【5分でわかる】海外音楽業界の重要ニュース 1週間まとめ(4/1〜4/7 ‘24)
ビリー・アイリッシュ、ノラ・ジョーンズ、ジョン・ボン・ジョヴィなど200人以上の著名ミュージシャンがAIによる権利侵害の停止を求める公開書簡
(ITMedia)
- 多数の国内メディアで翻訳記事が出たインパクトのあるニュース
- ITMediaの翻訳記事には賛同した200名の著名アーティスト一覧が乗っているのでこちらを紹介する。
- 多数の著名アーティストがAIによる権利侵害の停止をIT側に要請
榎本編集長「今回の公開書簡で、アーティストは音楽を生成するAIそのものに反対しているのではなく、じぶんたちの楽曲が無断で一部AIの学習材料にされていることに抗議している。音楽生成AIの可能性については私の連載で長らく追っているので拝読されたい」
アメリカの音楽業界、23年の総収入は8%増の171億ドルで過去最高 ストリーミングが84%を占める
(Musicman)
- RIAAによると、アメリカにおける音楽ソフト売上は8年連続で力強い成長。総収入は過去最高
- 有料サブスクの売上は、9%増の112億ドルとなり、ストリーミング売上の78%、売上全体の3分の2近く
- 広告売上は成長鈍化で2%増の19億ドル
- ダウンロード売上は12%減の4.34億ドル
- 物理売上は11%造の19億ドル、アナログ売上は14億ドルで物理の7割
榎本編集長「アメリカの昨年のインフレ率は3.4%なので、実質4.4%の成長になり、急成長というより安定成長だ。牽引する有料サブスクの売上9%増は月額使用料の値上げを考えるとそこまでの成長ではないかもしれない。それでもアメリカのGDP成長率が2.5%だったのに比べると音楽産業は引き続き好調だ」
Spotifyの支払いルール今月より変更、62%超の曲が支払い無しに
(Musicman)
- 年間1,000再生以下の楽曲は無報酬にSpotifyがルール変更
- これにより「働いているアーティスト」の収入は向こう5年で10億ドル(約1,500億円)増えるとしている。
- 合わせて中身のない「ノイズ・トラック」も一気に削除した。
榎本編集長「再生数単位の楽曲売上モデルがサブスクで普及したが、流れが少し変わってきた。アーティスト中心の支払モデルが進行しつつある。世界がサブスクの先へ行こうとしているサインの一つ。重要なニュースなので別途記事化した」
Deezerが2600万曲の「ノイズ・トラック」を削除
(Music Business Worldwide ※英語)
- ユニバーサル・ミュージックと「アーティスト中心モデル」を進める音楽サブスクDeezerが、中身の無い「ノイズ・トラック」2,600万曲を削除した。
- アーティスト中心モデルとは、従来の音楽サブスクが再生数単位で楽曲利用料を払う支払モデルだったのに対し、アーティスト単位で契約を見直した支払モデルのこと。
- 人気アーティストが正当な支払を受けられる、フェイク・ストリームを排除できる等のメリットがある一方で、再生数の少ない楽曲は売上が激減する。
- Spotifyも「アーティスト中心モデル」に近い新ルールを今月施行した。
- Deezerのシェアは1.5%、Spotifyは30.5%、Apple Musicは13.7%(Forbes記事)
榎本編集長「生成AIにまつわルールづくりでもUMGはまずYouTubeと新ルールを確立してからTikTokに厳しい交渉を迫っている。UMGはDeezerと新ルールを確立してからSpotifyへ交渉を進めるなど、プラットフォームに対しイニシアチブを上手く取っている印象」
ワーナーミュージック、TuneCoreの親会社Believeの買収見送りを発表
(WMG公式 ※英語)
- Believeは音楽ディストリビューター最大手。2015年にTuneCoreを買収している。
- フランスの上場企業であり、年間1,400億円以上(880万ユーロ)の売上を持ち、成長率は二桁を維持する勢い。
- 国によってはグローバル・メジャーに比肩する売上シェアを達成している。
- ポスト・サブスクの騎手になりつつあるBelieveの成長速度は速く、WMGのオファー額が見合わなかった可能性がある。
- メジャーの世界の音楽売上シェアは7割から6割へ落ち、一方でディストリビューターの扱うインディーやDIYアーティストの売上は急成長を続けている。
- ソニー・ミュージックは2015年にディストリビューターのOrchardを買収してこのトレンドに対応してきた。
榎本編集長「ディストリビューターは従来の配信手配・集金分配だけでなくデジタル・マーケティングでも結果を出し、原盤権を持たないメジャー会社というべき存在に育ちつつある。MusicmanではBelieveの特別取材をほどなく公開予定」
CD BabyがDowntown Musicとオペレーションを統合
(Music Business Worldwide ※英語)
- インディー音楽の配信代行およびCDプレスを手掛けるCD Babyは2019年、米大手音楽出版Downtown Musicに買収された。
- 今月CD BabyのオペレーションがDowntown Musicと統合され、リストラが進んだが、今回でスタッフはしばらく固定できるとしている。
- Downtownは音楽出版が祖業だが今や400万組のアーティスト、150カ国で音楽会社5,000社のクライアントを持つ大手ディストリビューターとなっている。
榎本編集長「ワーナーはBelieve買収を断念したが、総じて音楽会社大手によるディストリビューター買収の流れが続いている。ディストリビューターをただの技術ソリューションと見くびるのはもはや頭が古いかもしれない」
著者プロフィール
榎本幹朗(えのもと・みきろう)
1974年東京生。Musicman編集長・作家・音楽産業を専門とするコンサルタント。上智大学に在学中から仕事を始め、草創期のライヴ・ストリーミング番組のディレクターとなる。ぴあに転職後、音楽配信の専門家として独立。2017年まで京都精華大学講師。寄稿先はWIRED、文藝春秋、週刊ダイヤモンド、プレジデントなど。朝日新聞、ブルームバーグに取材協力。NHK、テレビ朝日、日本テレビにゲスト出演。著書に「音楽が未来を連れてくる」「THE NEXT BIG THING スティーブ・ジョブズと日本の環太平洋創作戦記」(DU BOOKS)。現在『新潮』にて「AIが音楽を変える日」を連載中。
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