広告・取材掲載

アマゾン参入、アナログレコードのサブスクリプション。コロナ禍でも伸びるフィジカル音楽の所有欲

コラム All Digital Music

アマゾンは、アナログレコードのサブスクリプション・サービス「Vinyl Of The Month Club」(ヴァイナル・オブ・ザ・マンス・クラブ)を開始しました。

「Vinyl Of The Month Club: The Golden Era」と名称のサブスクリプションに参加すると、1960年代〜70年代にリリースされた作品から、Amazon Musicのエキスパートが選曲したLPが毎月1枚届けられます。

月額料金は24.99ドル(約2,800円)。いつでもキャンセルすることも可能です。送料は無料です。

「Vinyl Of The Month Club」は、プライム会員に登録する必要なく、誰でも利用できることが特徴です。

アマゾンはすでにAmazon Music Unlimited、Amazonプライムでの音楽や映像のサブスクリプション、オーディオブックに特化したサブスクリプションのAudible PlusとAudible Premium Plus、kindle Unlimitedなど、コンテンツやメディア領域のサービスを運営しています。デジタル化したサブスクリプションが多い中、エンタテインメント領域でのフィジカル商品のサブスクは、アマゾンにとっても新しい領域での取り組みです。

定期で届くLPは、Amazon Musicがセレクトするため、事前に何が送られてくるか、知らされません。もしLPが気に入らなければ、無償で返却できます。ただし開封済みのLPは対象から外れます。

アマゾンはこのサービスを「年代」で絞っており、会員に届くLPには、ピンク・フロイドやアレサ・フランクリン、レッド・ツェッペリン、フリートウッド・マック、マイルス・デイヴィス、ABBAなどを例にあげています。

このサービスをどの音楽ファンに支持されるか、注目です。

ターゲットになるのは、ダイハードな音楽好きや、アナログレコードのコレクターよりも、これからアナログレコードのコレクションを増やしたい人や、自宅に置きたい消費者を見据えていると推測できます。実際に届いたLPは、1枚目がピンク・フロイドの『ザ・ウォール』(1979年)、2枚目がザ・クラッシュの『ロンドン・コーリング』でした。

「アナログレコードクラブ」の登場以降

一方で、アナログレコード文化を長年嗜んできた音楽ファンや、限定LPやリイシューを求めるコレクターにとっては、物足りないサービスになるかもしれません。

また、ストリーミングやYouTubeのアルゴリズムによるレコメンデーションとは一線を画するキュレーションを楽しみたい、少しマニアックな音楽ファンであれば、別の選択肢があります。

「アナログレコード・クラブ」とも称されるLP専用のサブスクリプションサービスは、デジタル化が進む音楽市場でフィジカル音楽商品への愛着がある少数派をターゲットに、2010年代から様々なサービスが世界各地で運営されてきました。

最も知られているサブスクリプションでは、米国コロラド州デンバーに拠点を置く「Vinyl Me Please」(バイナル・ミー・プリーズ、VMP)が有名で、この独立系スタートアップは2013年からサービスを開始しています。

VMPのビジネスモデルはシンプルです。ユーザーは「アナログレコード・クラブ」に参加するためのサブスク料金を支払い、VMPが毎月1枚、厳選したLPを郵送します。

VMPの戦略はただ毎月LPを送ることではありません。マニアックなレコード好きや、デジタル世代のコレクターらの所有欲を刺激することに注力しています。VMPでは完全オリジナルでLPをプレスし、カラーヴァイナルや限定ジャケットやアートワーク、ライナーノーツ、ボックスセットまで同社が製造を手掛けます。数量限定生産のLPを入手できるのはVMP会員だけで、中には初めてアナログレコード形式でリリースされる作品やリイシューがVMPだけで配布されるため、クオリティと希少価値が高いエクスクルーシブなフィジカル音楽体験を会員に提供しています。

コレクションするためのLPを求める人もいれば、VMPが制作する音楽にまつわるライナーノーツやパッケージを

料金は毎月43ドル (約4,700円)、海外在住の場合は52ドル (約5,700円)から始めることができ、3カ月で119ドル(13,100円)、6カ月で219ドル(24,100円)。12カ月で399ドル(43,900円)で参加できます。音楽ストリーミングのサブスクリプションに比べたら決して安くはありません。

しかし、VMPは成長し続けています。

開始直後は利用者がわずか12人と前途多難なローンチでしたが、初年度にユーザー300人を獲得。口コミで年々会員を増やし続けた結果、現在は世界40カ国以上で10万人以上の音楽ファンが課金するまで成長しました。筆者の知る日本の音楽業界関係者の中にも、VMPを利用する人がいるほどで、すでにこの分野ではグローバルサービスと言えるでしょう。

そして2020年、新型コロナウイルスとロックダウンの最中、VMPの利用者が急増します。会員数は前年比74%で増加。出荷したレコードは1年で50万枚を超えるなど、同社のキュレーションサービスが音楽ファンから支持を得ていることが明らかになりました。

こうした需要に対して、VMPでは会員が好きなジャンルも選べるように、セレクションを拡大しています。ソウルやブルース、ジャズ作品をまとめた「Classics」、過去作から近年の作品までオールジャンルで網羅する「Essentials」、オールドスクールヒップホップからSoundCloudラップまでカバーする「Hip-Hop」、カントリーミュージックの名作を届ける「Country」と、4つのメニューから好きなジャンルで選ぶことができます。

また、VMPを支持するのは、消費者だけに留まりません。アナログレコードを使ったマーケティング目的のメジャーレーベルとインディーレーベルが集まり、音楽へのエンゲージメントが高い会員向けに流通させるビジネスが成立しているのです。レーベルにとってアーティストストアでのLP販売が主流な販売方法ですが、VMPのようなレコードサービスとの連携が、ロイヤリティの高い人へリーチするための重要な一手となっています。つまり、ウォールマートのようなチェーン店へ大量に出荷して大衆商品のイメージを打ち出す代わりに、VMPのような希少価値の高いサードパーティ流通と組むことで、アーティストのブランド力を維持し、限定製造やオリジナルパッケージなどで話題性を高められます。

VMPの他にあるアナログレコードのサブスクリプションでは「Vinyl Moon」(ヴァイナル・ムーン)といったサービスがあったり、元ホワイト・ストライプスのアメリカ人ロックアーティスト、ジャック・ホワイトが経営するインディーレーベル兼レコードプレス工場「Third Man records」では、オンラインストアに加えて、LPのサブスクリプション「Vault」を運営しています。

アマゾンとVMPに共通する「アナログレコード・クラブ」は、同じアナログレコードのビジネスでも、人々の所有欲や音楽消費形式に変化が生まれ、多様化の波が来ていることを意味します。

世界的なストリーミング利用の普及と比較すると、フィジカル商品はすでに購入量も売上規模でもメインストリームなフォーマットではありません。しかし、少数ですが、所有欲が強く、手に届く商品を望む音楽ファンは、ストリーミング時代でも健在です。

アナログレコード人気は、新型コロナウイルスであらゆるビジネスが閉鎖したにも関わらず、引き続き成長が止まりません。

2020年にはアメリカでアナログレコードの売上高がCDの売上を34年ぶりに超えました。レコードストアの多くが店舗運営ができない状態に直面した同年ですが、オンラインショッピングでの需要が高まり、音楽史に残る一年を迎えました。

そして2021年1月から6月において、1920万枚以上のアナログレコードが購入されましたが、CDの売上枚数(1890万枚)を上回る勢いが続いており、音楽市場におけるフィジカル商品の立ち位置が逆転したと言えます(MRC Dataのデータに基づく)。

アナログレコード売上、1週間に125万枚以上購入され、コロナ危機下でも過去30年で最高記録を達成

source:
New Amazon Subscription Sends a Vinyl Record Every Month (Business Insider)
Inside The Rise of Record Club Vinyl Me, Please (Billboard)

jaykogami 記事提供元All Digital Music
Jay Kogami(ジェイ・コウガミ)
プロフィールTwitterFacebook

関連タグ

関連タグはありません