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【SXSW】「音楽と異なる要素を掛け合わせることで、どんどんおもしろい方向に進んでいっている」 SXSWミュージック・フェスティバル総責任者、ジェームズ・マイナー氏

インタビュー フォーカス

ジェームズ・マイナー氏

アメリカのテキサス州オースティンで毎年3月に開催されている世界最大級のクリエイティブ・コンベンション「SXSW」のオフィシャル・ミートアップが6月26日に東京にて開催された。ミートアップ開催にあたり来日したSXSWミュージック・フェスティバルの総責任者であるジェームズ・マイナー氏に、注目している音楽市場の動向や求められているアーティスト像、さらにSXSWを最大限に活用するためのアドバイスなどをうかがった。

ジェームズ氏はイベントコーディネーターやバンドマネージャー、ブッキング/プロモーション担当、ライブハウスマネージャーを経て、2011年にSXSWミュージック・フェスティバルのブッキング担当に就任。2012年にミュージック・フェスティバルのゼネラルマネージャーとなり、2016年より現職を務めている。

>> インタビュー同日におこなわれたオフィシャル・ミートアップのレポートはこちら

――まず、ミュージック・フェスティバル総責任者(Head of Music Festival)として、具体的にはどのような業務をされているのですか?

ジェームズ・マイナー:ミュージック・フェスティバルにおいて、必要なことすべてを監督しています。私たちの部門にはミュージック・プログラマーたちによるチームがあり、そのなかのひとりがミュージック・フェスティバルのすべてのキュレーティングをしています。それほど多くはないスタッフでたくさんのことをしています。

――もともとはミュージック・フェスティバルとしてはじまったSXSWですが、今日、フィルムやインタラクティブをはじめ、さまざまな要素を含んで、さらに大きなイベントへと成長しています。それら別の要素がくわわったことにより、ミュージック・フェスティバル自体はどのように変わりましたか?

マイナー:おっしゃるように、SXSWも以前はとても小さなミュージック・フェスティバルでした。当時はショーケースの会場も事務局が取り仕切り、出演するバンドの数も少なかったです。フィルムやインタラクティブなどその他の要素もくわわりながら年々成長しつづけ、いまではインタラクティブ・フェスティバルがもっとも大きく、次いでミュージック、フィルムとなっています。

音楽業界の在り方もどんどんと変化していて、近年は金銭的な部分において市場が縮小していることから、これまでとは異なるお金の生み出し方が求められています。好都合なことにSXSWはこういった話題を多く扱っていて、たとえば新しいテック企業が求めているコンテンツに、ミュージック、フィルムもなり得るわけです。

異なる要素が集まり、それらを掛け合わせることで、どんどんおもしろい方向に進んでいっています。きっかけは別のお金を生み出す方法を探すことだったかもしれませんが、業界全体でよりクリエイティブになろうと学んでいるように思います。

――SXSWミュージック・フェスティバルの特色を挙げるとすれば、どのようなことでしょうか? 多くの人を惹き付ける要因はなんなのでしょう?

マイナー:オースティンという「街」によるものが大きいと思います。とてもユニークな場所で、開催時期も最適です。ヨーロッパの国々の人たちは寒さに嫌気がさしている頃で、オースティンに暖まりに来ていることもあるでしょう(笑)。素晴らしい気候に、おいしい食べもの…。なにより、他者とつながることを目的に多くの人がSXSWを訪れていることは大きな特徴で、とてもエキサイティングなことです。

――2018年は日本から1500人以上がSXSWに参加しました。どれくらいの人たちがミュージック・フェスティバルの参加者なのでしょうか?

マイナー:かなり多くはありますが(200〜300人ほど)、10年前よりは少なくなっています。というのも、日本の音楽市場はとても「日本」にフォーカスしていて、すくなくとも金銭的に市場が縮小している現在、海外に輸出する必要はないのだということを私自身も理解しています。アメリカ人はとてもめんどくさがりなので(笑)、英語ではない「なにか」で他者とコネクトすることはむずかしいです。ヨーロッパの方がもっと簡単でしょう。

ですが、そのような西洋の様子も、すくなくともアメリカについては変化してきています。よい例がBTS(防弾少年団)で、多くの人が熱狂しています。とくに若年層は英語と異なる言語で音楽を聴くことにもとても寛容で、BTSの歌を韓国語で歌うこともあります。これはとても大きな進歩だと思います。今の子供たちが大きくなる頃にはもっと定着していることでしょう。

――2018年は2000組を超えるアーティストがミュージック・フェスティバルに出演しましたが、6000組以上の応募のなかから選ばれたそうですね。どのように出演アーティストを決めているのですか?

マイナー:1組のアーティストに対し、2人でレビューしています。もっとも重要なのはもちろん音楽性ですが、この他とくに重要視していることは、そのアーティストがSXSWでパフォーマンスする準備ができているかどうかです。航空券やビザ、宿泊費を含めて、出演にかかる費用を事務局が負担することはありません。

SXSWミュージック・フェスティバルとは、つまりミュージック・ショーケース・フェスティバルです。アーティストは音楽業界に対してショーケースするわけです。出演するにも来場するにもとても高い費用がかかっていますから、私たちは出演するアーティストや関係者、来場者に対して責任があります。

そのため、SXSWでショーケースすることが彼らの利益につながるようにすることをとても意識しています。もしアーティストが多くの費用をかけてオースティンに来てもショーケースに誰も来ていないなどとなれば、アーティストはもちろん、誰にとっても幸せなことではないですよね。

――課題はありますか?

マイナー:いつもあります。毎年フェスティバルの終わりにはレビューをして、次の年に改善できるよう対策などを話し合いますが、私がこの役職(ミュージック・フェスティバル責任者)に就いてから最大の目標としていることは「縮小させること」です。毎年、50や100ほど、出演アーティストをすこしずつ目的をもって減らしていています。それは数ではなく、クオリティを優先しているからです。

私としては、2200組の無難なアーティストを集めることよりも、2000組の素晴らしいアーティストにパフォーマンスをしてもらいたいと考えています。

同日に行われたオフィシャル・ミートアップにてSXSWについて解説するジェームズ氏

――ミュージック・フェスティバルの総責任者として、今後やっていきたいことはどのようなことでしょうか?

マイナー:規模を縮小して、よりきちんと管理できるような体制にしたいですね。あとは、いつもユニークなイベントとなるように心掛けています。昨年行なった作曲家のマックス・リヒターによる8時間のコンサートは、私自身が3年をかけて出演交渉をしてようやく実現したものです。

マックスのまわりにはおよそ200台のベッドが置かれていて、彼が「Sleep」という8時間の楽曲をパフォーマンスしている間、来場者たちはそのベッドに横たわって眠るといったものでした。深夜0時から朝8時まで演奏したのですが、とても素晴らしかったですね。ぜひ観てみてください

マイナー:2015年のPerfumeよる音楽とテクノロジーを融合させたパフォーマンスもクールでしたね。フィルム・フェスティバルも同様に「なにかユニークなものを」ということを念頭にプログラムしていて、2016年にX JAPANのドキュメンタリー映画『We Are X』を上映した際にはYOSHIKIがピアノを演奏しました。SXSWの他の要素とコラボレーションすることで新しいユニークなことができるのであれば、どんどんやっていきたいですね。

――日本のミュージシャンたちに、SXSWでの経験をより楽しく、有益なものにするためのアドバイスをいただけますか?

マイナー:ミュージック・カンファレンスはとても価値のあるリソースなので、ぜひさまざまな音楽業界の人たちの話を聞いて自分たちの活動に活かしてほしいですね。日本の実情はわかりませんが、全体的な傾向として、アーティストは音楽という芸術にフォーカスしがちです。ですが、アーティストがビジネスの成り立ちを知っておくことは、彼ら自身を守るためにもとても大切なことであり、これらを学ぶことは大いに役立つことでしょう。

また、メンター・セッションを申し込むと、音楽業界を構成するさまざまなプロフェッショナルたちと直接話をすることもできます。直接質問したり、アイデアを話してみる絶好の機会です。あとは自分たちのショーケースの出番のとき以外は、どんどん出掛けていろいろなショーを見たり、たくさんの人たちに会ってみたりしてください。いろいろな人に会いやすい機会ですし、ひらめきや刺激など新しい経験が得られることを願っています。

――最近、とくに注目している音楽業界の動向はありますか?

マイナー:市場について言えば、いつもアジアがおもしろいと感じています。最近だとストリーミングがどのようにアジアに進出しているのかから、さきほどお話したBTSのように、アジアからどのような音楽が世に出ているのかまで、とても興味があります。

また、アメリカン・ヒップホップがどのように捉えられ、その影響がどのように世界中に広がってきているのかにも注目しています。より私の個人的な興味でいえば、アンダーグラウンド・ミュージックに興味があり、新しい音楽を探しています。

――日本の市場についてはどうでしょうか?

マイナー:好きな日本のバンドはYahyelです。彼らはSXSWでもパフォーマンスをしました。近年出演したCHAI、TAWING、ドミコ、水曜日のカンパネラなども素晴らしかったですね。

――これまで日本のバンドは「Japan Nite」のショーケースに出演することが多かったように思いますが、最近では別のSXSWの枠で出演しているバンドも多くなってきたように思います。Japan Niteとその他のショーケースに出演することには、なにか具体的な違いはあるのでしょうか?

マイナー:Japan Niteはヒロシとオードリー(※SXSWアジア事務局の麻田浩氏とオードリー木村氏)が主催しているツアーで、ニューヨークやカリフォルニアなどアメリカ複数の都市でショーケースをしています。SXSWでは、そのツアーの一環としてショーケースをしているわけです。

また、SXSWでは特定のショーケースに出演できるのは6組前後としているので、もしすべての日本のバンドがJapan Niteの枠で出演したいとなると、SXSW全体で6組ほどの日本のバンドしか出演することができなくなってしまうのです(笑)。

――現在の音楽市場は、どのようなアーティストを求めていると思いますか?

マイナー:私にとっての理想は、まず音楽を愛し、先駆的な音楽性があって、彼らの音楽を聴いた人たちが「先駆的だ」「特別な”なにか”がある」などと話題にするようなアーティストです。また、SXSWを新しいレコード発表のきっかけやツアー、すくなくとも通常のレコード・サイクルの一部として活用するなど、自分たちのテリトリーのなかでなにかが起きるのを待つのではなく、積極的に外に出て活動するアーティストを見たいなと思っています。

――最後に、日本の音楽業界に携わる人たちにむけて、メッセージをお願いします。

マイナー:むずかしい質問ですね(笑)!…まず、ここ(日本)にくることができて、知識豊富な日本の音楽業界の人たちと話す機会が持てることを本当に幸せに思います。アーティストは既存のバンドや音楽をコピーするのではなく、ユニークさを持ち続けることが必要です。その「ユニークさを持ち続ける」ということにおいて、日本のアーティストたちはとても素晴らしいと思っています。そのユニークさを、ぜひなくさずにいてほしいですね。

ライター:坂本 泉(Izumi Sakamoto)
大学を卒業後、カナダの日系情報誌とオーストラリアの日系PR会社にて勤務。イベントレポートやインタビューを中心に、カルチャーから経済まで幅広い分野の記事執筆や編集、撮影などを行う。現在は日本を拠点にフリーランスフォトジャーナリスト/エディター/ライターとして活動。
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