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変化を恐れず、時代と併走したチャートを生み出す — ビルボード チャートディレクター Silvio Pietroluongo(シルビオ・ピエトロルオンゴ)インタビュー

インタビュー フォーカス

Silvio Pietroluongo(シルビオ・ピエトロルオンゴ)氏
Silvio Pietroluongo(シルビオ・ピエトロルオンゴ)氏

ビルボードチャートディレクターであるシルビオ・ピエトロルオンゴ氏が来日し、先日開催されたデジタル時代の新型ミュージックフェス「THE BIG PARADE 2014」に登壇した。「デジタル時代の音楽チャート」をテーマにトークセッションを展開したシルビオ氏に改めて取材を敢行。ビルボード・チャートの現状から、シルビオ氏から見る日本の音楽業界の現状、そして「チャートの本質論」までお話を伺った。(取材:Takuya Yashiro, Jiro Honda、文:Kenji Naganawa)

2014年10月3日掲載

PROFILE
Silvio Pietroluongo(シルビオ・ピエトロルオンゴ)


NYブロンクス出身。米ビルボードのチャート・ディレクター担当。チャート、エディトリアル記事解析に加え、ビルボード誌とウェブサイトにおいてのチャート推進を行っている。
Billboard
Billboard JAPAN
Silvio Pietroluongo Twitter

 

  1. 順位を知りたいと思うのは人間の本能
  2. アメリカの音楽業界の取り組み
  3. 変化に適応するビジネスモデルを構築して欲しい

 

順位を知りたいと思うのは人間の本能

——今回、来日された目的というのは?

シルビオ:一番の目的は「THE BIG PARADE 2014」へ出ることです。そのセッションではアメリカ国内、世界の音楽の受容の変化についてお話しました。

——ヒットチャートの存在意義について、どのように感じられていますか? もしヒットチャートがなかったらどのようなことになるとお考えですか?

シルビオ:それはカオス、ですね(笑)。やはり人間というのはリストや順位が好きです。1930年代にビルボード・チャートが作られた頃から、音楽を含め映画などの順位を知りたいという人間の本能、欲求は変わっていないと思います。音楽に関するレコメンドを、セールス、エアプレイなど色々な指標を使って一つにまとめ、消費者にシンプルに見せるのは大切なことだと思います。

——私が生まれたときからチャートは存在していますので、それがない世界というものを想像できなかったです…。

シルビオ:やはり歴史があるというのは大きくて、我々は1950年代から長年蓄積してきたデータを持っていますので、過去に遡って分析できるのがビルボードの大きな強みだと思います。

ビルボードのチャートページ 1
▲ビルボードのチャートページ。様々なチャートを公開している。

——人々が音楽を聴く手段が多様化し、それに合わせてヒットチャートも姿を変えてきていると思いますが、今あるべきチャートの姿というのはどのようなものでしょうか?

シルビオ:目指すチャートというのはマーケットによって常に変わっていくので、明日にも変わるかもしれません(笑)。ただ現状では、マーケットが反映されたチャートを作ることができていると思います。HOT100が始まったときは、エアプレイとセールスが基本でしたが、時代が移り変わるとともに、CDシングルのリリース量が減り、エアプレイの比重など、微妙な調整を経てチャートも変化しています。そこにデジタルダウンロードやストリーミングをチャートに加えたことで、消費者の傾向がより反映できるようになりました。ダウンロードを含むセールスで購買欲を、エアプレイ、ストリーミングで聴取欲求を捉えた現在のチャートは今を一番表していると自負しています。

——ビルボード・ジャパンができて5年経ちますが、現在の日本の状況をどのように見ていらっしゃいますか?

ビルボード チャートディレクター Silvio Pietroluongo(シルビオ・ピエトロルオンゴ)

シルビオ:私自身はそこまで日本のマーケットについて詳しくないので、ビルボード・ジャパンのスタッフたちの知識を借りつつ、どういったチャートがいいのか、常に考えています。レンタル動向などをフォロー・アップするGracenoteのデータなどは日本独自なものですので、どれくらいの比率で足すべきか、ビルボード・ジャパンのスタッフとやり取りしながらチャートに反映させています。また、アメリカのHOT100にはTwitterは反映させていないんですが、日本では反映させたりもしています(※アメリカでは「Billboard+Twitter」というチャートに反映させている)。また、YouTubeなどのストリーミングを加える準備も現在進めています。

——日本には「オリコン」というドメスティック・チャートがあります。オリコンとビルボード・ジャパンのチャートを見比べると、毎回1位は同じですが、細かい部分に関しては違っていますよね。その違いはなぜ生まれていると思いますか?

シルビオ:マーケットの多様性を反映した複合チャートとフィジカル・セールスのみのランキングであるためだと思います。ビルボード・ジャパンのスタッフたちから日本には「まとめ買い」という文化があると聞いて驚きました(笑)。アメリカではそういった方法で販売されたものをチャートに反映することが禁止されているので。

——禁止されている?

シルビオ:ええ。我々はそれぞれのデータ収集についてガイドラインをレコード各社に出していて、それを破るとチャートには反映されません。逆に日本では「まとめ買い」をチャートに組み込むことに疑問を持たないのが不思議です(笑)。

——他国でも、その国独自のチャートとビルボードのチャートが違うケースはありますか?

シルビオ:それはやはりあります。ほとんどの国の独自チャートは、歴史のある会社が、その国に合った形で作っていますしね。我々ビルボードも昔からやっている会社ですが、変化を恐れずに常にチャートを見直し続けてきましたし、これからもマーケットにあったチャートを提供していきたいと思っています。やはり若い世代がSNSなどをより使うようになったら、「ビルボード・ジャパン」のチャートにさらに信頼を置いてくれるようになると信じています。

 

アメリカの音楽業界の取り組み

——日本のアーティストの中でも海外で活躍したいと思っている人も多いと思うのですが、シルビオさんからは日本のアーティストはどのように見えていますか?

シルビオ:例えば、韓国のPSYはすごく特殊なケースであり、英語が母国語ではない、英語で歌っていない楽曲がグローバル・チャートで成功するのはまだまだ難しいとは思いますが、マーケットとしてはアメリカに住んでいる日本人、アジア人は多いですし、活躍できる場はあると思います。それは日本に限らず英語を喋らない他国のアーティストにとってもそうです。さらに、今はYouTubeなど自力で自分の音楽を世界へ拡げていくようなツールも増えているので、大いに道は開けていると思います。

——日本は未だにCDを売るビジネスに頼った部分があります。対して、ストリーミングサービスはなかなか盛り上がらない。この現状をどう思いますか?

シルビオ:アメリカでも同じような問題がありました。やはりレーベルが一番お金を儲けられるのはストリーミングよりもCDを売ることじゃないですか? ただ、いつまでも昔のモデルに乗っていても仕方ないので、きちんと売上が立てられるような新しいモデルを作っていかなくてはいけないんじゃないかと思います。

——やはり、一部のレコードメーカーは月額制を否定しないけれど、フリーミアムには抵抗があるようです。

ビルボード チャートディレクター Silvio Pietroluongo(シルビオ・ピエトロルオンゴ)

シルビオ:とはいえ、ラジオはもともと無料で、プロモーションのツールでもあるじゃないですか。しかも今はビデオを流し、たくさん見られることでデジタルセールスにも繋がっていて、昔よりは売れないかもしれませんが、セールスに繋がっている事例もあるので、積極的に取り組んでいった方がいいんじゃないでしょうか。もちろん難しい問題ではありますが。

でも、一番最悪なのは何もしないことですね。やはりストリーミングがアメリカで成功したのは、簡潔かつ簡単なプラットフォームを提供することができたからです。

——アメリカの音楽業界、アーティストの金銭的な面はCDの時代から落ちてしまっているんでしょうか?

シルビオ:やはり減っています。でも、こういった新しいサービスが生まれなかったとしても、アルバムのセールスは落ちていったでしょう。YouTubeやファイルシェアリングなどの、音楽をタダで聞ける方法が今はありますから。ですから、アメリカのレーベルはそうなる状況を見越して、できる限りマネタイズするために、自分たちのデータを提供したわけです。そして、SpotifyやBeatsなどを使っているユーザーを徐々に増やしたり、YouTubeからの広告費などで、セールスでは補えない部分を補強していきました。そういった選択を迫られる日が日本にも近々訪れると思います。

2013年と2014年の上半期のアメリカの音楽市場売上
▲2013年と2014年の上半期のアメリカの音楽市場売上、減少が見てとれる(Source:RIAA

——日本人はアメリカ人ほど生活の中で音楽を聴いていないのではないか? とも思うんですが。日本では若いうちは熱心に音楽を聴くんですが、年をとるごとに聴かなくなってしまう傾向があるように感じます。

シルビオ:個人的な感想ですが、年齢を重ねていくと何かを細かく買うのではなくて、1ヶ月にこれだけ払うから、何曲でも聴けるといったサービスの方がいいのではないでしょうか。

——子供たちの音楽の聴き方も大分変わっていますよね。

シルビオ:例えば、私の世代だとラジオやテレビで流れてきた音楽を聴いていたんですが、今、我が家にはラジオはないです。私の息子はYouTubeやSpotifyを見聞きしたり、自分の友だちが何を聴いているのかを、SNSなどを使って調べて、その中から自分の好きなものを探していく聴き方になっています。

——アメリカでは若い子のほうが能動的だと。

シルビオ:私がアメリカンTOP40を聴いていたときに、一番興奮したのは30〜40位の曲を聴くときでした。上位の曲はラジオでも頻繁にかかっていましたが、そのあたりの順位の曲は聴いたことがない曲の場合が多かったですから。

——今、日本の若い世代の洋楽離れが話題になったりします。

シルビオ:洋楽の日本国内でのマーケティングがどのようになっているのかよく分からないんですが、昔は雑誌などを見ないとどういうことになっているのか分からなかったわけですが、今はYouTubeやWebを見れば、ランキングやチャートがみられるようになっているのに…よく分からないですね。ただ、レコード各社が自国のアーティストをサポートしているのは悪くないことだと思います。

 

変化に適応するビジネスモデルを構築して欲しい

——ビルボードは音楽チャートだけではなく、音楽ビジネスに影響力のある音楽ビジネスパーソンのチャート「THE POWER 100」や「Women in Music」、「Power Players」なども発表していますよね。それは、どのような基準で選ばれているのでしょうか?

シルビオ:音楽チャートほどには厳密ではないのですが(笑)、「Women in Music」は業界の人たちからの推薦をもとに、その人の一年の活動を調べて、その活動が音楽業界にどのくらい影響を与えているかを判断して選定しています。また、「Power Players」などは編集部の人間が話し合い、「どういう風に音楽業界を変化させるか?」や「影響を与えていけるか?」を話し合って決めています。

パワーハンドレッド
▲The 2014 Billboard Power 100のトップはJay Z & Beyonce

——では、フォーブス誌のDJ収入ランキングのように幾ら稼いでいるかとかは考慮されないわけですね(笑)。

シルビオ:ええ(笑)。例えば、レーベルの人や、プロモーター、マネージメントを見ていく中で、マネージメントだったらどのアーティストを担当していて、そのアーティストがどのくらい稼いでいくのかといった部分での数字は見ますけどね。

——日本の音楽業界では、ビジネス側の方々が表に出てくることはそう多くありません。しかも、日本でそんな格付けをしたらとんでもないことになる気がします(笑)。

シルビオ:我々も一番最初にやったときは色々批判がありましたけどね(笑)。イベントをやったときに、そのイベントに実際に来ないと順位が分からないようにしていたこともありまして、順位を見た瞬間に帰った人とかもいました(笑)。

——(笑)。シルビオさんが今注目しているビジネス・パーソンは誰ですか?

シルビオ:うーん、それはすごく難しい質問ですね(笑)。

——では、今注目している音楽サービスはありますか?

シルビオ:たくさんあります。例えば、今、アーティストにとって一番儲かるのはツアーをすることなので、その情報を集めたり、どういう風にプロモーションすればよいかを手助けするサービスに注目しています。

——ちなみに楽曲と音楽ファンを結びつけることで世界的に人気のShazamなどはどうですか?

シルビオ:Shazamはモデルを結構大幅に変えてきていて、TVだったりCMだったりのプロモーションにも使われるようになってきているので、ビルボードとしても注目していますし、今後チャートに取り入れられればいいなと思っています。また、Shazamとパートナーシップを組んで、CMの中で音楽が一番効果的に使われている作品を決めるアワードをやったりもしています。

——シルビオさんのような立場にいると、関係各所との付き合い方に少し気を遣いそうですね。接待とかはないんですか?(笑)

ビルボード チャートディレクター Silvio Pietroluongo(シルビオ・ピエトロルオンゴ)

シルビオ:ええ(笑)。ニールセン・サウンドスキャンの導入前、チャートが今ほど正確ではなかった頃にはあったようですが(笑)、私は会社というよりも友だちとしてそういった人たちと会い、知識を得ようと心掛けています。私はデータもそうですがエディトリアルにも携わっているので、「どうしたらいい記事になるか?」を相談したり、とても友好的な関係だと思います。そもそも今のレコード会社はあまりお金がないので、接待はしてくれないですね(笑)。

——ビルボードの今後の課題はなんでしょうか?

シルビオ:現在まで時代の変化に伴うチャートを作り出せていることは誇りに思いますが、アルバム・セールスが落ちていますので、今後はそれを補強するためにどのようにデータを加えてチャートを変えていくことができるかを検討するのが一番の課題ですね。

——最後に日本の音楽業界人と音楽ファンにメッセージをお願いします。

シルビオ:日本の音楽業界には、一刻も早く、変化に適応するビジネスモデルを構築して欲しいですね。そしてリスナーの方々には自分の大好きな音楽やアーティストに情熱を持って欲しいです。そして、アーティストにきちんとお金が支払われるサービスを積極的に使って下さい。あと、ビルボード・ジャパンのチャートを是非チェックして下さい!

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