ヒット曲をアルゴリズムで見つける、AI時代の音楽レーベル、Snafu Recordsが約7億円を調達
人工知能(AI)を活用して音楽ストリーミングを分析しながら、無名アーティストを発掘するレコード会社、Snafu Records(スナフ・レコード)は、新たに600万ドル(約6.8億円)の資金を調達したことを発表しました。ロサンゼルスとストックホルムを拠点にするSnafu Recordsは、ストリーミングデータとアルゴリズムを使った「世界初AIベースの完全サービス型レコードレーベル」で、将来性あるアーティストやクリエイター、プロデューサーを他社よりも先に発掘するA&R専門のレーベルとして、2018年のローンチから現在まで45組以上のアーティストと契約を交わしてきました。
新たな資金調達ラウンドはスウェーデンのエンタテインメント企業Pophouse Entertaimentの投資部門、Pophouse Venturesがリードし、The Venture Collectiveが参加しました。加えて、ABBAのメンバーのアイネッタ・フェルツクグ(Agnetha Fältskog)、グラミー賞とアカデミー賞にノミネートされたプロデューサー/作曲家のサヴァン・コテチャ(Savan Kotecha)といった音楽業界のクリエイターも出資者に名を連ねています。
Snafu Recordsは、キャピトル・レコードとユニバーサルミュージック・スウェーデンでストリーミング戦略やデジタルマーケティング、プレイリスト・チームに携わってきたアンキット・デサイ(Ankit Desai)が創設しました。チームには、ユニバーサルミュージックやソニーATV、BMGなどで経験を積んだ、A&R、プロデューサー、クリエイティブ担当が参加しています。
Snafu Recordsの活動で大部分を占めるのは、A&R (Artists and repertoire)、アーティストの発掘です。チームは、どのレーベルとも契約していないアーティストの楽曲を毎週100万曲以上分析します。同社のアルゴリズムは、「過小評価」されて埋もれている次のヒット作品を探していきます。設立当初は毎週15万曲しか分析できていなかったので、数年で大きな進歩を遂げました。
分析する要素は楽曲の構成、類似アーティストとの比較、リスナーのエンゲージメントなど複数の指標で採点され、アルゴリズムが選んだアーティストをレーベルのA&Rチームが人力で評価していきます。
分析基準には様々な要素を取り込んでいますが、特にヒットの確率を高める指標の一つは、Spotifyトップ200との類似性で、ヒット曲と70%〜75%ほど共通点がある楽曲の特性をアルゴリズムが分析しています。別の基準では、TiKTokで楽曲がヒットする前に、未来のバイラルソングを見つけるまでの速度です。
現在はSpotify、YouTube、TikTokなどのストリーミングサービスに投稿される楽曲をクローリングしており、今後はSoundCloudやBandcampなどで活動するアーティストも視野にいれています。
これまでにGia Woods、Iamnotshane、Sam MacPherson、BAYLI、KINGS、MishCattなど、無名のインディーアーティストやシンガーソングライター、クリエイターをサポートしてきました。
Snafuの収益モデルは、契約するアーティストとのレベニューシェアからの収益です。メジャーレーベルや従来のレーベルビジネスのように原盤権を取得することはしていないため、若手アーティストにとって自由度の高い契約やサポートを約束しています。
アーティストの支援を強化するため、Snafu Recordsでは、新たに2つの製品をローンチします。一つは、アーティストや作詞作曲家がコラボレーターを探すプラットフォーム「Blurry」。もう一つは、若手アーティストが将来の再生数を担保に収益を前払いで得られるロイヤリティ・アドバンス・システム「FinArt」です。BlurryもFine.Artも同社の持つAIを活用してコラボレーターを探したり収益予測を行っていきます。Blurryに関しては、デサイCEOは「ミュージシャン版Tinder」と表現しています。
特に、実績が少なく、音楽活動の資金を得ることが厳しい若手アーティストにとって、再生数に応じた収益分配の前払いは、動画制作やオンラインライブなどを行いリスナーを増やすための投資に回すことができるというメリットが生まれます。
昨今、ヒット曲の多くは、TikTokやSpotifyなどでバイラル化する傾向が強まっており、レーベルが予め準備したプロモーションや展開の外で生まれています。そのため、最近のレーベルでは、ヒット曲を「作る」ことに加えて、「見つける」ための取り組みが増えています。
主流になっている手法は、リリース直後から楽曲に関するデータを分析しながら、バイラルヒットの可能性ある楽曲を見つける手法です。重要なポイントは、見つけるまでの速度になります。
わずか24時間で爆発的にSNSで人気が出るかもしれない楽曲を見つけるまでの時間をいかに短縮できるか、がヒットの予測では鍵を握るため、実現には多くのデータを分析するシステムと、目利きとなる専門チームの組み合わせが欠かせなくなってきます。
Snafu Recordsのような組織に注目が集まるのもこうした背景があります。音楽業界では、すでにアルゴリズムやAIに対応したアーティスト発掘を行なっているケースが増えています。
音楽業界やレーベルは長年、新人アーティストや将来性あるタレントを探す方法として、ライブハウスやレコードストアに通い情報を集めてきましたが、デジタル・ファーストなアーティストがヒットを作る時代において、ストリーミングプラットフォームとSNSでの数値を参考にする流れが強まっています。
2018年、ワーナーミュージックは、ストリーミングやSNSのデータを分析するプラットフォーム「Sodatone」を買収しました。
機械学習を活用して一日40,000曲以上のデータを分析するSodatoneはその後、無名のアーティストや将来性あるアーティストを発掘するA&Rツールとして、同社内で活用が進められてきました。
ワーナーミュージックのスティーブ・クーパーCEOによれば「(2020年)1月からSodatoneで発掘し、契約した新人アーティストやソングライターの数は、前年比2倍に拡大した」とSodatoneの効果を明らかにしています。
もう一つの事例では、シンガポールの音楽スタートアップ「Mussio」は、AIとディープラーニングを活用して、楽曲にメタデータのタグ付けを自動化するプラットフォームを音楽企業に提供しています。
ご存知ない方が多いと思うが、楽曲のメタデータ管理には、膨大な作業時間と、複雑なシステムを必要とするプロセスによって行われています。担当者泣かせの作業量やコストから、軽視されがちな領域の一つでしたが、メタデータを正しく最適化することで、ストリーミング再生数を上昇させたり、売上増加に繋がるなど、レーベルやアーティストにとってメリットの多い領域です。
Musiioのソフトウェアは、AIを用いてタグ付けする時間を短縮できるため、レーベルやストリーミングサービスは、必要な楽曲やアーティスト情報を検索したり、分類する時間を短縮できるようになります。
さらには、Musiioによってタグ付けされたデータから、埋もれているアーティストや、ヒットの予兆ある楽曲を探す時間を短縮することも可能になります。
現在、Musiioは500万曲分のメタデータのタグ付けをわずか1日で処理できるとしており、人力でのデータ処理と比べようの無い処理速度を実現しています。
‘We’re Trying to Change Music’: Snafu Replaces A&R Executives with AI (dot.LA)
記事提供元:All Digital Music
Jay Kogami(ジェイ・コウガミ)
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