アーティストとユーザーを「リアル」に繋ぐ 株式会社Birthday Eve 代表取締役社長 水谷 隆氏インタビュー
CD不況と言われ、アーティストの自立やファンとの関わり方など、未だ模索を続けている音楽業界の中で、所属アーティストが路上パフォーマンスを展開、そしてCDを手売りし、着実にファンを獲得している株式会社Birthday Eveのアーティストたち。「武道館サポーターズ」と称し、日本武道館単独公演を実現する為に、1年間で15,000人のサポーターを集めるという企画を実施し、達成者が出たという。その達成者 宮崎奈穂子の武道館公演が11月2日に控える中、水谷氏に「路上」というBirthday Eveの方法論と現状、そして今後の展望まで話を伺った。
PROFILE
水谷 隆(みずたに・たかし)
株式会社Birthday Eve 代表取締役社長
ビーインググループにて、TUBEなど数多くのアーティストを育てる。独立後、SPEEDや一青窈の育成にも関わる。
NHK大河ドラマ『琉球の風』のメディアミックスプロデューサーや黒柳徹子のステージングプロデューサーを務める。
現在は株式会社Birthday Eve以外にも数社をコンサルティング中。
1.
——Birthday Eveは所属アーティスト全員が路上ライブを主な音楽活動としているそうですね。どういった経緯で今のスタイルに至ったんでしょうか?
水谷:僕自身、音楽業界に入って40年近くになりますが、ビーイングを始め、音楽業界にとてもお世話になっているという気持ちがありまして、僭越ですが、今、音楽業界の元気がなくなっていっているので、何か新しいことをしないとまずいんじゃないかと思って、Birthday Eveを立ち上げました。
僕から見ますと大手のプロダクションさんや大手のレコード会社さんは、もともと才能のある人や綺麗な人を見つけて、それをそのままマーケットに出す花屋さんのように見えていたんですね。でも、僕はビーイングの長戸さんと仕事している頃からそういったことに全く興味がなくて、そもそもアーティストを目指して来る子たちというのは、花が咲くのか咲かないのかわからない状態で来るわけですよね。単純に憧れで来たり、もしくは一部に才能があっても、バランスがよくなかったり。それを僕はお百姓さんみたいに種を蒔いて育てて、もしかしたら花じゃなくて野菜でも、ちゃんと商品になるんじゃないかという考え方をずっと持っていました。つまり育てる方が好きで、出発点はそこなんですね。そして、ユーザーさんを見えるところに置いて、アーティストの教育と、ユーザーが何をリアルに求めているか。そこを繋ぐ会社にしようと考えました。
——「ユーザーさんを見えるところに置く」ということは、最初から路上での演奏を意識されていたんですか?
水谷:そうです。そもそも路上というのはノウハウがありそうでないんですね。それをマニュアル化して、ノウハウを蓄積し、売り上げがきちんと立つようにしていくことは必ずできるはずだと思っていました。現在、Birthday Eveでは路上をやる子たちに、まず看板の書き方から、駅の選び方、時間帯、そういうことを全部マニュアル化して教えています。
——コンビニの出店とか居酒屋さんの出店とか駅前の立地や交通量など考えてやりますが、同じような感じですね。
水谷:そうですね。例えば、インディーズで路上を始めるとしますよね。そこで、そこそこ売れると続くんですが、売れないとすぐに違う場所へ移動しちゃいます。そうすると、その日は買う気がなくても、もうちょっと聴いてみたら買うかな、くらいのお客さんの機会損失をするわけです。ですから、屋台と同じように「毎日そこに出ている」ということがすごく大切です。いつも同じ時間にそこに来ている、いつもそこでやっているという安心感がないと、CDは買ってくれません。
最初、お客さんは「何をやっているんだ? 歌を歌っているんだな」「ああ、CD売りたいんだ」というところから始まりますが、そこですぐ声をかけるようなお客さんばかりじゃないですから、「ああ、やっているな」というのがまず一日目。それが三日も続いていると「頑張っているな」というファクターに変わってくるわけです。それで一週間ぐらいたって「ちょっと声をかけてみようか」と。で、声をかけてみると今度その頑張りがより見えてきますから、「そんなに頑張っているんだったら、応援してあげるよ」と応援のファクターに変わるんですね。そこでCDを手に取っていただいて、家に持って帰って聴いたときに「結構しっかりできているな」と思って頂ければ、今度はお客さんがお客さんを呼んできてくれるんですね。
——そういったノウハウには水谷さんご自身のご経験が反映されているんでしょうか?
水谷:そうですね。少し話が飛んでしまいますが、僕は名古屋出身でフォークソングをやっていまして、南区の図書館を第3日曜日に借りて、「サンデーフォークフェスティバル」というイベントをやっていたんですね。そのときも自ら手売りでやっていたんですが、それが段々、組織化されていったんですね。
——名古屋といえばサンデーフォークが有名ですが、関係があるんですか?
水谷:はい。僕は今のサンデーフォークの母体となるサンデーフォークフェスティバルの初代の社長をやらせていただいたんですよ。
——えっ、サンデーフォークの初代社長って水谷さんなんですか?
水谷:僕の時代はまだサンデーフォークフェスティバルと言う団体でしたが、そうです。井上隆司君はもう亡くなってしまいましたが、彼の前です。その頃、僕は絵描きの弟子もやっていたんですが、賞をもらって、何を勘違いしたか東京に出てきちゃったんですよ。それで個展をやったら借金だらけになりまして、しかも自分の絵がマニアックだったので、結局、絵描きとしては大成しなかったんですよ。それで「とにかく仕事しなくては」と舞台美術の仕事を手伝ったり、舞台監督をやっているうちに考えたことが、絵もそうですが、まず「マーケットが何を求めているか」を考えることから始めることが大切だということで、その考えがBirthday Eveにも生きています。
——路上でサポーターを年間15,000人達成したら武道館でやるという目標を設定されたそうですね。そして達成者が現れたと。
水谷:そうです。サポーターが15,000人を達成したら武道館やるよ、と。それで宮崎奈穂子が15,000人達成しました。
——すごいですね…そのサポーターというのはどういった仕組みなんですか?
水谷:「制作費に全部使います」というお約束で、年会費を3,000円頂いているんですよ。そして、会費をもらっている以上は何か返さなきゃいけないってことで、今まで作っている楽曲を商品としてプレゼントしているんです。そんな仕組みでサポーター15,000人を達成したのが宮崎奈穂子です。
——15,000人ということは単純に売り上げとすれば4,500万…?
水谷:そうです。それに比例してCDの手売り分もあります、僕たちは必ず3ヶ月で何枚売るという目標値を設定するんです。例えば、伊吹唯という子は3ヶ月で7,000枚が目標値だったんですが、ちゃんと達成するんですよ、路上の手売りで。
——3ヶ月で7,000枚ですか!?
水谷:はい。一番売る子たちが3人いて、その下の子たちが3人、さらにその下に被災地から出てきた女の子たちがいたりと、今Birthday Eveには10人アーティストがいます。
2.
——よく駅前でミュージシャンなり女の子がキーボードで歌っている姿を見かけますが、Birthday Eveさんのアーティストと他のアーティストは何が違うんでしょうか?
水谷:他の路上ミュージシャンは自分のために音楽やっている人が多いですが、Birthday Eveのアーティストはお客様のために音楽やっています。
——そこの勘違いを一番最初に取り除いてあげるわけですか。
水谷:そうです。僕は絵描きとしてそこで失敗していますからね。最初は自分のために描いていただけです。ところがマーケットに出したら売れませんでした。それは当たり前です。お客さんのためにやってないですから。
——でも、その勘違いが普通ですよね。
水谷:Birthday Eveは、お客様のために曲を作る。お客様に共感を持ってもらうために何をするのかと考えますから、まず、そこが違いますね。でも、商品ってそもそもそういうものじゃないですか。
僕たちはまず、歌いだしのところで、どれだけインパクト持つかというところから始めて、全曲フルで聞く前に1分30秒の中にどれだけのことが言えるかということを考えます。あと路上でやるときは、いきなり知らない曲をやっても誰も分からないですから、まず他のアーティストのカバーをやるんですよ。そのカバー曲の選定も「自分に合ったカバー曲は何か?」と全部ジャッジさせています。そこで歌っていることをアピールして、足を止めて頂いて初めて「実は私こういう歌を歌っています」とやるわけです。自分のために音楽をやっている人は自分のオリジナルばかりやっていますが、それでは趣味の域を出ないです。
——40年間ありとあらゆる音楽業界のお仕事をされてきて、そこで身に付いたノウハウの全てが、路上ライブというかたちで結実しているのですね。
水谷:そうですね。これまで音楽業界で長戸さん然り、色んな方々から教えられたこと、培ってきたことの全てですね。
——それを路上に結集させたというのがすごいアイディアですよね。
水谷:今は、路上だけでなく、それ以外でも歌える場所を色々探して、次の活動の場をどんどん広げています。例えば、色々な企業さんが「ウチの敷地使いなよ」「ウチの会社でやってよ」とお声をかけてくれます。逆に言うと、人が集まって来ると、そこの商業的な売り上げにも繋がりますからね。先日、伊吹はセントレア空港で歌わせてもらって、売り上げは30万くらいありました。1日30万ってバカになりませんからね。
——所属アーティストの人たちは、本業というか、他にアルバイトはされているんですか?
水谷:いえ、バイトをしている人はほとんどいません。元々はバイトをやりながらウチに入ってくるんですが、まず「今バイトでいくら稼いでいる?」という話をするんですよ。例えば、地方から来る子もいますよね、で、その子がバイトで12万稼いでいると。そうしたら「バイトを辞めるために音楽で12万売り上げることをまず目標にしなさい」と始めます。我々は売ったものの15%印税を払っていますし、マーチャンダイジングも何%と全部現金で払っていますので、そうすると「君の目標値はここなので、まずはそこを目指そう」と話します。
——音楽一本で行く方向へ向かうんですね。
水谷:はい。やっぱりプロとして音楽に24時間向き合っている人と、いくら才能があると言ったって、歌が好きだと言ったって、バイトをやりながら片手間でやっている人とは差が出ますから「まずはそこまで頑張りなさい」という教育から始めます。
——10人もいらっしゃって、そのレベルに達しない人は今までいなかったんですか?
水谷:いや、いますし、辞める方も随分います。でも、その段階で自分の持っている夢みたいなものが甘かったとか、自分に合うとか合わないとか、そういったジャッジはしてあげないといけませんしね。ですから、そこはもう「自分の腑に落ちるやり方で乗りこえていきなさい」ということはずっと話しますね。
路上ってやっぱり習慣力がないと無理なんですよ。ですから、思いつきで仕事するということはさせてないです。必ず習慣になるまで頑張りなさい、と話します。ある程度、習慣性を持たないと、なかなか仕事として通用しないです。それは音楽じゃなくても他の企業でも同じですよね。それで、習慣性を身につけるために凡事徹底をさせています。例えば、トイレに入ったら必ず後の人のことを考えて、きちんと掃除をして、トイレットペーパーは三角に折ってあげなさいよ、ということだったり、会社を全員で掃除したり、それから会社にお客様が来たら必ず挨拶することも含め、そういった教育をずっとやっていますね。
——通常の音楽事務所とはイメージが違いますね。何だか仲代達也さんの「無名塾」のような感じと言いますか。
水谷:そうです。無名塾とかそういう感じですね。Birthday Eveは事務所であり、レーベルなんですが、会社はアーティストの目標や夢を実現するための道しるべみたいなもので、基本はアーティスト一人でやるんです。ある子なんか手売りするCDやキーボードなどの機材を含めて、荷物の重量が30キロあるんですが、キャスターを使って全部一人で運んでいます。ただ、ウチの子たちはみんな目標を目指して、自分のためにやっていますから一生懸命ですし楽しんでいます。
——目標もすごく明確ですしね。
水谷:そうですね。なぜそこまで頑張れるかというと、さっきお話しました宮崎奈穂子のように武道館を達成している子が現実にいるからなんです。その下には武道館は達成できなかったけど年間10万枚売るような子もいるわけで、そういった先輩たちが目標や励みになるんですよ。
——年間10万枚ですか!? それは一体どういう数字なんですか?
水谷:門谷純という子は売るときで一日120〜150枚売ります。伊吹に関してもそれに近いですね。彼女たちは一週間のうち3日から4日は遠征しています。それで朝の6時ぐらいから場所取りをして、16時ぐらいから演奏を始めて、終電までやります。
——天候も様々でしょうし、真夏なんかは暑くて大変ですよね。
水谷:ですから一番なのは天気予報と、暑さ寒さ。ただし彼女たちはそれが収入源ですから。
——所属されている10人の方々は給料制ではなく歩合制なんですか?
水谷:そうです。ウチはバイトさんと社員だけは給料制で、彼女たちは全部印税です。
——そして中には何百万円も稼いでいる人もいるってことですよね。
水谷:ええ。でも、それって本当に商売の基本ですよね。もちろん辛いことはいっぱいありますよ。炎天下の中でずっと歌っているわけですし、30キロの荷物を持って移動しているわけですから…ただ、彼女たちはやっぱりお客様に支えられているということをものすごく感じているんですよ。重い荷物をゴロゴロやっていると手伝ってくれる人がいたり、暑いところで歌っていると、水を買ってきてくれたり。そういう支えがなかったらできません。
——ちなみに男性アーティストはいないのですか?
水谷:以前は男のアーティストもいましたが、路上には向かないです。レスキューがないんですよ。男の人は頑張っても当たり前。でも女の子が頑張っていると応援する人が多い。ですからビジネスモデルとしては、路上は男の人がやれるようなものではないです。そこははっきり分かりました。あとバンドものも駄目だというのも分かりました。
3.
——作品そのものに対して、水谷さんはどのようなディレクションをされているんですか?
水谷:毎週水曜日に作詞の徹底的な勉強をさせています。ビーイングの頃も長戸さんと作詞教室をずっとやっていました。まずは、言いたいことや伝えたいことを見つける。だいたい最初は恋愛の歌や売れている人の真似してくるわけですが、自分が言いたいことを本当に見つけるまでは、頑張って書き続けるしかないんですね。でも、書いてきたものがキャラに合ってないとお客さんは絶対反応しないですから、書いたものに対して、それが自分のキャラクターに合っているか合っていないか、自分のユーザーに合っているかどうか、その言葉遣いも含めて確認します。あなたはどういう言葉が似合うのか、「わたし」というのか「あたし」というのか。「あなた」というのか「きみ」というのか。そういうチェックを全部やっていくんです。
——そこまで細かく話し合いをされるんですか…。
水谷:はい。言うなれば商品開発です。芸能界や音楽業界というのは特別な仕事でもなんでもなくて、料理人の方だったり、製造業の方だったりと全く変わらないんですよ。今、CDが宣材のようになっていますけど、じゃあ「僕たちは何屋さんなんですか?」というね(笑)。作品が活動の全ての基になるわけで、そのクオリティには徹底的にこだわります。例えば、アーティストによって声質は全然違いますし、持っている倍音も違うので、その子に合ったマイクを考えながら録っているんですよ。100万近くするノイマンのアンティークマイクを使うなんてインディーズじゃ考えられないですから(笑)。
——それは自社スタジオでやっているのですか?
水谷:自社でもやっていますし、外でしかでしかできないときは外でやります。また、僕は昔から作品を作るときに、いい曲ができたときは取り置きしているんです。今のレコード会社だと、とにかく早く作って早く出して、当たったらよし、ですが、こういう考え方は僕にはなくて「いい曲ができたら1年後に出さない?」って話をするんです。そして、その曲に対して一年間チームを作ります。もちろん作品としてはほぼ出来上がっているんですが、一年後に出すために、出来上がったと思わずに曲も歌詞も見直し、何回もアレンジし直して、作品を磨いていきます。プロモーションも、その曲を気に入ってくれる業界の人を探したり、曲に合う番組や映画を見つける。そういったことを一年かけてやるんです。
——それは根気のいる作業ですね。
水谷:いい曲は取っとけ。今出しても、一瞬売れるけどビッグヒットにならないからと。
——出来たらすぐ出せはよくない?
水谷:よくないですね。それはやっぱりお客さんに対しても失礼ですし、それをやっているとアーティストを潰しちゃうんですよ。
——大事な曲が出てきたらじっくり育てるということですね。
水谷:そうです。ですから、そういった曲はバーニーグランドマンできちんとマスタリングして、田中さんや前田さんにチェックしてもらったりもします。ビーイングのときに一緒にやっていた明石昌夫というB’zのサウンドプロデューサーを呼んで、彼と「この曲の弱点が何か」「どういう音を使っていったらもっと良くなるか」と話し合ったり、僕は歌詞の方が専門ですから「歌詞のどこ直したらいいか」「構成的に長すぎる」「イントロがつまらない」とか、どんどんやり直しますね。
——水谷さんはプロフェッショナルな方なのに、ストリートミュージシャンを育てているという、ギャップがありそうなところを、見事に結びつけているのがとても新鮮に感じます。
水谷:僕はやっぱりアーティストを育てるのが好きなんですよね。ミクロとマクロという考え方があって、マクロなことはものすごく必要ですが、同時に大いなるアマチュアみたいな、ミクロ的考え方もないと絶対成功しないという考えが僕の中にあるんですよ。
——路上からさらにアーティストの認知度を上げるためにどのようなことをされているんですか?
水谷:例えば、宮崎の場合で言うと、たまたま路上で出会ったローソンの宣伝部の人から、「ローソンのパスタの歌を作って歌ってくれる?」と話を頂けたんですよ。宮崎がサポーター15,000人達成できたファクターに、このローソンのパスタの歌を2年間ローソンの全店舗で流していただけたことがあるんです。また、宮崎は白洋舎さんからもお話があって、今、白洋舎さんの歌を作っています。そして、白洋舎さんが全店舗で宮崎のCDを売っていただけるというような話にもなっています。昔と違って広告宣伝費を使ってタイアップを取りにいってお金払って…という感じではなくて、リアルに繋がっていくんですね。別にこちらはお金を払ったわけでもなく、向こうから頼まれて。
——つまり宣伝費は使っていない?
水谷:今、お話ししたことに関しては全く使っていないです。ただし、宮崎奈穂子に関しては、武道館公演をやるとはいえ一般的にはまだ無名なので、次の段階として外に広めていくためにお金を使っています。彼女はテレビ東京「開運!なんでも鑑定団」のエンディングテーマを歌っていましたし、伊吹に関しては「ドライブ A GO! GO!」をやっています。あと、渋谷、池袋、高田馬場、新宿、有楽町の街頭ビジョンで3ヶ月800本のスポットを打っています。
——そういうお金は使えるようになったということですね。
水谷:はい、それは宮崎も伊吹もやっています。門谷に関しても出身の大阪でFM802と組んで何かやってやろうと話し合っていますし、マルハンさんが主催している草野球の大会「マルハンドリームカップ」のテーマソングを歌わせていただいて、今度福岡ドームで大会があるんですが、そのオープニングで歌わせてもらうとか、そういうことがどんどん現実化していますね。
——地に足が付いたと言いますか、リアルな繋がりが広がっているような印象ですね。
水谷:そうですね。彼女たちは本当に頑張ってやっているので、今度はその頑張ったことに対して事務所としてどういうプロモーションをしていくかが大事だと思っています。武道館はその一つですが、そこで終わってしまってはいけないと思っています。
4.
——この先、まだまだアーティストは増やしていかれるんですか?
水谷:ある意味、人の人生背負ってしまいますので、テスト期間をきちんと設けさせてもらって、それを乗り越えた子しかBirthday Eveは獲りません。やはりBirthday Eveはアーティスト単体で成り立っているわけじゃないんですよ。先輩のアーティストがいて、そこを目指している子たちがいて、学校みたいになっていますから、そこのバランスを崩すのは嫌なんですね。ですから、真摯に向き合ってくれる子だったら増えてもらってもいいですし、来るもの拒まず去るもの追わずですから、辛いって言うならどうぞ、みたいな感じです。そういうことが普通でいいんじゃないですかね。スカウトしてきてどうのこうのなんて気もないですしね。まず本人が何をしたいか、そして、Birthday Eveとして何ができるかという、その関係でしかないんですよ。
——「CDが売れない」と言っている時代に、いわゆるメディアの力を一切借りずに、体ひとつだけで、そういうことが現実に起こるんですね。
水谷:そうですね、もっとマーケットへ近いところに出掛けていくという感覚がないと売れないのに、とりあえずCDショップに置いて、宣伝さえすれば10のうち1つは当たる、みたいな考え方は時代遅れだと思います。
——配信やフェイスブック、ツイッター、YouTubeなどメディアは色々ありますが、路上ライブが最もインパクトがあり、効果的にファンを獲得する手段だということですか?
水谷:はい。メールやネットのおかげで便利になりましたが、使い方が違うと思います。結局リアルに人の言葉を聞いて、人と対面して熱を感じてやっていかないと、人の心は動かないんですよ。営業の基本というのは、できるだけ多くの人とどれだけの密度で会えるかと言うじゃないですか。まずそこを忘れて、お金を使って宣伝したら買ってくれるなんてことを思っていること自体違うと僕は思ったので、まずはこちらからお客様の元へ出掛けていく。そしてリアルに話をすることがとても重要だと思います。
——やはりみなさんトークも上手なんですか?
水谷:いや、トークというよりも熱意ですね。「すごいな」と思ったのは、最近入ってきた新人の子なんですが、「およそこの人は買ってくれないだろう」というお爺さんにまでも挨拶しに行って握手して「よろしくお願いします」とやっているんですよ。そうすると、お爺さんが「何やっているの?」と近くに寄ってきてくれて、CDを買ってくれたりするんですね。
門谷もそうで、おおよそこの人買ってくれないだろうという人のところにわざわざ行って、チラシを渡して、無理強いじゃないけども、ともかく「聴いて下さい」と言って挨拶して帰ってくる。つまり、売れる子って、アーティストの曲に合った、またイメージに合ったプロモーションの仕方が自分でできているんですよ。もちろん、そこまでいくには、一年二年かかりますから、急にできることではないですよね。でも、そういう先輩の姿を見て、新人の子たちが真似して、徐々に自分なりのやり方を見つけ出していくんですよ。
——宮崎さんの初武道館公演は11月2日だそうですね。路上から這い上がってきた女の子が武道館のステージを実現するというのは、ものすごく夢のある話ですよね。
水谷:そうですね。リアルにそういう夢を実現できた人がいるということだけで、「私でも頑張ればできる」と後輩が続いてくれると思いますし、音楽業界に活気が出てくると思うんですよね。
——宮崎奈穂子さんも含めて、メジャーと契約する予定はないんですか?
水谷:メジャーからお話は来ています。ただ、その子の人生をメジャーに預けたとして、ちゃんと結果が見えなかったので、現時点で預ける気は全くないです。例えば、今度、路上ができなくなったら、路上で売っていた以上に売れる仕組みをメジャーが作ってくれるか?といったら、作ってくれません。また、「どうしてもうちの会社でやりたい!」と熱意が伝わってくるならまだいいんですが、そういったものも感じないんですよね。そんなところにウチの子供たちを渡すわけにいかないですよ。
——音楽業界的に水谷さんの手法なりやり方は、みんなすでに認識しているんですか?
水谷:なんとなく気にはなっているようですが、「何であんなことができるのか?」と不思議に思われているのかもしれません。
——既存のシステムに対するアンチテーゼと言いますか、そういったやり方でここまで来られるんですから、やはりすごいですよね。
水谷:そもそも、僕も「ミズタニズム」というか、「宗教団体じゃないの?」と勘違いされたこともありますが(笑)、Birthday Eveは宗教団体でも何でもなくて、リアルにアーティストと向き合って話をしているだけなんですよ。ただそれだけなんです。
——当たり前のことを、熱意を持ってしているだけだと。
水谷:はい。今レコード会社へ行っても、熱を感じないんですよ。本当に熱を感じない。それで数字だけ見るんですよ。とりあえず。「この子は何枚売れる?」と。その前に「音を聴いてください」って思うんですが。
——音楽の話ではなくてタイアップの話とかにすぐなっちゃいますものね。
水谷:ウチはタイアップ必要ないんですよね。ただ、そうは言っても、路上からここまで来た子たちの世界をもっと広げてあげないといけないと思っています。今、映画の話を頂いていたり色々お話が来ていますから、そういうことを現実化していって、広く一般の方たちが「ああ、結構いい歌を歌っているな」と思って頂けるようにしていきたいですね。
——スタートはストリートですが、ずっとストリートでやっていくというわけではないと。
水谷:もちろん。宮崎はずっと路上でやりたいとも言っていますが、今度は彼女たちが路上だけじゃなくても仕事ができるようなことも考えていますし、宮崎奈穂子もKado junも伊吹唯もこれからそれぞれ違う方向に行きます。「ここにいけば大丈夫」というところが僕の中で見えていますので、今度はそこに向かっていきたいなと思います。