レコード・ラヴァーの夢を叶えるプロジェクト「GREAT TRACKS Order Made Vinyl」がスタート / ファンリクエストをもとにアナログ盤をリリース
ソニー・ミュージックダイレクトのアナログ専門レーベル「GREAT TRACKS」創設3周年を記念し、ファンリクエストによる新しいアナログ・リリース・プロジェクト「GREAT TRACKS Order Made Vinyl」(以下 OMV)が8月30日よりスタートした。
OMVはユーザーからの商品化リクエストに基づき、タイトルを厳選してSony Music Shopにて期間限定で予約を募り、限定枚数のみを販売するというユーザーと制作、販売をダイレクトに繋ぐプロジェクト。すでに第1弾となる4アイテムが発表され、予約もスタートしている。
今回はOMV始動を記念し、ソニー・ミュージックダイレクト 代表取締役 華岡徹氏と同社 ディレクター 蒔田聡氏に、OMVに込めた想いや「GREAT TRACKS」の3年間、そしてアナログのこれからについて話を伺った。
- 少数ながら熱狂的に求められているレコードをリリースする方法
- 「GREAT TRACKS」設立からアナログの自社一貫生産に至るまで
- 発売して1日で店頭から消えた吉田美奈子「TOWN / 恋は流星」
- サブスクの対極にあるアナログの魅力を突き詰める
- OMVはレコードが好きな人たちの夢を叶えられるようなプロジェクトにしたい
少数ながら熱狂的に求められているレコードをリリースする方法
――「Order Made Vinyl」(以下 OMV)を発足させるきっかけは何だったんでしょうか?
蒔田:2016年、ソニー・ミュージックダイレクト(以下 SMDR)の中で、音質にこだわったアナログ専門レーベルとして「GREAT TRACKS」を立ち上げました。「GREAT TRACKS」はこの3年で約90タイトルをリリースしてきたんですが、どうしても有名アーティストの、定番的なアルバムが優先的にリリースされる傾向にあり、少数ながら熱狂的に求められている作品をリリースする方法がなかったので、そういったレコードたちを提供できるサービスはないかと考えまして、「GREAT TRACKS」3周年を期に立ち上げたのがこのOMVです。
――そういったニッチな作品を求めるユーザーの声は以前からあったんでしょうか?
蒔田:はい。ユーザーもそうですし、関係者からも「こういった作品を出して欲しい」というリクエストをたくさん頂いていました。また、90タイトル近くリリースする中で、「ユーザーが本当に欲しいものは、実は違うところにもあるのではないか?」とも思っていたんですね。今回OMVでリクエストを募ることで、我々も気づかなかった作品、アーティストを発見できるかもしれないという思惑もありました。
――具体的にOMVのシステムについて教えてください。
蒔田:SMDRは、2004年から「オーダーメイドファクトリー」というサービスを提供しています。これは廃盤になってしまった作品を一定数のリクエストが溜まることにより商品化し、ソニーミュージックグループのオンラインショップ「Sony Music Shop」で販売をするサービスなんですが、このシステムを基に、よりアナログに特化させる形で発展させたのがOMVです。
では「オーダーメイドファクトリー」とOMVは何が違うのかと申しますと、アナログはCDに比べて制作期間を長めにとらなくてはいけないんですね。ですから「オーダーメイドファクトリー」のシステムをそのまま使ってしまうと、リクエスト数が達成してから制作することになってしまい、お客さんの手元に届くのが半年後とかになってしまうんです。そうなると、例えばクリスマスレコードを企画したとしても、届くのは夏になってしまう、みたいな事態が起こってしまいます。
ですからOMVでは、あらかじめみなさんからリクエストを募った中から、ディレクター5名を中心に合議の上で作品を決定し、リリースの発表と同時に予約を受け付け、翌月にはお手元に届くというようなスピード感でやっていきます。
華岡:つまりリクエスト=企画を募集するということですよね。そして「これはいける!」と思った作品は作っちゃおうと。
――第一弾リリースとして4作品(笠井紀美子「バイブレイション(LOVE CELEBRATION)」 / ソニア・ローザ「東京イン・ザ・ブルー」 / 小池玉緒「鏡の中の十月」 / CHOCOLATE LIPS「WEEKEND LOVER」)が決定していますが、なぜこの作品を選んだのですか?
蒔田:「オーダーメイドファクトリー」にあるリクエスト機能から常時リクエストを頂いていたものと、周りの関係者やDJからの要望なども加味して選びました。
――オリジナル盤はかなりプレミアがついている作品たちですよね。
蒔田:そうですね。値段的なこともありますし、「綺麗な状態のレコードが欲しい」という要望も多かったです。これらの作品は90年代にDJの方々が発見し、流すことで再評価され、今も手に入れたい音楽ファンが多いですが、加えて、最近は海外の方々からも人気がある作品でもあります。
――ちなみに7月30日からプレサイトですでにリクエストを募っていましたが、リクエストにはどのような傾向がありましたか?
蒔田:割と傾向を見つけづらいと言いますか、本当にバラバラです。みなさん個人的な想いでリクエストされる方が多く、80年代の作品から最近のJ-POP、アイドルものまで、あまり偏りはなかったですね。僕はもう少しクラブ寄りと言いますか、第一弾リリースのタイトルに近いものが多く望まれていると思っていました。もちろんそういった作品のリクエストも来ているんですが、それ以外に「自分の好きな作品をアナログで聴いてみたい」という純粋な要望の方が多かったです。
――CDのみのリリースだった作品のアナログ化の要望が多かった?
蒔田:そうですね。今後の展開としても、そういったアナログになっていないCDのみの作品を積極的に取り上げていきたいですし、またアーティストとコラボレートして、オリジナル商品を出していけたらと考えています。
「GREAT TRACKS」設立からアナログの自社一貫生産に至るまで
――設立から3年たった「GREAT TRACKS」ですが、改めて発足の経緯やレーベルに込めた想いについてお聞かせください。
華岡:そもそもSMDRという会社は、“マニアの痒いところに手が届く”がポリシーです。ですから、アメリカのアナログ市場の盛り上がりや、HMVさんがアナログ専門店をオープンする状況を見て、「我々がアナログをやらない手はない」と思ったんですね。また、私自身がアナログ好きなので、レコードショップに行くわけですが、海外の若い人たちがたくさん買いに来ているのを目の当たりにして、「これは絶対にやった方がいいな」と。その状況で指をくわえて見ているわけにもいかないですし、だったらSMDRでアナログをリリースしようというのが「GREAT TRACKS」の始まりです。
――アナログの盛り上がりを肌で感じられたわけですね。
華岡:そうですね。うちの会社にはオーディオマニアもたくさんいますし、蒔田君が色々なところでレコードを買っているのも知っていましたから(笑)、マーケットとしても確実にニーズが(チャンスが)あると確信していました。
――「GREAT TRACKS」は発足当初から“音質と音圧にこだわった”アナログ専門レーベルと宣言されていましたね。
華岡:はい。出すからには徹底的に音にこだわったアナログをユーザーに届けようと考えました。そこで「GREAT TRACKS」が目指した音は80年代のアメリカ盤です。昔って国内盤とアメリカ盤では全く音が違ったんですよね。特にジャズやロックは音圧が全然違うし、アメリカ盤は下手したら針が飛ぶぞ!みたいな迫力がありました。
国内盤に関してはどんな機械でも針が飛ばないように規制していた部分もあって、音圧を入れきれなかったのですが、「GREAT TRACKS」から出すアナログは、当時のアメリカ盤に負けない音質と音圧を実現しようと。駄目なターンテーブルだと針が飛んじゃうかもしれないけど、それも含めて買ってねという(笑)。
また、復刻盤を出すならば、1枚300円で売られている中古レコードに対抗しなければならないわけですよ。3,000円で買ってもらうためには音を極限まで良くしなくてはと思い、プレス工場もアメリカで、何社もテストした結果一番良い音だと感じた会社に決めて。カッティングもバーニー・グランドマン本人にやってもらい、「オリジナルが輸入盤だったらこういう音だったろう」というものを作ろうと試みました。やはりマニアが喜ぶようにしないと誰も買ってくれないですから、ジャケットも含めて、とことん突き詰めようと。
蒔田:ジャケットのデザインも作品ごとにオリジナルを忠実に復刻したり、当時のものとはちょっと変えてみたりと、時間を掛けて作成しています。
華岡:「GREAT TRACKS」から出したアナログは、実際に聴いてもらって、手に取ってもらえばその良さを分かってもらえるクオリティに達している自信があります。そして、2017年にはとうとうソニーミュージックグループとして、静岡の製造工場にプレスマシンまで買ってしまいました。当初はそこまでは想定していなかったんですけどね。
――「GREAT TRACKS」は自社での一貫生産を想定して設立されたわけではなかったんですか?
華岡:カッティングまでは考えていたんですが、プレスに関してはアメリカですればいいかなと思っていました。それが「プレスマシンを買った」と聞かされたときには正直驚きましたね。
蒔田:当初は、アナログのプレス工場を復活させるのは難しいという話だったんですよ。
華岡:カッティングも含め、当時アナログ製造に携わっていたスタッフがもうほとんどおらず、レコードの材料のレシピすら失われた状態から再開させたので、工場の方々は本当に大変だったと思います。音を徹底的に追求して、原料やスタンパーまでどんどん改良していって、3年かけてようやく納得のいく音になりました。僕はどこにも負けない音だと思っているんですが、「GREAT TRACKS」のプロデューサーの滝瀬茂は「もっといける!」と言っています(笑)。彼は職人ですから求めるレベルが高いんですよね。でも、私はこれからは静岡工場でのプレスでいこうと思っていますし、自社で一貫生産できるようになったからこそ、OMVのような企画でレアな作品もリリースできるようになったんです。
蒔田:やはり自社で一貫生産できると制作期間の短縮ができますし、アメリカでプレスする際にかかる輸送コストが抑えられます。
華岡:あとアメリカのプレス工場は、音は素晴らしいのですが、盤が反っていたり、ホールが真ん中でなかったり、ラベルもずれていたりと粗い部分もあって。そこが味だというのもあるのですが、日本のユーザーには受け入れられないことも多いのです。そういったクオリティコントロールも自社ですとやりやすくなりますしね。
発売して1日で店頭から消えた吉田美奈子「TOWN / 恋は流星」
――「GREAT TRACKS」の3年間で一番反響の大きかった作品は何でしょうか?
蒔田:吉田美奈子「TOWN」と「恋は流星」をカップリングした限定生産の12inchでしょうか。これは発売して1日で店頭から消えて、オリコンのデイリーも9位だったんですが、商品がなくなったので当然翌日にはランク外です(笑)。
華岡:もっと作っておけば…という話なんですけどね(笑)。
――やはり追加プレスって大変なんですか?
蒔田:そうですね。そこから追加で生産をすると、何ヶ月も先の納期になってしまいますし、コストもかかってきますので、最初に作った枚数と同じ数を作らない限り利益はとれないんです。しかももう一度カッティングし直して、スタンパーを作ってと、結局再プレスって一からやり直さないといけないので、実質、初版とは違うものになってしまいますし、厳密に言えば別の商品になるとも言えますよね。
華岡:実は今後、その聴き比べもやってみたいと思っているんですよ。例えば、アメリカプレスで出したものと静岡プレスを聴き比べて「どっちが好き?」みたいなね。
――オリジナル盤と「GREAT TRACKS」からのリリース作の聴き比べとかやったら面白そうですね。
華岡:オリジナル盤が一番いいんだという意見(声?)も確かにあります。発売当時、アーティスト本人が決めた音ですから。もちろん「GREAT TRACKS」の作品も改めてアーティスト本人に聴いてもらい、OKをもらってリリースしています。
蒔田:復刻ものに関して言えば、録音した当時の鮮度の高いマスターテープをそのままカッティングしたオリジナル盤と、時間が経ったマスターテープから作る復刻盤とでは当然違いが出てきます。もちろん現代だからこそ技術的にできることもありますので、一概に善し悪しの判断はできないと思いますが。大方のタイトルはデジタル・アーカイブされていますので、現代的なクオリティを保ったマスターとオリジナル・マスターとを比較して、どちらを使った方が良いのか判断しています。
華岡:オリジナルのマスターがあるものに関しては、とことんオリジナルにこだわっていますが、とことんレアなものになるとマスターがどこにあるのか分からないものも中にはあるんですよ。会社ではなくアーティスト本人が持っているケースもありますし、当時のディレクターが持っていたりすることもありますからね。
サブスクの対極にあるアナログの魅力を突き詰める
――アナログの今後についてはどのようにお考えでしょうか?
華岡:実はこの間、何人かスタッフをアメリカに視察に送ったのですが、彼らから「アメリカのアナログマーケットは飽和状態です」という報告がありました。つい最近までアナログ市場の良いニュースが次々と出てきていたのですが、そういったブームはひとまず落ち着いて、これからは平行線、あるいはゆっくり下降線を辿っていくだろうなという感じが少しあります。
――その要因は何なんでしょうか?
華岡:そもそも、なぜアメリカでアナログが売れているのか、正直言って私には未だに分からないんですよ。真っ先に配信に突入した人たちが本当にアナログを聴いているの?みたいな。まあ、ジャケットが欲しい人たちがいるのかもしれないな。
蒔田:アメリカは日本よりも早くCDが売れなくなってしまったじゃないですか? そこで販売店は売れないCDをどかして、代わりにアナログを並べたんですね。でもアナログも日本のアナログマニアが好きそうな作品ではなくて、どちらかというとポップなヒット曲、例えば7〜80年代の名盤をもう一度置いている感じなので、日本とはちょっと状況が違うんですよね。
華岡:次はアメリカでCDブームが来るかもしれませんね(笑)。
蒔田:いや、本当にそういうことは分からないですよね(笑)。みんなが止めちゃったら逆に「CDって良かったな」となる可能性もあるかもしれない。カセットなんかがそうですよね。
――ちなみにCDに対してはお二人はどういうスタンスなんですか?
華岡:私はCDも大好きですよ。実はSACDが一番良いとおっしゃる方々もいますよね。マスターがそのまま入っていますし、クオリティコントロールもアナログより遥かに優れていて、どんな再生機でもいい音が出る。いくら我々がクオリティコントロールをしていると言っても、アナログは厳密に言えば盤ごとに音が変わってしまいますし、聴取環境によっても変わってしまいます。その点SACDは完璧。CDはそれよりも劣るけど、最終的には好みの問題だと思います。様々なフォーマットでブラインドテストするとCDの音が一番良いなと感じたりすることもありますよ(笑)。CDの音が一番聞き慣れているから。
――オーディオの楽しみ方もアナログの魅力だったりしますよね。
華岡:そうですね。オーディオマニアたちはそこがたまらないわけですよね。ターンテーブルと針、アンプとスピーカーの組み合わせはもちろん、ケーブルを変えるとか、電源まで専用線を引くとか、とことん追求すればきりがない世界。CDオーディオ以上に幅は広がると思います。
蒔田:同じレコードでも1枚目にプレスしたものと100枚目にプレスしたものは音が違いますからね。ですから厳密に言うと、レコードって世界にたったその1枚しかないんです。そこがロマンティックでもあり、いいところだと思いますが、デジタルのように誰もが一定のクオリティで音を楽しめるというのも良い。それぞれ一長一短あると思いますね。
――現在はCDからサブスクへ音楽の聴き方も変わってきていますが、アナログはそういったものの対極にありますよね。
華岡:我々はそれを狙っていますからね。音楽を多くの人に広めるのであればサブスクで、もっといい音で聴きたかったらCDもあるしアナログもあるし、カセットもあるといった選択肢があるほうが楽しいじゃないですか。アナログは高いですが、音には自信がありますから、「一度これで聴いてみたらどうですか?」とお薦めしたいです。
――あと、アナログにはサブスクでは分からないクレジット表記がありますよね。ミュージシャンやエンジニア、スタジオなど関わった人たちの情報が欲しい人はたくさんいると思います。
華岡:クレジットは本当に大事だと思っています。サブスクではエンジニアのクレジットはおろか、ミュージシャンの情報すらない。「GREAT TRACKS」ではその部分も大切にしようと考えています。アーティストやミュージシャンだけでなく、エンジニアにこだわる人が出てくるかもしれないですし、うちの会社にはプレス工場にこだわっている人間もいますけど(笑)、そういった世界が拡がれば、もっと音楽が面白くなると思いますね。
OMVはレコードが好きな人たちの夢を叶えられるようなプロジェクトにしたい
――日本におけるアナログを取り囲む状況についてはどのように見ていらっしゃいますか?
華岡:アメリカと比べると成熟しきっていないですから、まだまだ伸びしろはあると思います。それこそターンテーブルを持っていない人ってたくさんいますしね。そこで大切なのは販売チャネルだと思うんです。我々は東京に住んでいますから気軽にショップに行けますが、地方の方々はどこで買っているんだろう?と。ここが最大のネックだと思っています。
――そこに関して何か考えられていることはありますか?
華岡:もし既存の販売店さんがなくなってしまったら、最終手段としては自分たちでやるしかないと思っています。今、高齢者の方々もネットを使いこなしていらっしゃいますし、OMVのように自分たちでプレスしてそのままお届けというのが最後の砦になるのかもしれませんね。ただ、レコードってたくさんある中から選びたいじゃないですか(笑)。
蒔田:目的もなく、とりあえずお店に行って、発見する楽しみがありますから、お店のような場ってやはり必要なんじゃないかなと思いますね。
華岡:我々はOMVでお客様を囲い込みたいわけではないですし、今後OMVと販売店がコラボすることも十分考えられます。また、自社ものだけでなく、他社レーベルの作品を手掛ける可能性もあるかもしれません。
――そこに垣根はない?
華岡:全くないですね。現に「オーダーメイドファクトリー」も他社さんと何度かやらせて頂いています。
蒔田:OMVのリクエストも、他社さんの作品でも全く問題ないです。ソニーの作品に限るとか、邦楽に限るといった縛りは一切設けていません。もちろん部署としては基本ソニーミュージックのカタログを使って、なおかつ邦楽の音源を中心にリリースしていくとは思いますが、あえてそこは謳わずに、純粋に「今、どういった作品をレコードで聴きたいですか?」ということを問うているので、洋楽のリクエストも、他社音源のリクエストもたくさん頂いています。
華岡:その場合は我々が交渉しにいきますから(笑)。これ自体で大きく儲けようと思っているわけではないんです。下手したら赤字だよ、みたいな(笑)。
――(笑)。それでもOMVをやる動機はどこにあるんでしょうか?
華岡:蒔田君がやろうと言うから(笑)。
蒔田:(笑)。まず僕を含めアナログが大好きなディレクターがいまして、根本的にはそれぞれが出したいと思うものを出したいというモチベーションがあり、それをどうやって実現していけばいいかな? というところからOMVは始まっているんです。もちろん会社なので赤字を出すつもりはないんですが、ちょっとでも利益が出るのであれば、どんどんリリースしていきたいなと。そのニュアンスがきっとアナログファンなら分かってもらえるかな…と思っています。
――それはすごく伝わってきます。だってOMVってアナログが好きな人間にとっては夢みたいな話じゃないですか。
華岡:そうやって受け止めて頂けると本当にありがたいです。このOMVってショップというよりもアナログ好きのコミュニティーだと思っているんです。OMVが盛り上がって、お客さんが交流し出して、もしかしたらサロンみたいになるかもしれませんよね。今後サイトでは読み物も充実させていく予定ですし、イベントをやるのもありでしょうし、OMVを通じてアナログが好きな人たちが活発に交流してもらえたら最高ですよね。
別に古いものばかりやっているわけでもなくて、CDでのリリースしかなかった作品もやりますし、当時シングルカットしていなかったけど、新たにシングルカットするものもあるでしょうし、いくらでもやりようはあると思っています。
――レコード好きが飲みながら語り合うような話ですよね(笑)。
華岡:最高でしょう? 一晩中話していられます(笑)。我々はOMVでそれを実現したいんです。メジャー、インディーズ関係なく、アナログ好きな人たちのための作品を作るというのが使命でもあるので。
――例えば、OMVのサイトで商品化への途中経過が分かったりしたら楽しいですよね。
華岡:そこのストーリーテリングもしたいんですよね。だってアナログを作るのってすごく大変ですから。アナログってCDと違ってスタジオだけで聴いてOKというわけではないんですよね。カッティングから始まり、各段階で音を確認しなくてはいけないですから。とても面白いことなんですが、大変ですよ。
蒔田:経済効率を考えたら非常に悪いので、なかなかやりたがらないのが普通なんですけどね(笑)。
華岡:ですから他社の作品もその面倒な部分をうちでやりますよとなれば、いいなと思いますね。商売をクローズドにする気は全くないですし、OMVを通じてアナログ全体が盛り上がって、裾野が広がってくれた方が絶対に良いですからね。
蒔田:「GREAT TRACKS」の3年間で社内環境が整ったのも大きいんですが、明らかにアーティスト側から「アナログ盤を出したい」という要望は増えています。
――そういった相談が「GREAT TRACKS」には寄せられるんですね。
華岡:先ほども申し上げたようにアナログの制作って本当に手間がかかりますから、レーベルのディレクターたちが、とても忙しい中でどこまでできるかなんですよ。いつでも「ウチに預けてくれれば満足いただけるまでやりますよ」というスタンスでいますので、是非、相談して頂ければと思っています。
蒔田:そして、OMVはレコードが好きな人たちの夢を叶えられるようなプロジェクトにしたいなと思っています。とてもコアな企画ですが、レコードが好きな人たちの熱量に応えられるような面白いプロジェクトにしていきたいと思っていますので、是非チェックして頂きたいですね。