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Netflix初のポッドキャスト責任者が誕生。元Appleのポッドキャスト担当N’Jeri Eatonを任命

コラム All Digital Music

Netflixはポッドキャスト番組制作を強化するため、Appleポッドキャスト部門のコンテンツ責任者だったエンジェリ・イートン (N’Jeri Eaton)を同社初のポッドキャスト責任者に採用したことを発表しました。

イートンは今後、 Netflixのマーケティングチーム内に新設された編集・出版チーム (editorial and publishing team)に加わり、同社のポッドキャスト制作を統括する役割を担います。 先日、自らのSNSでAppleからの退職を明らかにしていました。

Appleでポッドキャスト部門のコンテンツ制作を担当する以前、米公共ラジオ放送、NPR(National Public Radio)で、番組編成などを担当していました。

制作編集に関わってきたポッドキャストでは、銃推進派の現実を追いかけた調査報道ポッドキャスト『No Compromise』は2021年ピューリッツァー賞の音声報道部門(Audio Reporting)を受賞。2018年には、米国五輪体操チームの元医師ラリー・ナサールによる性的暴行事件をカバーした『Believed』でピーボディ賞を受賞。

また2020年には、米国の公民権運動で起きた黒人活動家の未解決殺人事件とその歴史的影響を追った調査報道ポッドキャスト『White Lies』が、ピューリッツァー賞音声報道部門のファイナリストにノミネートされるなど、編集担当としてポッドキャスト業界で功績を残しています。

しかし業界の第一人者の一人を招いたNetflixですが、ポッドキャストは収益化するための事業とは現在は捉えていないようです。

Netflixをポッドキャストを制作する理由は、人々がNetflixのオリジナルコンテンツと出会い、魅力を伝えるための手法の一つとして捉えているからです。ポッドキャストチームがマーケティングチーム内に置かれている現状体制からも、同社の音声コンテンツへの扱い方が見えてきます。

Netflixではこれまで、マーティン・ スコセッシ監督の『アイリッシュマン』や、オリジナルドラマ『ザ・クラウン』『ストレンジャー・シングス』など、人気コンテンツを補完するポッドキャスト番組を制作し、AppleやSpotifyなどのプラットフォームで配信してきました。

加えて、オリジナルコンテンツ以外のテーマでのポッドキャスト番組の制作も進んでいます。コメディアンのトークをキュレーションした短尺のお笑いポッドキャスト「Netflix Is A Daily Joke」や、映画監督や脚本家へのインタビュー番組「The Call Sheet with Kris Tapley」など、幅広いポップカルチャーがテーマの番組も配信しており、日常的にNetflixコンテンツやブランドに触れてもらえるように音声コンテンツを活用します。

余談ですが、『ザ・クラウン』のポッドキャスト番組を制作したのは、先日ソニーミュージックが買収したイギリスのポッドキャスト制作会社大手「Somethin’ Else」でした。

ソニーミュージック、ポッドキャスト会社大手を買収。音声コンテンツに本腰

ポッドキャスト制作への巨額の出資や収益化を(現状)図っていないNetflixですが、近年急成長するポッドキャスト業界の動向には、最前線から関わっていることが伺えます。

前述のイートンは、Appleが先日発表したポッドキャスト向けサブスクリプションへの参入に間近で携わってきた一人です。

また、Netflixの共同CEO、テッド・サランドス (Ted Saarandos)はSpotifyの取締役を2016年から務めており、ポッドキャスト事業を急拡大させる近年のSpotifyの戦略を見てきたことからも、ポッドキャスト人気と将来性は熟知していると想像できます。

ポッドキャストに限らず、Netflixは自社ブランドを活用したコンテンツの制作と多角化を加速させるため、人材獲得を急いでいます。

編集・出版チームは、NetflixのSNSチャンネル、ポッドキャスト、YouTubeのコンテンツ制作を行うチームですが、その活動範囲も広がっています。特にこのチームは、人々に同社のコンテンツの魅力を伝え、話題を高めるための戦略を作るコンテンツ制作専門の組織で、ジャーナリストやコンテンツクリエイター、編集者などを採用していることが特徴です。

2021年6月には、コンデナスト傘下のオンラインメディア「Allure」で編集長だったジャーナリストのミシェル・リー(Michelle Lee)が、編集・出版担当グローバル副社長に任命されました。

元Buzzfeed UKの初代編集長だったルーク・ルイス(Luke Lewis)や、NYLON編集長だったガブリエル・コーン(Gabrielle Korn)など大手メディアの編集長クラスの人材を採用しており、コンテンツの自社制作への高い関心が伺えます。

(前述のミシェル・リーも元NYLON編集長だった)

また採用されるジャーナリストの多くは、調査報道やドキュメンタリー制作などの経験があったり、差別問題や多様性実現といった社会的課題に向き合ってきた経験あるジャーナリストが多く起用されています。それだけに、Netflixの編集・出版チームや、ポッドキャスト制作の狙いは、単純なオリジナル作品の宣伝や広告を作る組織とは異なり、より社会的文化的に深みあるコンテンツを作る組織を目指していることが伺えます。

ファンやユーザーとコンテンツ、Netflixブランドとのエンゲージメントを高めようとするNetflixのアプローチは、Apple Musicが運営する無料の24時間音楽ラジオ局「Apple Music 1」に近いかと思われます。

音楽ストリーミングサービスの中でApple Music 1は、「オリジナルコンテンツの配信」では突出した存在です。

サブスリプションを展開するApple Musicにおいて、アップルはサービスローンチ時からApple Music 1 (以前はBeats 1)を展開してきました。

普段聞けない著名アーティストから、ブレイク前の新人アーティスト、レジェンド級のアーティストやプロデューサーと幅広い人選による独占インタビュー企画を作ったり、プレミア公開(World Premier)、最速レビューなど、音楽やアーティストをさらに知りたいファン向けにオリジナルコンテンツを無料で配信してきた前例があります。

Apple Music 1もまた、第一線で活躍するラジオDJやプロデューサー、音楽ジャーナリストなどを世界各地で採用し、より深みあるインタビューや番組制作を目指しています。

Apple Music 1の番組編成は、必ずしもヒット曲や人気アーティストだけに拘らず、それほど知られていないアーティストや楽曲、ジャンルを紹介する番組を丁寧に作っている節があります。このモデルは、従来の音楽プロモーションや宣伝よりも、ドキュメンタリーというコンテンツをマーケティング手法として捉えているように感じます。

勿論、コンテンツをマーケティングする上で、広告も重要であることは依然変わりありません。一方、配信するコンテンツがどのようにユーザーと関係性を深められるか、考える際には、Apple Music 1のように、よりプロデューサー目線やジャーナリスト目線を持ったプロフェッショナルの裁量に委ねて、リスナーが興味をひかれるストーリーを伝える番組を作る方が有効手段と考えられます。

自社コンテンツのプロデュース手法を強化するNetflixも、ポッドキャストという形式をマーケティング手法と考えていることは明らかで、Apple Musicといったブランドと同じ方向性を狙っているかもしれません。

 

Source:
Netflix Hires First Head of Podcasts: Former Apple Exec N’Jeri Eaton (Variety)
Allure EIC Michelle Lee Joins Netflix as VP Editorial and Publishing (The Hollywood Reporter)

jaykogami 記事提供元All Digital Music
Jay Kogami(ジェイ・コウガミ)
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