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100万曲データ突破、歌詞サービスで音楽産業に貢献 —「プチリリ」シンクパワー代表 冨田雅和氏

インタビュー フォーカス

冨田雅和氏
冨田雅和氏

 スマートフォンで同期歌詞が表示される音楽プレイヤー「プチリリ」や、その機能の提供などを行うシンクパワー社。「歌詞」に徹底的にこだわり、「音楽のあるところに、いつも歌詞を」をポリシーに精力的に展開している。先日は、取り扱い歌詞データが100万曲を突破し、アプリだけでなくWEB APIやSDKでのBtoBの取り組みも好調だという。「音楽を愛するユーザーサイドの視点に立ちつつ、歌詞サービスを通じてグローバルにアーティストや音楽産業に関わる方々の一助に」と真摯に語る冨田代表は、音楽産業への貢献に熱意を燃やす。(取材:T.Yashiro、M.Yamaura、文:J.Honda)

2015年3月6日掲載

PROFILE
冨田雅和(とみた・まさかず)


1960年福岡生まれ。85年日商岩井入社。情報産業本部にて通信設備の輸出、メディア事業を担当。ブラジル駐在を経て2000年に同本部が独立したITXにて新規ベンチャー投資・育成を担当。2006年に株式会社シンクパワーを設立。各種端末向けに「同期歌詞」のサービスを「プチリリ」ブランド で展開、大手音楽配信事業者向けにも提供。
シンクパワー
プチリリ
プチリリ(アプリ)

 

  1. 1年に10億回アクセスがある歌詞サーバー
  2. 独自データで新しい音楽指標も
  3. アーティスト、音楽事業者あってこそのプチリリ
  4. 「必然性を感じた」異業種からブレずにチャレンジ
  5. ユーザーサイドの視点で産業の一助に

 

1年に10億回アクセスがある歌詞サーバー

——先日、歌詞データ数が100万曲を突破したそうですね。また、主要な音楽配信業者のプレイヤーアプリにも同期歌詞を表示するプチリリ機能の導入が進んでいるとか。

冨田:おかげさまで徐々に導入していただけるようになってきました。自社のプチリリアプリも220万DLを超えまして、引き続き月に数万のペースでDLされ、アクティブユーザーは2〜30万という数字になってきました。

——iOSの音楽カテゴリのアプリランキングでも、だいたい20位以内には常にありますよね。

冨田:大変有り難いです。そのように自社のアプリも広げつつですが、、やはり同期歌詞機能自体を広げたいという気持ちから他事業者みなさんへの横の展開を大事にしていきたいというのがまずあります。弊社の歌詞サーバーには、全てのサービス合わせて年間に10億回以上のアクセスがあるので、そのヴォリュームを活かして、何か音楽産業に貢献できるような便利なサービスを提供したいですね。ちなみに、1年に10億回というアクセスを計算してみると、1秒間に約32回もアクセスがあるということが分かって我々自身も驚いています(笑)。

——膨大なデータですが、そもそも歌詞のデータはどのように集めているんですか?

冨田:今でも行っていますが、CDの歌詞カードを元に、1曲ずつ楽曲を再生しながら歌詞の時間情報を入力していくという作業を行っています。

——100万曲分の歌詞のデータ化というのは気が遠くなりそうな作業ですね(笑)。

冨田:データが大量に揃っていることによってはじめて価値がでてくるサービスですので、現在も自社で毎月1,000曲以上の登録をコツコツ作業しています。また、数年前からユーザーも歌詞データを作成、投稿できるように専用のツールを公開しています。それが徐々に広まって、現在ユーザーからは毎月4,000〜5,000曲の歌詞の登録があります。

プチリリ 冨田氏 シンクパワー
音楽再生と同時に同期歌詞を自動で検索、表示する「プチリリ for Smartphone 」

 

独自データで新しい音楽指標も

——歌詞を扱う際、権利関係はどのようにクリアされているんでしょうか。

冨田:我々がサービスをスタートさせた当時は、JASRACでも「歌詞のダウンロード」というとデジタルでも印刷と同等の概念での扱いだったのですが、色々やりとりさせていただきまして、機能にも制限を持たせた上でデジタルでの扱いを決めていただき、1曲ごとに使用料をお支払いしています。

——著作権団体が管理していない楽曲の扱いはどうなりますか?

冨田:我々はJASRAC、イーライセンス、JRCと包括的利用許諾契約をしていますので、そこが管理している楽曲はOKで、そこに無い楽曲の場合は直接権利者の承諾を得た上で扱わせていただくようにしています。それら以外のものは原則として扱わないようにしています。

——ストリーミングサービスの場合は権利処理に違いがありますか?

冨田:ストリーミングは一曲単位で著作権使用料が発生するダウンロード型と違って、ストリーミングサービスの収入に応じた一定額を支払えば、提供歌詞数や我々の歌詞保有数、ユーザーの利用数などによらず、サービスを行うことが可能になっています。

——先ほどの10億回というデータを使うと、どの曲がどのように聴かれているかなどが、より高い精度で分かりそうですし、そこからのビジネス展開も考えられますね。

冨田:いずれはこのデータ解析を進めて、ランキングを出したり位置情報との組み合わせで新たなマーケット情報を提供したり、更には聞かれている曲の前後の曲との関係でレコメンド機能を提供したりと、歌詞を切り口として音楽の新しい価値指標の提示もできればと考えています。歌詞データそのものも製作された世代の世相分析などにも利用する話を現在関係者と協議も進めています。

 

アーティスト、音楽事業者あってこそのプチリリ

——事業者がプチリリを導入する際は、具体的にどのようなプロセスになるのでしょう?

冨田:プチリリのSDK(ソフトウェア開発キット)をパッケージとして提供しています。ですので、我々のサービスと直接関係の無い一般的な音楽プレイヤーでも、半日もあれば導入・実装できるようになっています。先日は、PCを経由せずにCDの音源をスマートフォンに取り込める機器用のアプリにも採用していただきました。

「プチリリ」シンクパワー代表 冨田雅和

 我々としては、クライアントのサービスモデルにあわせた条件でご協力できればというスタンスで提供させていただいています。やはりアーティストをはじめ、音楽事業者さんや色々な音楽サービスがあってこその我々なので、シーンや産業が盛り上がる為に我々の歌詞サービスを利用してもらえるよう取り組んでいます。

——御社のサービスに対するユーザーサイドの反応はいかがですか?

冨田:おかげさまで、twitterなどを見ていると「他所に無い歌詞がプチリリにはある」と言った声もいただくようになってきましたし、歌詞を積極的に投稿する「プチリリ職人」といった人も現れています。ただ、権利処理できない楽曲が投稿された場合は、せっかく投稿いただいたのですがテイクダウンせざるをえないので、そこは心苦しいですね。あとは、ファン同士が「プチリリで私たちの好きなアーティストの歌詞をコンプリートしよう」というように歌詞でアーティストをサポートする動きもあるようです。さらに、インディーズでは作詞をしたアーティストさん自身が歌詞を投稿するケースも徐々に増えつつあり、更に当社の同期歌詞サービスの認知度を上げてこの動きを広げていきたいと思っています。

——スマホ端末に自分が持っている楽曲を再生するときも歌詞が同期表示されるんですね。

冨田:端末に入っている楽曲をプチリリプレイヤーや当社が同期歌詞機能を提供している音楽プレイヤーで再生すれば、同期歌詞が表示されます。また、当社はその他のアプリとして歌詞の検索をする場合は、検索用のアプリがありますし、カラオケ用のアプリ(プチリリカラオケ)、そして歌詞を投稿・作成するプチリリメーカーの4つのアプリを中心に展開しています。

 

「必然性を感じた」異業種からブレずにチャレンジ

——まさに歌詞に関することは全て網羅していく勢いですね。このように音楽に対して歌詞という側面で存在感を増している御社ですが、少し冨田さん自身についてもお伺いしたくて、以前も音楽と関係するお仕事をされていたんですか?

冨田:全然違うんです(笑)。もともと大学と大学院で電子工学を勉強した後、新卒で商社に就職したんです。通信設備を扱う部署で、入社後6年目ぐらいからブラジルに駐在しました。その後、私が所属していた組織が独立して2000年4月にITXという会社になるのですが、その会社では、ベンチャーに投資する事業も手がけていました。

——本当に全然関係ないですね(笑)。

冨田:それから、縁がありまして韓国の「電子透かし」の技術を持ったマークエニーという会社の日本法人、「マークエニー・ジャパン」の社長を2年間ほど務めました。その時に、韓国で歌詞が曲と同期して表示されるMP3プレイヤーと出会いまして、それが歌詞サービスを手がけるそもそものきっかけとなりました。

——「これはいける!」と感じた?

冨田:というよりも、そういった歌詞の在り方に、社会における必然性を感じたんですよね。これからの世の中にあってしかるべきものだろうと。同様のものは日本になかったですし。でも、そのMP3プレイヤーを日本に持ち帰って音楽業界の方に見せたら、かなり厳しい意見をいただきまして(苦笑)。2004年ぐらいでしたけど、たしかに当時は音楽配信ではみなさん苦労されていました。

 ただ、私もあまのじゃくなので、逆にチャンスだと感じましたね。だからこそやらなければいけない事だと意欲をかき立てられ、まずは会社の部門の一つとして歌詞事業をスタートさせようとしました。ただその直後に、マークエニー・ジャパンの元々の事業は株主の意向により、別の会社に譲渡することになったんですけど、その歌詞の事業だけは私自身で可能性を追求したいと思い、2006年5月に歌詞サービスをメインとして改めて立ち上げた会社がシンクパワーです。

プチリリ
「同期歌詞」を”プチリリ”ブランドで展開している

——その際は何か提携先などの見込みはあったんですか?

冨田:当時音楽配信の準備を進めているある会社との間で、歌詞データの制作を請け負ってモジュールで納品するという案件があったのみでしたね。それも会社設立直後、先方の理由で中止になったんですけど(苦笑)。

——音楽配信がこれからどうなるかまだ全然分からない時代に、かなり思い切りましたね。

冨田:我々がやらなくても他の人が絶対にやるだろうという必然性のあるサービスだと感じていたので、続けていけば何か見えてくるだろうとは思っていました。そこだけはブレなかったですね。一方、マネタイズの部分はあまり見えていなくて、そこはダメもとぐらいの気持ちだったかもしれないです(笑)。自分が投資事業をしていた時は、全てデータありきで、様々な分析を経て数字がある程度見えるものに投資をするわけですけど、歌詞のサービスはそこが全く見えなかったので、逆に見えないからこそ手がけてみたいという気持ちを抑えきれなかったというか。いわゆるフィジビリティスタディ(F/S)をやろうと思ってもできない市場だったので、とにかくやってみようと。

——その時は着うたのことも視野にありましたか?

冨田:当時は過渡期だったんですね。2005年8月にiTunesが日本に上陸して、2006年には全キャリアで着うたフルのサービスが開始されたので、フル音源の配信はモバイルで伸びていくだろうという見通しはありました。

——どのタイミングで軌道にのりはじめたと感じましたか?

冨田:2009年にソニーのウォークマン向けの歌詞サービスを手がけさせていただいた時だと思います。会社を立ち上げた当初の案件が、結局中止になってしまって、これからどうしようとなったときに、もう我々自身で歌詞データを作って保有してしまおうと考えました。データベースを保有すれば、いずれそれを活用してくれる方々が現れるだろうから、そういった人々へデータを提供するビジネスモデルを展開しようと。それで、ベンチャーキャピタルから1億円ほどの出資を受け、しばらくは売上の見通しが全く立たない中でデータベースを作り続けていました。

 

ユーザーサイドの視点で産業の一助に

——競合というのはいましたか?

冨田:同期歌詞というフィールドではいませんでしたね。とはいえ、収益があがって会社がちゃんと回り始めるまでは、役員は無報酬の時があったり、実際会社を整理する寸前までいったりもしました。それで資金調達に駆け回っている中で「まだやめるのはもったいない」と言ってくださる方々に出会いまして、有り難いことに追加投資をしていただいて、そこからなんとか収益が立つステージまで辿り着いたという流れですね。

——首の皮一枚でつながったと。

冨田:今考えれば本当にそうですね。ウォークマン向けには2009年10月から弊社のサービスを始めることができましたが、当時の携帯電話には、2009年6月にまず富士通さんの携帯端末に同期歌詞表示機能が組み込まれて歌詞データ自体の販売を開始したものの、そこから更に配信曲に全て歌詞を含めた形で展開しようと各方面に働きかけを行ったのですが、我々は歌詞を提供するだけですから、レコードメーカーサイドからは「対応端末が全機種に普及してからもっと本格的にやりましょう」と言われ、じゃあ全機種揃えようということでまだ扱わせて頂いていない端末メーカーさんと話をすると、今度は「歌詞サービスがもっと充実してから考えます」という回答で、中々双方をすり合わせることが難しい状況が続きました。

——そしてついにスマホの時代が来ました。

シンクパワー冨田氏

冨田:スマホでプチリリを開発したのが2011年8月で、まずはアンドロイド版をリリースしました。ガラケーは端末毎に音楽プレイヤーが決まっているのでそこに手をつけることができなかったのですが、スマホの登場で「これからは音楽配信サービスも音楽コンテンツに再生プレイヤーをあわせたサービスの時代になるだろう」と思いましたし、実際その通りになりましたよね。それで、我々はそのようなサービスに歌詞の提供をして「音楽配信サービスには同期歌詞があって当たり前」というステージを目指そうということで、今も取り組み続けています。

——そういう意味では時流の流れも味方になりましたね。

冨田:全然まだまだだと思っていますが、会社としては2015年の5月で丸9年ですから、だいぶ時間はかかりましたけど歌詞データの必然性を信じて地道にやってきた結果が少しずつ出てきているのかなと感じています。

——今さらイチから100万曲分の歌詞データを作って参入しようという競合も考えにくいですよね。今後は、海外への展開も視野に入れていますか?

冨田:海外の場合は、日本と違ってオリジナル・パブリッシャー(OP)から許諾を得ることで、国を超えて広い地域で歌詞サービスを行うことができるので、海外進出はぜひやっていきたいと考えています。ただ、海外許諾の場合にはアドバンス等が必要なケースもあり、更に音楽を取り巻くIT業界の動きも加速しつつあるので、規模感、スピード感を出すためにも改めて資金調達及び他社連携に積極的に取り組んでいきたいと考えています。いずれは、「シンクパワーは世界中の歌詞サービスに携わっています」と言えるように、日本発のグローバルスタンダードなサービスを目指します。ひいては、音楽を愛するユーザーサイドの視点に立ちつつ、歌詞サービスを通じてグローバルにアーティストや音楽産業に関わる方々の一助になっていければと思っています。

プチリリ
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