【特集連載】震災から1年、東北の音楽関係者に聞く 〜 エスエスエコーズ Interview
「基本に立ち返って、出来ることに全力で取り組んでいく」
有限会社エスエスエコーズ 代表 伊藤紀彦氏
イベントの企画制作・運営をはじめ、仙台を中心に幅広く音楽事業を行っている有限会社エスエスエコーズの代表 伊藤紀彦氏にお話しを伺いました。
——震災からこの1年を振り返ってみて、まず一番に思われることはどのようなことでしょうか。
伊藤:例年以上に、アッという間に過ぎた1年でしたし、未だに復興はあまり進んでいないと感じています。
——震災直後のご様子というのは。
伊藤:震災当日及び、数日は、事務所内の物が散乱していたので、整理や清掃をしていました。当然停電している状況だったので、稼働時間が限られ、作業は中々進まず思った以上に時間が掛かりました。
機材関係を保管している倉庫では、幸いなことに棚から落下した機材が数点破損した程度でした。
ライフラインや燃料等に支障が出ていたので、結局約1ヶ月以上は普通に仕事が出来ない状況でした。もちろん、周辺もパニックでしたから、業務を行うという感じではなかったですよね。
——その後の営業状況はどうでしたか。
伊藤:弊社のイベントセクションにおいては、実質5月から現場稼働でした。それまでは関わっている方々、街の状況などを確認しながら、出来る範囲で企画など事務的なところは少しずつ進めていました。
「まだ無理か?」という思いと「少しでも稼働しなければ!」という気持ちの間で、何度も葛藤を繰り返しましたが、最終的に「動ける人間は前進していかないと」という結論に至り、5月からイベント等稼働していった感じです。
——この1年間において、活動の支えとなったのは。
伊藤:恐らく多くの方々が思われたことかもしれませんが、自分達が生きていること、携わる方々が生きてること、お互いに助け合っていくこと、普通に生活出来ることの素晴らしさ、というようなことが支えになったと思います。
その中で、やはり音楽が更なる活力や癒しになり、またイベントで出演者やご来場のお客様の笑顔を見ることが、自分達の力になっていたことも間違いない事実です。
——東北の音楽業界にいらっしゃるという事に関して、今回の震災で考え方の変化は。
伊藤:弊社の事業においていうと、「イベントとは?企画とは?」のようなテーマ的なところで、ちょっと大げさかもしれませんが、360度に近いぐらい考え方は変わりましたね。
社会貢献とまではいきませんが、全てのイベント・企画に対して、ご来場のお客様に楽しんで頂くのはもちろんのこと、出演者・スタッフ及び関係者を含めて、今まで以上に深い意味での喜びやプラスαを提供したい、と思うようになりました。震災前はともすると忘れがちだった、そういう根本的、本質的なところを以前より相当強く意識するようになりました。
また、常に新しい視点を持って、より多くの方々に楽しんで頂ける新たなチャレンジをしていかなければ、このままでは駄目になってしまうと感じています。
出来ることは限られているかもしれませんが、こういう状況だからこそ、沢山の方々に、様々な意味での本質的な楽しさと喜びのある企画やイベント、各サービスを提供していかなければならないと考えています。
——御社および東北の音楽関係の方々の回復具合は。
伊藤:弊社においては、全てにおいて低下傾向です。弊社内部の状況もあると思うのですが、弊社とも関わりのある音響・照明等業者様も同じような感じがします。
あと、イベントにもよりますが、一般のご来場のお客様においても全体的に減ったような感じがしますね。やはり震災後はみなさん大変な状況にいらっしゃるでしょうから。
地元インディーズバンドさんについては、震災による様々な事情で、解散や活動停止が明らかに増えている気がします。活動が出来ているバンドさんは、通常通りの展開に戻ってきているのではないでしょうか。
——今後の展望に関してはいかがでしょうか。
伊藤:このような状況なので、企画を打つ側の弊社も、今後、以前とは違う新たな視点で企画制作を行っていく予定です。
一般的に見ても、まだまだ不安定な要素が沢山ある社会状況ですので、音楽シーンにおいてもその不安要素は同じだと思います。今後、自分達の考えることを実現していくのは、今まで以上に難しくなるでしょう。仕事の基本に立ち返って、出来ることに100%、120%と全力で取り組んでいくしかないですね。
——音楽関係者やこれを読んでいる方へ一言お願いします。
伊藤:震災に限らず、現在の日本はとても大変な時期だと思いますが、音楽をキーワードに素敵な前進が出来ればと思っています。
弊社は地方の小さな会社ですが、全国の音楽関係の皆様と共に、世の中の笑顔を少しでも増やせるようなサービスを提供していきたいです。
有限会社エスエスエコーズ