TUNECOREで日本の音楽をもっと世界に届けたい 〜 TUNECORE JAPAN 代表 野田威一郎氏 インタビュー
日々、様々な音楽サービスが登場している中、昨年10月にアーティストにとって便利なサービスがまた開始となった。2006年から既にアメリカではサービス・インしているアグリゲーションサービス「TUNECORE」が、「TUNECORE JAPAN」として日本でもスタートとなったのだ。
海外では、このサービスを経由することにより独自に新しいスタンスの活動を行うアーティストも増えているという。
そこで今回は、自らTUNECOREをアメリカから日本へ持って来たTUNECORE JAPAN代表の野田さんに話しを伺った。
(取材・文:Jiro Honda)
PROFILE
野田威一郎(ノダ・イイチロウ)
チューンコアジャパン株式会社/Wano株式会社 代表取締役社長
東京出身。香港で中学・高校時代を過ごし、慶應義塾大学卒業後、株式会社アドウェイズ入社。
2008年に独立しWano株式会社を設立。2011年にはTUNECORE JAPANを立ち上げ、2012年10月にサービスを開始。
1.
——野田さんは、元々どういうお仕事をされていたんですか?
野田(以下、イイチロウ):大学を卒業して新卒で入ったのが、ネットでアフィリエイト(成果報酬型)広告を手掛けるアドウェイズという会社でした。今は上場しましたけど、入社した2004年当時は、まだ誰も知らない社員20人程度の完全にベンチャーでしたね。リクナビでアイウエオ順に探してて、それで最初の方の「あ」のところにあったので応募したという(笑)。
——そんな適当な(笑)。
イイチロウ:もちろん他にも色々な会社を受けましたけど、もともとITに興味がありましたし、成果報酬型の広告はこれから伸びるだろうと思ったんです。アドウェイズは昔から面白い会社でしたね、面接に7時間ぐらいかけたり(笑)。
——面接だけで7時間ですか。
イイチロウ:社長の岡村さんは僕の1つ年下で、彼はその後2006年に当時の日本最年少で上場しました。本当に凄い人だと思います。今でも、彼が僕の唯一の社長ですね。
——アドウェイズには何年ぐらいいたんですか?
イイチロウ:2004年から2008年まで4年間ほど在籍していました。上場前2年と上場後2年という感じで、とても良い経験をさせてもらいました。
——その時の業務の担当というのは?
イイチロウ:2年目ぐらいからリーダーを任されていまして、最終的にはウェブメディアを構築する部署でマネージャーをやっていました。まぁ、ベンチャーですからそうなりますよね(笑)。
——現在は野田さん自身「Wano株式会社」を経営されていますよね。
イイチロウ:2008年に独立して、Wanoを今の仲間たちと立ち上げました。今期で5期目で、おかげさまで売上も前年を上回り続けていまして、事業内容としてはインターネットの広告プロモーションとメディアやアプリ、データベースなどのシステム開発等を行っています。
——大学時代から、IT系を勉強されていたんですか?
イイチロウ:いえ、まったく関係ないですね(笑)。大学時代は、ほぼクラブに入り浸りみたいな学生生活で。イベントをオーガナイズしたり、自分でフライヤーデザインしたり、渋谷で職質受けたり、club asiaでスタッフとしても働いていました。
——音楽に興味を持ち始めたのは?
イイチロウ:東京生まれなんですけど、日本でいうと小学校6年から高校3年の夏ぐらいまで、香港に住んでいたんです。それで向こうにいる時、中学校ぐらいで音楽に目覚めて、普通にギターとかにも触れたり。香港なので日本の音楽は全く知らなくて、海外のアーティストの音楽を聴いたりしていました。
——日本に帰国した時に違和感はありましたか?
イイチロウ:すごくありましたね。言うことが結構キツいとか言われたり(笑)。悪気は全くないんですけど、海外は基本ストレートですからね。それは就職して社会に出て特に感じましたね、なんか気持ち悪いなぁみたいな(笑)。順応し始めている、自分が一番気持ち悪いですけどね。
——日本人はオブラートで包みますからね(笑)。では、そういうバックグラウンドがあると、海外発のネットサービスには親しみがあるってことですよね。
イイチロウ:Skypeが始まる前に流行ったICQやNapsterとか、そういうのは普通に使っていました。中学校の終わりぐらいにはPCを触っていて、海外はソフトの事情が日本と違って色々入手できたりしたので(笑)、早めにPCに触れていました。
——クラブでイベントをやっていた時ってどういうジャンルだったんですか?
イイチロウ:僕自身はどんなジャンルも聴くんですけど、イベントをやるときはヒップホップとかダンサーイベントとか、当時としては早めだったウェッサイとか、とにかく幅広くやっていました。
——最近だと、どんな音楽を聴いていたりしますか?
イイチロウ:最近はあんまり聴く時間が無いんですけど、多分一番聴いているのはTUNECOREで配信しているアーティストですね。配信しているのは全部聴いているんで(笑)。
2.
——それでは、TUNECOREについてお伺いしたいのですが、まず改めて「TUNECOREとはなんぞや」というところを教えてもらってもいいですか。
イイチロウ:TUNECOREというのは、もともと2006年にアメリカでサービスインしているものでして、簡単に言うとデジタル音楽のディストリビューションサービスですね。
誰でも自分が作った楽曲を、例えばiTunesやamazon MP3、music.jp等の配信ストアへ届ける仲介サービスです。よくTUNECORE自身が楽曲を販売をしているサイトと勘違いされたりするんですけど、そうではなく、TUNECOREは「楽曲を配信ストアに並べる」(流通させる)という役割になります。
今まで配信ストアで楽曲を売るのは、個人単位で活動しているアーティストにとってはかなりハードルが高かったんですけど、TUNECOREを使えば、誰でも簡単にネットで自分の楽曲を売ることができます。
——具体的な特徴としてはどういう部分でしょう?
イイチロウ:繰り返しになりますが、色々な面で恐らくTUNECOREが最も簡単だと思うんです。パソコン一つとインターネットの環境さえあれば、自分の楽曲を売ることができます。コードの取得や申請の紙を出す等の手続き、楽曲のアップロードも全てネット上で済ますことができて、しかも、iTunesの場合だと楽曲登録の2日後には世界111ヶ国で販売が開始されますから、その早さも特徴ですね。
——少し前じゃ考えられない早さですね。
イイチロウ:あとは料金体系ですね。シングルの場合、一曲につき年間1,480円の手数料以外は一切かからないので、配信ストアで売れた利益は100%全てアーティストに還元される点は特徴的だと思います。配信ストアである程度楽曲が売れる見込みがあるアーティストだと、TUNECOREを使った方がディストリビューションにおいては最終的に安く抑えられると思います。
——1,480円以上売れれば、とりあえず流通においては元がとれると。
イイチロウ:何故このような料金体系にしているかというと、まず僕らは常にフラットな立場でいようというコンセプトがあるんです。基本的に独立系アーティストを支援しようというスタンスなので。
売上に応じたパーセンテージを僕らが受け取るというビジネスモデルにしてしまうと、いくらフラットと謳っても人間の心理としてすごく売れるアーティストを一所懸命売ろうとしたり、そうではないアーティストをないがしろにしたりとか、そういうモチベーションの偏りが出てきてしまう危惧があるんですね。まぁ仮にそうだとしても、そういうことは絶対にないですけど(笑)。
僕ら自身がフラットでいないと、サービスの根本がブレてしまうんですよ。なので、申し訳ないですけど、どのアーティストさんにも平等に年額固定の1曲1,480円だけは、最低のランニングコストの手数料として支払っていただくというカタチにしています。
3.
——今回、TUNECOREというサービスを野田さんがアメリカから日本に持ってきて展開させているカタチですが、もともと本国のTUNECOREを知ったきっかけというのは?
イイチロウ:ある時、アーティストの友達から海外にはTUNECOREみたいなサービスがあるけど、日本にはそういうサービスがあまり展開されていなくて不便なんだよね、という話しを聞いたんです。僕としても、もともと音楽やアーティストを支援するサービスをいつか絶対やりたいと考えていたので、その話しを聞いてすぐに調べ始めたんです。それで、調べていくうちに、海外には類似サービスがたくさんあって、中でもTUNECOREがコンセプトやサービスの面で一番良さそうだなと思って、具体的に動き出した感じですね。
——TUNECORE本社との交渉というのは、最初はどんな感じだったのでしょうか?
イイチロウ:当時は日本の音楽業界に繋がりが少なかったですし、まわりにTUNECOREを知っている人間すらいない状況でした。ですが、たまたまニューヨークと日本を行き来している外国人と話しをする機会があって、そこからTUNECOREに絡んでいる弁護士を紹介してもらったんです。それで、すぐにSkypeで連絡して、TUNECOREの当時の副社長スコットと話す機会をもらったんです。ですが、向こうにしてみたらどこの誰だか全く分からないですよね、「なんだこの日本人は?」みたいな(笑)。なので、自分で経営している会社や経緯について説明したら会う機会をくれるというので、即アポとってアメリカに飛んで日本でやらせてくださいというプレゼンをしました。
——すごい行動力ですね。
イイチロウ:本国のTUNECOREの人達は意外に貫禄のあるおじさん達で、ちょっとびっくりしましたけどね(笑)。もっと若いバリバリのIT系の人達を想像していたんで。
——ザッカーバーグみたいな(笑)。
イイチロウ:そうそう(笑)。逆に向こうがスーツで、僕らがTシャツとかラフな感じで「あれ、気まずいな…」みたいな(笑)。一応、Tシャツにネクタイの絵は書いてありましたけど。
——お互い変な先入観があったと(笑)。
イイチロウ:最初はTUNECORE JAPANとして法人化する気はなくて、TUNECOREのライセンスをもらって、Wanoの事業の一つとしてやろうと思っていたんです。ですが、交渉した結果、条件として日本で法人を立ててやるのであればいいよ、という事になったんです。少し悩みましたけど、最終的に双方でジョイントベンチャーとしてTUNECORE JAPANという会社を作ることにしました。
——お話しを聞く限りだと、向こうから上陸してきた感じではないですね。
イイチロウ:気持ちとしては、僕らがサービスを引っ張って持ってきたという感じですね。本社の人の話によると、もともと日本で展開する気は全くなかったらしいんです。まずは英語圏を第一に考えていたみたいで、アジアは二の次だったらしく。
——では野田さんが動かなかったら未だに日本には来ていないと。
イイチロウ:恐らく日本での展開を3〜4年は早めることができたんじゃないかな。
——最近は、はからずも世界的にSpotifyやDeezer、Pandora Radioのムーヴメントが起きている時期で、産業の変革期として良いタイミングとなった気がしますね。
イイチロウ:交渉開始した時期は2年前なんですけど、結局いい感じのタイミングになりましたね。元々僕のようなIT業界にいた人間が音楽のサービスに参入できるのは、世の中的にガラケーからスマホにシフトする時期が最後だと思ったんです。僕自身、どうしても音楽のサービスがやりたかったので、そういう時期を見計らって早め早めに動きました。それでも、契約に弁護士が出てきたり、英語だったりと、けっこう時間がかかってやきもきしたんですけど、結果的にはさっきのようなタイミングと重なったのでラッキーだったかもしれません。
4.
——アメリカのサービスと別では無いんですよね。
イイチロウ:一応コンセプトもサービスも合わせていまして、向こう(米TUNECORE)と定期的に会議もしています。システムも、日本の仕様にあわせて僕らが独自に開発したものもありますし、元からあるもので使えるものは共有しているという感じです。
——ビジネスモデルとしては、やはりアーティストからの手数料がメインということになりますか。
イイチロウ:そうなりますね。他の収益構造も予定はしていますが、まずはディストリビューションの楽曲数をとにかく増やしていくことを目指します。
——手数料を1曲1,480円、アルバムで4,980円にした理由というのは?
イイチロウ:最低コストがかかるギリギリのラインを逆算していって設定しているという感じです。まだサービススタートして3ヶ月で売上的にはまだまだですけど、楽曲が増えれば成立していくバランスかなと思っています。
——年額のディストリビューションサービスというのは割と珍しいですよね。
イイチロウ:色々な料金モデルがあると思いますけど、僕らが、まず1,480円というリスクをアーティストさんにも背負っていただくというのは、楽曲に自信があるアーティストさんに使って頂きたいからなんですね。最初は無料で利用できますよ、というカタチにすると、どうしてもアーティストのモチベーションに差が出てきますから。海外だと、CD Baby等がそのスタイルで、始める時のイニシャルで考えると確かにCD Babyスタイルの方が安いんですけど、楽曲が売れるアーティストの場合は長い目でみると結果的にTUNECOREを使った方が安くつくという状況なんです。TUNECOREは売れれば売れた分、アーティスト自身だけが儲かるというモデルなので。現に2012年の数値では、CD Babyの倍の金額をアーティストに還元しています。
——配信の開始も驚異的な早さですよね。
イイチロウ:僕自身もビックリしました(笑)。自分で実際に楽曲を登録してみたんですけど、iTunesに関して言えば本当に早いですね。申込して寝て起きたら楽曲のストア登録自体はされていますからね。そこから、ストア側の処理があるんでしょうけど、2日後にはストアで買うことができます。
——何故そんなに早いのでしょうか?
イイチロウ:効率よくするために、出来るだけシステム化しているからですね。さらに、アップロードするまでの作業をWEB上でアーティスト自身にやっていただくようにしているので、あとは僕らの審査を挟むだけで、すぐに配信されると。
——現在、TUNECORE JAPANの配信先のストアとしては?
イイチロウ:iTunesとAmazonMP3、music.jpですね。今後は、既にプレスリリースでも出ているDeNAのGroovyも決まっていますし、他のストアとも現在話しを進めています。
現在世界111ヶ国で販売することが可能ですが、その他の世界で利用されている配信サイト、日本のストアを揃えてからβバージョンを解除しようかと。楽曲を世の中で売るのに、まずはとりあえずTUNECOREを使っておけばOKという状況にしたいですね。
5.
——例えばどういうアーティストが、TNECOREを使って楽曲を売っていますか。
イイチロウ:みんなが知っているところで、海外だと、トレント・レズナー(Nine Inch Nails)、Jay-Z、オフスプリング等、あげればキリがないぐらいですね。日本だとdj hondaさん、ZEN-LA-ROCKさん、FIASCO 3(竹内朋康、鈴木渉、屋敷豪太)さん、ゆよゆっぺさん、KOJOEさん、ISH-ONEさん、HYENAさん、大神:OHGAさん、Lugz&Jeraさん、水木一郎さんとかです。
最近アメリカだと面白い現象が起きていて、TUNECOREを使って楽曲が売れているアーティストって、日本で必ずしも有名だとは限らないんですね。それで、日本では全然知られていないアーティストが、TUNECORE経由で楽曲販売して、月に数百万円から数千万円の売上を手にしているという(笑)。
——え、月でですか!
イイチロウ:そうなんです、月次で。年間じゃないんですよ。なので、少し長いスパンにするとけっこうな額ですよね(笑)。ちょっとした法人よりも稼いでいるという。日本でも数十万を月に手にするアーティストが、早くも出てきていますし、今後が楽しみです。
——方法によってはそれだけの額が、そこまで有名じゃなくても手にすることができると。それで普通に生活できてしまいますよね。
イイチロウ:Boyce AvenueやAer、Hoodie Allenとかあんまり知らないですよね?(笑)。
——うーん、確かにYouTubeでなんとなく知っている感じというか(笑)。
イイチロウ:向こうだと、今はやっぱりYouTubeの影響が大きいみたいですね。YouTubeをいかにうまく使うかが大事らしくて。日本だとニコ動とかもあったりすると思うんですけど。
——TUNECOREを積極的に使っているアーティストを追っていくと、新しい楽曲との出会いとかもありそうですね。
イイチロウ:それはあるかもしれないですね。マスメディア的な知名度に左右されないですからね。
——サービス開始3〜4ヶ月ですが、TUNECORE JAPANを利用するアーティストに傾向などはありますか。
イイチロウ:楽曲のクオリティがかなり高いというのはありますね。最初は、やはり誰でも利用できるサービスなので割と楽曲に振れ幅があるかなと思っていたんですけど、想像以上に質が高いですね。もちろん、レコーディング環境がもったいないな、という方もいますが。
あとは、インスト系とか世界規模で活動されているアーティストさんの利用があったりします。独自にワールドワイドで動いていて、そういう最先端のリテラシーが高い方だったり。
——本国のTUNECOREで既に登録している楽曲をTUNECORE JAPANにも登録し直すことはできるのでしょうか?
イイチロウ:配信ストアでは同じ曲は原則売れませんので、TUNECOREで既に登録している楽曲を一旦テイクダウンして頂いてから、再度TUNECORE JAPANのアカウントより申請してしまう事になってしまいます。
——先日、Musicman-NETに記事を提供していただいているJayさんのブログにも、本国TUNECOREの売上が右肩上がりだという記事がありました。2012年は、年間で約112億円がアーティストに還元されているとか。
イイチロウ:あのアーティストへの還元額というのは2012年で世界のアグリゲーターの中で、恐らく最高額だと思います。CD Babyでもその半分ぐらいだと思います。まぁ、それはTUNECOREが凄いというよりも、アーティストが凄いんですけどね。高いクオリティで制作して、ユーザーに買ってもらえるよう自分自身で工夫して活動をするアーティストが増えているということですから。僕らは単にインフラとして、アーティストが使いやすいであろうサービスを提供しているだけなので。
僕としては音楽産業の現況を悲観はしていなくて、音楽が好きな人はいつの時代もい続けるし、「音楽」というコンテンツが変わってしまうわけでもない。唯一危惧するとすれば、人口の減少ですよね。ですが、その部分も少し海外に目を向ければ、消費者は増える一方でしかない訳ですから、もうどんどん海外に出て行こうよと思いますね。日本にとらわれないフィールドで、日本のアーティストが活動できる仕組みを僕らは裏方として提供していかなければならないですし、そういうコンセプトを持ったアーティスト達と二人三脚で世界を攻めていきたいです。
6.
——実際にTUNECORE JAPANを始めてみての率直な感想というのは?
イイチロウ:音楽に限らず、ネットの課金サービスはやっぱり難しいなというのはありますね。無料のネットサービスが溢れていますから。
——アーティストからの反応はいかがですか?
イイチロウ:アーティストの声を聞くと、僕らがやろうとしている事の方向性は間違っていないんだなという感触はあります。世の中の動きを考えてもそう思いますし。東京だけではなく、全国の地方のアーティストからも「便利です」とか言っていただけると、「あぁみんなこういうサービスを求めていたんだな」という実感もあったりするので。どう活動していいか迷っているアーティストに一つの道筋を示すことは、とりあえずはできているんじゃないかなと思います。
——こういうサービスに対し、業界内部からすると、メーカーとカニバるというか食い合ってしまうんじゃないか、という見方もあるかもしれないのですが。
イイチロウ:あぁ、その辺をクリアにしとかないといけないですね。その話しはよく言われるんですが、仕組み的には確かに中間にあたる部分を簡素化してしまうという側面はあるんですけど、やはり音楽というのは、ビジネスとして単にリリースだけすれば、そのまま売れるというものではないですよね。
例えば、レーベルは、ユーザーに届けるまで・売るまでのマーケティングやプロモーションだったり、予算をかけて様々な事を仕掛ける事が可能な体力を持った会社ですから、役割がそもそも僕らと全く違うと思っています。投資してリクープすることを商売にしている人と、僕らのような楽曲をストアに届けるツールというのでは、担っている部分が違いますよね。もっと言うと、レーベルにも僕らを利用していただければと思うんです。仕組みの効率化を含め、様々な組み方が考えられると思います。
事務所やプロダクションにしても同じで、アーテストを発掘したり育てたり、コンテンツ制作まわりの事を手掛けている立場として、状況に応じてツールとして僕らを利用していただければと考えています。
——そもそもが違うと。
イイチロウ:あとは、アーティスト自身の判断というのはありますよね。アメリカでは既にメジャー/インディーのどちらを選択するか、という状況が起きていて、さっき言ったような本国のTUNECOREを利用してすごく売っているアーティストは、既に自分の満足のいく表現活動をしながら、生活ができてしまっていますからね。
アーティスト自身が、どういう表現活動をしたいのかで色々なことが変わってくる時代になるとは思います。ワールドツアーをしたいとか、そういうスケールのアーティスを望むのであればメジャーの資本がないとできないと思いますし。
——産業の中で様々な役割・機能の発生と淘汰というのは、歴史を遡っても常に起きてきたことで、いずれにせよTUNECOREのようなサービスは野田さんが持ってきていなくても、いずれ日本にやってきていたモノかもしれませんね。
イイチロウ:はい、そう思います。あと、繰り返しになりますが、僕らは単に裏方でディストリビューションサービスを提供しているツールでしかないんで、TUNECOREを利用すると売れるとか、そういう事では無いのでそこは敢えて言っときます(笑)。良い楽曲を作って、ファンを作るのはアーティスト自身なので。
——そういうちょっとしたビジネス的なリテラシーとかも、今後アーティスト活動には必要になってくるということでしょうか。ビジネスの仕組みを理解した上で方向を選択し、様々なサービス・産業機能の中から自分の活動に最も適切なものを選んで使うというような。
イイチロウ:海外では既にそうなっているので、日本でも遠からずそうなっていくでしょうね。
——今後TUNECORE JAPANを運営していくにあたって、どういう気持ちで取り組んでいかれますか?
イイチロウ:未だに音楽の売上が世界で2位の国なのに、世界に日本の音楽が全然届いていないのが単純に悔しいんですね。海外で生活していた期間もあったので、特にそう感じるのかも知れないですけど、日本には才能のある人が多くいるのでそれをちゃんと世界に届けたいです。本当にもったいないと思うんですよね。同じ人間として全然変わらないのに他ばかり世界的に注目されて。
この感覚は多分僕の根底にある気がしてて、例えばTUNECOREじゃなかったとしても、同じ思い・同じスタンスでサービスを手掛けると思います。
——日本をもっと世界にと。
イイチロウ:こういう気持ちでやっているサービスなので、日本の音楽が世界で勝負できるように、裏方としてアーティストのみなさんを応援していきたいです。