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新生「ミデム」が始動、時代に適応した音楽コミュニティー形成へ

コラム Izumi Sakamoto

業界の主要人物から成るコミュニティーが新たなミデムを作り上げる(MID3M+提供)

音楽業界向け国際的プラットフォーム「ミデム・プラス(MID3M+)」が1月19~21日、フランスのカンヌで開催された。1967年以降、世界最大級の音楽見本市として業界関係者やアーティストから親しまれてきた「ミデム(MIDEM)」が、新たな運営体制の下で再出発。2024年の本格開催に向け、従来から規模を縮小した形で、プレイベントを開催した。BtoB(企業間取引)の参加者は100人ほどで、一般にも開放されたコンサートのチケットは完売となった。

会場のパレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレでの開催は、実に4年ぶり。2020年と2021年には、新型コロナウイルスの流行を背景に、オンライン形式で開催された。しかし同年12月、運営会社のリード・ミデムが今後の開催を見合わせる方針を発表。一時は存続の危機にさらされたものの、2022年にカンヌ市自治体が「ミデム」ブランドを取得し、パレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレを運営するSEMECにブランドの使用権利を譲渡した経緯がある。

なお今年の開催に当たっては、地場のコミュニケーションコンサルティング会社ホップスコッチ、イベント会社パンダ・イベンツ、音楽向け非代替トークン(NFT)プラットフォームのピアニティーが参画した。

カンヌ市自治体が「ミデム」ブランドを引き継いだ

新たなミデムは、音楽プロフェッショナルによる、音楽プロフェッショナルのためのプラットフォームであり、なおかつ一般市民も参加できるものを目指す。これに向け、音楽業界で初となるビジネスクラブ兼シンクタンクのコミュニティー「MuSee+(ミュージック・シーカーズ・プラス)」を設立。所属する業界のキーパーソンらが、今後のミデムの在り方を形作る仕組みだ。

運営サイドに、これまでのミデムと異なる点を尋ねてみると、「まず第一に、音楽を取り巻く新たな環境に適応することだ」とコメント。音楽コミュニティーのエコシステムは、従来のアーティストやレコード会社、音楽出版社、ライブ制作会社のみならず、メタバースや配信プラットフォームといったテクノロジーなども加わって多様化が進んでおり、これら全ての音楽コミュニティーを一堂に集め、つなぐことが目的だとした。

第二はフォーマットの変更で、これまで見本市としての機能が強かったが、よりカンファレンスやネットワーキング、テクノロジー体験、コンサートに重点を置くという。そして第三には、先に設立されたコミュニティー(MuSee+)が、将来のミデムを共に作っていくことだと説明した。

なお約10年前から既に、ミデム刷新の話題は上がっていたという。しかし現在、テクノロジー、中でも黎明期にあるウェブ3がエコシステムに多大な影響を与えている中、これに順応することは大きな変化となると強調した。

今年はMuSee+コミュニティーの交流をメーンとした小規模イベントとなったが、来年は従来の規模で開催される予定。過去の参加者の推移を見てみると、2001年のおよそ1万人から、2019年には約5,000人へと縮小していた。

会場のパレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレ

■前半はBtoB交流、後半は一般向けがメーン

19~20日には、MuSee+に所属する約100人が、ネットワーキング・セッションやカンファレンス、ワークショップ、コンサートなどを通じて、交流を深めた。MuSee+には、ディーザーやビリーブ、ユニバーサルミュージック・フランス、レコーディングアカデミー、ドルビー、ビートポート、チューンコアなどの重役が名を連ねる。5大陸・14カ国から集まった参加者のうち、大部分は足元のフランスが占めた。

音楽エコシステムのトレンドを議論

自社に女性従業員がいるか問われ、挙手で答える場内

カンファレンスは、「マーケット&トレンド」「イノベーション」「インパクト」をテーマに構成。ウェブ3や人工知能(AI)、NFTといった新技術が与える影響や、業界における女性の活躍状況などが議論されたほか、スタートアップ・ピッチなども行われた。ワークショップでは、AIやメタバースの活用方法に加え、2024年のミデムについてアイデアを出し合う場も設けられていた。

ワークショップで2024年の開催に向けたアイデアを出し合う

少数グループに分かれて議論

3日間にわたり開催されたコンサートの大半は、一般にも開放。ミデム・プラスのスポンサーの一人であるジャン・ミッシェル・ジャールは、ドイツのコーダ・オーディオと組み、バイノーラルの没入型アルバム作品「オキシモア」を16.1チャンネルの360度の立体音響で披露。またこのアルバムの発売に当たり立ち上げたVR世界「オキシビル」の体験スペースも提供した。

ジャン・ミッシェル・ジャール

16.1チャンネルの360度の立体音響で没入体験

ジャン・ミッシェル・ジャールのほか、ファットボーイ・スリムやセローン、ソフィアン・パマート、ドーリー、ハイフン・ハイフン、カンヌ国立管弦楽団らも演奏を披露。おのおの満員御礼の会場を沸かせていた。

ファットボーイ・スリムの煽りで総立ちの観客

AI技術を活用したライブ体験も

2024年の開催は、1月の最終週を予定。ユーロソニック(オランダ、1月)やサウス・バイ・サウス・ウエスト(SXSW、米国、3月)など、他の音楽業界向けカンファレンスも催されている中、果たして新生ミデムはどのように一線を画すのか。その全貌が明らかとなる来年を心待ちにしたいと思う。

ライター:坂本 泉(Izumi Sakamoto)

ロンドン在住、フリーランスのライター/エディター/フォトジャーナリスト。日本の大学を卒業後、国外で日系メディアやPR会社に勤務。イベントレポートやインタビューを中心に、カルチャーから経済まで幅広い分野の取材や記事執筆、編集、撮影などを行う。

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