広告・取材掲載

ハードコア・バンドから打ち込み系女性アーティストまで、あらゆるジャンルを手がける人気レコーディング・エンジニア 細井智史氏インタビュー

インタビュー フォーカス

レコーディング・エンジニア 細井智史氏
レコーディング・エンジニア 細井智史氏

JUJU、西野カナ、SPECIAL OTHERS、the birthday、ONE OK ROCK、FTISLAND、TOTALFAT、FC FiVEなど、数多くの人気アーティストの作品を手掛けられ、若手レコーディング・エンジニアのトップランナーとして大活躍中の細井智史さん。手掛けられてきたアーティストの豪華さはもちろんのこと、何より驚かされるのはその音楽の幅広さ。打ち込み系の女性アーティストから、ハードコア・バンドまでジャンルを選ばぬ売れっ子ぶりの細井さん。普段滅多にメディアに出られない細井さんに、スタジオでの作業の合間をぬって、ご自身のキャリアから、エンジニアリングの秘訣までお話を伺いました。

[2012年1月24日 / 目黒区五本木 STUDIO Somewhereにて]

プロフィール
細井 智史(ほそい・さとし)
レコーディング・エンジニア


大学を卒業後、サウンドアーツを経て、株式会社サウンドクルーに入社。エンジニアとしてのキャリアをスタートする。麻波25、Def Techを手がけたことをきっかけにフリーエンジニアに転向し、その後はJUJU、西野カナ、SPECIAL OTHERS、the birthday、ONE OK ROCK、FTISLAND、TOTALFAT、FC FiVE、キマグレン、daita、Speech、Rakeなど数多くのアーティストの作品を手がける。現在はレコーディングユニット・KURID INTERNATIONALに参加。
Kurid International

 

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5

 

1.

——ご出身はどちらでしょうか?

細井:滋賀県の守山市出身です。

——学生時代は音楽にどのように接してきたんですか?

細井:エレクトーンを中学校に入るくらいまでやっていて、それからギターを始めて、大学のときにはベース、という感じですね。でも、やっていてプレイヤーには向いてないなと思いましたね(笑)。

——なぜそう思われたんですか?

細井:どう頑張っても指が動かなくて(笑)。早々に諦めました。

——(笑)。高校まで地元にいらっしゃったんですか?

細井:そうですね。それから大阪の大学に入って、ライブハウスでPAのアルバイトをしていました。PAをやっていくうちにレコーディングに興味を持つようになったんですが、関西にはレコーディング・スタジオがあまりないので、大学を卒業して東京に出てきたのが始まりですね。

——専門学校には通っていなかったんですか?

細井:少しだけ通っていたんですが、PAをやっていたこともあって、現場で覚えた方が早いなと思ってすぐに辞めました。

——東京に出てきてからはどのようにしてスタジオに入られたんですか?

細井:最初はサウンドアーツでアルバイトをしていたんですが、他でもスタジオの仕事を探していて、ちょうどサウンドクルーが募集していたんですよ。元々PAの募集だったんですけど、サウンドクルーはスタジオも持っていたので「ゆくゆくはレコーディングができるだろう」と考えて入りました。それから2年くらいはPAをメインに、レコーディングのアシスタントと平行してやっていましたね。

——サウンドクルーに入られてすぐにレコーディングもやっていたんですか?

細井:当時は先輩一人と私しかいなかったので、先輩がいないときは、何もわからなくてもアシスタントに付いて、ドキドキしながらやっていましたね。

——2人しかいなかったんですか…相当忙しかったんじゃないですか?

細井:めちゃくちゃ忙しかったですよ。1年間休みなしでずっと働いていました。私ができると言ってしまったということもあるんですが、当時はスタジオが1つしかなかったので、二人いれば回るだろうと思っていました。

——いきなりプロの現場に入ってしまったわけですね。それで通用してしまったのはすごいですよ。

細井:そうなんですよね。怒られるようなこともなかったです。世渡り上手だったのかもしれないですね(笑)。あと、PAをやりつつ自分でも色々機材を触っていましたので、全く初めてというわけでもなかったですしね。

——PAをやっていたので、現場慣れしていたのかもしれないですね。レコーディングの知識は全て現場で覚えたんでしょうか?

細井:現場ですね。エンジニアの作業を見て、独学で覚えました。楽器にたくさん触れたのもよかったですね。普通、エンジニアを目指す人ではなかなか経験できないことをできたと思います。

——アシスタントはどれくらいされていたんですか?

細井:1年くらいですね。人がいなかったので、必然的にメインをすぐやることになりました。

——人が少ないスタジオに行くのも、メインエンジニアになる1つの手ですね(笑)。

細井:本当にそうで、サウンドアーツで働いていたときに色んなスタジオを見に行ったんですが、どこも人が多すぎるなと思いました。30歳を越えている先輩もたくさんいて、それを見て「こういうところでは無理だな」と思いました。

——では、アシスタントを1年やられて、あとはハウスエンジニアとしてやっていたんですか?

細井:アシスタントもやりつつでしたけど、ちょこちょこ録らせてもらいましたね。スタジオの先輩がプレイヤーとしても活動していたので、私しかいないことが結構あったんですよね。

——その頃、有名アーティストのレコーディングもされていたんですか?

細井:もう解散していまいましたけど、麻波25が最初にレコーディングしたメジャーアーティストだったので、一番印象に残っていますね。

——その時代のサウンドクルースタジオって卓はありましたっけ?

細井:なかったですね。ProToolsとOTARIのMTRなんかはありました。アナログはあの頃からよく回っていました。使いたいというお客さんが多かったんですよね。

 

 

2.

FOCUS「レコーディング・エンジニア 細井智史氏」

——細井さんはレコーディング作業でどんなところに一番気を遣っていらっしゃいますか?

細井:基本的には「雰囲気よく」ですね(笑)。

——それは素晴らしいですね(笑)。

細井:私自身、ピリピリしている現場がすごく嫌いだったので、それがあるからだと思います。端から見れば緩いのかなとも思いますけどね(笑)。雰囲気が良かったら、なんだかんだでいい感じに進んでいくんですよ。ピリピリしている現場は音作りに時間をかけると気を遣うじゃないですか。

——確かにそうですよね。技術的な面ではいかがですか?

細井:ドラムの音作りは他の楽器に比べると時間をかけます。機材でなんとかするんじゃなくて、「生音を変えてもらう」と言いますかね。マイクアレンジとか、機材でできることは限られてくるので、まずは生音をしっかりと作ってもらいます。少しでも気になったら止めて、ドラムテックにやってもらうんですよ。なので、ドラムテックだけはレコーディングに必要ですね。

——PAとレコーディングの両方を経験されていますが、大きな違いはなんでしょうか?

細井:そうですね…PAは朝が早すぎることでしょうか(笑)。

——(笑)。

細井:今のPAはわからないですけど、当時は基本的に音の引き算でバランスを取っていったんですね。レコーディングは引き算も大切ですけど、足すことなのかなと感じます。ただ、ライブとレコーディングは全く別物だと思っているので、音が全然違ってもいいかなという感じですね。

——細井さんは売れっ子エンジニアとして、名だたるアーティストの作品を手がけていらっしゃいますが、去年までは名刺も持っていなかったそうですね。

細井:はい、持っていなかったですね(笑)。

——それがどうやってここまで売れっ子になっていったんですか?

細井:サウンドクルー時代に麻波25をやり始めてから、スタジオのお客さんにインディーズで売れているようなすごくかっこいいバンドが増えてきたんですよ。

——それはミュージシャンの口コミなんでしょうか?

細井:どうなんでしょうね。私も「なんでかな?」と思います。基本的に今でもレコード会社からではなくて、アレンジャーさんやプロデューサーさんから直接仕事を頼まれることが多いですね。一番面白かったのは、Def Techの3枚目のアルバムのときなんですが、歌録りは私がやっていて、ラフを作ったらミックスした人の音源に勝ってしまったんですよ。

——そのラフが採用されたんですか?

細井:そうなんですよ。その後、私がミックスをやっても、そのラフを越えられなくて(笑)。そこから仕事がすごく増えたというのはありますね。でも未だになぜ仕事が増えたのか、謎といえば謎ですね…。

——ご自身でもよく分かっていない(笑)。

細井:20代後半は忙しすぎてあまり覚えてないんですよね。あと、25歳のときにProToolsのセットを自分で買って、そこで個人的にも仕事を増やしていったというのはあるかもしれないですね。

——結局サウンドクルーには何年在籍していたんですか?

細井:5年くらいですね。当時からフリーのような形での契約だったので。

——細井さんのお仕事はバンドものも多いですが、最近では西野カナさんやAIさんなど、女性アーティストの作品も増えてきていますよね。

細井:Def Tech以降、歌ものや打ち込み系の仕事が増えましたね。

——ジャンルとしてはオールラウンドなんですか?

細井:確かに幅はものすごく広いです。ハードコアから女性の歌ものまで基本的にはなんでもやりますね。

——それはすごいですね。色んなエンジニアのタイプがあると思うんですが、プロデューサーも兼ねて歌録りのディレクションとかもされたりするんですか?

細井:私はそういうタイプではないですね。ドラム録りとミックスが好きなエンジニアなので(笑)。歌録りはプロの方が録れば、誰が録ってもある程度いいものが録れますし、ちゃんとプロデューサーやディレクターもいますから、あえて私が付かなくてもいいかなと思っています。

 

 

3.

FOCUS「レコーディング・エンジニア 細井智史氏」

——曲にもよると思うんですが、ミックスにはどれくらいの時間をかけているんですか?

細井:打ち込みの女性ボーカルものはかなり時間をかけますね。打ち込み系は1日1曲しかできません。逆にバンドものですと1日5曲でもできます。それは小さい頃からバンドものしか聴いてこなかったので、「バンドのサウンドはこれ」というのが自分の中にあるような気がします。あと、バンドものは全部自分で録音するので早いのかもしれないです。打ち込み系はミックスだけで、1つ1つ音を把握してからなので時間がかかります。

——打ち込み系はレコーディングしないんですか?

細井:はい。ミックスだけですね。

——そういうエンジニアは増えているんですか?

細井:だんだん増えてきていると思いますよ。ただ、ジャンルを問わず幅広くやるエンジニアはあまり多くないんじゃないですかね。私にとっては毎日違うジャンルができる方が楽なんですけどね。耳がフラットになると言いますか。

——エンジニアになったときに、目標にしていた方はいらっしゃいますか?

細井:今、一緒にKURID INTERNATIONALというレコーディングユニットのようなものに入っている小西康司 ( Koni-yang )さんに憧れていました。小西さんは私の中でダントツのヒーローです。高校生のときにTHE MAD CAPSULE MARKETSの音源を聴いて、「日本のアーティストなのに、なんでこんなにかっこいいんだろう」と思ってクレジットを見たら「Koni-yang」と書いてあって、「こういう人がいるんだ」と思いましたね。

 実はサウンドクルーに入って半年後には小西さんに出会ったんですよ。そこで3ヶ月くらい小西さんのアシスタントに付いていたのかな。それからは家も近所だったので、一緒に飲みに行ったり仲良くしていただいて今に至るわけです。

——憧れの方とすんなり会えたのは偶然ですか?

細井:偶然ですね。それこそ麻波25なんですよ。元々小西さんが麻波25のメインエンジニアだったんです。

——現在はエンジニアとして、小西さんに追いついた感じでしょうか?

細井:いいえ! まだまだです(笑)。小西さんは常に新しいことをするので、越えることはないでしょうね。

——小西さんと一緒に仕事をするようになって、やっぱり思った通りの人だったんでしょうか?

細井:思った通りすごい人でしたね。毎日が感動でした。小西さんのセッションだけは常に見ていましたし、最初の頃は小西さんのパクリでしたね。

——小西さん以外に憧れの人はいないんですか?

細井:国内にはいないですね。海外ではみんな好きかもしれないですけど、クリス・ロード・アルジの音は好きですね。

——プロの中でもプライベートでは音楽は聴かないという人も結構いますが、細井さんは普段から音楽は聴いているんですか?

細井:聴きます。CDもすごく買いますしね。行き帰りの車でも聴くので、常に新しい音楽は聴いています。やっぱり、その時代の音ってあるじゃないですか。そういうのを少しでも取り入れていきたいですし、私の音が時代の音になればいいなと思っているので(笑)。

——かっこいいですね(笑)。25歳のエンジニアデビュー以来、ひたすらミックスの日々ですか?

細井:ひたすらミックスしてきましたね。去年何をやったかも覚えていないくらいです。自宅でやる仕事も多いので、年間で2週間くらい休めたらいいほうです。あとはほとんど毎日、何かやっていますね。

——昨年お子さんがお生まれになったそうですが、忙しくて一緒に過ごす時間もないんじゃないですか?

細井:そうですね。でも、夕方にお風呂に入れてからスタジオに行ったりしています。忘れられたら嫌なので(笑)、それくらいやっておかないと思っています。

——最近手がけた作品の中で、是非聴いてもらいたい作品はありますか?

細井:最近ではTOTALFAT、西野カナちゃん、FC FiVEなどをやりましたが、特にFC FiVEはぜひ聴いて欲しいですね。やっとニューヨークからマスタリングが上がって来たところなんです。ハードコアだけはニューヨークでマスタリングって決めているんですよ。

——そうなんですか(笑)。FC FiVEはどんなバンドなんですか?

細井:茨城のハードコア・バンドなんですが、日本のバンドシーンに風穴あけたくらいのバンドです。彼らはキマグレンの事務所と同じボーダー・グランドに所属しています。代表の森田(和幸)さんにはお世話になっていて、それこそ、ボーダー・グランドのアーティストは全部やらせてもらっています。

——例えば、メジャー作から自分がやるようになった場合、そのアーティストのインディーズ時代の音って聴くんですか?

細井:いや、私は聴かないですね。聴いちゃうとその延長線上でしかなくなっちゃうんですよ。特にバンドものに関しては「僕の音にしてほしいんやろ?」って感じなんで聴かないです。

——他人がどういうミックスをしたかっていうことを気にあまり気にされないんですね。

細井:そうですね。他人のミックスとかあまり興味もないんですよね。

——話を伺っていると、細井さんにたくさんのオファーが来るのは、人間の部分と技術の部分があるとして、人間の部分も大きいような気がします。

細井:あー、多分そっちの方が多いんじゃないですかね。技術的には別に大したことやっているわけじゃないんで(笑)。

——そんなことないでしょう(笑)。でも、人間関係とか場の雰囲気とかってやはり大切ですよね。

細井:要所要所で人の心を掴んでおけば、あとはなんとかなるんじゃないかって思いますけどね。

——細井さんの考えはシンプルで分かりやすいですよ。

細井:私も難しいことは分からないので、常にシンプルに考えるようにしています(笑)。

 

 

4.

FOCUS「レコーディング・エンジニア 細井智史氏」

——今の音楽制作のスタイルに対して「こうだったらいいのに」と思うことはありますか?

細井:せめて録りだけはちゃんとしたスタジオでやりたいですね。今、そうさせてもらえるようにはなってきているんですけど、これが続けばいいなと思います。

——それは自分の仕事がそうなってきたというよりは、業界全体が「録りだけはちゃんとやろう」という雰囲気になってきているということですか?

細井:一時の、家で打ち込みばっかりという状況から、最近はみんなスタジオで録るようになってきているような気がするんですけどね。

——細井さんの仕事はメジャーというか予算がある仕事が多いからかもしれませんけどね。

細井:でも、予算がなかったらなかったなりに工夫すれば良いのかなって思います。私もここじゃなきゃ絶対にダメということは一切ありません。

——与えられた条件の中で最善を尽くすと。

細井:エンジニアは良い音が録れれば、どこでもいいんですよ。

——仕事はミックスで終わりじゃないですか。その後のマスタリングに関してはどんな意見をお持ちですか? 例えば、自分がミックスしたものを、いざCDで音を聴いてみると「うーん…」と思うことはあったりするんですか?

細井:昔はすごくありましたね。今はほぼ違和感ないです。なぜかというと、今はパラサイトマスタリングのエンジニアで滝口(博達)さんという方とすごく密にやらせてもらっているので、滝口さんと構築してきた感じです。

——「マスタリングはこの人で」というオーダーは出せるんですか?

細井:マスタリングはここで、って私は言いますね。

——そういうコンビネーションができあがっているわけですか。

細井:そうですね。滝口さんと出会うまではマスタリングでの違和感がすごくありましたね。滝口さんとも家が近くて、今でもよく飲みに行きますから、全然大先輩なんですけど「もうちょっとこうしてよ」という話を結構します。

——ちなみにご自身でマスタリングまでやってみようとは思われないんですか?

細井:マスタリングは45歳くらいを越えたらやってみたいんですよね。

——それはなぜですか?

細井:その年くらいになれば心に余裕ができるのかなって(笑)。その人の作業を見ていても「マスタリングって全然別の仕事」と思っているんで。私の中でマスタリングは「大人じゃないとできないんじゃないかな?」っていう風に思っています(笑)。

——確かにある程度年齢を重ねた方がいいのかもしれませんね。

細井:若かったらガーッと自分の音にしちゃいそうじゃないですか。でもマスタリングってそういう作業じゃないですよね。基本はミックスで上がったものの意図を全部理解しなくちゃいけない作業なわけですから。

——自制心が必要だと。

細井:そうです。グッと我慢して「ここは何もしない」とか「この曲はボリューム上げるだけでいい」とか、そういう判断になってくるような気がしますけどね。

——今後も現在のペースでずっと仕事を続けていこうと思ってらっしゃいますか?

細井:はい、このペースで行きたいと思います。小西さんが50歳過ぎてもまだこういうペースでやっているんで、あの人が頑張っているうちは頑張らんと、と思います。小西さんは今の私よりも寝てないんじゃないですかね。とにかくすごいんですよ。小西さんは私のいい見本ですね。

——ちなみに小西さんもご自宅でお仕事をされているんですか?

細井:自宅とスタジオの行き来ですよね。自宅で8合目くらいまでやって、あとはみんなで、スタジオで詰めてという。

——今、8合目までは自宅でだいたいやってらっしゃるんですか。

細井:私は9割5分くらい自宅でやっています。でも、こういうスタイルが増えると思うんですよね。私はSTUDIO Somewhereといういいスタジオが見つかったから、もうそのスタイルでもいいかなって思っています。なんか家のスタジオとここでは聴いている感じが似ていて、ここじゃないとミックスはダメなんですよね。

——ちなみに細井さんのスタジオはどれくらいの広さなんですか?

細井:8帖くらいです。

——機材はかなり揃えられているんですか?

細井:機材はdemoとかして欲しいと思ったらすぐ買いますね。

——マイクも買うんですか?

細井:マイクはスタジオにいっぱいあるからそれでいいです。マイクは個人で持つようなものじゃない気がします。どこのスタジオ行っても、いいマイクがたくさんありますからね。コンプとか機材だけは買っておきたいという趣味ですね。

——ミックスの95パーセントを自宅でこなすということは、相当なことができちゃうんですか?

細井:ウチだけで完パケしているものもあってそういうスタイルなんですよ。私としては最終的に外スタジオで確認したいんですけどね。

——予算によっては仕方がないですね。

細井:それかディレクターが忙しいというケースですね。スタッフ全員が忙しくてスタジオに集まって確認する時間がないっていうのがあるので、メールのやり取りでパーッとやって終わるっていう感じですね。

——もう、そういう時代になっているんですね… 。ここ(STUDIO Somewhere)でも卓は全然使っていらっしゃらないんですか?

細井:そうですね、本当は使いたいんですけど。

——再現性の問題ですか。

細井:そうです。後々に「マイナスワンを作ってくれ」とか、そういった要望が多いので必然的にProToolsだけでやるしかないんですよね。何回かここのスタジオの卓で1からやろうかなと試みたんですけど、時間的な余裕がないプログラムが多すぎて断念しました。

 

 

5.

——この先の音楽業界に望むことはなんですか?

細井:昔みたいにミュージシャンを大切に育ててほしいですよ。2年で切るとかではなくて。

——使い捨て過ぎるんじゃないかと。

細井:そうです。長い目で見てあげてほしいというのはあります。

——もう少しやっていれば伸びたアーティストもたくさんいるんじゃないかと思いますよね。

細井:まさしくそういう人たちが多いと思うんですよね。レコード会社の契約が切れてインディーズでやってからの方がすごく売れちゃったというケースの方が多いような気がします。デビューしてシングル2枚くらいで全然芽が出ないからサヨウナラとかではなくて、長期的な視野で見てほしいです。それとMP3より音の良いファイル形式を作って欲しいです(笑)。

——エンジニアとしては当然の要望ですよね。

細井:もうCDが無くなるにしろ、それに変わる音質のファイル形式があればいいなって思います。

——自分がミックスして自分で聴いている音がみんなに伝わっていないという苛立ちみたいなものもあるんですか?

細井:そこまではあまり。気にはしているけれど、気にしていないといえば気にしていないです。

——それを言い始めるとキリがない。

細井:そうですよね。でも、MP3は何とかした方がいいんじゃないかという気持ちはありますけどね(笑)。

——最後に後輩エンジニア、またはエンジニアを目指しているような若い人に向けてメッセージをいただけますでしょうか。

細井:最近スタジオに入ってもすぐ辞めていく人が多いですから「精神的に鍛えてきなさい」と伝えたいですね。折角スタジオに入れたんですから、もう少し居たらいいのにと思います。思い描いているものと現実は全然違うからってすぐ諦めずに頑張ってほしいですね。

(2012年2月29日 公開)

(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也/山浦正彦) 

厳しい制作環境や、時代の変化も何のその、柔軟な姿勢と確かな仕事、そしてその人間的魅力でアーティスト、制作者双方を結びつけ、人気エンジニアとなった細井さん。こちらが驚くほど幅広いジャンルを手掛けるその手腕には驚かされます。取材内でも「エンジニアになって辛いことはなかった」「楽しい」と自分の仕事を心から楽しむと同時に、音楽に対する愛情と真剣さを感じました。今後、細井さんがどんな「音」を届けてくれるのか、注視していきたいと思います。


FC FiVE ニュー・アルバム「The Anthems」

FC FiVE アルバム「The Anthems」
2012年2月22日発売 2,300円(税込)

1.Enter 2.Evolve 3.StrangeDays 4.NeverSayGoodNight
5.NewGreed 6.AThousandShams 7.JadedHope
8.SuperBloom 9.Cowards 10.DawnBreak 11.Eclipse
12.MyStrife 13.Generations 14.StolenThings
15.ChangeSorrowIntoRage 16.TruthHasGone
17.WatchingTheSky 18.TheManWhoKilledTheWorld
19.DandelionsBlues 20.ComeToTheEnd
Label:Neuse Records/Prodused by Fc FiVE/Recorded at Innig Studio and Sound Crew Studio/Enginnered and Mixed by Satoshi Hosoi (Kulid)/Masterd by Ted Jensen at Sterling Sound in NY/Design by Peter Chilton

FC FiVE オフィシャルサイト


TOTALFAT ニュー・シングル「Good Bye,Good Luck」

TOTALFAT シングル「Good Bye,Good Luck」
2012年1月18日発売 1,223円(税込)

1. Good Bye, Good Luck
2. Attack Or Die
3. Place to Try -Featuring Atsushi Suemitsu Version-
4. Good Bye, Good Luck -NARUTO -ナルト-Opening Version-
5. Good Bye, Good Luck -Instrumental-

TOTALFAT オフィシャルサイト

関連タグ

関連タグはありません