レコチョクからの仮処分命令申立と公式見解を受けて、シンクパワーが一連の経緯を説明
株式会社レコチョクからの歌詞データ流用疑惑の発表における仮処分命令申立を受け、株式会社シンクパワーから経緯を説明したいとの申し出を受け、同社代表取締役社長 冨田雅和氏に緊急取材を行った。
(取材・担当:屋代卓也)
――レコチョクとの間で騒動が起こっているようですが今までのリリースだけでは正直なところよくわかりません。ここに至るまでの経緯を説明してください。
冨田:これまでの当社ウェブサイトでのリリースに対し、様々な方からのお問合せ、ご意見などを頂きましたが、一番多いのが実際には何が起きているのか?というご質問です。そこで、この点をしっかりご説明したいと存じます。
当社は、曲の演奏に合わせて演奏されている歌詞部分を識別することのできる「同期歌詞データ」の作成、提供を事業としている会社です。自社で同期歌詞表示プレイヤーアプリをユーザーに直接提供するとともに、多数の音楽サービス事業者様に、それぞれのサービスやアプリに組み込んでいただく形で歌詞データの提供をしています。
2013年12月以降、株式会社レコチョクとの間で、レコチョクが運営する複数の音楽配信サービスに当社が保有する同期歌詞データの利用を許諾する契約を締結し、当社歌詞データを提供してまいりました。
その後、その契約の更新を重ねてきたのですが、2017年春、レコチョク幹部の方が来社され、「今後、レコチョク自身が自社で歌詞データを作成し保有することになったので、1年以内にシンクパワー歌詞データを順次レコチョク歌詞データに切り替えていく」旨が伝えられました。
そして、実際に、昨年12月以降本年3月末までの間に、複数の音楽配信サービス向けの歌詞データ提供が順次終了することになり、基本としていた契約も本年3月末をもって終了するに至りました。
昨年12月以降、順次当社歌詞データの提供が終了する中で、終了したサービスにおける同期歌詞データの表示がどのようにされているかの確認作業を行いました。
そうしたところ、当社が独自に設定した表示および表記ルールに基づいて作成したデータと全く同じ、あるいは一部の表示および表記を修正加工したにすぎないと思われる歌詞データが、レコチョク提供に係るサービス上に大量に表示されていることを確認しました。そこで、当社は、レコチョクに対し、本年1月にまず文書で、当社データ流用の疑いがあることを指摘し、それに対する見解を求めました。
その後、私自身も、直接レコチョクの幹部の方と面談し、確認された事象についての説明をしましたが、レコチョクの対応はその事実は確認できないとの一点張りでしたので、1月30日、再度同氏と2人だけで面談し、その際、いくつかのサービス画面で実際に確認することのできる画像資料を提示し、改めて回答を求めました。
レコチョクに対する資料の提示はその後も行い、結局、合計6パターンの資料を提示し交付しておりますが、現時点では、一切その資料についての具体的な説明はない状況です。
冨田:いくつかの資料をお見せしたいと思いますが、まず資料1は、本来あってはいけないのですが、当社データの作成段階で誤りが生じ、本来「目」という表示が正しいところ、「巨」となってしまっていました。その後当社は利用者の方からメールでご指摘をいただいて修正を行ったのですが、その後レコチョクサービス内では、「巨」のままの表示になっているケースです。
また、「歌唱に合わせた表示」が必要となる「同期歌詞」の特性上、CD等とともにレコード会社から提供されるいわゆる歌詞カードに記載されているとおりに表示するのでは用が足りない場合があります。
例えば、歌唱が繰り返される場合や複数のボーカルが一時に歌唱される場合などですが、こういった場合、当社では歌詞カードの表記を基本としながら、当社独自の表示ルールを設けて作成しているのですが、それがレコチョク提供に係るサービスにそのまま表示されています。
冨田:資料2は、歌詞カードの表記とは異なり、歌唱にあわせて、当社独自の判断で改行したり、「/」(スラッシュ)記号を入力したりしたものです。
当社プチリリ画面とレコチョクサービスのプレイパスの画面とを比較していただければわかるように、全く同じ表記になっています。
冨田:資料3も資料2と同様、当社独自の表示パターンで入力したサンプルで、歌詞カードと比較して頂ければ、独自部分がわかると思いますが、元々の歌詞カードでは、歌唱部ごとの歌唱者が記号でわかるように書かれてあります。
その記号の中で、「R」については、カラーの色違いで区別されており、それを当社歌詞データとしては、「Re」「Ra」と独自の判断で表記し区別しました。これもレコチョクのプレイパスの画面は、当社のプチリリの表示と全く同じ表示になっています。
今回の3つのサンプルは、大量にある当社内での証拠資料のごく一部です。
――全く説明がないとういうことなのでしょうか?
冨田:当社が提供し交付した資料に対する具体的な説明は、一切ありません。
説明があった内容としては、まず、実際の歌詞の製作は、レコチョクではなく協力会社が行っているので、その協力会社に尋ねたところ、シンクパワーの歌詞データを流用していないとの回答を受けたという説明でした。
そして、その後の面談で、その協力会社が株式会社ソケッツであること、そして、同期歌詞データ生成の仕組みは企業秘密であるため開示できないが、ソケッツを入れた面談の場を設けたいという提案がありました。
しかし、面談の場は設けたいとはいうものの、レコチョク側の説明方法についての当社の要望には応じられないという一方的な回答を送ってくるだけで、レコチョクは、面談の具体的手順等をあらかじめ明らかにすることすら拒否する有様です。
そこで、当社は、その後も一貫して当社の提供し交付した資料に対する具体的な説明を求めております。
――つまりシンクパワーとしては具体的な事実をもって反論、反証してもらいたいと考えているが、レコチョクから具体的な説明もそのための資料の提供もないままに無駄に時間だけが経過して行く…。そのような膠着状態から脱するためにウェブ上での発表に至ったと?
冨田:はい。元々昨年、レコチョクが独自の同期歌詞サービスを行うと聞いたときは、当社には10年以上かけて培ったノウハウがありますので、競合先が出てくるということは、それだけニーズの高いサービスを当社が提供していることを意味しておりますし、また競合先が出てくることで、10年以上にわたり積み重ねてきた「さまざまな環境で最適化された形の歌詞表示に対応できる」という強みを証明できるチャンスとして受け止めました。
しかしながら、今回の検証作業を通じ、当社独自のルールで作成した同期歌詞の表示がそのまま流用されているのを目の当たりにし、これはこのまま放置するわけにはいかない、と感じましたし、真実を追究したい一心でウェブサイトへのリリースを決断しました。
――先方から提訴を予告されたことについてはどのように感じているのか?
冨田:実は、一昨日の土曜日、東京地裁から、レコチョクが東京地裁に申し立てた仮処分申立書等が届きました。
当社ウェブサイトでのリリースが不正競争防止法に抵触するので、「リリース文を削除し、今後も同様のリリースを出すな」という請求内容です。
その中には、現在本訴の提起を準備中との記載もあります。これまでも、当社から具体的な説明を求めるのに対し、レコチョクは、具体的な説明をしないまま、「法的措置」に言及することがしばしばでありましたので、ある程度予想はしていましたが、ビジネスパーソンとしては、大変驚いたというのが正直なところです。
しかし、レコチョクは、訴訟というステージにおいて当社の提示している疑問に答えることを選択したものとみれば、当社としてはむしろ本件の、解決への近道になるのではないかとポジティブに受け止めています。
一昨日届いたレコチョクからの申立趣旨書の中に、同期歌詞データを自動的に生成する方法の概略なるものが書いてあり初めて拝見しました。
そこには、既に1分で自動的に生成できる仕組みが完成した、と書かれています。当社も、歌詞データ生成自動化の研究を今でも継続して行っていますので、自動化のアイデアがいくつもあることは承知しています。
しかし、問題は、その完成度なのです。既に精度面でも完成し、データを短時間で生成することが可能なのであれば、どうして当社の指摘するような事象が大量に発生するのかについて大いに疑問を感じます。
つまり、手法の理屈を提示しているだけであって、実際には、当社データそのものを流用しているのではないかという疑念は全く払拭できておりません。
レコチョクは、今後、本訴を提起すると述べていますので、訴訟手続の中で我々の疑念に対しての説明をきちんとなされることを期待したいと思います。当社としては、レコチョクからの訴え提起を正々堂々と受け止め、法廷の場で徹底的に戦う決意です。
――音楽業界の人々に伝えたい、これだけは理解してほしいということがあればどうぞ。
冨田:音楽は、まず作詞、作曲をする方によって創造され、その作品を歌い、演奏する方々によって広く人々の心に伝播されます。これらの方々なくして当社の事業が存在しないことは常に認識しなければならないと思っています。
音楽業界にいらっしゃる多くの方々は、さまざまな形で、音楽を「伝える」ことにかかわっておられます。
当社は、作品を創ることはできませんが、単に時間情報の入った歌詞データを作成すれば事足れりと考えているのではなく、できるだけ多くの人の心に「音楽による感動を届けたい」という伝える方の思いと、「歌詞とともに音楽を聴くことによって深くその音楽を味わいたい」という聴く方の気持ちにお応えできるよう、スタッフ一同日々、同期歌詞データの作成や、表示の仕組みなどを工夫し、改善してきております。今回流用の疑念があるのは、当社が何よりも大切にしているノウハウの蓄積された歌詞データなのです。
レコチョクと当社では、業界における規模、ポジションも全く異なります。しかし、業界のリーダーであるレコチョクには、必要な説明責任を果たす義務があります。当社としては、今回の疑念につき、客観的な資料を示しての説明をするよう要求を続ける所存です。レコチョクには、それに真摯に対応されることを期待したいと思います。
――よくわかりました。 ありがとうございました。
ミュージックマンネットとしては、歌詞データの無断流用(盗用)というあってはならない重要な問題を含んでいるため慎重にこの問題を扱っていく所存である。