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国内初の音楽ハッカソンを実現 — 福山泰史(The Echo Nest)、榎本幹朗(Music Consultant)インタビュー

インタビュー フォーカス

Music Hack Day
Music Hack Day

2014年2月21日〜23日に、日本で初めての音楽ハッカソン「Music Hack Day Tokyo 2014」が開催された。イベント概要については事前解説の記事をご参照いただきたいが、イベントではオーガナイザーの福山さんをして「本場並みの雰囲気」と言わしめる程、国内音楽ハッカー達が存分にそのクリエイティビティを発揮した。
音楽とITの才能が出会う本格的な場所がいよいよ日本にも上陸。その新しい「何か」が始まったワクワク感を改めて伝えるべく、今回のイベントをオーガナイズしたThe Echo Nestの福山泰史さん、イベントの司会・審査を担当した榎本幹朗さんに、イベント後のお話を伺った。(Jiro Honda)

 

PROFILE
福山泰史

福山泰史 (ふくやま・たいし)
The Echo Nest、音楽プロデューサー


日本で音楽プロデューサーとして活動後、現在サンフランシスコを拠点に海外企業の日本アジア進出のビジネスコンサルティングを行うPRTL(ポータル)を起業。現在The Echo Nestを含む複数社の代理人として音楽とIT、メディアに関わるスペシャリストとして、グローバルに活動を展開中。
The Echo Nest PRTL Twitter
手がけた作品等(ET Luv.Lab)

 

榎本幹朗

榎本幹朗 (えのもと・みきろう)
音楽コンサルタント、プランナー、作家


1974年、東京都生まれ。上智大学英文科出身。
映像・音楽・ウェブのクリエイターとしての活動、音楽ポータルでのクロスメディア型ライブ・ストリーミング番組の企画・制作を経てぴあへ。モバイル・メディアのプロデューサーを経た後、独立。現在は、エンタメ系の新規事業開発やメディア系のコンサルティングを中心に活動中。2012年6月よりMusicman-NETで「未来は音楽が連れてくる」を連載中。
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  1. 日本のデベロッパーもクリエイティブ!
  2. ITはデジタル戦略だけではなくて、クリエイティブな作業でもあると気付いて欲しい
  3. ITはもはや音楽同様、表現のツール。日本オリジナルなプロダクトでワクワクするような展開を目指したい
  4. 今後のMHDは、少しずつレーベルやミュージシャンも参加できるイベントにしたい
  5. MHDのようなカルチャーこそ日本の音楽業界に必要なのかもしれない

 

日本のデベロッパーもクリエイティブ!

——今回日本で初めて音楽ハッカソンを開催されたわけですが、開催後の率直な感想をおきかせください。

福山泰史(以下、Fukuyama):日本のデベロッパーもクリエイティブ!新サービスローンチを意識したり、アートな作品で驚かせたり、笑いを取ったり。音楽系ハッカソンは、概念としてもまだ日本に上陸していなかったので、正直人が集まるか不安でした。始めてみれば、海外のMusic Hack Day(以下、MHD)の雰囲気に近くて驚きました。

榎本幹朗(以下、榎本):正直、初回からこんなにうまくいくとは思ってなかったです。とある参加者の方が「音楽産業の未来を考えるとか、そういう感じでなくて純粋に『クリエイティブな作品をつくってやるぞ!』という熱気がよかった」とブログで感想を書いて下さったのですが、前者は僕の心配してた雰囲気、そして後者はまさに理想としてた雰囲気です。いきなりゴールが実現した感じでした。

——初回として大成功でしたね。確かに良い雰囲気でした。

Fukuyama:MHDは、24時間夜通しでハックするのがルールなので、海外では協賛企業の社内だったり、無理を聞いてくれる親しい会場で行われることが多くて、雰囲気もDIYな感じ。良くも悪くもタイムテーブル通り、カチカチ機械的に進行していくようなイベントではないので、その空気感も少し出せた気がして嬉しく思ってます。

榎本:「たぶんこれは、何かはじまったな」という空気感がありました。想像以上の熱でしたね。

——今回会場に原宿のTHE TERMINALを選んだ理由というのは?

Fukuyama:初来日の方が多くいましたので、原宿がぴったりだと思って選びました。カルチャーの発信地なので、エキサイティングな演出ができるようにしました。あと、会場のマネージャーがイベント趣旨に賛同して、とても協力的だったのが大きかったです。改めて感謝申し上げたいです。

榎本:Fukuyamaさんが初めからTHE TERMINALをプッシュしてたのですが、やってみて納得しました。大企業の硬質なオフィスに、セキュリティ・カードをかざして入室するのとは違って、とてもアットホームで楽しみながら創作する感じになりました。

Music Hack Day Tokyo2014

——日本の音楽ハッカー、技術者の印象はどうでしたか?

Fukuyama:APIを提供した海外企業のツールは、世界中のMHDで利用されているわけですが、今回初開催となった日本でも、海外と少なくとも同じレベルでハックしていたことには安心しました。

榎本:イギリス、アメリカなどでやったときの過去作品を予習して司会したのですが、それと比べても遜色なかったです。後述しますが想像の斜め上を行く作品もあって、そこが日本らしくてうれしかったですね。

——海外のMHDの場合、APIを提供する企業数はもっと多いですか?

Fukuyama:イベントによりけりだと思います。MHDのルールとして、参加者はAPIを提供(プレゼン)する企業以外のAPIを使うこと、逆に全く使わないこともアリとしていますので、イベントタイミングでエバンジェリストのスケジュールや渡航予算などで決められることもあります。今回、MHD TOKYOでも、last.fm、twitterのAPIを使っていた方もいらっしゃいました。API提供の参加企業は、今世の中にあるAPIで実現できないようなユースケースをMHDのようなイベントで探しています。今回のMHD Tokyoでもなにかヒントを得たようでした。

榎本:僕はコンサルタントという仕事柄、ふだんから音楽系のいろいろなAPIについて会議室で語り合ってきました。しかし、しょせん密室なわけです。今回、みなさんが音楽系のAPIについて、最高の雰囲気のなか共有してくださったのが最大の収穫と感じています。国内のAPIも使われていましたよ。じぶんの古巣でもあるぴあのAPIを使った作品が受賞したのはうれしかったです。

Music Hack Day Tokyo 2014
※Music Hack Day Tokyo 2014 スポンサー

 

ITはデジタル戦略だけではなくて、クリエイティブな作業でもあると気付いて欲しい

——名だたる海外ゲストとの交流の様子はどうでしたか?

Fukuyama:今回、The Echo NestSpotifySoundcloudGracenoteSendgridなどのdeveloper evangelistと直接話せることがひとつの目玉だったんですが、言語のバリアー、単純に国民性なのか、話しかけてる様子が少なかった気がします。そこをアシストすることもイベント前に悩みましたが、今後の底上げのためにも、今回はあえて最小限に徹しました。アシストを待つようなイベントではないというカルチャーを根付かせたいと思ってますが、今後開催する機会があれば、通訳の人数は増やしたいと思ってます。

Music Hack Day Tokyo2014

——海外のdeveloper evangelistの方々は、今回日本の技術者や業界関係者についてどのような感想を言っていましたか?

Fukuyama:同じAPIでも、日本特有の感性でアプローチされると使われ方がこうも違うのかと関心していた声を多く聞きました。今回の収穫でどのように彼らのプロダクトに影響するかも個人的に楽しみです。レーベルの方の参加も多いことにも驚いているようでした。

榎本:次回は日本の協賛会社をもっとお誘いしたいと思います。楽器メーカーさんなどが入ってくださると、ミュージシャンもハッカソンに参加しやすくなるので、いっそうクリエィティブになるかなと。

——開催する前のイベントの全体予想と実際はどうでしたか?

榎本:じぶんは人集め役だったのですが楽をさせていただきました。Wired JapanさんやMusicman-NETさんなどに出稿させていただき、そこから追い込みをかける予定だったのです。それが「あっというまに応募が埋まりました」という記事を直前に書くだけで終わりました。

Fukuyama:正直50人集まるといいな、くらいに思ってました。Peatixでイベントページをアップして実は、一日半、全く動きがなく、もしかして延期した方が、、というような焦りの声もEcho Nest内であったくらいで。そこからSocial Media WeekSpotifyのハネスが登壇。そしてSMW中に、Spotifyの国内ローンチについての誤報もあって、一気に注目が集まりました。参加登録は即座に満員になり、2回にわけて応募人数枠を増やしましたが、数日で満員になりました。

Music Hack Day 2014
※Peatixのイベントページ

——日本におけるSpotifyへの注目の高さが分かりますね。Fukuyamaさんは現在海外にいらっしゃいますが、海外にいらっしゃる視点から、今後日本国内の音楽ストリーミングの動向にどのような観測をお持ちですか?

Fukuyama:日本の音楽業界は利益率の高いCDビジネスを世界のどこよりも長く続けられた特殊な才能を持った市場であり、維持してきた現在の業界関係者には敬意を表したいと思います。しかし、その裏でストリーミングへの切り替えに対する準備はもっとできたのではないかと思います。Echo Nestを担当させていただく前から何度か別プロジェクトで数年間に渡って色んな技術を日本に紹介してきていますが、その時はSpotifyは存在感が薄く、いまとは緊張感が全く違いました。消費者がデジタル、ストリーミングへ移行する過程で起きた空洞化は大きな痛手です。

海外のサービスは、カタログ楽曲数、音質、価格戦争を既に経て日本上陸を目論んでます。この状況をラッキーとするならば、日本はこの戦争を全てすっ飛ばしてスタートを切れることです。海外含め各音楽サービスに求められている次の戦争で勝てばいいだけだと思います。

榎本:同感です。リープ・フロッグの法則を使って、海外の既存のサービスを踏み台にしていけばいいんです。APIを活用するというのはそれに近いことです。

——このような取り組みが国内音楽産業に与えるポジティブな影響というのは?

Fukuyama:曲に弦を足すか否かを迷うくらいな感覚で、コードを書くデベロッパーを活動に取り入れていく日常が音楽産業にできてくるとうれしいですね。じぶんは元々サウンド・プロデューサーです。レーベル、アーティストや事務所と密接に関わってきた身としては、コンテンツとITがいかに遠い存在か痛いくらいわかります。だからこそ音楽産業のみなさんには、ITはデジタル戦略だけではなくて、クリエイティブな作業でもあると気付いて欲しいのです。逆にデベロッパーのみなさんは自己アピールの場として活用して、国内外の音楽事業への就職活動に使ってほしいです。

榎本:アメリカのメジャーレーベルに、たとえばデータ・サイエンティストが就職するケースもでてきたようですね。「いまさらGoogleに行ってもしょうがない。俺が音楽産業を変えるんだ」ということでしょう。時代は変わりました。世界の音楽産業は今、ITの最先端で闘っています。これは日本でも始まります。

オープン・イノヴェーションの時代です。自分の「外」にあるイノヴェーションを積極的に取り込まなければやっていけない時代となりました。海外のサービスと日本のサービスを掛けあわせて新しい世界を創るという道です。海外のAPIを活用するというのは、海外のサービスに飲み込まれるという話ではないのです。振り返れば日本のメジャーレーベルは外資と国内資本の融合で始まったものも多いと思いますが、それを現代的な形でもう一度やるのが音楽ハックともいえます。要は海外の先端技術を活用した、国内業界のリフレッシュですね。国内のAPIが世界で使用される未来も待っているでしょう。

 

ITはもはや音楽同様、表現のツール。日本オリジナルなプロダクトでワクワクするような展開を目指したい

——コンテンツとITが近づく取り組みとして今回のMusic Hack Dayのようなものの他に、どのような取り組みが日本には必要だと思われますか。

Fukuyama:B2Bではない、ミュージシャンと開発者が交わる機会をたくさん作りたいですね。ボカロ、ニコ動、アニメーションなどを駆使している日本オリジナルと言える素晴らしいクリエーターは数多くいるので、そこに世界のAPI、データベースなどを混ざってくると新しいコンテンツが生まれると思います。海外のツールが混ざることで海外のオーディエンスにも響く材料が必然的に生まれます。世界を狙えるコンテンツが自然発生する日本の市場を作ることができたら、レーベルとしても嬉しい事ではないでしょうか。

榎本:楽器やハードウェア・ハックを混ぜると海外と一味ちがう世界がつくりやすいかなと予想しています。具体的にはWeb MIDI APIやWeb Audio APIを使うと、ミュージシャンと開発者とがハッカソンで協業しやすくなります。それだけだとDJやVJの延長になるんで工夫が要るんですけどね。

——国内の音楽関係者はこういうイベントにどのように関わり、何を学び、今後どう活かしていけばよいでしょうか?

Fukuyama:音楽系のITが好きな開発者は本当に貴重な存在です。普段サンフランシスコを生活拠点としていますが、こっちでは Twitter、facebook、Googleからのオファーを断ってでも開発者が会社に残ってくれるようなノウハウも、音楽系ITの会社にあります。これについては、次のフェーズで日本に持ち込みたいと思っています。音楽系ITの開発者を囲い込む競争が始まりそうです。業界のみなさんには、音楽ハッカソンをリクルーティングの機会、新しい発想に出会う機会としてぜひ活用していただきたい。そうした新しい才能を見定めるためには基礎となる学びも必要です。本やソーシャルメディアで学習するのも手ですが、MHDは現場で実際作りながら学べる最高な機会と思います。初級、上級者関係なく参加いただけるイベントです。

Music Hack Day Tokyo2014

——やはり、これからは日本の音楽会社も高い技術を持つ開発者を身近なパートナーとしなければ、生き残れない時代がくると思われますか?

Fukuyama:日本はそもそも高い技術、開発力を持って世界のリーダーと一度なった国です。MHDのようなイベントで世界で使われているツールを見て、聞いて、触って、そして自分の物にして、改めてリーダーとなりえることを実感して欲しいと願ってます。

生き残ることを目標には決してしたくなく、日本オリジナルなプロダクトでワクワクするような展開を目指したいと思ってます。

榎本:そうですね。エンタメ産業ですから、サバイバルで頭がいっぱいだと袋小路に入ります。そういう余裕の無い雰囲気は消費者やミュージシャンのみなさんに伝わっちゃいます。だから心の向きを変えて、テクノロジーがインスパイアするワクワクの先に思いもしなかった答えが隠れていると、僕は思ってます。

——なるほど、生き残るという切羽詰まった感じではなく、あくまで心踊るような方向、心持ちにヒントがあると。そうなると、よりITと音楽の才能が出会う場所が必要となりますね。

Fukuyama:業界関係者は、ITは音楽の流通や課金方法を支えるインフラというイメージをまだ持っている方が多いのではないでしょうか。ITは、もはや音楽同様、表現のツールです。ハードシンセでつまみを回し始めてから、Pro Toolsでスクリーンの中に変化したところまでは良かったんですが、スマートフォンアプリ、ファンクラブでCRM、キャリア課金…。いつのまにかテクノロジーは音楽制作にとって無機質で遠い存在に 変わってしまった気がします。日本は、ウォークマン、ニコ動、初音ミク、カラオケの国です。ITの要素を音楽そのものに取り入れることが日本の音楽の世界進出に繋がる気がしてなりません。

榎本:音楽制作出身のFukuyamaさんらしい指摘だと思います。音楽とITの出会いは、音楽配信やウェブ・マーケティングだけで終わらないと思います。かつて映像の才能が音楽と結び合わさって、レコードやCDとは異なるクリエィティブが誕生しました。音楽ビデオですね。MHDの会場の場にいると、はじけるような創作の熱気が充満しています。コーディングの才能と音楽の才能が互いにインスパイアしあう、という未来図はあの場にいれば抽象論ではないと実感できます。

 

今後のMHDは、少しずつレーベルやミュージシャンも参加できるイベントにしたい

——ITと音楽がもっと交わることによって、音楽に再び光があたり、音楽が日本のコンテンツの主役に戻る可能性がある?

Fukuyama:音楽の消費方法は進化しています。「音楽がコンテンツの主役に戻る」というのは、退化に近いニュアンスな気がします。たとえばゲーム業界に勢いが出たなら、その勢いを音楽に活かすのが音楽ハックです。ゲーム中の再生音楽や視聴履歴からパーソナライズされた音楽プレイリストを聞くということができます。動画配信サイトが人気が出たら、アメリカのメジャーレーベルはVEVOを創り、動画配信をじぶんたちの音楽プレーヤーにしました。音楽の進化は、エンタメのエコシステムと共存する方向にこそあります。ゲーム会社も、動画配信サイトも、メッセージプラットフォームも、音楽のコンテンツ・パワーを十分理解しており、彼らは共存を望んでいます。

消費者も、YouTubeのようなLean-in(オンデマンド型)とPandoraのようなLean-back(ラジオ型)を使いこなしつつあります。運動中はLean-backにモードを切り替えて、音楽サービスをながら聴きしていますね。コンテンツ産業は多様化しました。産業のランドスケープを見渡すと、どのコンテンツ業界が主役か、という時代ではありません。消費者が主役の時代に入ったのです。

——そもそもの部分で既に次のステージに入っていると。音楽産業と他産業が交わる有用性をどのようにお考えですか?

Fukuyama:IT産業が他産業という前提なのであれば、僕はまずここは表裏一体だと思ってます。位置情報、天気、ウェアブルデバイスと 連携し、心拍数で作成されるプレイリストを支える技術は音楽制作そのものに活かせます。それこそ音楽制作のハックで、それをするのに適しているのが日本人ミュージシャン、本当は日本のレーベルだと思います。

榎本:音楽系のウェラブル・デバイスは面白いですね。今、じぶんの仕事で一番気合を入れてかかっています。これからの音楽産業はハード業界にかぎらず、いっけん関係ない外部にいるクリエィティブな人びととしっかりつながっている必要があります。今回、参加者のみなさん、イベント中はなぜか会社名を言わないんですが、打ち上げで名刺交換したら大手メディアだったり、広告代理店だったり、メーカーの方だったりが、果敢に作業してるんですよ。ふだんの仕事でやりきれないクリエィティブなことを、どこか実現したい人は日本にいっぱいいるんだなと感動しました。

——日本のミュージシャン、レーベルのどういう特性がそこに適しているのでしょうか?

Fukuyama:海外から日本を見ると、テクノロジーを駆使している日本のイメージが既にできあがってます。これ以上のお膳立てはないのではないでしょうか。さらに、国内では海外の音楽のコピーも日本では許されず、どこか必ずオリジナルにしていると思います。これからは世界が真似したくなるような新しいコンテンツを日本人が海外のツールを使って作る時代かもしれません。

榎本:ネットの普及から20年近く経ちました。国内であっても最先端で闘ってると「音楽業界は保守的で、IT系は先進的で」というレッテルはもう過去の世代の話になりつつあります。こうしたイベントなどを通じて、それがもっと国内の各所で広がれば、「テクノロジー好き、コンテンツ好き」という日本人の特性が花開いていくと思います。

Music Hack Day Tokyo2014

——今回大きな意義のあった日本初の音楽ハッカソンでしたが、今後の展開は?

Fukuyama:MHDは、世界中で行われているシリーズイベントなので、多くても同じ都市で年2回しか行われません。エバンジェリストはBusiness Developmentが目的で来国するので、通常、年2回でそのインセンティブは満たせる、というのが理由のひとつです。私は普段、The Echo Nestはじめ、複数の海外企業の日本、アジア進出のコンサルティングを行っています。その立場から思うことは、まだまだ日本と世界の垣根は高いということです。つまり、日本なら年2回を超えるインセンティブを作れると感じるのです。何より、今回のMHDで日本のデベロッパー・コミュニティの活気を彼らに直接感じてもらえました。大きなメリットが あったはずです。

今後のMHDは、少しずつレーベルやミュージシャンも参加できるイベントにしたいと思っています。実は、これは海外のMHD とは異質な動きです。こういったイベントではコンテンツをその場限定でハックするケースもあります。その際、コンテンツホルダーに気を使わざるを得ないと、参加者のクリエイティビティを阻害する事態になります。そのため海外ではIT寄りな参加者ばかりとなっています。しかし、日本の音楽業界の技術的ビハインドを鑑みるなら、そんなことを言ってる場合ではないと思うのです。日本のメジャーレーベルにもIT知識の高い素晴らしいエグゼクティブたちがいらっしゃいます。全参加者に有意義なイベントになるよう、理想を追求する所存です。

榎本:実は今回、メジャーレーベル数社から若手が会社名を伏せて自発的に参加してました。IT系の友人とチームを組んで、受賞する作品も出ていました。メジャーレーベルの管理職のみなさんが雰囲気作りを助けてくださるとありがたいです。見込みある若手に「おまえらMHDに行って来い」と声をかけてほしいですね。そうすると彼らも堂々と、メジャーレーベルここにありという姿を見せてくれるようになります。

裏方のボランティアも、最後に打ち上げでよく話してみたら某メジャーレーベル関係ばかりで「なんだそうなの?」って笑ったんですけどね。みんな職業言わないで手伝ってたから。

もっと進んでA&Rの人間が参加しだすと「おっ次の時代に入ったか」と僕も思うんですよ。そこまで行くと新しい音楽的表現も出てくるようになるでしょう。そこへ向けた地ならしが僕の次の目標です。

 

MHDのようなカルチャーこそ日本の音楽業界に必要なのかもしれない

——僕も今回イベントにお邪魔してとても感銘を受けました。会場の熱気や参加者のクリエイティブな姿勢をもっともっと沢山の人に伝えたいと思いました。

Fukuyama:確かにMHDは本当に素晴らしいイベントだと思います。また、沢山の方に支えられて東京上陸を実現できたことを大変嬉しく思っています。関係者の皆様には、改めて感謝申し上げます。

このようなMHD以外のイベントは特にサンフランシスコだと毎週の様に行われています。先週末感じていただいた熱気や前向きな姿勢がデフォルトなんです。このカルチャーこそ日本の音楽業界に必要な要素なのかもしれないと感じました。ソーシャルメディアで繋がれないもの、身につけられない技術があるからこそ、これほどまでに多いのだと思います。今後、Music Hack Day Tokyoの継続にあたって、色んな技術、スキルを紹介できればと思っています。

近い将来、海外の音楽配信サービスでも日本の楽曲が聴け、Echo Nestのような技術で洋楽ファンが邦楽に出会う日がきます。その時、日本のクリエーターも世界を意識して、視野を広げて、未来にワクワクしながら新しい感覚で音楽を造り、それが音楽市場全体に良い循環を与えることを願っています。

榎本:補足させていいただくと、このMHDというイベントは主催者の無いいイベントというのが素晴らしいところです。今回はEcho Nestさんがオーガナイザーとなりましたが、ふだんからライバル同士の音楽サーヴィスが、いっしょになって創りあげているムーヴメントなんです。全員、基本は持ち出しで、協賛企業のみなさんに少しずつ助けていただいてやってます。音楽のエコシステムが育てば必ずじぶんにもプラスになる、という発想でやってるんですね。日本のためになるだろうということで、僕も基本ボランティアでやってます。

https://www.youtube.com/watch?v=Ys5iU_4w73Y

※海外のMHDの様子(Music Hack Day NYC 2011)

——我々も今後こういうムーヴメントのお役に立てればと願っています。最後に、今回どのハックも興味深かったです(※今回の作品はコチラ)が、特に気になった作品はどれですか?

榎本Sing Along the Worldという作品です。たとえば「つけまつける」と入力して、南西にiPhoneを向けると、南西の先にあるインドネシアやフィリピンでSoundCloudにアップロードされた「つけまつける」の「歌ってみた」がいっせいに鳴り出すんです。世界のみんなが同じ歌を歌っているのを聴くことで、世界平和を表現していると。あまりに予想外の閃きで、会場が爆笑してました(笑)。自分は本業がプランナーなんで正直ほぼ全作品、想定の範囲内だったんです。しかし、これは違いました。ふつう企画屋はビジネス・トレンドを前提にアイデアを練っちゃうんですが、こうした場だと深夜に浮かんだアートな発想だけで行けるので、プロの常識を超えた作品も出てきます。

Singalongworld
※Sing Along the World

Fukuyama:「誰かと一緒に音楽を聞く」という人間の本質的な欲求に響く、WeTunesが印象的でした。技術的に、複数デバイスで再生シンクを実現しているので、楽器的要素も可能性を感じました。それを、カップル用の音楽視聴という、ポップなプレゼンテーションに仕上がっていたこともポイントが高かったです。

wetunes
※WeTunes

蛇足ですが、今回、Hacker Leagueを初めて触った人がほとんどだった気がします。海外メディアは注目の高いハッカソンのHacker Leagueサイトから取材依頼などもしています。MHDTでは、プレゼンやピッチ(※1分間、自己紹介してチームを募集すること)の仕方の技術の向上も今後期待したいです。

榎本:本職では事業企画をやってる人も参加していて、コーディングは自信が無くても、企画やプレゼンでチームを上手にサポートして、受賞してましたね。あの場で誕生したチームが受賞するのはこちらも感動するものがありました。次回も、そうしたセレンディピティがいっそう生まれる素敵な場にしていければと思います。


追記:Musicman-NETに記事を提供いただいている、音楽とテクノロジーのブログ「All Digital Music」を書いているブロガーJay Kogamiさんも今回の審査員を務め、イベントについてブログで紹介しています。

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