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ベテランアーティストが安心してやれるレコード会社とは — CCCゼネラルプロデューサー 兼 IVYレコード代表 酒井善貴氏 インタビュー

インタビュー フォーカス

酒井善貴氏
酒井善貴氏

ワーナーミュージック・ジャパン時代には手がけたコンピレーション企画が530万枚以上というセールスを記録、続いて移ったCCCにおいてもミリオンのヒット企画を生み出すなど驚異的な企画力とマーケティングセンスを持つ酒井善貴氏。そんな酒井氏が、自ら立ち上げたレーベル(アイビーレコード)でアダルトマーケティングを軸に、また新たにチャレンジを行っている。近日5月24日に開催される伝説のバンド(クリエイションとSHOGUN)の共演についてから、仕事をする上でのモットーや今後の音楽ビジネスについてまで幅広く話を伺った。(Jiro Honda)

 

PROFILE
酒井善貴 (さかい・よしき)


1963年山口県生まれ。OA機器メーカー、アパレルメーカーを経て、90年にワーナーミュージック・ジャパンに転職。126万枚以上を売り上げた「R35 Sweet J-Ballads」を含めコンピレーションCDで約530万枚の売上をつくり、2009年にカルチュア・コンビニエンス・クラブに社長補佐として入社。プライベート・ブランド企画「ザ・ベストバリュー999」を仕掛け約140万枚の大ヒットとなる。2011年に(株)アイビーレコードを設立し代表取締役社長を務める。
アイビーレコード

 

  1. ミリオンを産み出したコンピレーション企画
  2. 伝説の共演、クリエイション×SHOGUN
  3. 何よりもお客さんが第一
  4. 自分の得意な型にはめて必ず勝つ
  5. キツいのは当たり前、その上で楽しくやる

 

ミリオンを産み出したコンピレーション企画

——酒井さんは「R35」など、特にコンピレーションのお仕事でお名前が知られていますよね。

酒井:私は以前ワーナーミュージックに19年所属していまして、営業から宣伝、制作までフロントラインは全部やりました。それで2001年から本格的にコンピレーションCDを手がけるようになったのですが、2001年以前はコンピレーションというと、EMIの「NOW」やソニーミュージックの「MAX」といった、その年のヒット曲を集めるというスタイルや、EMIの「feel」、ソニーミュージックの「image」のような癒やし系のものが大ヒットしていました。そんな中、ワーナー本国のヘッドオフィスから「コンピレーションでビジネスをやるのは常識なのに、日本(のワーナー)は何もできないのか」という指摘があったんです。そこで私がやりますって手を挙げて、企画・制作した一発目が「ラヴ・ライツ」だったのです。いきなり56万枚の大ヒット作品にして、そこから2009年にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に移籍するまでの間、様々なコンピレーションを企画し、合計で530万枚以上を売り上げました。

——すごい確率でヒットをだされていますね。CCCに移られてもコンピレーションを手がけられている?

酒井:TSUTAYAのプライベートブランド「ザ・ベスト・バリュー999」という企画をやっています。TSUTAYA限定で、各アーティストのベストアルバムが999円で買えるというものでして、2009年の発売から累計で約140万枚売りました。「R35 Sweet J-Ballads」が126万枚なので、ミリオンの企画は一応2つつくったと。

——そこからアイビーレコードを立ち上げられた経緯というのは?

酒井:CCCに入ってから、レンタルをCD販売の敵ではなく味方にしてという風に、TSUTAYAというお店をもっと活用して何か出来ないかと考えるようになったんです。今までだとTSUTAYAはお店なのでメーカーさんの作ったヒットを売る/レンタルするというカタチだったのですが、今度は自分たちでそれを手がけて、お客さんに届けようと。それで、CCCのグループ会社としてアイビーレコードを立ち上げたんです。

——アイビーレコードは、基本的にはCCCさんが提唱する「プレミアエイジ」、いわゆる40、50代〜をターゲットにしている?

酒井:要は大人ですよね。なぜそういう方向性かというと、私を含め40、50代〜の世代にとって音楽はすごく高級で嗜好性が高いものなんです。消費税というものが導入される以前は物品税といういわゆる贅沢税がありました。それがレコードにもかけられていたんですよ。つまり当時レコードは高級品だった。音楽は本来とても芸術性の高いものですし、そういう当時の感覚や文化を持っている層、音楽にお金をかける人たち=「プレミアエイジ」に向けてしっかりとアダルトマーケティングをしてやっていこうと。

 

伝説の共演、クリエイション×SHOGUN

——5月24日にそういうプレミアエイジへ向けたアーティストということで、クリエイションとSHOGUNのライヴが野音で実現しますね。

酒井:両バンドとも私自身が大好きですし、本当に凄いアーティストだと思っています。クリエイションなら「スピニング・トー・ホールド」、SHOGUNなら「Bad City」というそれぞれ爆発的にヒットした名曲がありますし、キャリアを積み重ねてきた、彼らの演奏を今のサウンドで体感できるというのは本当に楽しみです。

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——先日4月30日に新しい音源もリリースされました。

酒井:クリエイションもSHOGUNも全曲新録音の新曲を含むベストアルバムですね。伝説のバンドとも言える彼らとCDを作れたら幸せだなと思っていましたし、さらにライブがやれたら最高だと感じていたので、今このタイミングで本物の音をお客さんに届けたいです。

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——ライブの見所は?

酒井:クリエイションだと、日本三大ギタリストと呼ばれ今も海外のトップでやってらっしゃる竹田和夫さんの、32年振りのアルバムを作ったうえでのギタープレイや、SHOGUNだと、芳野藤丸さんのロックやAORの凄腕サウンドクリエイターであるという存在感ですね。伝説のバンドが同じステージに立つというのは初めてですし、歴史的なことだと思います。

 また、原田真二さんやジュンスカの和弥さんもゲストで出演しますよ。

——多分、クリエイションやSHOGUNという名前を知らない若い方も、「スピニング・トー・ホールド」だったり「BAD CITY」のイントロを聴いた瞬間に「聴いたことある!」ってなりますね。

酒井:若い方でも、特にギターをやっている人には本当に来てほしいですね。まさに本物が演奏するので。

——両バンド共に、今後もライブをやっていくご予定ですか?

酒井:これを1つの起点としてやっていきます。ツアーもやる予定ですし、反応が良ければ夏フェスに参加とかもいいですよね。若い音楽ファンが感動するんじゃないかな(笑)。レコーディングの時も、私でさえ「かっこいい!」という言葉しかもう出てこないんですよ(笑)。

——以前からのファンに対しては?

酒井:当時見たかった人はすごく多いと思うんです。青春だと思いますし、ぜひこの記念すべきライブで元気を貰ってほしいですね。

 

何よりもお客さんが第一

——酒井さんは昔から企画の際は徹底的にマーケティングをして、さらに全てお一人でやられるそうですね。

酒井:そして何よりもお客さんが第一ですね。私のコンセプトは「実績のあるアーティストと一緒に、お客さんに支持される面白い企画をやって喜んでいただく。そしてそれをビジネスにしていく」ということなんです。会社都合で作ったものって売れないんですよ。とにかくお客さんが喜ぶものを提供する。お客さんってお店でお金を払う時は大体笑顔なんですよ、欲しいものを買っているからだと思います。お客さんがお店でやる「選ぶ」と「買う」というこの2つの行動にあてはまるものを作って、きちんと提案していけば、必ず支持されるだろうと考えています。

——そのスタイルは昔からブレずに取り組んでいると。

酒井:「R35」の時は、当時コンピレーションを作るには自社の原盤が半分以上入っていないと作れないという業界の暗黙のルールがあったんです。でも、私はそれはおかしいなと考えていて、それを打破した結果がミリオンに繋がったんです。お客さんの欲求を満たす為に、企画力のある会社が同じ業界のカタログを上手に使う。そしてお金を生み出し、原盤印税として業界全体に還元していけばいいんじゃないかと考えました。日本以外の国で当たり前に行われているビジネスをやるべきだと。やはりフラットな感覚で全体を見渡すべきですよね。

——常識にはとらわれず。

酒井:実は私、1年間で362日くらい働いているんですよ(笑)。

——すごい(笑)。

酒井:よく「何で休まないの?」って訊かれるんですけど、「土日が休みって誰が決めたんですか?」って思うんですよね。自分が仕事をしたかったらすればいいし、休みたかったら有給を使って休めばいい。特に我々のような仕事はそうだと思いますよ。

——そういう柔軟な発想をお持ちの酒井さんですが、アダルトではなく若年層開拓に関してはどのようにお考えですか?

酒井:言葉を選ばずに言うと、今の若い人たちってもう音楽を買うという概念がないような気がしますね。なので、そこはもうレコード会社自体が発想を変えていかないと。今の10〜20代は誰かが手に入れたものをシェアするとか、音楽への考え方自体がそういうものになってきている部分がある。

 我々としては当面はアダルトマーケティングでベテランアーティストをしっかりやって、そこをアイビーレコードの主戦場としていきます。

——最近はストリーミングによるサブスクリプションサービスなども話題になります。

酒井:私は割り切るしかないと思うんですよね。結局、物欲がある人は買うし、そうでない人は買わないだろうし。でも良い音楽で、良いパッケージを作れば買って貰えるだろうというのはあるので、そこはもう割り切って、パッケージで自分の信じる道をやっていきます。その一方で、ストリーミング等は状況を見ながら適切なビジネスを考えるべきでしょうね。

——レンタルビジネスの現状はいかがでしょう。

酒井:CCCだと音楽ではセルとレンタル両方やっていますけど、レンタルもしっかり品揃えすると回るんですよね。

 アイビーレコードとしては、ジュンスカのようにレンタルをうまく味方にしたビジネスというのを考えていきたいなと思っています。実は彼らの完全復活第一弾のシングルをTSUTAYAレンタル限定で行い、その1カ月後にアルバム発売という仕掛けを行ったんです。結果、TSUTAYA販売データを見るとアルバムのセールスのシェアが他のアーティストと比較して突出して良い数字として返ってきました。それは他のお店からお客さんを奪ったというより、TSUTAYAの実店舗に足を運ぶお客さんに対しシングルがきちんとリーチしたからなんです。

junskywalkersジュンスカ
JUN SKY WALKER(S)

 

自分の得意な型にはめて必ず勝つ

——プロモーションやマーケティングのスキルは、今も昔も根本は変わりませんか?

酒井:変わらないと思いますね。私は「何枚売るんだったらこうすればいい」という決まったカタチはないと思っています。ですので、「CD作りました。プロモーションは何をやりましょう?」というふうに考えるものは売れないですよね。逆なんです。「何万枚売るからプロモーションにいくら使おう」じゃないと。

 例えば、今のマーケットでは、5万枚を目指さないと3万枚いかないんですよ。我々がやっているのは数当てゲームではなくて、売ることなんです。いかに理想の枚数を目指しつつ、P/L上でOKな着地点に落とし込むか。A&Rとしてそういう計算ができないと、ビジネスとしては成り立たないですよね。

——ネットでのマーケティングについてはどう思われますか?

酒井善貴

酒井:使い方によっては良いと思いますよ。ただ自分に置き換えた時に、私がパソコンの前にいるときって、すごく能動的なんですよ。欲しいものや買いたいもの以外には興味がいかない。なので、私の中で積極的にネットの世界に高いお金を注ぎ込んで打ち出すというのはないですね。

 なぜテレビスポットや新聞広告が効くのかというと、それらに触れているときはみんな受身のモードになっているからなんですよ。「新聞が書いてあること」を受動的に見ているんです。

——「プレミアエイジ」のユーザーにはそっちの方がハマると。

酒井:もちろん、ユーザーの特性は把握しています。K-POPでいうと、所属のMBLAQは弊社でレコード会社オフィシャル・ウェブサイトを作って、そこで日々ニュースを出しています。そうするとMBLAQのファンたちはそこを見る ことが日課になりますからね。「明日ティーザーが立ち上がる!どんな曲なんだろう」とワクワクしていただけたり。

——自分の得意なフィールドで勝負するという。

酒井:分からないことで勝負すると負けるんです。横綱相撲という言葉がありますが、本来の意味は「自分の型にはめて勝つ」なんですよ。上手投げが得意だったら、必ず上手投げの体制に持っていく。例えばストリーミングとかも自分の得意な型になるまでは、今そこに対して焦ってやる必要はないと思っています。

 

キツいのは当たり前、その上で楽しくやる

——今の音楽業界の状況に対してはどのように感じていますか。

酒井:「楽しくやろう」ということですね。今の業界全体の感じが、私がコンピレーションをやっていた当時のイメージに近いんですよ。もう全てやり尽くしたという閉塞感。でも、マーケティングを徹底的にして新しい切り口を何とか見つけて取り組んだら結果がついてきました。もちろん、難しいところも色々あると思いますよ。例えば「R35」の時は、初め営業から「グロスで3万枚が限界です」と言われました。

——ミリオンの企画も最初はそうだったんですね。

酒井:そこで私は、海外のヘッドオフィスに「この中には売上枚数にして2980万枚分のシングルが入っています。それらの曲を1枚にコンパイルしたものが売れないわけがない。私はこれを35万枚売ります、初月で15万枚売ります。なのでそれに応じた宣伝費が必要だ」とメールしました。そうしたら、5分後に「その宣伝費で足りるのか?」と返事がありました(笑)。

——迅速なレスポンスですね(笑)。

酒井:「もっと売れるだろう」と言って貰えましたね。ポジティブなんですよ。私の言いたいことの本質を見てくれたんです。お客さんは楽しいものや面白いものにしかお金を払わない。それを仕掛ける私たちが「CDが売れなくなったね」「音楽業界終わりだね」とか言っていたらダメなんですよ。一所懸命道を探して、それに対して本気でぶつかっていかないと。

——そして楽しみつつ。

酒井:楽しめば色んなことを考えますよ。「R35」で「アンサーCM」という言葉を自分で作って、色々な俳優さんが出演するCMを作ったら話題になりました。楽しいものに人は集まってきますし、「とにかく楽しくやろう」というのが私のメッセージですね。当たり前ですが、キツイこともあります。でも物事をやり遂げるというのは、やはりキツイこともあってはじめてできることなので。

——それがアイビーレコードにも反映されている。

酒井:私はチャンスだと思っています。オリコンチャート上位の数字を作れるベテランアーティストと仕事をして、そのアーティストの実績を作ると同時に、現役感をだしていく。我々と一緒にやることをチャンスだと思ってもらえるアーティストをどんどん増やしていって、お客さんを含めみんなが確実にハッピーになれるようなビジネススキームを作っていきたいと思っています。

——ベテランアーティストが「アイビーレコードとだったらやりたい」という?

酒井善貴

酒井:もっと踏み込むと、この間ローリング・ストーンズが来日しましたけど、70歳にしてロックをやっていましたよね。日本でも、ベテランアーティストが安心してやれるレコード会社があっても良いんじゃないかなと思います。例えば甲斐バンドも、60歳を過ぎてもの凄くパワフルだし、素晴らしいステージをする。とても格好良いアルバムを作る。「今が一番格好良いじゃん!」と。そういうところで一緒に取り組んで表現していくことが、私なりの音楽業界に対する恩返しというか、提案じゃないかなと思っています。