラスに左右すると、インディーレーベルやディストリビューター、アーティストのビジネス支援を担うイギリスの音楽業界団体AIMでは捉えています。

メジャーレーベルは巨額な宣伝予算を未だに投じる余裕があります。一方、運用資金の少ないインディーレーベルやディストリビューターは、音楽性とファンの支援、クリエイティブなマーケティング戦略を武器に大きな成果を上げてきた結果、市場シェア獲得に繋がっているのです。

AIMのCEO、ポール・パシフィコ(Paul Pacifico)はインディー音楽作品のシェア拡大について次のように述べています。

「インディペンデントな音楽ビジネスは、イギリス音楽業界のイノベーションと実験を生み出す拠点です。クリエイティブな起業家が集まる私たちのコミュニティは音楽を進化させ続けます。私たちは業界再編に直面していますが、ストリーミングが消費者に多様性ある幅広い音楽と出会う機会を増やす中、インディペンデント音楽が市場シェアを引き続き伸ばすことを確信しています」

インディー音楽の定義も進化

2021年Q1 (1-3月期)を見ると、さらに多くのインディー作品の躍進が目立ちます。

売上面でも、インディー作品が音楽ファンから人気を集めています。アナログレコード市場では39.8%、CDでは32.5%、ストリーミングでは25.8%がインディー作品で消費されました。2020年から引き続きインディーアーティストの作品が市場シェアが拡大しているトレンドがあることが明らかです。

アーティストの実績では、Rock Action RecordsのMogwaiの『As the Love Continues』、AWALのYou Me At Sixの『Suckapunch』、Epitaph RecordsのArchitectsの『For Those That Wish to Exist』が、イギリス・アルバムチャートで1位を獲得しています。

インディー音楽の定義も変わり始めています。

これまでは、老舗インディーレーベルの作品が多数占めていたものの、近年はTikTokやYouTubeなどのSNSを中心に活動するDIYアーティストや、アーティストダイレクト型の作品の人気が急速に拡大してきました。

新時代のアーティストの中で、レーベルとも契約せず、SNSやデジタルに強いディストリビューターや事務所と契約する流れが加速するなど、多くのアーティストやレーベルが戦略的な好機を活かしてより大きな成功に繋げているのです。

BPIのCEO、ジェフ・タイラー (Geoff Taylor)はインディー音楽の成長する要因を次のように述べます。

「インディーレーベルやアーティストは音楽ストリーミングの世界へのリーチ力を最大活用しており、アーティストとレーベルの新たなパートナーシップの開拓や、アナログレコードの復活、CDビジネスの回復において中心的役割を果たしています。音楽業界が優秀な才能に溢れ、ファンやアーティストが今まで以上に多くの選択肢を得られるようにしてくれます」

ちなみに、イギリスのインディー音楽をアメリカと比較分析していらっしゃる沢田太陽さんのこちらの記事もぜひ参考にご覧ください。

参考記事
USとUK。今、どっちのインディ・ロックの方が勢いある? 答えは圧倒的に・・・|THE MAINSTREAM(沢田太陽)|note

ストリーミングでメインストリームのヒットを創出

インディペンデントアーティストとインディーレーベルにとって、世界規模での成功を収めるようになったのは、もはや真新しいことではありません。

近年のトレンドでは、インディーアーティストの多くは、Spotifyのバイラルチャートのように、SNSとDSPで勢いある「トレンド先行型アーティスト」という印象が音楽業界内では強くありました。

しかし最近では、主流のチャートで1位を奪ったり、チャートインし続けるヒット曲を持つインディーアーティストが増えてきました。こうした変化によって、チャートやヒット曲にも、メジャーレーベル以外の作品が並ぶようになり、多様性溢れる曲が聴かれる傾向が強まっています。

2020年にイギリスで最も再生された人気楽曲100曲の中では、AJ Tracey、Trevor Daniel、Enderなど独立系ディストリビューションから配信された若手アーティストの楽曲がランクインしました。2021年に入ってからは、Central Ceeo、KSI、BTS、Tom Zanettiの楽曲がトップ100入りを果たしました。

前述の通り、2020年にイギリスでの音楽再生の24.5% は、インディーレーベルとインディペンデントアーティストの楽曲で占められました。2021年1-3月では25.8%に拡大しており、今後もインディー音楽の再生が伸び続けることが期待されます (24.5%は「SEA」ストリーミング・イクィヴァレント・アルバム、ストリーミング回数のアルバム相当数)。

アナログレコードとインディー音楽の関係性

またBPIとAIMによれば、インディーレーベルや独立系ディストリビューターの躍進は、アナログレコードに代表されるフィジカル商品のマーケティングの成功によってさらに加速していると説明します。

イギリスのアナログレコード市場はコロナ禍の2020年も拡大しました。2020年の売上高は前年比11.5%で増加して480万枚のLPが購入されました。

これでイギリスでは13年連続でアナログレコードの年間売上が拡大してきました。

元々、インディーレーベルの多くは、アナログレコードやCD販売を収入源としてきたビジネス基盤がありました。それが最近では、収益源の主軸がフィジカルからストリーミングへと変わり始めたインディーレーベルも増え始めるなど、新たなビジネストレンドへの移行が起きてきました。

via BPI


そんな中において、昨今のアナログレコード人気拡大は、インディーレーベルにとって、以前からのファンに再度作品を購入してもらうだけでなく、これまでストリーミングで音楽しか聴いてこなかった現代の消費者をフィジカル商品で捕まえる機会を作っているのです。

ストリーミングという音楽へのアクセスしやすいフォーマットに加えて、フィジカルという「音楽の所有権」を満たしてくれるフォーマットの共存は、インディーレーベルが新しいファンを見つけ、より長く囲い込むための戦略を実現しています。手軽に音楽を消費する人にはストリーミング。より深く音楽を消費したい人にはフィジカルと、異なる役割を果たすフォーマットを両立させて成長しているのが、イギリスのインディーレーベルやインディペンデントアーティストの現状と言えるでしょう。

それは、2020年で購入されたアナログレコードの35%はインディーレーベルまたはインディペンデントアーティストの作品だったという実績にも現れています。そして2021年の1-3月にはその割合は39.8%とさらに拡大します。

アナログレコードで人気だったタイトルは以下の通り。

  • カイリー・ミノーグの『DISCO』(BGM)
  • アークティック・モンキーズの『Live At Royal Albert Hall』(Domino Recordings)
  • Idlesの『Ultra Mono』(Partisan Records)
  • Fontaines D.C.no『A Hero’s Death』(Partisan Records)
  • Gerry Cinnamonの『The Bonny』(Little Runaway)

また2020年には、インディーレーベル発の作品で250タイトル以上がアナログレコードで1000枚以上の売上を達成するという、成功を収めています。

インディーレーベルやインディペンデントアーティストが台頭する市場の傾向は、音楽市場がメジャーレーベルの作品だけで偏らず、多様化の方向に向かっていると言えます。熱心に音楽を支援するファンが参加でき、好きな音楽と繋がれる市場構造は、より多くの再生や消費に繋がります。そして結果的に、レーベルやアーティストは作品を聴いて欲しい人に届けられ、収益化にも繋がるのです。

しかし、音楽を見つけるSNSや、音楽が再生されるストリーミングサービスでインディー音楽が見つけられなければ、熱心に音楽を探すリスナーやアーティストのファンは、素晴らしいインディーアーティストの多くの楽曲を知る機会も、聴く機会も減っていくでしょう。

つまり、音楽市場でインディー音楽のシェアが伸びることは、アーティストとリスナー、ファンが音楽と繋がる機会をより多く市場で生まれているという見方ができます。

最後に、イギリスのトレンドが今後も続くか、そして日本を含むその他の国でも同じような成長が見られるかは、注視する必要があります。音楽ストリーミングが普及する中、メジャーレーベルもこのインディー市場を狙って、様々な戦略と投資を講じています。メジャーレーベルが動くほど、インディー音楽市場は、音楽業界の中でも世界的な成長領域なのです。

source:
FANS FLOCKING TO UK INDEPENDENT LABELS’ MUSIC ACROSS STREAMING AND PHYSICAL FORMATS (AIM)
UK recorded music revenues grew 3.8% in 2020 (BPI)
Fans turn to music to get through 2020 as a new wave of artists fuels streaming growth (BPI)

jaykogami 記事提供元All Digital Music
Jay Kogami(ジェイ・コウガミ)
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