ソーシャルメディアを通して音楽を愛する人を増やしたい 〜『音楽の明日を鳴らす』著者 高野修平 氏 インタビュー
ここ数年で、国内でもソーシャルメディアを日常的に活用する人口が飛躍的に増加した。それにともない音楽に対する接し方も日々変化を遂げている中で、情報を提供する側もその作法をしっかりと身につけなければならない状況に迫られている。
そこで今回は、ソーシャルメディアマーケティングの視点から音楽について分析した日本初の書籍『音楽の明日を鳴らす』の著者であり、新進気鋭のソーシャルメディアマーケティングの専門家である高野修平さんに、「ソーシャル」と「音楽」についてお話しを伺った。
(取材・文・写真:Takuya Yashiro、Masahiko Yamaura、Jiro Honda)
PROFILE
高野 修平(たかの・しゅうへい)
コミュニケーションプランナー
a.k.a. groundcolor。東京出身、1983年生まれ。新卒で広告代理店セプテーニに入社。セプテーニ・ブロードキャスティングの立ち上げに参加。その後、WEB会社プランナーを経て、ソーシャルメディアマーケティング支援会社、トライバルメディアハウスに所属。
『音楽の明日を鳴らす-ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代-』
発売中
著者:高野修平
1,600円(税込)
四六判、231ページ
amazonで購入はコチラ
『ソーシャル時代に音楽を”売る”7つの戦略』
発売中
著者:山口哲一、松本拓也、殿木達郎、高野修平
1,680円(税込)
A5判、208ページ
リットーミュージックで購入はコチラ
1.
——今回は「音楽の明日を鳴らす」ご出版おめでとうございます。まずは同書を出版された経緯をお伺いしたいのですが。
高野:ありがとうございます。今所属しているトライバルメディアハウスは国内でのソーシャルメディアマーケティングにおいて、社内には僕が入社する前から社長含め、ソーシャルメディアやマーケティングなどの分野に関するアルファブロガーが多かったのです。僕自身も、以前からブログを書いてはいたのですが、トライバルメディアハウスに移籍するにあたって新しいブログのテーマを考えたときに、いまさらソーシャルメディアマーケティングについて書いてもしょうがないと思ったんです。そこで、僕自身が音楽が大好きだったことと、ソーシャルメディアと音楽を融合したブログや書籍が世の中にはほとんどなかったということで、その方向でブログを書き始めました。
——「a day on the planet」と題されたブログですよね。
高野:はい。ブログを始めてみると、幸いなことに多くの方に読んでいただけるようになりました。その中には音楽業界の方もたくさんいらっしゃって、ブログを通じて色々な方と出会うことができたんです。そのような流れの中で、旧ソニー・マガジンズの社長で今はエムオン・エンタテインメント取締役の村田茂さんにお会いする機会がありまして、ソーシャルメディアと音楽をテーマにした書籍を書きたいという話をしましたら「うちから出版してみないか?」と言っていただき、出版する運びとなりました。
——そのブログはいつ頃からスタートしたんですか?
高野:1年半くらい前からですね。トライバルメディアハウス入社とほぼ一緒です。
——ブログは音楽業界のどういった方から反響がありましたか?
高野:ご連絡をいただいた方々は、やはりソーシャルメディアを前向きに使っていたり、現在の音楽業界の状況に対して危機感を持たれている方が多かったですね。
——ネット上では、前向きな反響が多いように見受けられました。
高野:記事にもよりますが、あくまでソーシャルメディア側からの視点というのがよかったのかなと思います。そして、音楽を僕がとても好きでいたこと。誰だって外から愛もないのに言われるのはいい気分はしないと思うのですが、ソーシャルメディア側から同じように音楽をもっともっとって思う方と共感しあえたのがよかったのかもしれません、実際にお会いした方々からも、ありがたいことに好意的なご意見、もちろん課題やご指摘を受けることもありますが、大変勉強させて頂いています。
——ということは、現状を考えたときに、みなさんソーシャルメディアマーケティングの必要性を感じているんですね。
高野:業界の中にいる立場だとなかなか言えないことを言ってくれている、という思いもあるみたいです。また、僕自身、音楽に人生を救われたと思うぐらい音楽そのものが本当に好きなんです。そういう想いを持ちながら、専門とする立場からの「音楽をもっと沢山の人に聴いていただくには、こういう考え方や方法もありますが、いかがでしょうか?」というメッセージが、ブログを通じて伝わったんじゃないかなあと思うんです。至らない点もまだまだ圧倒的に多いですけど。
——高野さんの「音楽愛」が伝わったんですね(笑)。ちなみに高野さんご自身の音楽のルーツは?
高野:一番最初に買ったCDは小田和正さんの「ラブストーリーは突然に」ですね。そこからJ-POPを聴きだして、Mr.Childrenが好きになり、邦楽も洋楽も聴くみたいな流れですね。まわりにも、のちに実際にプロミュージシャンになった人とかレコーディング・エンジニアとか、そういう友人が多かったので、彼らに色々な音楽を教えてもらいました。
洋楽にはまったのは、レディオヘッドの「キッドA」を聴いてからですね。ベタですけど(笑)初めて聴いたときは、本当に新しい世界を見た気がしました(笑)。あとは通過儀礼のごとくギターにも挑戦したのですが、どうしてもFが鳴らなくて(笑)。それで向いてないなと思って「じゃあリスナーとしていよう」と。社会人になってからは、つらい日があっても、音楽を聴いたり、歌詞を読んだりすることによって救われてきました(笑)。
——本当に音楽への愛がすごいですね(笑)。
高野:就職のときに音楽関係の会社を受けなかったことが不思議なくらいです(笑)。
2.
——そういったバックグラウンドをお持ちなんですね、分かりました。では、ここから今回の本について具体的に教えてください。まず、この本には「共有」「共感」「共鳴」の3つのキーワードからなっていますが、この着想はどこから得られたんですか?
高野:ソーシャルメディアが日本で盛り上がりはじめたときに、ソーシャルメディアマーケティングを考える上で「『共感』って大事だよね」と言われていたんです。それを、音楽に結びつけて考えたときに、「共感」だけでは音楽に関してはちょっと足りないんじゃないかと考えていました。そのままトレースはできない。その先があるはずだと。それで、ブログを書きながら出てきた概念が「共鳴」でした。しかも、「共鳴」の熱量が瞬間的にあるだけではダメで、それを循環させていかなければ結果には繋がらないということで、「共有」「共感」「共鳴」を「サイクル」させるという構想に至りました。
——第一章は現在の日本の音楽マーケットをおさらいするような内容になっていますね。
高野:この本の一番の立脚点は、ソーシャルメディアマーケティング側から見た音楽ビジネスの未来です。僕は音楽業界の内側の人間ではないですし、実際の業界内の大変なことなどは、話をお聞きしてアタマでは理解してるつもりですが、体感はしていないので、やはり外野だという自覚はしっかりとあります。そこで、この本を書くにあたって実際にお会いした音楽業界内の方々からの声と、自身の外部からの視点を全部含めて整理したのが第一章です。内容としては音楽業界の方が読めば恐らく知っていることばかりの内容だと思うのですが、これからの音楽の未来へ繋げる話を書くためにも、まず現状を整理しました。
——整理された現状を土台として、次の第二章では、そもそもソーシャルメディアとは何ぞや、ということを専門家の立場で書かれていますね。
高野:先ほども申し上げたように、音楽業界の中でもソーシャルメディアに対する認識・使用感にばらつきがあるようなので、まずソーシャルメディアがどういうものかということをわかっていただくための章です。
しかも、この本は、基本的に音楽業界のみなさんやそこに関係する方々に向けて書いているので、音楽業界用に少し落とし込んで、カスタマイズし、説明させていただいています。これからは、現場にいらっしゃる方も、マーケティングでいうところのKGI(Key Goal Indicator:重要経営評価指標。マーケティングコミュニケーションの目的やゴールを指す)やKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)をいかに意識してやるかだと思いますので、その部分をわかりやすくイメージしていただけるようなカタチにしました。ソーシャルメディアとソーシャルメディアマーケティングの違いや作法、ルールなど基本的でベーシックな部分だからこそ、しっかりと書いたつもりです。
——「ソーシャルメディアは魔法の杖ではない」というところを強調されていましたね。
高野:そうですね。音楽業界以外も含め、そこを勘違いされているケースがすごく多いと思います。「ソーシャルメディアって何でもできるんでしょう?」とか「マスメディアに代わるんでしょう?」ということをおっしゃる方もいるんですが、そうではないんです。もしくは次のフェーズでなにかとソーシャル、ソーシャルという部分も同様です。一つの手法として、必要に応じて、効果やバランスをいかに考え、組み合わせていくかが大切なんですね。
個人的には、ソーシャルメディアが不要であれば、やらなくてもいいし、必要であればやればいい、というぐらいの認識なんです。けれど、もはや無視はできない。そして、いざ必要になったときに、やり方や知識、ルールがわかってないとせっかくやっても何の意味もなく、終わってしまうので、そこを知っていただこうということです。ですから、ここではもしソーシャルメディアを使うのであれば、最低限知っておいた方がいいであろうことを書いてあります。各プラットフォームの話しに行きがちですが、それよりもそもそものソーシャルメディアとは、ソーシャルメディアマーケティングとは、を重視して書いています。このベースがまだまだ浸透していないので、第一章で音楽ビジネスの土台、第二章でソーシャルメディアの土台を書きました。そこがないとそこから第三章以降の「共有」、「共感」、「共鳴」へは進めなくなってしまうからです。
——高野さんから見て、現状の音楽業界において、ソーシャルメディアの「攻め」と「守り」の作法というのは行き届いていますか?
高野:「守り」はまだ、浸透されていないようです。ソーシャルメディアガイドラインを作成している会社さんは、ほとんどないと思います。その辺りは、一般の企業だと普通に徹底していたりするので、積極活用の「攻め」と、活用にあたっての注意点である「守り」は、両方あったほうがいいと思います。どうしても、新しい手法を導入する場合「攻め」に行きがちになってしまって、ともすると手段と目的さえも入れ違ったりしますから。
とりあえずソーシャルメディアを「やってみる」となったとしても、とにかくPDCAが大切です。あるアーティストがいたとして、そのファンがfacebookに親和性があるならfacebookに合わせる、mixiに多くいるならmixiでやる、そういう部分はしっかり戦略立ててやるべきです。そのためにはソーシャルメディアを理解してないとできないです。このような戦略無しに「とりあえずやろう」というのはもったいないです。戦略なくして戦術はありません。
これまでの業界的な手法によるプロモーションをやりつつ、ソーシャルメディアでオールウェイズ・オンさせていくという、その両方を行っていく方が、効果が期待できるということを理解していただけたら嬉しいです。
——では、現状、音楽業界はまだソーシャルメディアを活用しきれていない?
高野:現場の方は、担当アーティストに関して、WEB上でtwitter等での反応をもちろんチェックをしていると思うんですが、そこからもう一歩踏み込んで、書き込みの内容や、年齢や性別の傾向等、そこから拾える情報をもっと数字に落とし込んで、定量的に分析するのも良いと思います。そこから、コアファン像が浮かび上がってきますし。
ソーシャルメディアの有効活用については、少し視野を広げて、全然関係のない業種のfacebookページやプロモーションを参考にしたほうがヒントを得られることが多いのではないでしょうか。
3.
——第三章でいよいよ本題に入ります。まずはSpotifyから始まり、主な「共有」音楽サービスを紹介していますね。
高野:第三章「共有」のフェーズでは、「音源や映像の共有」と、「体験の共有」の2つがあることを前提としています。
まず「音源や映像の共有」とはどういうことなのかをわかりやすく紹介するために、PandoraとかSpotify等の王道のサービスを紹介しています。「音源を共有させる」という一つの側面から見たサービスにはこういうものがありますよ、と。さらに「体験の共有」というところで言うと、初音ミクや、カラオケがそうですよね。体験を共有するという視点から見たサービスの手法を紹介して、それがどう「共感」に結びつくかを書いています。
——高野さんは、もしPandoraやSpotifyが日本に上陸したらうまくいくとお考えでしょうか?
高野:PandoraやSpotifyは興味深いサービスですし、もし日本にくるならもちろん歓迎です。ですが、CDが売れないからダウンロード。でも、ダウンロードも厳しいから、今度はSpotifyだ!というのは、少し違うかなと思います。
Spotifyもあくまで選択肢の一つに過ぎないと僕は考えています。それ「だけ」で何かが大きく好転するわけではないと思います。Spotifyのはなしをする前に、もっと生活者の音楽そもそもの関与度を上げていかないとせっかくのSpotifyももったいないです。海外の成功をそのまま日本へ応用ももちろんできませんし。
また、Spotifyの話題になると、すぐに「ビジネスモデルは?」「権利は?」「マネタイズは?」 という話になりがちなのですが、僕の立場としてはそれよりも前提の部分、つまり、そもそもどうやったらそのサービスを使ってもらえるのか、という部分を重視しています。せっかくSpotifyが日本に来るなら、その辺を歩いている人たちみんながSpotifyについて知っているくらいにしなければ意味がないと思うのです。ソーシャルメディアも同様ですが。
——知ってはいるけど、使っていないという危険性もありますよね。
高野:国内ベンチャーの音楽サービスで、すごく良いものもあるんですが「使ってもらうためにはどうするのか?」みたいなところが弱い気がしています。全てのサービスを使い込めるほどユーザーも暇ではないので、どうやったらそのサービスを知ってもらえて、さらに使い続けてくれるのかということを、まず考えなくてはいけないと思います。
——サービスとしては良くできているんだけど・・・ということですよね。
高野:1週間使ってみて面白いと思ったけれど、1ヶ月後は使ってなかったみたいなことって多々ありますよね。一瞬の壁、1日の壁、1週間の壁ともいうのでしょうか。せっかく良くできているサービスでも、前提の部分をおろそかにするのは、もったいないと思います。
また、「音源の共有」という部分で、「音源を共有するとCDが売れない」という話を聞きますが、もう時代的にそういう段階ではないんですよね。共有されようとされまいと、ユーザーはすでに買っていませんから。
——特に若い方はそうかもしれませんね。
高野:音源を共有することは、むしろチャンスの方が大きいと思います。「この曲すごくいいよ」と、友達に気軽に薦めることも、ソーシャルメディアが普及したからこそできることで、それが共感につながっていきますし、その部分を有効に活用したほうがいいと思います。北風と太陽なら太陽になるべきではないでしょうか。北風となって、囲い込むモデルではコートを脱がないですから。太陽となって、共有から始まるストーリーやプランニングをする時代になっていると思います。
——そこは意見の分かれるところですよね。
高野:もちろん、そのとおりです。すべてを解放することがいいと思いません。大前提として。
少し脱線しますが、僕がこの本で強く訴えたいことは、現在の日本の音楽の状況がもったいないということです。すごくいい音を鳴らすアーティストが沢山いるのにも関わらず、それがユーザーに届かないというのが何よりもったいないと。パラダイムシフトは起こっているし、始まっています。
ミュージシャン側を考えても、売れなくて、契約を切られて、音楽から身を引いてしまう、そういう状況を見てミュージシャンになりたい子たちも減っていく、みたいな悪循環をどうにかすることはできないのだろうか、というのが根底にあります。もちろん現場の方たちは、言われなくても分かっていらっしゃると思うのですが、あえて外の人間が言葉で書くことによって、一つのきっかけになればいいなと思います。偉そうなことを言うつもりは全然無いんです(笑)。僕、ただヒゲの濃いバカですから(笑)。
——自虐的過ぎです(笑)。つまり、いち音楽ファンとしての願いもこもっているということですよね。そして、第4章では「共有」から一歩進んで「共感」が主題です。
高野:音楽に限らず、ソーシャルメディアでは「共感」しないと広がらないのです。つまり「YouTubeにアップしました」だけでは不足で、「共有したくなるきっかけ」を作らなくては駄目なので、そのためには「共感」という概念が必要になります。
——そして「共感」にも種類があると書かれていますね。
高野:例えば「面白い」「泣ける」「笑える」と色々な共感のタイプがありますが、それをいかに組み立てて設計するかが大事なポイントです。例えば、須藤元気さんのWORLD ORDERの動画は、音楽とのマッチングや観たことのないダンス等が高いクオリティで構成されおり、共感するポイントがたくさん用意されているので、通常のダンスグループの動画に比べて広がりを見せています。そこには、ソーシャルメディアで必要となるTalk-able(話したくなる要素)、Buzz-ble(話題になる要素)、Shar-ble(共有のされやすさ)が設計されています。
「共有」するだけではなく、そこに「共感」がないと音楽は広がりません。そこを設計する為に、ソーシャルグラフとインタレストグラフ、ミュージックグラフ、リレーショングラフという、4つのグラフ(クワトログラフ)を意識してプランニングするといいのではないでしょうかと思っています。
——それらを組み合わせて設計するのですね。
高野:ソーシャルメディアにおいては、自分が信頼している人と人とのつながり、ソーシャルグラフが大前提のベースとしてありますが、それだけでは足りないんです。ソーシャルグラフを起点に、興味・関心の分野でのインタレストグラフを使います。例えば「会ったことないけど、この人が言うなら聴いてみようかな?」みたいなことってありますよね。そういった趣味趣向のつながりを示すグラフです。
ミュージックグラフについて言えば、例えば音楽にあまり興味のない人は、ライナーノーツは読まないですし、CDも買わない、音楽雑誌も読まないです。音楽を聴くモチベーションもあまり高くはない。音楽が好きな人は、お気に入りのアーティストがどういう時代を経て、どういう影響を受けたのかとか、色々な堀り方をすると思うのですが、自分で能動的に探さない限りはそこを掘れないのです。
つまり、ここにチャンスがあると思います。なんとなくOASISが好きな人の場合は、OASISに影響を受けた最近のアーティストまでは聴かなくても、「このバンドはOASISの直系だよ」と教えてあげたら聴くかもしれません。そういう情報を伝えることができる仕組みがつくれるかどうか、そこがチャンスだと思います。
現状、AmazonやiTunesにおいてもシステム的なインタレストマッチで「これを買った人はこれも買っています」と推薦されますが、音楽好きならその繋がりが分かりますけど、そうではない人はそもそもが分からないわけです。ですから、人を介したミュージックグラフで、色々と工夫できる余地というのはすごく残されているのではないでしょうか。
——ライトな音楽ユーザーに、音楽的な繋がりで分かりやすく情報を届ける仕組みということですか。
高野:そうですね。そして「音楽以外から音楽を知る」というリレーショングラフです。好きな女優さんを辿っていたらPVに出ていて、そのPVの曲を気に入るとか、映画や、アニメもそうですよね。
リレーショングラフでは、身近な例があって、知り合いに「宇宙兄弟」という漫画を僕が熱心に薦めたんです。そうしたら「面白い」と思ってくれたらしく、映画も観に行ったようなんです。で、ある日「あの主題歌は誰が歌っているんだ?」と訊いてきたので、「コールドプレイだよ」「じゃあ、それ貸してくれ」というやり取りがあって、最終的に知り合いはコールドプレイが好きになるということがありました。
これはソーシャルグラフとリレーショングラフがくっついた形ですよね。でも、これって特段目新しいことではないんです。昔からあったことです。だけど、ソーシャルグラフ、インタレストグラフ、ミュージックグラフ、リレーショングラフの四つのグラフをいかに組み合わせるかにより、色々なチャンスが発生します。それができるようになったのがソーシャルメディアです。
さらに、そこにトライブの要素を加えて、戦略立てることが、今後かなり重要になってくると思っています。
——レディーガガのマネージャーのトロイ・カーターは、その辺りをうまくやっていると書かれていました。
高野:そう思いますが、彼が設計したレディーガガのファンSNS(「Littlemonsters.com」)でさえも一長一短があると思います。あれも、一つの方法なので、すぐに模倣するのではなく、俯瞰してみて、ご自身が手がけているプロジェクトに最適なものを設計した方がいいと思います。国内でそういった事例が出てきていますが、もっともっと出てきて欲しいですね。
——現状、計算されたというよりも、あとで分析してみたら、たまたま上手くいく設計になっていたみたいなことが多いですか。
高野:ソーシャルメディア活用においてはまだ、結果的な感じは少しします。初めから意図的に設計したらもっとチャンスは広がると思います。
4.
——5章で出てくるコーチュラ・フェスは、「共有」→「共感」→「共鳴」をつなげて熱量を落とさないよう循環させるということを意図的に設計しているのでしょうか。
高野:意識してやっていると思います。
高野:個人的には、やはりリアルが一番価値があると思っています。人間においても、Facebookでやり取りするのもいいんですが、実際にお会いしてお話する方が、お互いの人間がよくわかります。
現在、音楽を聴くのに時間を割かなくなった一方で、リアルの価値は増しています。リアルで観るユーザーをいかに増やしていくか、ライブに行っていない人たちをどう引き込んでいくかがキーだと思います。
最近では、感想や写真で、ライブで共鳴したことを、もう一度ソーシャルメディアで共有します。その共有を通じて、ライブに行かなかった人も「僕も観たかった、行きたかった」とフェスそのものに共感して、次は参加する、参加したい。こういうサイクルで、コアファンだけでなくライトファン、ひいては潜在層まで波及し回り出すという構図が、ソーシャルメディアを上手く使えば描けるのではないか? というのが第五章の中心です。重要なことはコアファンだけでなく、ソーシャルメディアで潜在層を動かすことです。【共有】⇒【共感】⇒【共鳴】のサイクルは二重構造で完成します。そこを意識できるかは大事ではないかと思っています。つまり、ライブやコンサートというリアルで【共鳴】が起きた人々の発した感情が、ソーシャルメディアを通して参加していない自身のソーシャルグラフやインタレストグラフに【共有】・【共感】を生みだすものとその場に集った、集いたかったファンの中で【共有】・【共感】・【共鳴】を作り出すものになります。
余談ですが、今年のサマソニにウチの社員15人連れていったのです。フェスに行ったことない人たちに「一回だけ行ってみようよ」と誘って。サマソニでも彼らが知っているのはGreen DayやPerfumeといった一部のアーティストだけですが、それでも生で観て「面白かった」と彼らは言ってくれました。
チケット代の一万五千円ってフェスに行ったことのない人たちにとっては高いと思います。でも行ってみて、生で観たら「すごく良かった」「来年も行きたい」と言ってくれた。そういう子たちが増えるのが僕は一番大事だと思っていて、そうすると音楽に対する関与度が上がるので、ソーシャルメディアに情報が流れても関心を持つようになり、そこからまた共有、共感が始まるわけです。
——「エクスペリエンスの循環」ですね。
高野:やはり共有だけでも駄目で、共感だけでも弱くて、共鳴までいってそれをぐるっと回して、初めてソーシャルメディアと音楽が融合していくと思います。その中にはFacebookやTwitter、Pandora、Spotify、と色々なツールがあります。それをどう上手く紡いで、さらにクワトログラフにまとめていくか。それはとても大変なことだと思うんですが、そこまでしないと音楽は刺さりませんし、なかなか聴いてもらえないと感じています。心から「音楽が趣味です」という人を作っていけないと思います。
——日本のフェスは一部を除いて、ソーシャル化されていませんが、その点についてはどのようにお考えですか?
高野:僕は音楽を解放することによって、人を引き寄せることができると思っています。音源を共有させることも一つですし、コーチュラやボナルーがやっているウェブキャストもそうですよね。WEB上で見れるように解放されたからといって、フジロックに人が行かなくなることはないと思います。逆にWEB上のウェブキャストを観て「行ってみたい」と思う人は増えると思います。そうやってもっとソーシャルメディアを活用して潜在層や顕在層を動かしていくことが大切だと思います。しかし、やればいいってものでもなくて、目的と決めて戦略を練り、戦術を考える。そして、効果測定も行なう。これがないとやって終わりになってしまい、もったいないと思います。
——最後のまとめのマネタイズのところで、それまですごく分析を重ねてきているのに、結局大事なのは「音楽に対する愛情」みたいなことを書かれていますよね。もっとビジネス的なところで結論づけて終わるのかなと思っていたんですが(笑)。
高野:(笑)。狙ったわけではないんですが、想いが溢れてきてしまったみたいな感じです。もちろんマネタイズは大事ですが、その一歩前にできることはまだまだたくさんありますし、個人的には今のビジネスモデルの中にもまだまだ改善点はあると思っています。また、音楽業界だけではなくて、色々な業種・業態の人たちと一緒になって、音楽を日常の国にしていく。BGMとか垂れ流しではなくて、意識的に音楽を体感する・聴く人をもっと増やしていけば、自然とお金に関しては上がっていくだろうと思うのです。
音楽ビジネスが沈んでしまうことによって、僕が一番危惧しているのは、先ほども少し申し上げましたが、音楽をやる人たちが減ってしまうことです。音楽を創る人たちがもっと増えないと、聴く人も減ってしまいます。僕はCDが売れないから音楽を聴く人が減ったとは思っていません。ただ、新しい音楽に出会うことに対してはあまり前向きではないかなと思っていて、僕の会社の友人もiPodやiPhone、Walkmanで普通に音楽を聴いていて、「何を聴いているの?」と訊いたら、自分の青春時代の音楽、90年代やゼロ年代の音楽を聴いていて、CDを買っているわけでもないのです。新しい音楽を掘るわけでもなく、掘る気もないというのはすごくもったいないなぁと思っています。
その根底には、音楽を文化として根付かせたいなという気持ちが強くあって、ニューオリンズじゃないですが、音楽がどこでも鳴っていて、みんなが聴いている土壌があり、そこでソーシャルメディアを上手く使っていけば、必然的に音楽に興味を持つ人たちが増えていくでしょうし、音楽はまだまだ輝けると信じています。ニコ動などのプラットフォームでも動きが起きていますよね。それをもっと大きなうねりで起こしていきたいです。音楽って素晴らしいですから。トライブを超えてもっともっとって思っています。素晴らしい音楽は今も一杯ありますし、そういう音楽がソーシャルメディアを使ってもっと広がっていってほしいというポジティブな気持ちで、僕はこの本を書きました。
——最後に高野さんの今後の活動についてお話し下さい。
高野:まずは、この本を音楽業界の方々に読んで頂いて、色々なご意見を伺いたいです。僕はこの本の全てが正しいとも思っていませんし、本の内容に関して、それぞれの立場によって解釈や感想はたくさんあると思います。ですから、今後はこの本をきっかけに様々なディスカッションをしていければと思っていますし、新しい血をどんどん入れていって、僕自身としては引き続きソーシャルメディアの世界から音楽業界に恩返しをしていきたいです。
【参考図】
(出典:高野修平著『音楽の明日を鳴らす-ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代-』)
(出典:高野修平著『音楽の明日を鳴らす-ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代-』)
(出典:高野修平著『音楽の明日を鳴らす-ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代-』)
(出典:高野修平著『音楽の明日を鳴らす-ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代-』)
(出典:高野修平著『音楽の明日を鳴らす-ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代-』)
(出典:高野修平著『音楽の明日を鳴らす-ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代-』)
(出典:高野修平著『音楽の明日を鳴らす-ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代-』)
(出典:高野修平著『音楽の明日を鳴らす-ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代-』)
(出典:高野修平著『音楽の明日を鳴らす-ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代-』)
【参考図】
(出典:高野修平著『音楽の明日を鳴らす-ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代-』)
(出典:高野修平著『音楽の明日を鳴らす-ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代-』)
(出典:高野修平著『音楽の明日を鳴らす-ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代-』)