back number、雨のパレード、リトグリの担当者が語るレコード会社のこれから
【特集】ミレニアル世代のアーティストが創る新たな音楽シーン
流れの速い音楽シーンの中で、新たな才能を開花させる次世代アーティストたち。そんな若手アーティストの中から、すでに幅広い層から支持を得ているback number、雨のパレード、Little Glee Monsterの担当者に集まっていただき、ヒットを生む制作のこだわりや、これからのレコード会社の役割について語っていただきました。
- “懐かしさ”が決め手となったback number
- 音楽に留まらないクリエイティブ集団・雨のパレード
- 地道に歌い続けた日々が実ったLittle Glee Monster
- アーティストの魅力を引き出す制作プロセス
- 「SNSでファンと繋がる」「あえて時代と逆行する」「音楽を超えた表現を貫く」ファンの手元に作品を届けるひと工夫
- これからのレコード会社に求められる役割
“懐かしさ”が決め手となったback number
——まずはみなさんのこれまでのキャリアと、それぞれのアーティストの担当になった経緯をお伺いします。
▲back number担当
ユニバーサル ミュージック
ユニバーサル シグマ
制作本部 第2制作部 次長
藤田 武志さん
藤田:以前はフリーで、その後、山下達郎さんの事務所スマイルカンパニーに2年くらいいたんですが、退社後のある日、当時のレーベルヘッドに、「会社来られる? 1階のカフェでお茶飲もう」と呼ばれて、そのまま半ば強引に入社させられました(笑)。それでCharaさんがユニバーサルに移籍したタイミングで担当になり、そこから5年くらい担当しました。彼女のカッティングエッジなイメージもそうですし、彼女の人脈を通じて、多くのクリエイターたちと出会えたことが今の財産になっています。今回、YEN TOWN BANDをユニバーサルでやらせていただいたので、そこでまたCharaさんとご一緒できたんですが、今の自分があるのはCharaさんのおかげじゃないかなと思います。
現在、担当しているback numberは、2008年くらいに事務所から、「次はロックバンドやろうと思ってます」とデモが送られてきて、聴いた瞬間に「これはすごい」と思いましたね。その後、SHIBUYA BOXXで、HMVとタワーレコード共催でのレコ発ライブをやったときに、初めてback numberのライブを見て、ロックバンドなのにフォークみたいな懐かしさがあって、「これは面白いんじゃないかな」と思ったんですね。自分が高校生のとき、新しい音楽に触れたときの感覚にすごく似ていて、タイムスリップさせられたような感触がありました。そのときはインディーズから1枚出すというタイミングで、2枚目のフルアルバムから、うちも制作に参加し始めました。それがまだ下北沢でライブやっていた2009年くらいですね。
音楽に留まらないクリエイティブ集団・雨のパレード
▲雨のパレード担当
ビクターエンタテインメント
制作本部 スピードスターレコーズ
池上 健一郎さん
——池上さんはどのような経緯で雨のパレードを担当されるようになったんですか?
池上:SPEEDSTAR RECORDSというレーベルにいて、最初はCoccoやLÄ-PPISCHをやっていたディレクターに付いていたんですが、そのディレクターが異動することで自分が引き継ぐことになり、以後、色々なアーティストに関わっていくようになりました。上田現さん(LÄ-PPISCH)がお亡くなりになったときに、トリビュート盤や残された音源をリ・レコーディングする企画に関わりました。1アーティストから派生して、様々なアーティストや事務所の方々とリレーションするきっかけになったので、上田現さんのプロジェクトはすごく大きかったと思います。キャリアとして影響があったというよりは、音楽を人生観の一部として捉えるような、エポックメイキングな経験でした。現在はLOVE PSYCHEDELICOやKREVAも担当しています。
雨のパレードは、当社の新人開発部門からの紹介で2014年に初めてライブに行ったんですけど、最初は全然動員がなかったんですよ。音楽的にも「難しいな」と思っていました(笑)。でも、パッと見たときの印象が良かった。所謂“見た目”がすごく良かったんですよね(笑)。SPEEDSTAR RECORDSというレーベルには、“ポップ”かつ“アバンギャルド”というポリシーがあるんですが、メンバーがそういう意識が強いなと思いました。ファッション性に富んでいて、音楽だけに留まらない展開ができる可能性を感じました。そんなアーティストをいつかできればという想いを持ちつつ、動員ゼロから一緒に頑張ってきました。彼らは「幕張メッセを埋めたい」と言っていて、出会った当時から「売れたい」という強い野望がすごくありましたね。
地道に歌い続けた日々が実ったLittle Glee Monster
▲Little Glee Monster担当
ソニー・ミュージックレコーズ
第二制作部 Gr8!records A&R
井藤 叙彦さん
——井藤さんはいかがですか?
井藤:僕が最初に制作に関わったのはGoose houseというシンガーソングライターグループです。その前はプロモーションの仕事をしていたのですが、当時からBOOM BOOM SATELLITESのメンバーにすごく可愛がってもらっていて、担当の理解もあって色々と手伝わせてもらうことで勉強させてもらいました。それが、今の制作の仕事をするうえでのスタンスの基礎になっているというか、基本的な考え方をそこで学ばせてもらった気がしています。
それから、シンガーソングライターのYUIが結成したバンドFLOWER FLOWERを1年ほど担当し、その後、元々僕の今の上司が育成をしていたLittle Glee Monster(以下 リトグリ)のデビューに向けて担当になりました。担当になったその日に「今日イベントをやるから観てきて」と言われ、千葉のショッピングモールで行われたイベントに行くとお客さんが20人くらいしかおらず、その時は「これはどうしよう…」と思ったんです(笑)。当たり前ですが、“歌ウマ”といっても今と比べるとまだまだでしたし、そこで初めて聴いた印象は「中学生にしては上手いな」くらいだったので。
そこから、小さなライブハウスなど場所を問わず、とにかく歌いまくる機会を作りました。新人にしては比較的予算もかけられた方でしたが、最初からタイアップが決まっていたわけでもなく、本当に地道に歌い続けてきました。アカペラもやれるというのがすごく強みになり、じわじわと話題になってきて、地上波の情報番組に出させてもらったり、最近ではゴスペラーズやDREAMS COME TRUEといった大物アーティストの方から「君ら上手いね」と気に入ってもらえたりもしました。大きなフェスに出る一方で地道に小さな場所でも歌ったりと、振れ幅はすごく大きかったのですが、どんな環境であろうと変わらないパフォーマンスができるように育てないと、という想いはすごくありました。彼女たちは若いので、歌手として良いパフォーマンスができるテンションにもっていけるような環境や、彼女たちへの意識付けの言葉などもすごく考えるようにしています。
アーティストの魅力を引き出す制作プロセス
——アーティストによって制作プロセスは様々だと思いますが、どのような特徴がありますか?
藤田:back numberは、ギターボーカルの清水(依与吏)くんが曲を作って、デモを上げてくるんですが、例えば10曲上げてくるときに、それの3倍くらいのDEMOを制作して、本当にすごい量の曲を作るんです。その創作力はすごいなと思っています。インディーズのときから、soundbreakersさん、島田昌典さんにプロデュースを依頼したりしていましたが、プロデューサーに任せるというよりは、技を盗むくらいの気持ちで本人たちもやってきたので、セルフプロデュースのスキルもかなり上がりました。
あと、これは人に言われたんですが「昔のロックバンドって、プロデューサーが一気通貫して作品を作ることが多いけど、back numberのように曲ごとにプロデューサーを変えるのは、いわゆるR&Bの手法だよね」と。作品ごとに「これだったら誰々だね」というイメージがちゃんとあるのが特徴と言えば特徴ですね。また、ここ最近の小林武史さんとの出会いも、大きなステップアップの契機になったと思います。
——いろんなプロデューサーたちと曲を作り上げたいという希望が本人たちにある?
藤田:楽曲によりますが、ありますね。最初にsoundbreakersさん島田昌典さん、そこから蔦谷好位置さん、亀田誠治さんとやってきて、JR SKISKIのCMタイアップが決まったときに、清水くんから小林武史さんの名前があがったんです。小林さんは当時、自社のアーティスト以外とはほとんどやらないという噂があったんです。それでダメもとでお願いしてみると、小林さんはback numberを知っていてくれて、「ヒロイン」という曲のプロデュースを引き受けて下さって、その後docomoのCM曲、月9主題歌もプロデュースしていただきました。小林さんのアレンジするイントロと、弦のアレンジは本当に天才的で、back numberというアーティストとすごく相性が合ったんだなという気はしますね。そういった才能のある方たちと関わることで、本人たちのアレンジのスキルも上がり、引き出しも増えていってると思います。
——雨のパレードはプロダクト全体にこだわりがありそうですね。
池上:そうですね。彼らは歌を入れてやっと全体像が掴めるような曲作りが多いんです。セッションを4人で始めて、それに対して、ボーカルの福永(浩平)くんが歌とメロを乗せて作っていきます。自分たちでPro Toolsを使えるようになって、大分わかりやすくなってきたんですが、まだレコーディングをしてから判断することが多いですね。「とりあえず録ってみよう」という感じなので、レコーディング前に若いエンジニアとプリプロをやるようにしています。歌詞に関しては、任せている部分が多いですね。本人は毎回歌詞のテーマを悩んでいるみたいですけど、結構いいものを書いてきてくれるんですよ。若いので勉強してくる部分も多いと思いますけど、「多くの人に届けるには、今何が求められているのか」というところをちゃんと考えて書いてきますね。本当に信頼しています。次々更新してくれるんです。「音楽で世の中を変えてやるんだ」という福永くんの姿勢は、夢を追い掛ける同世代の若者たちの希望に通じる気がします。
あと、彼らはビジュアルにも緻密にこだわっていて、その話の方が長いときがあります。福永くんが全体のビジュアルのプロデュースもやっていて、特に同世代の人とやりたいという想いが強いんです。彼は鼻がいいというか、キュレーション能力に長けているので、人を集めてくるのが上手いです。もちろん生みの苦しみはあるんですけど、それが彼らの魅力でもあるので、できるだけ自分たちでやれるようにしているという感じですね。
昨年12月からSPEEDSTAR RECORDSの中でもマネージメントをやるようになって、最近は制作だけでなく物販だとかライブ制作等の話もあって、アーティスト活動の全般を包括的にみています。その意味で自分の周りは何でもやらなきゃいけないということが多いですが、トータルのビジネスに関わりノウハウの修練をしながら様々な角度からアーティストを考えていく習慣がついてきたように思えます。
——リトグリの制作プロセスはいかがでしょうか?
井藤:リトグリはコンペで楽曲を選んでいます。曲ごとに違う作家さんと制作していますね。アレンジからは別の方にお願いするケースもありますが、基本的には楽曲単位で、1人のプロデューサーと楽曲が完成するまで一緒に作り上げるという感じです。島田昌典さんや亀田誠治さんなどにお願いしたこともありますし、Carlos K.さんや丸谷マナブさんといった比較的若い作家さんともお仕事することが多く、やり方はすごく特徴的だと思います。特定のプロデューサーが決まっていれば、スムーズな面もあるとは思いますが、それはそれで難しい場面もあって。曲ごとに新しいことやリトグリ流のやり方、それぞれのクリエイターの良いところなどをうまく掛け合わせられるように心がけています。自由にやれる反面、リトグリらしさみたいなものはこちらが保っておかないといけないというのはありますね。彼女たちはアカペラに特化したグループではないのですが、コーラスワークが身上ですし、歌でメッセージを届けられるグループになってもらいたいので、その辺の調整が難しいです。
あとは、歌録りにすごく時間が掛かります。人数が多いということもありますし、コーラスが複雑なので。それがこのグループの大変なところではありますね。ボーカルの割り振りは、曲ごとにメインパートが映えるメンバーをセレクトしつつ、他の曲とのバランスとか、ライブでのパフォーマンスを意識しながら決定するようにしています。6人全員がメインボーカルを取ったり、上のパート行ったり下のパートに行ったり、1曲の中で大きく変化していくので、それができるのもこのグループならではのすごいところだと思います。
「SNSでファンと繋がる」「あえて時代と逆行する」「音楽を超えた表現を貫く」ファンの手元に作品を届けるひと工夫
——リトグリは中高生のファンが多いですが、どのように作品をリーチしているんでしょうか?
井藤:CDで聴いてもらう前提で作っているつもりですし、ファン層が若いからといって極端に手法を変えることはないです。大人の方にも聴いてほしいですし。ただYouTubeに銭湯や東京ドームなどいろんなシチュエーションでアカペラを歌う動画をUPするといった展開はよくやっていますね。10代の女の子にとって、動画を観るのは日常的なことなので、プロモーション用として意図的に作っています。
藤田:back numberも、CDを買ってほしいという気持ちがすごく強いですね。「ブックレットで歌詞を読みたいから」という理由で10代、20代といった一番CDを買わないと言われている世代が買ってくれています。基本は口コミで伝わるようなものを適切な場所に置いていく、という感じですね。出す情報も「これは全方位、これはあえてタイトに」と分けています。
池上:雨のパレードは、とにかく新しい音楽と映像を作り届けるということにこだわっています。「新鮮な表現を提供できるか」ということが売れることに繋がるとボーカルの福永くんが確信を持っているので、トレーラーの映像を作ろうとしたりだとか、衣装を作ろうとしたりだとか音楽以外のことにもマルチに手を出そうとするのでコントロールするのが大変ですけど(笑)。マネージメントという面から見ても、例えば、グッズ+CDのようなやり方でも、いかにメンバー発信で表現形態としての新しさを出していけるか、アーティスト性を魅力的に伝えることができるか、ということに尽きるのかなと思っています。
これからのレコード会社に求められる役割
——音楽産業もどんどん状況が変わってきていますが、今後レコード会社にはどのような役割が求められてくると思いますか?
藤田:楽器も含めてサウンド的にはもう出尽くしていますし、新しいジャンルもそうそう出てこないと思うんです。最近また90’sの流れがきていたり、そうやって流行が回る中でSuchmosみたいなバンドが売れている状況はすごくいいと思います。最近は「体感する」ことに紐づくものがライブの動員に繋がっていくので、それでいうと楽器は生のほうが良いと思いますし、音楽って消耗品になっちゃいけないと思うので、フィジカルで売れることを考えたら、ちゃんと歌詞が届くものがセールスに繋がっていくんじゃないかなと思いますね。
池上:現在雨のパレードのマネージメントはSPEEDSTAR RECORDSが担っています。それもあって最近、“事務所としてみる雨のパレード”と、“制作担当としてみる雨のパレード”という側面があって、メンバーにとっても自分にとっても、衣食住のどれかに引っかかるようにアーティストを動かしていきたいし、そのために自分も柔軟に考えて、動いていかなくてはと思っています。レコード会社の自分という立場だけであれば、そこまで深堀りして考えることはなかったかもしれませんが、事務所的な機能でみると、世の中の人の生活の中で必要性を感じるものを、音楽で実現できたらいいなと思います。音楽って生活に不可欠なものなのか、と言われると衣食住の方が当然優先されると思います。衣食住+音楽、みたいに生活において必要性を感じて貰えることが音楽ビジネスの根幹であることは変わらないと考えています。雨のパレードと自分はCDだけでない、ライブも物販のグッズも一緒に作り上げる環境にあるので、多面的に考えることが出来る良い関係性ではないかと客観的にも感じています
——時代の流れとして、包括的に業務を行っていくことが求められて来ているのかもしれませんね。井藤さんはいかがでしょうか?
井藤:僕はそれほどキャリアが長いわけではありませんが、制作としてやるべきことの基本はこれからもあまり変わらないのではないかと思っています。周辺環境は変わっても制作という機能はたぶんなくならないと思うんですね。ただ、曲単体だけでなく、アーティスト自体を好きになってもらうようなアプローチは意識的にやらなくてはいけないと思っています。
ですから、制作だけじゃなく何でもやらないといけないということにはすごく賛成です。たとえば、僕の隣のデスクに座っているUVERworldの担当が、ライブカメラマンみたいになっているんですよ(笑)。写真も上手ですし。僕もライブを撮ったりするし、立場や役割がどうこうというよりは、それこそチームとして、自分がやれることがあれば何でもやろうと思っています。
藤田:以前は年間10枚買っていた人が、3枚しか買わなくなったわけじゃないですか。残りの7枚はレンタルするとか、サブスクで聴くとか。でも、その3枚に選ばれるものを作っていくしかないですよね。そこを常に追求するというのが、僕ら制作者としての役割じゃないかなと思いますね。