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来年3月に来日するスティングが在籍したポリスの面白い話

コラム 高橋裕二の洋楽天国

スティングが来年(2023年)3月に来日する。以下はスティングが在籍したポリスの面白い話。ポリスのマネージャーだったマイルス・コープランドは頭(かしら)文字をとって作る「頭字語(とうじご)」がやたらに好きだった。

ポリスはアメリカでI.R.S.レコードからデビューした。アメリカでI.R.Sと言えば「Internal Revenue Service」の略。アメリカ合衆国連邦政府機関の1つで米国国税庁を意味する。連邦税を徴収する機関。マイルス・コープランドが設立したI.R.S.レコードは「International Record Syndicate」の略。「国際レコード商会」といったニュアンスだろうか。

マイルス・コープランドはポリスのドラマー、スチュワート・コープランドの兄。マイルス・コープランドが作るグループ会社名は既存の体制側組織の「頭字語」パロディー。さすが「ポリス(警察)」のマネージャー。

マイルス・コープランドはクラブやコンサート会場にアーティストをブッキングする会社を設立する。それがFBIだ。アメリカだったらFBIは「Federal Bureau of Investigation」、いわゆるアメリカ連邦捜査局だ。ところがマイルスが作ったブッキング会社は「Frontier Booking International(フロンティア・ブッキング・インターナショナル)」。確かにFBIではある。

そして今度は映画とTV番組製作の会社を立ち上げる。会社名はCCCP。当時、CCCPといったら普通はソビエト社会主義共和国連邦のロシア語による正式名称の「Союз Советских Социалистических Республик」を略したものだ。マイルス・コープランドによればコープランド(Copeland)兄弟の3人、イアン・コープランド、スチュワート・コープランドとマイルス・コープランドと友人のデレク・パワー(Derek Power)が作った会社なので、コープランド・コープランド・コープランド・パワーでCCCPというわけだ。

ここまで略式名称にこだわるのは彼の父親に由来するかもしれない。マイルスの父マイルス・コープランド・ジュニアはCIA「Central Intelligence Agency(アメリカ中央情報局)」の高官だった。変わり者で、CIAに加わる前はジャズ・バンド「グレン・ミラー・オーケストラ」でトランペットを吹きバンド・リーダーだった。

1950年代の初頭、中東戦争が勃発するとCIAの本部からエジプトのカイロに派遣される。クーデターで国王ファールーク1世を倒したエジプトのナセル大統領に近づく為だった。当時アメリカはナセル大統領を利用していた。一家はカイロに移り住む。息子のマイルス・コープランドに言わせると父はナセル大統領に最も信頼されていたアメリカ人だという。しかし戦況は変わる。

1956年、ナセル大統領はスエズ運河の国営化を発表、第2次中東戦争が起きる。イギリスとフランスは当然エジプトの国営化に大反対。イギリスとフランスは独自にナセル大統領の暗殺をもくろんだ。この時点でアメリカはまだナセル大統領を支持していたがその後ナセルはソ連との協力関係に舵を切る。その結果CIAの本部からカイロにいたマイルス・コープランド・ジュニアに暗殺の指示が出る。

1つはナセル大統領の暗殺にボツリヌス菌を仕込んだタバコを吸わせるという計画。もう1つはナセル大統領の飲み物にLSDの錠剤を入れ混濁させて殺す事だった。後年マイルズ・コープランド・ジュニアはナセル大統領との信頼関係もあり、あまりのバカバカしい手段にあきれて指令を実行しなかったと雑誌で語っている。

マイルス・コープランドはこんな会社も作っている。LAPDだ。LAPDと言えば「Los Angeles Police Department」でロサンゼルス市警察。マイルスの場合は「Los Angeles Personal Direction(ロサンゼルス・パーソナル・ディレクション)」。ロサンゼルスに本拠地を置くアーティスト・マネージメントの為の音楽事務所だ。さすがに父の手前、CIAという会社は作っていない。

高橋裕二の洋楽天国記事提供元:洋楽天国
高橋裕二(たかはし・ゆうじ)
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