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アーティストとファンがお互いをもっと好きになる —「ツイキャス」モイ株式会社代表 赤松洋介氏

インタビュー フォーカス

赤松洋介氏
赤松洋介氏

 今や若者には当たり前の存在になっているツイキャスは、学生の半数以上が日常的に使っているという(ユーザー数800万人以上:2014年11月時点)。さらに、アーティストも一般ユーザーと変わらずに配信しており、日々ツイキャス内のあちこちでアーティストとファンのダイレクトなコミュニケーションが交わされている。ツイキャスを手がけるモイの赤松代表も「アーティストさん自身が配信すること自体をすごく楽しんでいらっしゃるので、そこがまず何より」と語る通り、そこにはポジティブで居心地の良い空間が拡がっているようだ。アーティスト活動においても欠かせないツールの一つとなりつつあるツイキャスの音楽的な活用の現状について伺った。(Jiro Honda)
 

2014年12月9日掲載

PROFILE
赤松洋介 (あかまつ・ようすけ)


京都大学工学部工学研究科修士課程修了後、株式会社オージス総研に入社。米スタンフォード大学研究員、サイボウズ株式会社を経て、2010年「TwitCasting(ツイキャス)」をリリース。現在、ツイキャス運営のモイ株式会社代表取締役。
ツイキャス
モイ

 

  1. アーティストとファンの距離は今まで以上に近くなっていく
  2. シンプルに環境を提供することで応援
  3. ツイキャスでしかできない価値交換 焦らず
  4. アーティストの「素」が見たいファン
  5. ユーザーに選ばれるようサービス追求

 

アーティストとファンの距離は今まで以上に近くなっていく

——ツイキャスと音楽との取り組みでは、今までどういうものがありましたか?

赤松:ユニバーサルミュージックさんとタイアップ企画をご一緒したことがあります。ファンコミュニケーションを促進させようということで、アーティストとファンがマッチングするサイトを作りました。ユニバーサルさん側では「TwitCasting Music Week」というカタチで展開されたようです。

 ツイキャスではアーティストさんも一般のユーザーさんと同様にそれぞれTwitterライクな使い方で配信されていますので、我々と企業さんがカッチリ組むというより、アーティストさんがファンとコミュニケーションするために使って頂いているという状況です。

——ツイキャスをやっているアーティストからはどのような感想が寄せられていますか?

赤松:Twitterをやっているだけでは分からないファンの声が、ツイキャスではダイレクトに分かるので、そこが良いとおっしゃる方が多いですね。

——マーケティングツールとして使うという発想もありですか?

赤松:ユーザーが800万人以上、その内訳が、55%が24歳以下で主に学生、そして6割以上が女性という他にないサービスですので、ファンマーケティングにもなるでしょうね。直接コミュニケーションがとれるわけですから、ファンが何を求めているかを肌感として把握できると思います。プロモーションとしてもありだと思います。

 ですが、そういう側面もありつつ、アーティストさん自身が配信すること自体をすごく楽しんでいらっしゃるので、そこがまず何よりだと思います。恐らく、これからアーティストとファンの距離というのは今まで以上に近くなっていくと思うんです。ツイキャスのようにライブやコンサートだけではない体験の共有によって、アーティストとファンがお互いをもっと好きになる仕組みが出来てきているのかなと思っています。

——ツイキャス発でブレイクするアーティストもでてきていますね。

赤松:ツイキャスがきっかけで注目を浴びるようになった方もいらっしゃいます。あと、おかげさまで映画やマンガの中でも普通に若者のコミュニケーションインフラとしてツイキャスが登場するようにもなっていて、大変ありがたいですね。

 

シンプルに環境を提供することで応援

——「ツイキャスで配信してください」という営業はやられていないと伺ったことがあるのですが。

赤松:はい、出演のお願いや、出演料をいくら払うから配信してくださいといったことは、一切やっていません。一般の方はもちろん、アーティストさんも、自分がやりたいから配信しているという状況です。アーティストとしての活動において、SNSの活用に積極的な方も増えてきていますし、表現活動の中の一つにツイキャスを普通に入れて頂いているんだと思います。

——なぜそういった出演交渉や営業をされないんでしょうか?

赤松:アーティストが使う場合の話になりますけど、究極的には配信するアーティストが誰のチカラも借りずに自立できたり、有名になれたり、あるいは、生活できるようになれるような、そういった環境の提供を目指しているので、アーティストとファンのダイレクトな関係のあいだに外的な要因を加えることは、アーティストが自立するハードルを結局上げてしまうことになると思うんですね。我々としてもコストがかかりますし。シンプルに、アーティストさん自身が個人で持っているマーケットに寄り添うチカラになれればと考えていますし、そこを応援したいです。今までとは違う枠組みや売れ方があってもいいんじゃないかなと。

——プラットフォームに徹するということですか?

赤松:ネットの世界が分かりやすいと思うのですが、既存の枠組みに当てはめなくてもブレイクできてしまうような世の中にすでになっていますよね。なので、才能がある人の個人の力を信じている部分が大きいです。

ツイキャス、キャスアカウント

先日、FacebookやInstagramでも利用できる独自アカウント「キャスアカウント」の提供も開始した

 

ツイキャスでしかできない価値交換 焦らず

——そういう中で、今後のマネタイズに対してはどうお考えですか?

赤松:現在、メインである10代のユーザーにはコミュニケーションインフラとして使っていただいていますが、コミュニケーションインフラはそこまでお金をかけなくても展開していけるので、そういうフラットなインフラを用意しつつ、、、うーん、、ぶっちゃけていうと、マネタイズに関してはまだあまり考えていないというか(笑)。

——(笑)他のメディアのインタビューでも割とそういう回答をされていますよね。

赤松:今のソーシャルゲームもそうですけど、人間がお金を払いたくなる思考パターンというのはだいたい決まっているんです。なので、それにあわせたサービス設計をすれば、現実的にできることは沢山あると思います。ただ、まだそういう時期じゃないかなと考えていて。例えばCDというプロダクトを売って収入を得るというのは分かりやすい価値交換ですよね。そして、だんだんとそのCDというものの価値が低下していっている。そういう風に、「価値」というのは時代に応じて変化していくものなので、ツイキャスでしかできない何か良い価値交換のカタチが出来上がるまでは、まだちょっとガマンしようかなと思っています。文化が育つのを待っている段階というか。

——アーティストの活動形態も多様になってきています。

赤松:自分の楽曲をたくさんの人に聴いて貰いたいけど、とはいえ全部タダにしてしまったら制作の原資が作れないし、どうしよう、というのが今アーティストが抱えているジレンマだと思うのですが、そこに対して、体験共有とかを絡めながら上手な解決方法を提供できればいいですよね。しかもアーティストに負担やコストをかけないような「仕組み」で解決できればさらに良いかなと。

 

アーティストの「素」が見たいファン

——Musicman-NETは音楽業界の方も多く見ているサイトなのですが、おすすめのツイキャス活用方法とかはありますか?

赤松:Twitterのフォロワーが増えたらアーティスト活動の幅が拡がるように、ファンを増やす方法の一つとしてツイキャスを使っていただければと思います。また、ファンは作られていないアーティストの「素」の部分を見たいと思っているようなので、確かに色々な面で心配かもしれませんが、もっと自由にアーティストさんが配信できるように導いてあげるのもありかなと思いますね。

 ひとつ言えるのは、コミュニケーションツールなので、台本があったり、ガチガチに企画化したりすると逆につまらなくなるかなと感じます。本来有料でやるべきファンサービスをこういう配信でタダでやるのはもったいないという考え方ではなく、アーティストの魅力がダイレクトにファンに伝わる仕組みのひとつとして、若者の口コミの起点になるようなことを伝える場として使うのもいいんじゃないかなと思います。

——どういうアーティストがツイキャスに向いていると思いますか?

「ツイキャス」モイ株式会社代表 赤松洋介氏

赤松:向き不向きというか、話が上手なほうがいいだろうなというのはありますよね。あとは、アーティストとして良いバックグランド、ストーリーを持っているケース。これまでにこういうことがあって、どういう思いを持って今活動しているかを真っ直ぐ伝えることが共感を呼んで、ファンが増えるようです。ツイキャスではそのストーリーを直接ユーザーに伝えることができるので、歌だけではなくて、その人の考え方なんかも垣間見えると、共感できるし応援しようという気になると思います。

——あと音楽的な使い方だと、JASRACと包括契約をされているので、いわゆる歌ってみた、弾いてみたというのもOKなんですよね?

赤松:それは問題ないですね。音源を直接流すのはマズいですが。

——そういうチェックはどうされているんですか?

赤松:それがですね、もうユーザー同士がみんなツイキャスでやって良いことと悪いことのルールを理解しているんですよ。なので、ヘンな事をしている人がいると、すぐにユーザーさんから運営に報告が来る(笑)。

——そこまで浸透しているんですね。

赤松:ユーザーみんなで協力して、心地よいコミュニケーションの場を作ろうみたいな雰囲気があります。基本的に興味を持ってTwitterでフォローしている、いわゆるファン要素を持った人が配信を見に来ますから、そもそもネガティブで荒れた雰囲気になりにくいようです。

 

ユーザーに選ばれるようサービス追求

——他の動画配信サービスは意識されていますか?

赤松:選択肢が増えるのはいいと思いますけど、ユーザーさんの限られた時間を奪い合う状況になってしまうのはいささか気になっています。とはいえ、どのサービスを使うかはユーザーさん自身が判断することなので、我々はとにかく使いやすく便利なサービスを追求するだけですね。

——噂されているニコキャスに関してはどうでしょうか?

赤松:どのようなものかはまだわからないのですが、願わくば、共存というかユーザーさんがそれぞれの特性を把握していい感じで使用してもらえればいいかなと。

——ツイキャスが今のプラットフォーム展開に加えて、自らがコンテンツを作っていく可能性はありますか?

赤松:そこはなんとも言えないですけど、今のところは無いですね。社会貢献につながるような、既存の仕組みを壊して作り直すぐらいのアイデアがあればいつかやりたいですけど。

——赤松さんから見て、今の音楽業界の状況はいかがですか?

赤松:ツイキャスは音楽に特化しているわけではないですし、偉そうなことは言えないのですが、やはり我々からしても大変な状況なんだろうなと思います。定額制のようなサービスが台頭している中で、音楽を作る価値を維持するのはますます難しくなっていますし、じゃあライブでって考えても、やはりそれなりにコストがかかりますよね。個人的には、音楽の価値というのは「心地よい空間を提供すること」だと思うので、今後もツイキャスとしてはそこのお役に立てればと思っています。

「ツイキャス」モイ株式会社代表 赤松洋介氏

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