音楽だけでは括れない「グローバルな感性を刺激するフェス」= ULTRA JAPAN の魅力とは — ULTRA JAPAN クリエイティブ・ディレクター 小橋賢児氏
初開催となった昨年に続き、2015年は9月19日から3日間にわたり規模も拡大し開催される「ULTRA JAPAN」。音楽的なインパクトはもちろん、ファッション層も取り込み、先日はその推定経済効果が約95億円にも及ぶことが発表された。
音楽面だけではなく、カルチャーやビジネスにおいても日本を代表するフェスへと成長し続けているULTRA JAPAN。そのクリエイティブ・ディレクターを務めるのは、俳優や映画監督の他あらゆる分野で才能を発揮する小橋賢児氏だ。「ULTRAで一番体験してもらいたいのは『お客さんのエネルギー』」と語る小橋氏に、何故ULTRAが特別なフェスであり続けられるのか、お話を伺った。
PROFILE
1979年、東京生まれ。8歳から子役として活躍。以来、数々のドラマ・映画に出演。2007年、俳優活動を休業し渡米 。2012年、映画監督として長編映画「DON’T STOP!」を手がける。多方面にわたりクリエイティブに活動し、Red bull BeyondやTGC Night、touchMeAfterpartyなどの演出、ULTRA JAPANのCreative Directorなどをつとめる。
ULTRA JAPAN
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- 「大きな何かが変わっていく」昨年の初開催
- 「繋げて」作り上げられているからこそ、多くの人に伝わる
- 今年の経済効果は約95億円もの見通し
- ULTRAの本当のメインは「お客さんのエネルギー」
- 世界に向けて感性が花開くフェスに
「大きな何かが変わっていく」昨年の初開催
——昨年はULTRA JAPAN初開催ということで、実際行われてみていかがでしたか?
小橋:今の日本では、何においてもまず規制が進んでしまっていて、昔は可能だったことが出来なくなっている状況がありますよね。一方、世界ではどんどんエンターテインメントは進化していて、個人的にその乖離を感じていました。こういう状況で、若者は未来に期待できるのだろうかと。ULTRAを行う前も、期待感に混じって「こういうイベントが日本で成功するだろうか?」という声も実際ありました。しかし、自分達を信じて取り組んだ結果、無事に開催できましたし、4万人ものお客さんに来て頂きました。そして、お客さんも全員がひとつになっていましたし、みんな歓声というより心からの叫びというか、「やっと解放された」という熱狂感がありましたね。まさに、大きな何かが変わっていく瞬間を体感しましたね。
——本当にお客さんは楽しそうでした。
小橋:オフィシャル・アフタームービーを見ると、感極まって泣いている人もけっこういて。リアルでもネットでも色んなところから、「最高だった」「燃え尽きた」「あの日に帰りたい」という感想が聞こえてきました。それこそ、「ULTRAロス」って言葉が流行りそうなぐらい(笑)。普段の生活の中であそこまで自分を解放できる場というのは中々ないんでしょうね。
——音楽業界からの反応はいかがでしたか?
小橋:ULTRAが契機となって、「世界の流行の音楽が本格的に日本にも来るんじゃないか」という期待感が増したように感じています。「パンドラの箱を開けたよね」と、業界のある会社の代表の方も仰っていました。
——恐らく色んな方面に良い影響が出ているんでしょうね。そして、第2回目の今年はさらに規模も大きくなります。
小橋:去年は、ある意味みんながチャレンジャーだったわけですよね。制作側もお客さんも。「どんな風になるのかな」って。それで無事に成功に終わって、その楽しさは多くの人には伝わっていると思うんです。だから、それを受けて今年はさらに多くの人に来ていただけると思っているのですが、何でもかんでも弾けて楽しめばいいとか、自分をコントロール出来なくなって他の人に迷惑をかけたりとか、そういうことが起きないように、マナーの面でも細心の注意を払って取り組んでいます。
「繋げて」作り上げられているからこそ、多くの人に伝わる
——既にそこまで人が押し寄せるイベントになっているということですよね。小橋さんがクリエイティブ・ディレクターとして関わっているところはどの辺りになりますか?
小橋:基本的には全部です(笑)。一番近いポジションは恐らく調整役、「バランサー」かなって思っています。世の中やお客さんのニーズを把握しながらも、そのまま対応するのではなく、市場のエッジな部分もマーケティングして、最も効果的な施策を提案して形にしています。エンターテインメントというものは、ある意味「追いかけさせること」が大事ですからね。
——そこには、今まで培ってきたキャリアが活きている?
小橋:僕は海外での生活や旅、そして多種多様なコミュニティーでの体験を通して、色々な人達の感覚を学びましたし、常にいくつかの視点で物事を見るようにしているので、「大きく外れない感覚」は身に付けているかなと思っています。
例えば、ULTRAは音楽が好きな人じゃなくても楽しめるイベントなので、それを伝えるために、ファッション層の人に対しては、ファッションチームを作って「ファッションを楽しめるこんな面白い場所があるんだよ」とアプローチをしたり、SNSチームと組んで、SNSを活用し今までフェスに興味のなかった人々に楽しめる場としてアプローチをしたり、ダンスミュージック・フェスのファン以外の方にも楽しんでもらえるように心がけています。
僕は名前が「小橋」ですけど、名前の通り「”小”さい”橋”を架ける」使命があるとずっと感じてて。自分が学んできた感覚や発想を活かして、今まで繋がっていなかったところに橋をかけているという感じですね。
——小橋さんが繋げたからこそ、日本のULTRAの形があるんですね。
小橋:だから、ULTRAをダンスミュージックが好きなスタッフだけで作っても上手くいかないと思います。実際は色んな人を「繋げて」作っているので、今までULTRA自体を知らなかったスタッフもいるし、初めてダンスミュージックイベントに関わった人もいます。そういった違う人達同士が、同じゴールを目指して、時にはぶつかりながら作り上げていく。そのプロセスの中で、ゴールであるULTRA自体がより多くの人に伝わるものに育っていくんです。違う同士だから、同じことを説明するときも、相手によって説明の仕方を変えなくてはいけませんよね。でも、そうすることによって相手から新しいアイデアや方法が出てくるんです。こうやって色んな人達の切磋琢磨が反映されてできているフェスだと言えます。
今年の経済効果は約95億円もの見通し
——先日、ULTRA JAPANの今年の経済効果が約95億円だという発表がありましたね。東京都にとっても有り難い存在感のあるイベントになっています。
小橋:行政には後援に入っていただいていますし、諸々行政の指導に従いながら実施しています。さらに、警備計画も含めてオリンピックに向けたインバウンドなテストケースにもなっているのではないかと思います。
——初回の昨年で、すでに78億円という経済効果というすごい成果がでているので、今年は理解が早かったですか?
小橋:そういう部分もありますけど、とはいえ、やっぱり去年は「とんでもない事がはじまった」と、だいぶ警戒はされましたね(笑)。
——音の規制もあったり。
小橋:基本的に東京都全体で音量の規制がありますから、そこをクリアするのはすごく大変なんです。「音が小さい」という声もありましたけど、僕らも規制の範囲で最善を尽くしています。やっぱりマイアミも16年という時間をかけて少しずつ行政や住民と話し合いながら進化してきたんですよね。本国も最初から爆音で出来たわけじゃないですから。毎年お馴染みのイベントとして、「今年もULTRAの季節が来たね」というところまで定着すれば、もっと色々な事がクリアされていくと思います。最初から無謀なことをしたら、イベント自体が無くなってしまいますからね。不満なところもあるかもしれないけど、そこはお客さんにもご理解いただきながら、みんなで一緒に作りあげていきたいと思っています。
ULTRAの本当のメインは「お客さんのエネルギー」
——そのようにして、今後ますます規模が大きくなると思いますが、音楽的にはいわゆるEDMにこだわっているわけではないんですよね?
小橋:まったくないです。そもそもEDMという音楽のジャンルは無くて、要は「エレクトロ・ダンス・ミュージック(Electro Dance Music)」だから、全てを包括したシーンのことだと考えています。
例えば、去年もサブステージにはアンダーグラウンドのテクノDJが多く出演していますし、それはマイアミも一緒です。だから「ULTRA = EDM」というイメージになっているのは、僕的にはあまり嬉しくないですね。もっと幅広い層の人たちが一緒に音楽を楽しめるフェスにしたいですね。いわゆるEDMもあれば、アンダーグラウンドの音楽を掘り下げて知ることもできるような、音楽との出会いの場を作りたいんです。だから今年はアンダーグラウンドのステージに関しては、強化したいと考えています。
——一般的な音楽ファンが行っても普通に楽しめるようなフェス?
小橋:幅広い世代の色んな人が交流出来る場所にしたいですよね。「お祭り」って別に若者だけのものではないじゃないですか。だからULTRAは音楽の「お祭り」だと思って欲しくて。新しい感覚や違う層との繋がりのきっかけになる体験を提供したいです。
——ULTRAのテーマとして、「観客が主役」というところがありますよね。
小橋:特に女の子はすごく楽しんでくれています。一緒に行く人を誘うところから、着ていく服やアクセサリー、メイクまで、ストーリーがそこにはあるんです。出演アーティストのチェックも含めて。
——ULTRAはライブストリームにも早くから取り組んでいて、ULTRA JAPANも例外なく配信されていました。
小橋:やはり「体験」を見せているんですよね。SNSが台頭した頃から、音楽はアナログに戻っていっている。YouTubeのライブストリームや映画のようなアフタームービーもコストはすごくかかるんですけど、無料で公開しています。
それは、どんどん新しい人にもシェアしてもらって、「リアルな体験の方に行きたい」と思わせる流れを作る事が最も重要だと考えているからです。国内だと、いまだに「写真撮影は禁止」とか「来た人にしか見せない」といったルールがありますけど、新規顧客を獲得するには、積極的に公開して、適うもののない「体験」を実際に見せることがすごく有効なんですよね。
——あれを見て「来年は行こうと」思うユーザーは多くいそうです。
小橋:まずはそこがどれだけ「楽しい場」であるかどうかだと思うんです。そして、そこに音楽があるだけなんですよね。ULTRAは音楽のイベントですけど、本当のメインは「お客さんのエネルギー」だと思っています。僕がULTRAで一番体験してもらいたいのは、そのエネルギーなんですよね。
世界に向けて感性が花開くフェスに
——音楽と体験ということで、ますますULTRAのようなフェスは盛り上がると思います。一方で、現場のクラブシーンは苦労されているという話も聞きますが、そこに関してはどう思われますか?
小橋:もしかしたら変化していくべきタイミングなのかもしれないですね。海外と比べるのはあれですけど、同じアジアでも韓国や香港、シンガポールには、世界トップ10のクラブがあって、そういうクラブはサウンドシステムからエンターテインメントショーに至るまで、もう桁外れというか。フェスなどで、もの凄い体験ができてしまう分、それぐらいの強い体感を経験できる仕掛けがないと、ひょっとしたら今のファンには物足りなく感じるのかもしれないですね。
——一度体験してしまうと中々元には戻れないですよね。
小橋:今までは「好きな人たちが来れば良い」だったかもしれないですけど、そういう人もテクノロジーの進歩に伴い、普段から圧倒的なエンターテインメントを経験してしまっているので、満足のハードルが上がっていると思うんです。もともとクラブは最先端な場所だったので、もう一度クラブに行くと世の中の一番かっこいいエンターテインメントが体験できる場所、文化になるといいですよね。
——文化というと、ULTRAも今後「ULTRA世代」のようなジェネレーションが出てきそうですね。
小橋:ULTRAが若者にとって「世界の文化に触れて色んなものを吸収したい」と思うきっかけになって欲しいというのが、僕がこのフェスを日本でやっている一番の思いです。海外文化に興味のなかった人がULTRAを体験したことによって感性が花開き、世界へと旅立ち貴重な経験をする。そういったグローバルな視野を持った人が増えることは、日本にとっても大きな財産になると考えています。
——人生のターニングポイントとなるフェスを目指すと。
小橋:海外に対しても、インバウンドという意味では、ULTRA LAPANをきっかけに日本の文化や景色も一緒に体験してもらいたいですね。海外の人の人生も色濃く彩るようなフェスにしたいですね。
あと、島国の民族である日本人は、とてもバランス感覚に優れていると思うんです。調和力があって、色んなものを融合させることが出来る、それこそ「和の心」を持っている。実際今、僕らが生きているこの街も文化も様々な海外の文化を融合したものです。ULTRAのようなエンターテインメントも「和の心」で受け入れつつ、そこから日本独自の新しいエンターテインメントを作り出す流れができればいいなと思っています。