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ライブ・エンタテイメント業界の働き方改革 — プロモーターの現状と抱える課題

インタビュー 特集

2019年4月より「働き方改革」諸法が施行となった。「長時間労働の是正」は、中小企業に対しては2020年4月1日より施行となるが、ライブ・イベント制作を手掛けるコンサートプロモーターは業務内容の特性上、長時間労働が常態化している中での法施行となり、現場は対応に追われている。

今回、コンサートプロモーター2社の労務管理担当者に現在抱えている課題と、今後の取り組みについて話を伺った。

「長時間労働の是正」と労働時間の把握

本年4月から施行となった働き方改革関連諸法。「長時間労働の是正」、時間外労働の上限規制の施行は大企業が本年4月、中小企業は2020年4月から施行となる。

ライブ・エンタテイメント業界では長時間労働が慣習化しているが、長時間労働の見直しの第一歩として、コンサートプロモーター各社、ライブの現場担当者の労働時間の把握から取り組んでいる。

「デスクなどの内勤担当に関しては以前より労働時時間の打刻をし、労働時間の把握ができる状態でしたが、現場周りの担当者は自己申告による労働時間の管理などで曖昧な部分もありました。そのためスマートフォンで打刻ができる管理システムを導入し、運用を始めました」

システムの使用方法の指導だけでなく、社内で労務管理に関する講習会を開き、労務関連の法律に関する知識の周知にも取り組んでいるそうだ。

「新人研修で実際の取り組みや法律に関する話はしているのですが、まだピンときていない部分もあるようなので、繰り返し周知活動はしていくべきだと感じています」

労働時間の把握と管理に関して各社方法を模索しながらシステムの導入だけではなく、仕事自体の見直しも行っているという。

「週末はイベントが多く、どうしても稼働が必要となります。更にいままでは平日にも打ち合わせなどで稼働することが多かったのですが、その打ち合わせ自体を減らし、平日に休みが取りやすくなるよう取り組んでいます」

しかし、労働時間の管理に関しては、ライブ会場や、ツアー帯同など社外勤務の場合、仕事とそうでない時間の判断について各社線引きが難しく、「移動時間は休んでくださいとしか会社としては言えませんが、実際は移動中にPCで作業をすることもあるため、どこまでを労働時間として捉えるかの規定が難しくなっています」と、対応に苦慮しているようだ。 

休日取得への取り組み

年次有給休暇が10日以上付与される社員に対して、5日分、時季を定めて取得させることは本年4月より義務化された。

休日の取得に関しては、法令による義務化以前より社員に対して積極的に働きかけているそうだ。「イベントはどうしても土日と祝日に集中してしまうため、数年前より公休を平日に設定しています。また、夏期休暇などの機会を利用し、1日ではなく複数日まとめて取得を推奨しながら実施しています」。

また、これから取り組みを始める会社も「従業員の代表と交渉をしていく中で計画付与ということで取り組みを進めています。基本的に年末年始の休暇でも結構長い休暇があり、その間にさらに休めるように計画付与、3日間くらい必ず休んでリフレッシュしてもらえるよう働きかけていきたいです」と、各社現場の事情を鑑み対策をしていくという。 

長時間労働の是正により見込まれる影響

今回、長時間労働の是正により見込まれる影響についても話を聞いた。

請け負う仕事の選別を行わなくてはならなくなるのではという懸念が生じているという。

「例えば大型フェスのように24時間稼働のフェスの場合、8時間労働でみると三交代制ということになってしまいます。1つの部署に3人配置というのも難しいですし、仕事を分けることによって連絡や判断に時間がかかり、進行の妨げになってしまう場合もあります。閑散期は今の従業員数で足りていますが、繁忙期には人手が足りないから社員を増やす…というのも現実的ではありません。また弊社から発注を出す警備などのアルバイトにしても労働時間の規定が厳しくなると、二交代制、三交代制となったりしますので、コストは増加してしまいます」

近年、人員不足の中でもライブ市場は拡大しており「ライブの本数は増えていて、圧倒的な仕事量がある状態なので、基本的には今までのように依頼されたものに全て対応できる体制ではなくなってきてしまう、という懸念はあります」また長期的な影響として「絶対的な仕事量がある中で、仕事を減らすのか人を増やしてカバーするのかを真剣に考えなければいけない時期にきています。しかし、大きい興業だけを選択してしまうと、若いアーティスト、これから出てくるアーティストが育たず業界の発展もなくなってしまうのではという危機感もあります」

また、労務管理担当への負担増加と経営面での影響も危惧しているという。「中小企業では、労務管理を専任に行う人員がいるわけではないので、新たに労務管理の業務が追加され、業務の負担が大きくなることが予想されます。また効率化を図るためシステムを導入しますが、システムの導入にはそれなりのコストもかかるので経営面でも影響があるのではないかと感じています」

ライブ・エンタテイメント業界では、より良質なエンタテインメントを届けたいという情熱を持ち、音楽が好きで長時間働くことも厭わない人が多いため「この業界は働く人の情熱に支えられているなと日々感じていますが、働いている方に甘えてばかりではいけないと対応策を試行錯誤しています」と、管理者側としては現場で働く人々のやる気を削ぐことのないよう、働きやすさを考え対策を模索しているという。

「仕事そのものがエンタテインメント、つまり楽しい部分をやっているわけですし、音楽の好きな人間が集まっているので、音楽好きな人間が長時間仕事をしても、仕事を苦と感じない方が多いです。また、この業界は『自由さが良いものを生んでいる』という側面もあったりしますので、逆に労働時間が法律で厳しくなると、より良い仕事が得られない可能性も出てくるのではないかという懸念はあります。ですから、仕事の選別をしながら、従業員が疲弊しないように法律を守っていく方法を模索しています」 

ライブ・エンタテイメント業界全体で取り組むべきこととは

業界全体で取り組むべきことに関しても意見を聞いた。

「音楽業界の特殊な部分ですが、個人の繋がりで仕事を取ってきているような側面も強いため、もっと組織化に取り組み、各々が休みを取りやすい状態にしていくのが理想的だとも思っています」

また、多くのプロモーターは受注側となるため、発注側、さらにはライブへ訪れる観客側の理解も得ることが必要となる。

「我々にとっては発注者となる企業もお客様ですが、ライブに来てくださる観客もお客様です。日本は海外に比べ、チケットの販売から当日の会場内での誘導までカスタマーサポートがかなりしっかりしています。カスタマーサポートの観点でも今後は見直しが必要になってくる可能性を感じています」

また、企業間でのやり取りに関しても双方の理解を得なくてはならないという。

「クライアントがアーティストのマネージャーなど“人”ベースで、労働時間が固定されていない方々との仕事になるため、そこに合わせると労働時間のハンドリングが非常に難しくなっています。そのためクライアント側の理解と、双方の努力が必要になるのではと思っています」

クリエイティブな業種ゆえに、長時間労働が慣習化されているエンタテインメント業界では、なかなか働き方改革の最善策が見いだせない状況を抜け出すには、業界全体での情報共有が鍵になると語る。

「中小企業に関しては、一人で悩んでらっしゃる労務管理担当の方もいらっしゃると思います。なかなか答えが出ない中で、エンタテインメント業界というくくりで各社の取り組みを共有することで、業界全体として最善策の模索ができればと思っています」