広告・取材掲載

第8回 キース・カフーン 氏

インタビュー リレーインタビュー

キース・カフーン 氏
キース・カフーン 氏

タワーレコード株式会社 代表取締役

日本に来て早23年、日本を愛し、インディーズ・シーンにも造詣の深い極東タワーレコードの総帥、キース・カフーン氏。早くから少年ナイフ他をアメリカに紹介する等、日本のアーティストのインターナショナル進出を積極的に応援していることでも知られている、飾り気のない、等身大の氏をご紹介します。ほとんど日本語のインタビューでしたが、フォローしてくれた某大手音楽出版社のM氏に感謝。

[2000年5月26日/タワーレコード株式会社応接室にて]

プロフィール
キース・カフーン(Keith CAHOON)
タワーレコード(株) 代表取締役

1955年11月20日 北カリフォルニアのストックトン生まれ。9歳の時に初めてレコードを買い、15歳の時からサンフランシスコのタワーレコードに通い始める。1977年〜ストックトンとサクラメントのタワーレコードに勤務。同時期よりローリングストーン誌やPulse(アメリカ版bounce)などに寄稿を始める。1984年〜アジア担当の取締役に就任。現在ではアジア地域(韓国、香港、台湾、タイ、シンガポール、マレーシア、フィリピン)、日本国内のタワーレコード(43店舗)、レコードレーベルGianormous、スーパーシュナーズ音楽出版社、bounce、@Tower.JPを総括している。 タワーレコードは現在18ヶ国に店舗展開を行っている。

[好きなアーティスト]
the New York Dolls Hank Williams Rolling Stones Johnny Winter 矢野顕子 坂本龍一 少年ナイフ THEE MICHELLE GUN ELEPHANT 椎名林檎 布袋寅泰 コーネリアス Mad Capsule Markets BULLSHIT Babamania


 

    1. 花のサンフランシスコ
    2. バイトで入ったタワーレコード
    3. 日本で無名、アメリカで有名な少年ナイフ
    4. いずれはインターナショナルでブレイク?–日本のアーティスト
    5. 日本とアメリカのディストリビューションの違い
    6. 日本とアメリカのマネージメントシステムの違い
    7. アーティストの志の高さ、ヘビーローテイションの違い
    8. 極東タワーはキース・パワー?
    9. やっぱり今の日本はエキサイティングで面白い

 

1. 花のサンフランシスコ

キース・カフーン2

−−カリフォルニア出身という事ですが。

キース:ずっとカリフォルニアに住んでいまして、ストックトンという小さい町で育ちました。あまり知られてませんが、ミュージシャンはペイブメントとクリス・アイザックがストックトンの出身です。タワーレコードの本社のあるサクラメントまでは1時間ぐらい。まず、ストックトンのタワーレコードで働き始めました。その後でサクラメントで研修して。

−−音楽好きな子供だったんですか?

キース:9歳ぐらいからレコードをたくさん買いはじめました。

−−自分でプレイする事は?

キース:大学生からギターを始めましたけど、あんまり上手くないです (笑)

−−小さい頃に好きだったのはどういう音楽ですか?

キース:初めて買ったCDはローリング・ストーンズ。私のまわりの人はローリングストーンズかビートルズ聴いてて。どっちを選べと言われたら、私は絶対ローリングストーンズ (笑)

−−60年代はヒッピー、フラワームーブメント等があって、ウエストコーストはものすごく盛り上がっていたと思いますが…。

キース:私はまだ44歳なのでヒッピームーブメントの時代はまだ若かったですけど、高校生の時はよくサンフランシスコに行きました。そこで初めてタワーレコード見つけて…。ストックトンに比べてすごく大きくて、昼間はタワーレコード、夜はライブハウスに行ってました。ジャニス・ジョプリンとかサンタナの大ブレイクとか、ちょうどそういうムーブメントと同時にサンフランシスコのタワーが出来ていたんです。サンフランシスコのミュージックシーンはタワーが作っていたように思いました。また、トム・ドナフュって人がKSANっていうアンダーグラウンドなラジオ局をオープンして、オータム・レコードっていうレーベルをスタートして、彼が初めてリリースしたのはスライとか…。

−−そのオータム・レコードっていうのはスライの他にどんな人が?

キース:グレートソサイエティ、グレース・スリック、(ボンブロウ)、モジョメンとか。モジョメンにはテッド・テンプルマン(後のドゥービー・ブラザーズやヴァン・ヘイレンのプロデューサー)等がいました。ヒッピームーブメントは高校生の時で、僕の中ではホーン・セクションバンドに強いインパクトを受けていました。タワーオブパワーとか、コールドブラッド、サンズオブチャンプリン。日本ではあんまり有名じゃないですけど、この頃にライブですごい人が集まった。ボズ・スギャッグスもこの時代はホーンセクションバンドでやってました。

−−その頃は単なる音楽ファンだったんですか?それから70年代に入ると音楽関係の仕事とかライターとかされたんでしょうか?

キース:高校生の頃は音楽はすごい好きでしたけど、そういうビジネスをするとは全然考えていませんでした、実を言うと、幼稚園の先生になりたくて…。というのは、世界をもっと前向きな気持ちに変えていくには、子供達にそういう風に教えていけば良いんじゃないかって思ったんですけど、大学入ってみると、現実と自分の理想は食い違ってて、先生はストレスを溜めてて、給料も低いし…。急に変わったわけじゃないですけど、すこしずつこれは違うなっていう風に変わって来ました。

−−そこには当時のロックのスピリットとかの影響があるんでしょうか?

キース:自分ではちょっとわかりません。特別なものはないと思いますが、環境とか色んなことを全部高校生の時に経験はしたから自然とそういう気持ちになりました。

−−ご両親が先生だったとか?

キース:私のお父さんはカウ・ボーイ(笑) モントレーに近いカリフォルニアのところでいわゆる牧畜経営していました。曾おじいさん、お父さんはそういうビジネスをしてましたが、あんまり良いビジネスではないので今はしてません。

−−モンタレーといえばジャズフェスティバルで有名ですが…

キース:見た事あります。本当は1〜2年前初めて行きました(笑) 小さい頃は行ってません。モンタレージャズフェスティバルは長い歴史ですけど、モンタレーポップフェスティバルはスペシャルケースでした。ジャズフェスティバルでは今アメリカで一番有名ですけどね。

−−じゃ、モンタレーポップフェスティバルは見てないんですね、日本の朝妻一郎さん((株)フジパシフィック音楽出版代表取締役社長)が見に行ってるのに(笑) 小さい時は馬に乗ったりして遊んでたんですか?

キース:家畜はそばにいたけど、特にそういう遊びはしてません。イメージとしては馬に乗ったりするカウボーイがありますけど、最近ではそういうのは実際はありません。

−−70年代以降の大学の話でアメリカのウエストコーストの雰囲気とか自分のまわりの話で何かありますか?

キース:子供の時、私の友達のお父さんはラジオDJをしてて。彼はたくさんレコード持ってて、それをチェックしてました。それでフランク・ザッパのファンになって、すごい好きでした。フランク・ザッパのサイドバンドでリトルフィートっていうのがいて、そのLPは出てすぐ買いました。リトルフィートは大好きでした。

 

2. バイトで入ったタワーレコード

キース・カフーン3

−−タワーで働き始めたのはいつの話ですか?

キース:77年です。大学を辞めて、大工になって、大工の仕事のイメージも私の中ではすごいロマンティックで(笑) でも実際はそんなにロマンティックではありませんでした。大工は冬に仕事が出来ないのでよくタワーレコード行ってスタッフと知り合いになってバイトを始めて。最初3〜4ヶ月働こうかなと思って、今年で22年になりましたから、私にとってはすごく良いバイトだったんだと思います(笑)

−−それはサンフランシスコのタワー?

キース:ストックトンです。

−−それからだんだん出世するわけですね。

キース:バイヤーになってから、サクラメントのタワーに移って。色々なセクションにタワーは輸出入の部門を作りました。メインはUKと日本。それから日本に興味を持ったわけです。

−−具体的にいうと、何に興味持ったんですか?

キース:色々ですけど、その時は喜多郎とかカシオペア、ラウドネスとかのLPは輸入していました。時々、喜多郎が載ってる雑誌とかあったんですが、すごく面白そうだけど、読めなくて(笑) 私もだんだん日本語を勉強するようになって、『アメリカンシーザー』っていうマッカーサーの日本での経験とかが書かれた本を読んだり。私の日本語の先生は私がタワーに入った時から既にタワーで仕事していた先輩の女性で、色々指導してもらっていました。

−−その彼女は日本に縁があったんですか?

キース:彼女は日本人と結婚したことがあって日本が大好きでした。良く日本に住みたいと言っていました。

−−キースさんが日本に来る事になったいきさつは?

キース:オーナーのラッセルから突然「日本に行かないか?」というオファーが来て。実は私は彼女と一緒に住んだりするような仲になっていたんですが、この時は彼女は学生でサンフランシスコにいて、私は3ヶ月間イギリスのタワーにいた時でした。それでまず私が一人で日本に来て、そして彼女が卒業した後日本に来て、日本で結婚して、子供も日本にいるという現在に至ったわけです(笑)

−−じゃあ日本に来るまでは日本の事は知らなかったんですか?

キース:あんまり知りませんでした、それまでに日本語の先生と一緒に何回か仕事で来たことはあったんですが、初めて来た時は札幌、東京、横浜の3軒のタワーしかありませんでした。私が着任する前にいた人は日本が嫌で「帰りたい」って言ってました(笑) 初めは卸の仕事をしてて。それからすぐ札幌でニセモノのタワーレコードってお店が出来て(笑) そのオーナーはお金持ちの音楽フリークの人で。「タワーが日本に来るとは知らなかった」と言ってました。それでその人と交渉して、ニセモノが本物になりました(笑) でも札幌の店はインパクトが無くてタワーが有名になったのは渋谷の店を作ってからです。今はレコード店も変わりましたけど、当時の店で200坪、色んな人に「どうしてそんな大きな店作ったんですか?」「そんな大きな店はいらない」って言われました。東京の店は全部の商品が輸入盤で、この時は7時が閉店時間、10時まで開けてても人が全然来ませんでした。

−−渋谷のタワーが出来たのは何年でしたっけ?

キース:1982年です。

 

3. 日本で無名、アメリカで有名な少年ナイフ

キース・カフーン4

−−日本に最初に来た時はどちらにいらしたんですか?

キース:最初は山梨です。先生の家族の家です。それからしばらくして新宿に移りました。新宿はすごいところですね。アナザーワールドです。覚えているのはアパートの窓から日本人が工場の屋上でラジオ体操してるのが見えたりして(笑) ネオンがキラキラしてて、レコードショップ行ったらワイシャツとネクタイの人がレコードをチェックしてて(笑)

−−僕らが昔、アメリカ行った時はタワーの山積みにびっくりしました。

キース:でも、すぐわかったのは日本人は音楽大好きって事、ジャズから洋楽…。

−−洋楽詳しい人たくさんいますしね。

キース:音楽フリーク度は東京が一番すごいと思います。

−−少年ナイフを見つけてアメリカで紹介したのはいつの話なんですか?

キース:少年ナイフはアンダーグラウンドでは有名でした。小さいレコードショップで少年ナイフを見つけて、最初はカセットテープで聴いてたんです。その時の私のスタッフやレコード業界の友達は少年ナイフの事は全然知らなくて。大阪の店がオープンした時にも少年ナイフの商品を売りたかったけど、ディストリビューションは全然無くて「日本のアーティストでアメリカで売れるのは誰?」って聞かれて「少年ナイフ」って答えていましたけど、「えっ誰?」って(笑)

−−それまではカシオペアとか喜多郎とかって言ってたんですか?

キース:アメリカではハウンドドックが押されましたけど、私は「絶対ダメ」って(笑) どういう事かというと、アメリカ人は日本のもの買ったら、何か日本の”味”が欲しい。ハウンドドッグはちょっとアメリカンスタイルですけど、アメリカ人にはニセモノみたいに聞こえる。喜多郎、YMO、ラウドネスは日本の”におい”、少年ナイフも同じ。時々英語で歌ってますけど、センスは日本っぽい。

−−彼女達の英語はネイティブじゃない英語ですが、あれはアメリカ人は面白く聞こえるんですか?

キース:人によってだと思いますが、時々わかりにくい事もありますが、面白い。彼女達の英語はだんだん上手くなりましたけど、スタートの時はめちゃくちゃで、面白かった。今の少年ナイフの曲もとても良い、ベストソングライトだと思います。とにかくヴァージンミュージックの人に紹介したら彼女達にすごい興味持ってサインする事になって、アメリカでメジャーデビュー出来ました。

−−日本でのディストリビューションは?

キース:日本は友人を通じてヴァージンミュージックでマネージメントしてもらうことになり、アメリカはヴァージンレコード、日本はMCAに、イギリスはオアシスのレーベル(クリエイション)に紹介してもらいまいた。そして、少年ナイフはニルヴァーナとツアーしたり、ヨーロッパのメジャーフェスティバルでプレイしました。マイクロソフトのCM曲も作りました。今アメリカ人に「日本人で一番メジャーなアーティストは誰?」って聞いてもたぶん一番多い答えは少年ナイフだと思います。

−−日本では誰もそんな風に思ってないのに面白いですね。

キース:日本で無名、アメリカで有名な少年ナイフ。

−−それで日本のインディーズバンドとか好きになっていったんですか。

キース:日本の味。例えば、コーネリアスはアメリカ人から見て日本的なアーティスト。色々な外国の音楽を使うミクスチャーはすごい面白い。

−−でも日本を感じるものがあるんですね。

キース:ピチカートファイブとかも日本的。

−−ビジュアル以外、音でもそうですか?

キース:音も彼女たちの音はポップスっぽい。アメリカ人も信じられないくらいポップスっぽい。ちょっとドラマティックでムービーセンス、スタイルとか全部集まって面白い。

−−他にアメリカでも人気が出るかもしれないというアーティストはいますか?

キース:気になるのはボアダムス。アメリカでは昔はヘビーメタルが人気あったんですけど、今はメロコア、パンクタイプ、NICOTINEとかKEMURI。そして、今人気あるのはチボマット。チボマットのレコードはすごく長い間売れました。私が面白いと思うのは、メロコア、スカコアのバンドは国際的に友達を作っている事。パンクワールドの中では日本とアメリカは強いネットワークが出来ています。

−−NICOTINEもHI-STANDARDもそうだし、KEMURIもそういう事やってますよね。軽く国境を越えてますよね。

キース:でも、有名どころになるとそういう事が出来ません。スタッフはたくさんいるし、アメリカで2ヶ月間は長すぎます。

−−少人数であればメンバーの家に泊まったり出来るし。

キース:宿泊費も安く済むし。スタッフはローディーだけとかで済みますからね。

–後編は日本と世界の音楽業界システムの違いなど、アメリカと日本での経験豊富な氏ならではの貴重なコメントに注目!

 

4. いずれはインターナショナルでブレイク?–日本のアーティスト

キース・カフーン5

−−BOOM BOOM SATELLITESはご存じですか?

キース:知ってます。

−−彼らもヨーロッパからアメリカまで全部まわってますよね。

キース:BOOM BOOM SATELLITESとかDJ KRUSHとかAUDIO ACTIVEは世界の中で人気を上げました。ほとんどクラブ系ばっかりでアメリカよりヨーロッパの方が強いですね。

−−テレビでやってましたけど、すっごい人気でしたね。

キース:近いうちに日本のアーティストはインターナショナルで大ブレイクすると思います。

−−どういうジャンルでブレイクすると思いますか?

キース:いろいろな分野でだんだんレベルアップしてる。今は海外でほとんどの人が日本のポップスカルチャーに興味があります。私が日本に来た時は真似るものばかりでしたけど、今の日本はポップスカルチャーの中ですごく強い。ポケモン、カラオケ、アニメ、マンガ、ビデオゲームとか全部日本からですからね。

−−でも音楽はまだまだですよね。

キース:日本のポップス業界はいすれはインターナショナルでブレイクしたいと思っている。普通インターナショナルの意味はニューヨーク、ロス、ロンドンですが、今、東南アジアの中ではブレイクしています。Dreams Come TrueとかLUNA SEAとか安室奈美恵がライブ出来たりとか色んな雑誌に載っています。

−−キースさんは日本だけじゃなく東南アジア全部統括されているんですよね。

キース:オーストラリアやニュージーランドは違いますけど、地域としては極東地域の責任者です。

−−国で言うと?

キース:韓国、香港、台湾、タイ、シンガポール、マレーシア、フィリピンの7ヶ国です。

−−日本にとって台湾の音楽マーケットは大きいと言われていますが、台湾のタワーレコードでは欧米のものと日本のポップスはどちらが強いですか?

キース:一番強い影響は日本だと思います。台湾のポップスをチェックすればわかると思いますが、欧米よりは日本の影響を受けていると思います。

−−他のアジアの国はどうですか?

キース:シンガポールと香港はイギリスの影響が強いですから。私の考えでは普通の国は70%ぐらいロックミュージックですけどシンガポールでロックは1%ぐらい。昔は政府が厳しくて、ロックや長髪が禁止だったり、ジュークボックスが禁止だったり、今年まではスラムダンスが禁じられていたり、だからロックには大きくなる要素がありませんでした。

−−中国にタワーが進出する事はあるんですか?

キース:中国は著作権が全然守られていません、香港にタワーがあるんですが、海賊版が出回って、コンディションが良くありません (笑)。香港に進出した時は海賊版は10%ぐらいでしたが、今は60〜70%ぐらいです。政府も全然気にしてませんし。日本の商品もすごく海賊版が出回っています。

−−それはタワーで売ってるわけじゃありませんよね?

キース:当然ないです。だから大変なんです (笑)。香港のタワーに置いてあるCDは日本に比べて安いけれど、海賊版は300〜400円ぐらい。あと、SMAPとかの日本のテレビ番組もBSTVから入ってきてるし、ポケモンのグッズとかも海賊版があります。音楽はアートですが、コマーシャルアート。中国が著作権を守るようになれば、エンターテインメント・ビジネスが出来ますが、現状ではその考えはありません。ソニーなどはスタッフがいてその勉強をしています。でも、これからは大きなマーケットになると思います。しかし残念ながら、近い内ではないでしょう。

−−話は変わりますが、ディストリビューションのシステムで日本とアメリカの違うところはどんなところなんでしょうか?

キース:実はディストリビューションのシステムはすごく違います。

 

5. 日本とアメリカのディストリビューションの違い

キース・カフーン6

−−メジャーのディストリビューションは日本とそんなに変わらないと思うんですが、インディーズのディストリビューションはどう違うんですか?

キース: アメリカの場合、レーベルは音楽好きの人やファンが集まってレーベルを作りますが、あんまりお金が無いので、非常にがんばって自分のエネルギーからプッシュします。だんだん大きくなって、時々成功する事があります。例えばエレク・トラ・レコードはスモール・レーベルからすごく大きな会社になりました。ほとんどのレーベルはそういうタイプ。スモールグループからだんだん大きくなる。だから、基本は音楽の大ファン。

 でも、日本は反対ですね。レコードレーベルは電器や放送系の会社。大きい会社はサブカンパニーを作る。レコード業界もメイン・ビジネス、サブ・ビジネス、マイナービジネスといろいろありますが、もっと音楽マニアの人がディレクターとかセールスマンとかになればいいけど、フリークが少ない。

 もちろんインディーズレーベルがスタートする時は売り上げは小さいですから、自分でディストリビューションする。そして、アメリカの会社はよく合併します。例えば今のEMIタイムワーナーはスタートはワーナーでした。ワーナーはちょっと違うんですけどアトランティックはR&Bフリーク、エレクトラはフォークミュージック・ファンが会社を作りました。
 日本のディストリビューションシステムは大きな会社は2チャンネルぐらい、アメリカでは最初はたくさんチャンネルがありますが、だんだん合併していって少なくなります。だからアメリカのディストリビューションワークはいつもいつもチェンジする。でも日本はなかなか変わらない、10年ちょっと前、アメリカでもインディーズレーベルはそんなに無かったですけど、だんだんレーベルが出来てきて、今ではインディーズが一番面白いというふうになってきた。新しく情熱的な人はリスクを気にしない。大きい会社だったらリスクは大変。だからだんだん保守的になる。
 ですけれども、例えば私のスタートするレーベルはリスクを負える。だから日本でのインディーシーンではスパイスになる。新しいスタイルとか新しいプレイとか。そうすれば、だんだんメジャーレーベルも影響受けると思います。まあ、今の日本のディストリビューションもこれからどんどん成長すると思いますけど。

−−じゃあ、日本の音楽業界は良い方向に向き始めたって事ですか?

キース:すばらしいわけではありませんが、日本もアメリカの状況と近くなってきています。アメリカでも小さいレーベルだからこそという感じで、お金があんまり無かったりとかスタッフもあんまりいないから逆にリスクを犯しても大きい損はないと。結局日本もアメリカも小さいところでは同じ様な状況です。日本もアメリカも小さいところでの問題もあるし、大きいところではリスクを負えないという状況もある。新しいチャレンジが出来ないという事に関しては状況は似通ってきてると思います。
 だけどHI-STANDARD、SNAIL RAMP、POTSHOTとかのように日本のそういったバンドも自分達の小さいレーベルでやってるけれども10万とか50万売れるっていう状況が出来ているのも事実です。メジャーがディストリビューションしていくらがんばっても5千枚売れないケースもあるし、小さいレーベルのバンドが5万枚売れるケースもあるので、どんどん変わってきてる。アメリカでミュージックフリークがアトランティックみたくスタートして大きいところと合併したりとか小さいところどうし合併したり、メジャーが小さいところを飲み込んだりとかしてるように、日本でも今後そういうアメリカで起こったような事が起こるんじゃないかと思います。

 

6. 日本とアメリカのマネージメントシステムの違い

キース・カフーン7

−−海外のビジネスとしては会社を売ったりっていうのはしょっちゅうありますが、日本ではそういう状況が本当に起こり得るのでしょうか?日本では起こらないと思うのですが。

キース:日本でも起こると思います。ただ、日本とアメリカが大きく違うところのひとつとして、日本では制作会社(マネージメント・プロダクション)が強い。アメリカでは、レーベルビジネスとアーティストが直接結びついていることが多い。日本とアメリカではマネージメントシステムが違います。

−−日本ではマネージメント会社がアーティストのマネージメントをしますが、アメリカではミュージシャン、アーティストがマネージャーを雇うかたちが多いと聞きますが。

キース:もちろんいろんなケースがあると思いますが、私の印象は日本のマネージメント会社のボスはレコードレーベルですけど、アメリカのマネージメント会社のボスはバンド、アーティストですね。バンド側がマネージャーが良い仕事しないとクビにします。バンドがあってのビジネスですから。でも日本のシステムはだんだん変わります。

−−アメリカの方がアーティストのロイヤリティーは高いですよね。

キース:当然アメリカの方が高いですけど、日本の場合はアーティストに給料を払ってるので、どうなんでしょうか?

−−アメリカのアーティストはほとんど自分でリスクを負うわけですよね。

キース:アメリカのバンドはミュージシャンしてバンドやっていくモチベーションが最初から高い。もちろんポスターはあちこちにはって欲しいし、コンサートは毎日やりたいってガンガン人に働きかけるし、自分達でもやる。日本の場合は給料もらってやってるから一年のうち2ヶ月レコーディング入るとあとは気分としてはバケーションでやってるみたい。スタートする時点で日本とアメリカではモチベーションが全然違うのでその差は大きいですね。

−−いかにも日本的ですよね。

キース:日本の場合は安全な方法でやってると思いますね。

−−それは音楽だけじゃないような気がしますね。

キース:日本とアメリカで野球が違うように、日本の野球は管理されたもので。

−−昔日本では10万枚越えるのも大変でしたけど、最近では300万枚、500万枚とものすごいメガ・ヒットが出るようになったんですけど、そのシチュエーションは特別なものだと思うんですが。

 

7. アーティストの志の高さ、ヘビーローテイションの違い

キース・カフーン8

−−メガ・ヒットとしてアメリカとは状況的には同じなんですか?

キース: 幾つか共通する部分はありますけど、アーティストによっては違うところもあるんじゃないかと思います。例えば、Dreams Come Trueの昔のアルバムはまだ売れますし、サザンオールスターズもそうですが、そうでなく、最近のアーティストの中には200万枚〜300万枚売れるけど半年経つとその商品が売れないようなことがある。だから日本ではいわゆる使い捨てみたいな扱い方をしているんじゃないか、アーティストへの思い入れみたいなのが今のファンに取っては無くなって来てるんじゃないかと思ったりします。ファッションとしてのメガ・ヒットっていうのは、そのアーティストとバイヤーが10年、15年と積み上げていくみたいなこととは違うんじゃないかと思う。どこまでがメジャーかは別として、イニシャル(最初の6週間で何枚売れるか)至上主義、レコード会社の広告の打ち方も5年後どうしようかって事じゃなくて最初の6週間で95%売るってところだけに考え方が集中してるから、そういう影響もあるんじゃないでしょうか。
 アメリカでは日本の状況とは全く逆でメジャーでも最初に発売したものが半年後、あるいは一年かかって売れるケースもあるし、普通のレコード会社でも一年がかりでアーティストとか作品をやっていくけど日本のメジャーにはそういうのはありませんね。かえってインディーの方がクチコミとかそういう事で一年ぐらいかけて商品を売るって事が起こりつつあるんじゃないんでしょうか。
 私が見る限りでは日本のメジャーが一年かけて売れたって事は聞いたことがない。日本の場合はテレビの影響が非常に大きくて、テレビのタイアップが無いものをヒットさせるのはすごく大変です、アメリカのアーティストは自分の音楽にもっとプライド持ってますから、自分の音楽を売りたいって気持ちはあるんだけれど、アーティストとして自分のCDを売るためにタイアップとかなんか違うものでやるっていうのは絶対許されない。だからそういう事はありません。したくないって気持ちの方がアメリカの場合強いし、ただ頭下げてまで自分のもの売りたいっていう事はしない。

−−志もアメリカの方が高いですね。

キース:アメリカにももっとアホなバンドもいっぱいいますから、それ程高いって事は無いにしても、アーティストが自分たち自身にどういうイメージを持ってるかっていう事の差がいろいろあるんじゃないかなって思います。

−−アメリカの場合はラジオ・パワーっていうのがあるから自分達の音楽のメディアっていうのが、テレビに偏らなくて済んでるのが良いですよね。

キース:アメリカにもテレビのパワーはありますけど、タイプがちょっと違います、アメリカではMTVがすごいパワーがあって、例えばNIRVANAのブレイクもMTVからですし。日本では今MTVがパワーがありません。スペースシャワーとかありますけど、ケーブルとか衛星放送ですし、普通の人は見れませんから。でもアメリカではやっぱりラジオがすごい影響力を持っています。アメリカのラジオ局にはフォーマットがあって、よく同じ曲をプレイします。ヘビーローテーションになると3時間に一回は聴きます。日本でヘビーローテーションといっても、例えばTOP10チャートの上位曲でたぶん一日に一回プレイする程度。ローテーションのスタイルが違います。日本のラジオはデイパート。アメリカのカリフォルニアは車社会、ドライブ中はラジオを聴きます。日本ではラジオは聴きませんからね。

−−つらいですよね。ところで、インターネットからの配信が始まりましたけど、今後どういう可能性があるとお考えですか?

キース:無視できない状況がインターネットビジネスにあると思いますし、レコード会社のプロモーション手段としても不可欠だし、今後一つのチャンネルだけにビジネスが残るとは誰も言えないし、一番誰が儲けるかと言ったら、著作権を持ってる人間がビジネスをするだろうし、それは間違いないだろうと思います。例えばデヴィット・ボウイやプリンスは自分の著作権持ってるから、自分でやれてしまう。RCAとかワーナー・ブラザーズは交渉してpromotionfee(仲介手数料)やマスターライツはキープしました。だから良いマージンでダウンロード出来る。だけど、新しいアーティストはもっとプロモーションとかが必要です。

−−mp3.comがすごいサイトになってきてるみたいですね。裁判で負けたという話もありますけど、あれに関してどう思われます?

キース:国としてそういう事を許してしまうと、協力してる権利持ってる出版社とか、産業全体がダメになってしまうと思います。まだまだマイナーなビジネスだと思います。将来的にはウェブサイトやインターネットでデビューしてくるアーティストが出てくる可能性はありますが、それは新しいCDが出て来てヒットするのと変わらないから、別に新しいコンセプトだとかそういう事は思いません。

−−今タワーレコードでやってるのは通販なんですか?

キース:今は新聞をインターネットで見る方が早いって事もあるけれども、実際に新聞を手に取って見る人もいるように、それぞれの状況によって違うし、ただのサイトにしてもひょっとしたら急に重要なものになるかもしれないけれども、少しずつ状況に合わせてやっていくしかないですね。

−−ダウンロードは?

キース:ダウンロードにしてもやってく方向で考えてるし、そこで宣伝する事もあるだろうし、インターネットでやる事も大事だし、通販で買う人もいるだろうし、タワーに実際に来て商品を見て買う人もいるだろうし、少しずつ状況に合わせて変えていきたいですね。

 

8. 極東タワーはキース・パワー?

キース・カフーン2

−−日本ではTOWER、HMV、Virginとか外資系と言われている中で、TOWERが一番インディーズ・セクションが充実していますが、それはキースさんがそういう方向に力を入れてる事が反映されてるからですか?

キース:他の2社と比べて個人的な部分で言ったら、それはあります (笑)。やっぱり個人的に好きだし、インディーだから中にはひどいのもあるけど、良いのもあるわけで可能性として応援したいですからね、すごく新しいものだとか、フレッシュなものがインディーから出て来て欲しいという、自分の気持ちの思い入れがタワー・レコードの中にも影響してるんじゃないのかなっていうのが、自負も含めてあります。

−−Gianormousとかスーパーシュナーズなど独自の制作とか出版を日本の会社で置いてますけど、グローバルなタワーレコードの中では珍しい事なんですか?

キース:基本的には日本だけですね、アメリカの方ではタワーレコードとしてインディーとかに投資するって事は始まってます。アメリカの方では日本でやってるような形の同じインディーレーベルは無いけど、結局制作していくっていうことをエンタテインメントのビジネスの中で学んでいくっていうのは良いことじゃないかなって思います。日本だけじゃなくて他の国ともやっていく可能性があります。当然国によって状況は違いますから。

−−日本でそれが始まっているのはキースさんのマン・パワーがあったからでしょうね。

キース:タワー全体でプロダクションする力があったから出来たんだと思います。

−−日本のインディーズに限らず、インディーズバンドの輸出っていうのはタワーのネットワークで積極的にやってるんですか?

キース:やっています。最初のタワーレコードがオープンしてからやってます。

−−オーダーを取るシステムはどうやってやってるんですか?

キース:限界はありますが、最初にオープンした時から日本の状況を向こうに教えたりとかしてやってきています。アメリカから比べればほとんどと言っていいぐらい誰も知りませんけど、ギターウルフのファンは結構います。日本とのギャップはすごくあります。

−−向こうのタワーレコードにはジャパニーズ・ロックとかそういうセクションはあるんですか?

キース:店によってですけど、そういう風にカテゴリー分けしているところもあります。お客さんを教育する事も必要だけど、お店側の人間も教育していかなきゃならない (笑)。タワーとして日本のものを海外でやっている事に関しては自信を持ってやってるし、喜多郎をブレイクさせたっていう事ではタワーとしてすごく影響力があったんじゃないかなと思います。東南アジアにしても初めて店をオープンするときから日本の状況をタワーとしてお店からファンに提供していってやるっていうことをやっています。

 

9.やっぱり今の日本はエキサイティングで面白い

キース・カフーン3

−−素晴らしいですね。ところで、オフはどういう過ごし方をなされてるんですか?

キース:普通の月〜金は仕事に専念しているので、週末は出来るだけ子供といる時間を作るようにしてます。

−−お子さんはどんな感じで?

キース:9歳と12歳の2人でインターナショナル・スクールに通っています。娘の日本語はなかなか上手いですよ。音楽とかスポーツにも興味持ってるんで、子供達と一緒に過ごすのが楽しいんです。

−−生まれた時から日本だと、アメリカと日本の文化の違いの認識はどうなんでしょう?

キース:日本とアメリカの違いはわかってるようですが、日本が母国っていう感覚があるみたいですね。

−−アメリカの方が良いとは言わないんですか?

キース:アメリカの事は好きですけど、特に娘は是非日本にいたいと言っています。

−−キースさんはこの後もずっと日本にいらっしゃるんですか?

キース:当初の予定では3年でしたが、今では日本に来て15年になります。でも日本のレコード業界はエキサイティングで面白いですからすぐには戻りませんけど、いつかはアメリカに戻りたいです。

−−日本の業界に望む事はありますか。

キース:色んな新しい会社がスタートして欲しいし、メジャーも小さなレーベルもそこからインターナショナル化されてどんどんヒットが出ていくような状況に常に前進していって欲しいっていうのが私の業界に対する気持ちです。

−−今日はお忙しい中、大変ありがとうございました。

(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也/山浦正彦)

さて、キース氏の紹介で次回ご登場願うのは熱血漢音楽評論家、萩原健太氏です。お楽しみに!

関連タグ