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レコードストアでの人の繋がりが音楽を支える 「RECORD STORE DAY」創設者 マイケル・カーツ氏に聞く

インタビュー フォーカス

マイケル・カーツ氏

レコードストアの文化を祝い、独立した小売店舗を活性化し、フィジカルメディアを手にする喜びや音楽の楽しさを共有する年に一度の祭典「RECORD STORE DAY」が今年も4月21日に開催される。

現在ではアメリカをはじめ世界23カ国で数千を数えるレコードショップが参加し、数多くのアーティストとともに、貴重なRSD限定のアナログレコードやグッズなどのリリースを行うほか、様々なイベントが開催される。日本でも「RECORD STORE DAY JAPAN」として毎年開催され、音楽ファンの注目を集めている。

「RECORD STORE DAY JAPAN 2018」からは、長年日本のアナログレコード文化を支えてきた東洋化成が運営を担当することになり、アンバサダーにはEGO-WRAPPIN’が決定と、開催へ期待が高まる中、「RECORD STORE DAY」創設者のマイケル・カーツ氏が来日した。

今回はマイケル・カーツ氏に「RECORD STORE DAY」創設に込めた想いから、アナログレコードを取り巻く現状と今後まで話を伺った。

  1. フィジカルストアへのネガティブなイメージを払拭したかった
  2. 若い女性層に向けたマーケティングの可能性
  3. RSD当日はお気に入りのレコードストアに行ってほしい

 

フィジカルストアへのネガティブなイメージを払拭したかった
 

「RSD」マイケル・カーツ氏

――「RECORD STORE DAY」(以下 RSD)創設のきっかけは何だったのでしょうか?

マイケル・カーツ(以下 マイケル):2007年に日本以外のほとんどのタワーレコードが一斉にクローズするという、音楽ファンにとってショッキングな出来事があり、メディアもフィジカルストアに関してネガティブな報道を行っていました。

私は一音楽ファンとしてレコードストアには良い思い出やポジティブなイメージがありましたから、当時拡がっていたネガティブなイメージを払拭するためRSDを2007年にスタートさせました。

――RSDを始めるにあたり、一番大変だったことは何でしたか?

マイケル:RSDはアメリカ国内のレコードストアで始まりましたが、当時はフランチャイズのレコードストアや、ウォルマートのようなスーパーマーケットが音楽を売る場所として大きなシェアを占めていて、理念である「インディペンデントな個人のストアを守る」という点を理解してもらうのが非常に難しかったです。

もう一点はメジャーなレコードメーカーに、CDではなくレコードで販売することを理解してもらうことが大変でした。2007年当時は90%以上がCDの売り上げで、レコードが占める割合は僅か4%ほどでした。それも中古レコードを含めた割合で、新譜レコードというものはほとんど売られておらず、7インチはほぼないに等しいくらいのシェア率でした。

――そんな中でRSDを始めたということは、マイケルさんにとってレコードストアやレコードに対する想いが強かったからでしょうか?

マイケル:もちろんです。レコードは子供のころからお小遣いを貯めて買っていたものですし、レコードだけでなくレコードストアに行くという文化を含めて想い入れがありましたからね。

「RSD」マイケル・カーツ氏

――マイケルさんは、現在RSDの中でどういった役割を担われているんでしょうか?

マイケル:メディアのインタビューを受けたり、広報的なプロモーション活動が多いですね。また、レコード制作、店舗の対応、イベントの企画なども行っています。

――では、RSDを目前にしたこの時期は世界中を飛び回っている感じでしょうか?

マイケル:そうですね。2009年頃からプロモーション活動が主にヨーロッパで増えてきました。RSDを私と共同で創設したキャリー・コリトンと2人で世界中のカンファレンス、プロモーション活動を行っています。

――リリースするアナログの作品はどういったアプローチで作られているのでしょうか? RSDからアプローチするものが多いのでしょうか? それとも逆にアーティスト・メーカーから来る話が多いのでしょうか?

マイケル:それは両方からですね。立ち上げたばかりの頃はRSD側からアーティスト・レーベルに「レコーディングしませんか?」「アーカイブの中からリリースしませんか?」とオファーしていましたが、徐々にアーティスト主導で企画を出してもらうことが増えてきました。

フー・ファイターズ、メタリカ、ポール・マッカートニーのデモ音源のリリース等は、彼らの主導で積極的に行われたものです。もちろんRSD側からオファーしても上手くいかない場合もあって、最近だとBABYMETALにライブ音源をオファーしましたが、まだ実現していません。

――アンバサダーはどういった基準で選定をしているんでしょうか?

マイケル:その年の各アーティストの活動だったり、フィーリングの部分で決定することが多いです。ジャック・ホワイト、イギー・ポップ、デイヴ・グロールは「アンバサダーをやりたい」と自ら手を挙げてくれました。昨年はセイント・ヴィンセントがアンバサダーを務めましたが、それもフィーリングで決まったものなので明確な基準というのはありません。

イギー・ポップがアンバサダーになった年は彼がソロ活動を再始動した年でタイミングが良かったですし、デイヴ・グロールはパッション的な部分で共感し合えました。また、ジャック・ホワイトは自身のレーベル、レコードのプレス工場を持っているので、アンバサダーとして適任だったと言えます。アンバサダーの選出は自然の流れというか、筋が通っていて意味がある人だからこそ選ばれているんだと思います。

 

若い女性層に向けたマーケティングの可能性

「RSD」マイケル・カーツ氏

――現在RSDは世界各国で開催されていますが、本国アメリカと各国とはどういった連携が取られているのでしょうか?また各国の独自性というものはどう担保されているのでしょうか?

マイケル:RSDは、オープンで自由であることを大事にしています。アメリカ、日本、UK、フランス、ドイツ、カナダを除いた大半の国は自主的に参加したもので、こちらで特にコントロールはしていません。RSDのスピリットを守ってくれているので、自由にやってもらっています。年に一度、各国のRSDの運営をしている人たちが集まって意見交換を行っていますが、そこでも指示を出すようなことはなく、各国に運営を任せています。

――RSD JAPANにはどういった感想をお持ちでしょうか?

マイケル:RSD JAPANには非常にポジティブな印象を持っています。例えば、魅力的な日本オリジナルの限定盤やボーナス・トラック入り音源、そして日本製レコードの品質の良さには私自身も影響を受けています。また、日本の音楽業界においてリリースが水曜日に集中していたり、学ぶところは多いです。今年からは東洋化成が運営を行って、とても良い方向に進んでいると感じています。

――東洋化成はレコードが下火になっていた時代もずっとレコード制作を続けてきた会社ですが、マイケルさんは東洋化成についてどういった印象をお持ちでしょうか?

マイケル:東洋化成は今日までアナログレコードをプレスし続けていた会社として、世界中から尊敬と信頼を得ている会社ですから、RSDの運営も安心して任せられます。東洋化成がいることで、高品質のものがリリースできることがRSD JAPANのメリットと言えるのではないでしょうか。

――東洋化成さんにもお伺いします。今年からRSD JAPANの運営が東洋化成さん主体となりましたが、どういった心持ちで運営を行っているのでしょうか?

東洋化成 本根誠(以下 本根):マイケルさんが11年前から始めたRSDは、普段レコードストアに行っている人からすれば、毎年エキサイトするお祭りとして認知されていますが、我々はその次を目指すべき立場と言いますか「みんながレコードに熱くなっている」ということをもっと多くの皆さんに広めるような運営をしたいと考えています。

――そのターゲットは若者でしょうか?

本根:中高年層と若者の両方ですね。マイケルさんから伺って「なるほどな」と思ったことがありまして、それはアメリカではアナログレコードを買う若い女性が増えているそうなんですね。日本ではどちらかというと、限定盤を大人買いみたいなマニアの方々が主流になっている側面がありますが、日本でも若い女性層に向けたマーケティングの可能性を感じています。

マイケル:2013年、2014年頃からレコードの購入層もかなり状況が変わってきて、若い女性がレコードストアの開店を持っている光景が見られるようになりましたね。

「RSD」マイケル・カーツ氏

――RSDの影響もあり、近年はアナログレコードが再び注目を集めていますね。

マイケル:RSDを始めたときはこんなに大きな規模になるとは思っていませんでした。1年目にリリースしたタイトルが品切れとなり、2年目にリリースしたタイトルもすぐに品切れの状況になって、メジャーメーカーも半信半疑な感じでプレスを増やしていきました。

その結果、2017年にはアナログレコードは過去最大の売り上げを記録しました。年々プレスする工場も増えていき、レコードが売れたらターンテーブルも売れるといった、相乗効果で音楽業界全体が盛り上がってきています。

――アメリカではアナログレコードのプレス工場は増えているんでしょうか?

マイケル:RSDを始めた2008年は10もなかったんですが、今は25の工場がありますので、10年で倍以上になりました。その25の工場もそれぞれに特色があり、ニュージャージーにある工場はインディ専門の工場となっていたり、テキサスにできた工場はレコードストアが始めたプレス工場だったり、それぞれ違う毛色の工場が増えています。面白いケースですと、アーティストのマネージャーがマネージメントしているアーティスト用のプレス工場を持っていて、制作から流通まで全て行うケースもあります。

――レコードストアの数はどうですか?

マイケル:レコードストアも増えていますが、カフェが併設されていたり、本も売っていたりと、レコードだけではないハイブリッド型のお店も増えています。また、タワーレコードみたいなチェーン店ではないですが、巨大なお店ができていますね。

 

RSD当日はお気に入りのレコードストアに行ってほしい

――さきほど話題に上ったアメリカの若い女性たちは、どういったアーティストのレコードを購入しているのでしょうか?

マイケル:オール・タイム・ロウからテイラー・スウィフトまで幅広いですね。

――日本のRSDはインディペンデントで、どちらかというとマイナーなミュージシャンの限定盤など、マニアックな人や年配の人に向けた作品が多いので、アメリカの状況とは少し空気感というものが違う気がします。

マイケル:アメリカでは若いターゲットに向けた起爆剤みたいな、大きいタイトルが出てからRSDが広まった印象がありますが、日本のRSDでは、例えばMr.Childrenみたいなメジャーなバンドがレコードをリリースしていないので、どうしても大人向け、マニア向けのタイトルが多くなってしまいます。

ただ、日本のメジャーアーティストも海外ではあまり知られていないので、ビッグタイトルをリリースするのが難しいのかなとも思いますね。日本のビッグタイトルがリリースされることによって世界で売れたり、各国のRSDが盛り上がったり、相乗効果も期待できるので、そういったタイトルのリリースができればと思っています。

「RSD」マイケル・カーツ氏

――それこそマイケルさんの好きなBABYMETALなんてリリースできたらいいですよね。

マイケル:そうですね(笑)。先日、BABYMETALのライブを観たんですが、とても素晴らしいものでした。そういった幅広いファン層のいるアーティストの作品もどんどん出して欲しいですね。

――アナログレコードを取り巻く状況は、今後どうなっていくと予想していますか?

マイケル:ターンテーブルを持っている人はまだ少ないですし、もっと浸透させないとアナログレコードが完全に根付くのは難しいです。例えば、若い世代には手頃なターンテーブルを買ってもらって、まずレコードを聴いてもらう。そして、どんどんレコードを買ってもらい、それに従って少しずついいターンテーブルにしていってもらう。そうやって若い世代からアナログレコードを根付かせていかないと、マジョリティにはならないです。

その一方、アナログレコードが廃れることはもうないとも思っていて、コアな人じゃないですが、レコードラヴァーな人々は常に一定数必ずいるので、そういう人たちにレコード文化を継承していってもらえばいいのかな?という気持ちもちょっとありつつ(笑)、どんどん広めていきたい気持ちもありつつですね。

――RSDの課題はなんでしょうか?例えば、限定品の転売問題など指摘する人もいます。

マイケル:オンラインでの転売が一番の問題ということは我々も認識していますし、そういった転売はどうしてもネガティブな印象になってしまうので、我々もできる限りのことはしています。ですが、具体的な解決法はなかなか見いだせていないというのが正直なところです。

これはアメリカ特有の問題なのですが、eBayでただ転売するだけでではなくて、所有していない架空の商品を高値で出品され、数百、数千の架空の商品が出てきてしまい、ものすごい数の転売が行われているように見られてしまうケースも多いんです。それに我々が対処するのは難しいので、大変苦慮しています。

――今後RSDをどのようにしていきたいですか?

マイケル:今までもですが、RSDの一番の目的は「より多くの人にレコードストアへ行ってもらうこと」なので、現在23ヵ国で行われているRSDをもっと多くの国々に拡げていきたいですね。

また、我々は「MAKING VINYL」というイベントも1年に1回やっているんですが、これはレコードの製造メーカーであったり、職人だったり、レコードに関わっている人たちが集まって、高品質で安価なレコードを生産するための効率化についてなど情報交換をするイベントで、これを今後も続けていきたいと思っています。

どうしても大都市にお金や人が集中しがちになってしまうので、もう少し小さい都市にも音楽産業を持っていくことで、経済を回したり、活性化できたらと思い、このイベントはニューオリンズやデトロイトのような規模の都市で開催しています。

――最後にRSDを楽しみにしている日本のレコードラヴァーたちにメッセージをお願いします。

マイケル:RSD当日は是非お気に入りのレコードストアに行ってください。そこで集まった人々同士が仲良くなって、その輪が拡がったり、音楽を共有したりすることが、音楽全体を支えることになると思いますので、とにかくレコードストアに行って欲しいですね。

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