アーティストに活動資金を前払いするStem、音楽業界向けの金融サービス「Tone」を開始
ロサンゼルスを拠点にする、音楽ディストリビューターで、音楽フィンテック企業の「Stem」は、音楽業界に特化した現代的な財務管理プラットフォームを開発する新規ビジネス「Tone」(トーン)を立ち上げました。
Toneをローンチした背景に、Stemは音楽業界全体に蔓延る「壊れた財務プロセスを修正」することを目指していると述べます。
同社によれば、Toneは「アーティストがどのレーベルやディストリビューターを利用するかに関わらず、アーティスト自身が自ら財務状況を把握し、ビジネスを成長させるための意思決定を可能にします」と説明しています。
Toneで提供する最初のサービスは、レーベルやディストリビューターが、アーティストにストリーミングからの支払いを分配する際に発生する、複雑なロイヤリティ料計算及び分配処理を簡単に行うための支援です。
使用する企業は、総売上や経費などデータを入力し、分配額を計算、ワンクリックで支払いが可能になります。
アーティストや作曲家、プロデューサーは、異なるレーベルやディストリビューターから配信したリリース作品やプロジェクトの財務状況を一元的に確認できます。
Toneのサービスをいち早く利用するのは、アーティストが運営するレーベルで、A-TrakのFool’s Gold Recordsや3LAUのBlume Recordsなどで活用されています。
2015年創業のStemはこれまで、音楽配信用のディストリビューションサービスと、音楽配信からの収益分配を行う財務システムを、厳選したマネージャー、インディーレーベルへ提供してきました。
特にStemが音楽業界内で知られてきたのは、インディペンデント・アーティストに対するアドバンスの支払いです。音楽活動を準備する上で必要な資金を、前払いすることに特化したサービスを提供しています。プロジェクトに寄りますが、支払われるアドバンスは、多い時で日本円で数千万円規模にもなります。
2020年以降、Stemは様々なキャリアのアーティストにアドバンスを提供してきました。
メジャーレーベルとの契約に難色を示すアーティスト、レーベル契約を解消して独立した活動に移るアーティスト、少人数のチームで活動するインディーアーティストなど、様々な活動を支えてきました。
Stemを利用して、配信するアーティストは多数います。その中には、チャイルディッシュ・ガンビーノ、フランク・オーシャン、LANY、ウィズ・カリファ、ケイト・ナッシュ、ボーイ・ジョージ、ブレント・ファイヤズ、Melii、Juicy Jなどがいます。加えて、米国ナッシュビルのインディーレーベルのBig Loudが、Stemを利用しています。
Stemでは、引き続き、アーティストやレーベル向けのディストリビューションサービスを運営していきます。Toneは、Stemとは別の事業として運営されます。
Stem Distributionの社長はクリスティン・グラツィアーニ(Kristin Graziani)が継続し、Toneの社長には、Stem Disintermedia社長で、チーフ・プロダクト・オフィサーのブレンダン・カオ(Brendan Kao)が就任します。
Stem Disintermediaは、CEOで共同創業者のミラーナ・ルイス(Milana Lewis)がこれまでと同じように統括します。
ルイスはToneローンチで次のように述べています「Stemは、元ミュージシャンの創業者がミュージシャンに向けて開発したソフトウェアで支えられた音楽企業で、私たちは過去8年間で、アーティストと共同制作者に、透明性があり迅速な支払いを行うことの重要さを学びました。レーベルやディストリビューターは、それを実現したくても、中々出来ずに苦戦しています。Toneは、他のディストリビューターやレーベルと協力して、音楽から報酬を得るすべての人々に経済的な透明性を提供するため、業界全体に向けたソリューションの構築を可能にします」
レーベル契約しないアーティストを支援するアドバンスの仕組み
2023年7月、Stemは、オルタナティブ投資会社のVictory Park Capitalから2億5000万ドル(約364億円)の融資を受け、アーティストに支払い可能なアドバンスの総額を大幅に拡張しました。
Stemのアドバンス支払いでは、アーティストは新曲だけでなく、既存のアルバムや楽曲でも、資金を受け取ることが可能になりました。
メジャー・レーベルとの契約から離れたアーティストで、既存の作品を新しいサービスに移行できないできない場合、Stemは、著作権を持たずに、将来のプロジェクトに対して前払いをを提供し、より高い柔軟性と経済的自由を実現します。
カタログ楽曲を資金的に活用したい、成熟したアーティスト向けには、Stemは市場金利、短期流動性に基づいた柔軟な返済モデルを提供しています。
急成長中の若手アーティストも、Stemを使うことができます。過去にリリースした作品や、新作に対して、新しいプロジェクトを実行するための資金を前払いで受け取れます。
アドバンスで資金調達するアーティスト
アメリカ人のインディペンデント・アーティストのブレント・ファイヤズ(Brent Faiyaz)と、マネジメント・サービス会社「Colture」は、Stemから3年で8回のアドバンスを受け取り、資金をアルバム制作とリリースキャンペーンに活用しました。
2022年にリリースしたアルバム『Wasteland』は、Billboard 200アルバムチャートで2位、R&B/ヒップホップ・アルバムチャートで1位を獲得。リリースからの7日間で、再生回数は1億748万再生にのぼりました(SEA、ストリーミング・イクイバレント・アルバム)。
アルバム・セールスでは合計88,000ユニットを記録するなど、2020年のデビューアルバムの『F- the World』で最高20位を記録したファイヤズは、2ndアルバムで前作を凌ぎ、過去最高の成功を着実に収めています。
近年は、以前と異なり、レコード会社は契約アーティストの多くに、活動に使うための資金を提供できない状況にあります。
こうした理由を含めて、レコード会社と契約するアーティストが後を絶たない中、レーベルから離れ、インディペンデントな活動に移るアーティストにとって、独立して活動するための資金の確保は大きな課題でもあります。
収入を増やしたい、ビジネスを伸ばしたいアーティストやマネージャーは、Stemのようなディストリビューターと組むことによって、「活動資金調達」という最も難しい目標を実現するケースが増えてきました。
加えて、アーティストやマネージャーは、レコード会社からリリースやプロモーション、予算で制限や指示を受けることなく、自分たちでチームを組み、クリエイティブを制作し、権利を保有しながら、好きなタイミングで配信できる、といった自由な活動が約束されることも、魅力となっています。
source:
Stem Unveils Tone: ‘The Royalty Process Made Simple and Easy’ (Variety)
Stem raises $250m from Victory Park Capital to expand artist advances (Music Business Worldwide)
記事提供元:All Digital Music
Jay Kogami(ジェイ・コウガミ)
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