イノベーター発掘番組 J-WAVE「INNOVATION WORLD」プロデューサーに聞く次世代のエンタメ
J-WAVEのイノベーター発掘プログラム「INNOVATION WORLD」から誕生したラジオAIアシスタント・Tommyが、AIシンガー「AI Tommy」として9月19日にデビューした。
また、この番組から生まれ今年で3年目となる日本最大級のテクノロジーと音楽の祭典「INNOVATION WORLD FESTA 2018 Supported by CHINTAI」が、六本木ヒルズにて9月29日・30日に開催される。
イノベーターを支援し、アイデアとテクノロジーで新しいビジネスを創ることをコンセプトにした同番組の立ち上げからプロデューサーとして関わる、J-WAVE 編成局 デジタル開発部長 小向国靖氏に、AIシンガー誕生の裏話や番組が目指す未来などを伺った。
- イノベーターの熱量を届ける番組として「INNOVATION WORLD」がスタート
- VTuberとは一線を画すAIキャラクターの市場はあるのか
- 日本を代表するイノベーター、アーティスト、最先端テクノロジー企業が集結「イノフェス」が開催
- 目前に迫るエンタメが革命的に変わる「5G」の世界
イノベーターの熱量を届ける番組として「INNOVATION WORLD」がスタート
――ラジオ番組「INNOVATION WORLD」はどのような経緯でスタートしたのでしょうか。
小向:スマートフォン、ソーシャルネットワークがスキマ時間を奪う中で、ラジオならではの新しい事業をやっていこうと、現・社長の中岡(中岡壮生氏)と僕で事業企画室を立ち上げて、デジタルマーケティングを研究したり、新しいビジネスを研究していました。そんな中、たまたまスタートアップ企業が集まるカンファレンスイベントに行ったんですが、さながら文化祭を彷彿とさせる熱気がありエキサイティングだなと思っていました。
ただ、その世界は一部のベンチャー企業家と投資家と、大企業でもデジタル分野の人しか知らない閉ざされた世界だとも感じていました。この熱量をもっとわかりやすく、ラジオや音楽に載せて届ければ、日本全体が盛り上がるだろうという直感があり、2014年に「INNOVATION WORLD」をスタートさせました。
――ナビゲーターにはAR三兄弟・長男の川田十夢さんと、史上初のラジオAIアシスタント・Tommyが起用されていますね。TommyにはIBMの「Watson」というAIが使われているそうですが、昨年8月に初登場以来、約1年でどのくらい成長したんでしょうか?
小向:最初は、現在も行っている「ゲストの性格分析」からスタート。初登場から約半年後には、リスナーからの「XXなときに聴きたい曲を教えて」という漠然としたリクエストに対して、J-WAVEで過去にチャートインした楽曲データから具体的な曲を選ぶことができるようになりました。さらに、半年後(現在)に今度は自分で詞を書き、AIシンガーとしてデビューするまでに成長しました。
――Tommy自ら作詞をした楽曲「INNOVATION WORLD」が9月19日に配信されましたね。
小向:歌詞は『不思議の国のアリス』や、『千夜一夜物語』など、ファンタジー系の著作権が切れた小説作品を学習させて、その上で「イノベーション」というテーマを与えて出てきた歌詞なんですね。何を言っているか意味不明なところもあるんですが、詩はAIが書いて、曲は人間(作曲は浅田祐介氏)が作るというところが僕のこだわりなんです。テクノロジーと人間の協調でモノを作っていくのがいいんですよね。
VTuberとは一線を画すAIキャラクターの市場はあるのか
――ちなみに今、Tommyとコラボさせたい方はどなたですか?
小向:名前を挙げるとキリがないですね(笑)。おかげさまで、テクノロジー方面でも、音楽方面でもネットワークができ始めているので、色々なことができるポテンシャルがあるなとは感じ始めています。
今後、TommyではSpotifyのバイラルチャートの上位を狙いたいです。サブスクリプションの時代になり音楽がシームレスに世界と繋がっているので、Tommyにとってはすごく良い環境です。歌詞は意味が謎とはいえ英語で歌っていますから、アメリカの人に聴いてもらっても良いですよね。音楽の売り方が大きく変わってきたので、AIに限らず、大人の事情で芽を出すことができなかったミュージシャンたちには挑戦しがいがある環境になっていると感じます。
――番組発の新しいビジネスとしてだけでなく、Tommyをアーティストとして育てたいという思いもあるんでしょうか?
小向:Tommyをキャラクター化して、AIタレントとして売り出したいという想いは最初からありますし、新しいビジネスとしての意義もあります。最近ではバーチャルYouTuberも次々生まれていますが、それとはまた一線を画したAIキャラクターとしてどういう市場があるのか、チャレンジしています。
日本を代表するイノベーター、アーティスト、最先端テクノロジー企業が集結「イノフェス」が開催
――そのTommyも出演する「INNOVATION WORLD FESTA」(イノフェス)が9月29日、30日に開催されますね。J-WAVEが開局30周年ということで、六本木で2daysと過去最大規模となりますが、過去2回のつくばでの開催と比べてどのような違いがありますか?
小向:良いところを踏襲しつつ新しいことを取り入れることが1つのコンセプトです。まず今年は「e-スポーツ」にチャレンジしました。準備にかなり苦労したんですが、協賛もついていただいて、初日の午後に「e-SPORTS イノフェスCUP Powered by Zoff」を開催することになりました。これは新機軸として面白いかなと思っています。
――幅広い分野のイノベーターが出演するトークセッションや、アーティストとのコラボステージも豪華ですよね。
小向:将棋棋士の羽生善治さんと、イノフェスのテクノロジー・プロデューサーも務めている落合陽一さんの対談がありますが、羽生さんはこういったイベントにはあまり出演されないですし、2人とも緻密で「生きるAI」のような人たちなので面白いと思います。
音楽まわりですと、初日のオープニングは、ちょっと前にSpotifyのバイラルチャートでずっと1位にランクインしていた崎山蒼志くん。クライマックスがm-floで、EXILEや三代目 J Soul BrothersのライブでのLEDダンスパフォーマンスを手がける藤本実さんとのコラボステージが予定されています。
2日目のオープニングはAwesome City Clubと筑波大学のクリエイティブチーム・Nu Inc.とのステージで、スマートフォンを使った参加型の演出をします。また、andropはALS患者のクリエイター・武藤将胤さんと、眼の動きだけで音や映像をコントロールするセッションを披露します。最後にはASIAN KUNG-FU GENERATIONとAR三兄弟がコラボしますが、アジカンの楽曲の世界観をテクノロジーで拡張するようなパフォーマンスになると思います。
目前に迫るエンタメが革命的に変わる「5G」の世界
――エンターテインメント分野でのテクノロジーの進化をイノフェスでも体験することができると思いますが、小向さんから見て今はどのような傾向があると思われますか?
小向:プロジェクションマッピングやAR技術がここ数年注目されているのは周知の通りなんですが、もう1つの大きい波は5G。2020年からサービス開始と言われていますが、エンタメの楽しみ方が革命的に変わると思います。
――具体的にはどう変わるんでしょうか?
小向:同時にたくさんの人が、スマートフォンでほぼ遅延なく映像を楽しめるようになります。現在は何千人もいる会場の中でみんながスマートフォンにアクセスして、インタラクティブに映像を届けることが事実上できません。でも、それができるようになるとステージ演出が圧倒的に変わりますし、その場にいなくても楽しめるような世界が簡単に作れます。
5Gの環境が整うまでには少し時間がかかると思いますが、そこが1つ大きな階段を上るタイミングだと思いますね。これは音楽だけじゃなくスポーツ中継もそうです。
――またライフスタイルが1つ大きく変わるんですね。
小向:そうですね。新しいビジネスも生まれてマネタイズもどんどんできると思いますし、アーティストにとってもすごくいい変化が起きると思います。
――小向さんとしては、そういった新しいビジネスを作ろうとしているイノベーターの方たちと、今後どんなことをしていきたいと考えていますか?
小向:例えば、番組で紹介したベンチャーさんと一緒に「VR J-WAVE」という、VRヘッドセットをつけて新人ADとなってJ-WAVEのスタジオをクリス・ペプラーさんに案内してもらえるコンテンツを作って今回のイノフェスで初出展します。このように、面白いコンテンツを様々なベンチャーさんと作るようなチャレンジは積極的にやっていきたいですね。もしかしたらスケールアップするものがあるかもしれないですし。
――ゆくゆくは日本から世界に広がっていくような次世代ビジネスが作れたら理想的ですよね。
小向:そうですね。例えばイノフェスをアメリカでやってもいいわけですし、ジャパン・テクノロジーを海外に持って行くフェスとしても面白いと思います。