第147回 株式会社ARIGATO MUSIC 代表取締役 南部喨炳 氏【後半】
今回の「Musicman’s RELAY」はアソビシステム株式会社 中川悠介さんからのご紹介で、株式会社ARIGATO MUSIC 代表取締役 南部喨炳さんのご登場です。大学在学中にバンドでインディーズ・デビューをされた南部さんは、バンド活動と並行して裏方業務を始め、2006年には自身のレーベル”SouthBell”を設立。株式会社ザザでマネージメント業をされる中で、「MAN WITH A MISSION」と出会い、以後、マネージャーとして二人三脚で国内のみならず海外での活動に邁進されています。そんな南部さんにご自身のお話からアーティストの海外進出の醍醐味・難しさ、そして今後の夢までじっくり伺いました。
(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也/山浦正彦)
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第147回 株式会社ARIGATO MUSIC 代表取締役 南部喨炳 氏【前半】
4.海外で成功するためにはローカライズが必要
ーー MAN WITH A MISSIONは海外公演を積極的にされていますが、やはり日本とは反応が違いますか?
南部:そうですね。日本のオーディエンスって知らないバンドを観たときにいきなり踊るってことってできないじゃないですか。日本人って協調性が良い意味で高いですが、協調性がありすぎて周りの目を気にしてしまう部分が未だにあると思うんですよね。それは海外では無いことなんですよね(笑)。ドイツも西と東では全然違うし、それは政治だったり宗教っていうところも、自分たちにはまだ知り得ないものがあるんだと思うんですよね。
ーー でも日本だって東京と大阪と福岡だって違いますものね。
南部:全然違います。それと同じようなことが国も混ざるとより顕著になります。先ほどお話した音楽との距離、自分たちの日常における昇華の仕方も違いますから、そこは面白いですね。特にアメリカなんて、国の中でも西海岸と東海岸で全く違ければ中部でも違うし、州の法律も違うわけですよ。そういうことをきっちり理解した上で、その人たちにアジャストしていかないと無理ですね。
ーー それは同じ内容でやっても受け入れられないということですか?
南部:そういうことが少なからずあると思うんです。MCひとつとってもそうだと思います。例えば、海外のアーティストが日本に来て、今流行っているTVドラマのワンフレーズを喋ったら盛り上がるし嬉しいじゃないですか。分かりやすく言えば、そういうのもひとつのローカライズだと思うんですよね。
ーー 海外のアーティストって必ず「今何が日本で流行っているんだ?」とか聞いてきますよね。
南部:そうそう。聞くじゃないですか。その人たちっていうのは、もうメディアなんですよね。だから彼らがインフルエンスさせてくれる存在だっていう意識を持ってないと駄目だと思います。
ーー そこは大事にしないといけない。
南部:そうなんですよ。彼らが良いって言ってくれたことを、どうやって拾ってあげられるのか。じゃあTwitterでフォローしてくれたときのコミュニケーションで大きな壁は言語の壁だと思うんですよね。日本人が海外にライブへ行ったとして、「このアーティストすごく良いよ」とアメリカ人が英語でツイートしてくれたことに対して、受け皿がないんです。そこは我々もまだ悪戦苦闘をしていて、そのインフラをきっちり整えることはすごく重要だと思います。
あと僕は言語力っていうのは必要だと思っています。MAN WITH A MISSIONが世界でライブをやり出した頃は本当になにもできなかった自分ですけど、今はもう一人で基本英語のメールもスカイプ・ミーティングもカンファレス・コールもやれるようになったという経験を通じて、「やはりローカライズさせなきゃダメなんだ」という想いは強くなりました。ビルボードナンバーワン、グラミー賞を獲りたいんだったら、まず自分自身をローカライズさせないと、何にもその情報も入ってこないし、世界で何が起こっているってことを理解できないまま、ただ夢を語っているだけにしかならないとすごく思いました。
本当に痛い思いを一杯しましたし、海外は訴訟社会ですから訳も分からずっていったらすごくアーティストに申し訳ないですけど、慣習の違いから訴訟を起こされた事もありました。そのときに「これはもう日本と同じように自分が目を光らせて、いかないと駄目だ」と痛感しました。
ーー MAN WITH A MISSIONに対する海外メディアの反応は?
南部:すごく良いです。ジャンケン・ジョニーって唯一の日本語、人間語が喋れる狼が一匹いるんですけど、彼が英語も喋れるので、そこに関しての壁がないんですね。あと、ラジオだろうがなんだろうが基本的に狼なので、例えば「なんと表現すれば良いんでしょうか。僕の目の前に今狼がおりまして…」とか言ってくるじゃないですか(笑)。
ーー (笑)。
南部:それって良い意味でバズになっているというか万国共通ですよね。ただ狼というキャラクターに対してのイメージが違うわけですよ。アメリカでもアリゾナの方に行くと、ネイティブアメリカンの象徴って狼だったりするんですよね。
ーー なるほど。
南部:そういうイメージがあったりとか。結構エリアによって狼に対する印象も違いますし、鳴き声も違う。日本だったらなんでしょうね。「ガウガウ〜」とかじゃないですか。それが「アウー」とかだったり、そういう面白さはありますよね。ひとつ言えるのはアイキャッチとアイコン性というのは絶対色々な壁を超越してくれるという感覚はありますよね。だって街を歩けば「握手して下さい」ってなりますし、ツイートしたくなるし、インスタあげたくなるじゃないですか。それはどこのエリアに行っても一緒ですし、なにより子供が喜んでくれる。それは他のどんな一流アーティストが行ったとしても、なかなか起こりえないと思うんですよね。著名な方々はもちろんいらっしゃると思うんですけど、MAN WITH A MISSIONは「知っている」「知らない」とか関係ないコンテンツなんですよ。
ーー それでも世界進出ってやはり大変ですか?
南部:すごく難しいです。その戦略って誰もやったことないから未知なんですよね。最初は「まずは北米だろ」って思って北米をダーってやっていましたけど、とにかくデカイ。
ーー デカイ(笑)。
南部:デカイし、未だにラジオステーションが影響力を持っています。だからそこに足を踏み入れなきゃいけないですし、感覚として日本での活動もあると、時間的な制約とか物理的な制約を感じてしまう。なんだか砂漠に水を撒いているような感覚になってくるんですよね。そうしたときに戦略をまた変えたとしても、次はヨーロッパってなったときにまた違うんですよね。
ヒットの仕方も、北米よりもロックシーンが根強くあったりするので。ドイツでは未だにパッケージが売れていたり、フランスはJapan Expoの影響で日本のアーティストが影響力あるとか。だからそういう細分化されている中で、最初の、ゼロイチの世界戦略をする上でどれが一番良いのかっていうのは、今、もう一回戦略を練り直している部分ではあるんですよね。「もしかしたらヨーロッパで火をつけてアメリカで売れるパターンもあるよね」とか。今ってそういうアーティストも多いですし、オーストラリアから出たシーア(Sia)もそうだし、今そういったことの可能性が増えてきていますからね。
ーー そうそう簡単な話じゃないんですね。
南部:はい。日本でやっているときはご協力して下さる方々がたくさんいるじゃないですか。メディアもそうですし、レーベルもそうだし、ライブのチームとかマネージメントのチームもそうだし。でも、海外ってなってしまうと、そういう人たちを頼れないじゃないですか。もちろんどうやって海外で頑張っているものをインバウンドさせて日本のメディアさんに取り上げてもらうかみたいなことも考えてますけど、海外で成功するために日本のメディアに協力していただけるものってなかなかないんですよね。
そうすると中川君の展開するkawaii(カワイイ)コンテンツのように、アニメ、漫画といった日本文化に紐づいた音楽として、輸出していく方が牙城を崩せる可能性が高いのかなとか考えたりもします。今年も8月にカナダのAnime Expoに出ますけど、そういうイベントに出てみようかとか。
色々なアニメのテーマ曲も手掛けられていますよね。
南部:はい、お陰様でそういうオファーをたくさん頂いていますけど、どこで何が跳ねるか分からないんですよね。
ーー では、これからも戦略はどんどん変えていく?
南部:日々変えていますし、トライアンドエラー、PDCAを高速に回していく事が大切だと思ってます。
5.今後の音楽業界のあり方を左右する「デジアナ世代」
ーー 南部さんも中川さんも80年代の生まれで、我々にとっては新世代感があります。
南部:そうですか。僕らはちょうど世代で言ったらデジアナ世代と言われる世代なんですよね。多分79〜81年生まれは、自分の中では結構キーな世代だなと勝手に思っているんですけどね。我々の諸先輩方はアナログ世代で、我々はその「パソコンなんてよくわかんねえ」みたいな先輩方とも会話ができて、我々の下のデジタルネイティブと言われる、生まれたときからスマホを触っている世代とも感覚としてやっていけるという。世代間の通訳ができるというか。
ーー 上の世代と下の世代のハブになれる世代ですね。
南部:先輩方の体育会的なノリにも耐えられる世代です(笑)。もっと若い20代ってなっちゃうと、そういう免疫って全くないと思うんですよね。僕ら世代は今の音楽業界を作ってこられた先輩方に、「俺らこういう新しいことをやりたいんです」と理解して頂ける共通言語で説明できるんですよね。
ーー 応援してもらいつつ、自分がやりたいことやる。
南部:まさにそうですね。その世代がちょうど僕くらいの世代なのかなって勝手に思っていて。だから自分たちが今後きっちりやっていかないと、日本の音楽文化の在り方も変わってきちゃうなと思っています。
ーー 僕らの世代で言うと海外に音楽で出て行くということはいくら挑戦してもハードルが高くて難しかったことを、南部さんたちは簡単に乗り越えてしまって、ビックリするんですよね。
南部:やっぱりインターネットっていうのがすごく大きいですよね。パソコンを広げたら世界と繋がれるという。
ーー あとこれは私だけじゃないと思いますが、欧米に対して劣等感がすごかったんですよ。ロックっていったら洋楽しか聴かないくらいで、そのギャップを感じつつ追いつこうとしていたんですよね。
南部:それは僕もありましたよ。劣等感というか、自分のやっているスカってジャマイカで生まれた音楽で、それがイギリスに移って、マッドネスとかスペシャルズとかに代表されるカルチャーが生まれて、それがアメリカに移ってスカパンクとかスカコアみたいなのが出てきたわけです。僕はその影響を受けていたので、元から辿ったらもうオリジナルとはほど遠い形ですし、「これって海外で通用するのかな」みたいに思っていたんですよね。
いざ自分がヨーロッパツアーをやったときに「ああ、こういう形のスカって日本人にしかできないんだ」って思ったんです。例えば、ビート感、8ビートできっちり当てていく感じとかって日本人ならではで、向こうは当てるってことよりはアフタービートというか裏拍感がすごく強いんです。それは俺らにはできないんだけども、そのタイトな形のグルーヴは、「これって自分たちのオリジナルなんだ」って初めて向こうに行って気づいたんですよ。
ーー YMOとかもジャストなグルーヴ感でしたよね。
南部:そういう意味で言うと面白いですよね。さらに音楽的なアプローチだけじゃなくて、中川君とかが今やっている日本のアーティストだけじゃない、日本のカルチャーを輸出していこうっていう「クールジャパン」的な動きも拍車を掛けていますよね。
ーー やっぱり日本の音楽コンテンツが世界にどんどん出て行ったら嬉しいですし、日本人みんな元気になりますよね。
南部:本当にそうですね。
ーー 例えば、サッカーの選手だって野球選手だって、普通に海外に移籍するじゃないですか。音楽業界もいずれそういう世代が出てくるかも知れないですよね。
南部:なりますとも。韓国だって中国だってそうなってきているわけで。日本も時間はかかったけどそれに気付きだした、という段階だと思うんですよね。なので、どんどん変わっていくと思うし、変わんなきゃいけないですよね。でも果たしてそれが良い世の中なのかっていうのはまた違う話なんですけどね。貧富の差は絶対大きくなりますしね。
ーー グローバルになればなるほど?
南部:グローバルになればなるほど、力が強いものがイニシアティブを取る。そうしたときに今見直されつつある日本の価値観ってあるじゃないですか。例えば、わびさびだったりとか人間関係の礼儀だったり、震災で混乱を起こさなかった節度みたいなものとか。僕らからしたら当たり前のことだけども、そういった世界の模範となりえる価値をどう提案できるかですよね。で、自分のツールのひとつは音楽だから、音楽を通じてどう提案できるか考えますよね。それはすごく難しいけど、やりがいはありますよね。
6. 一つのきっかけで世界的に広がる可能性がある時代
ーー 若いリスナーはいわゆる海外の音楽にもう何の興味もなくて、よりドメスティックな方向に行っているんじゃないか?とも思うんですが、南部さんはどのようにお考えですか?
南部:2つの潮流があるのかなと僕は思っています。例えば、マイルドヤンキーってよく言われますけど、実家の側に暮らしていて、土日は地元のイオンで過ごすから、特に海外に出る必要は無いよねと。自分の一生をそこの半径30kmくらいで過ごして、地元の友達と付き合い続けるっていう、ある種ドメスティックな方向の潮流ですよね。
もう一つは、何で若い子たちが海外の音楽に興味がなくなってしまったかっていうと、今のアメリカの音楽がダサいんだと思っています。今の作っているもの自体が、尺は2分半から3分以内。すごくシンプルな。まあEDMが悪いわけじゃないと思うけども、そこに対しての、かつてのパッションは正直個人的な感覚としてはあんまりないんですよね。
ーー パッションを感じられない?
南部:僕は感じられないです。ただ、いい音楽は今でもありますし、どんどん複雑になった音楽が、EDMとかテクノロジーでシンプルな所まで来て、世界的にもビートルズじゃないけども、革命を起こせるバンドが登場した瞬間に、また大きく潮流って変わってくるんじゃないかなとは思いますよね。だから今は過渡期であり、日本のリスナー、音楽ファンっていうのも今後変わるんじゃないかなって思っているんですけどね。
ーー 今は過渡期だと。みんな聴くものが細分化して、それを横に貫くような音楽が生まれてこないですよね。
南部:それってメディアの在り方が大きいですよね。僕らが中学・高校のときって「昨日のMステ観た?」みたいなクラス全体の共通言語がありましたけど、今は恐らくそんなことはなくて、各々が好きな情報をYouTubeやSNSで獲得している。その中で横に貫くようなヒットをどうやって作るかって、逆に言うと、どんなに財力があろうがなかろうが、一つのきっかけで世界的にバーっと広がる可能性も出たっていう意味で言うと、僕みたいなDIYでやっている人間からしたら、「滅茶苦茶いい時代になっているね」っていう気持ちでもあるんですよ。別にプロモーションに何千万も掛けなくてもヒットを生むことができる時代になったっていうのは嬉しいですよ。
ーー 実際MAN WITH A MISSIONもTOPチャートに入ってますね。
南部:MAN WITH A MISSIONに関して言うと、メーカーさんに最大限協力していただきプロモーションしていますけど、その中で彼らは自身でSNSを通じてお客さんとの直接的なコミュニケーションデザインがきっちりできているのは多くの方に知って頂けるようになった大きな要因だと思いますね。
他のARIGATO MUSICのアーティストなんかはプロモーション予算なんて昔みたいにないわけじゃないですか。その中で、どのようにして一人でも多くの人に音楽を届けて、共有・共感・共鳴してもらえるのか、予算でなく、アイディア・スピード・行動力でどう感動を連鎖させられるのか、とても面白い時代になってきましたよね。そんな時代だからこそより、原動力となっている〝想い〟〝使命〟が何であるかがとても大切で、儲ける事はとても重要ですけど、お金儲けしたいという想いでは感動の連鎖は絶対起こらないですし、価値観を変えようとか情熱的であろうとか今風じゃないのかも知れないですけど、そこが抜けてしまったら絶対ダメだと思うんですよね。
僕より下の世代はそういった人間臭い部分に触れるのが苦手な子が多いから「なぜきちんと挨拶しなきゃいけないのか」「なぜ目を見て話さなきゃいけないのか」っていうところからうちのスタッフには話すようにしています。
ーー そういうこともされているんですか。
南部:そういうことをやっていかないと音楽業界だけでなく、社会って良くならないと思うんですよね。「いや、お前一人がやったぐらいで変わるか」って言われたらそこまで。やらなかったら変わんないし、やるかやらないかで言ったら、やるしかないって思うんです。
ーー 素晴らしいですね。
南部:最後に、これは笑ってもらえればいい話ですけど、俺の個人的な夢ってなんだと思います?
ーー なんですか?
南部:ノーベル平和賞を獲りたいんですよ。
ーー おお〜!!
南部:行く末は(笑)。まずは日本の音楽業界を変えたいというのはあると思うんですけど、いつか自分が2年間過ごしたアフリカに小屋を作りたいんですよね。昼間は学校として使って、夜はライブハウスみたいなことをやって。エンターテイメント文化に対する余裕すらないのかもしれないですけど、そこの余裕を作ってあげることで、色々な辛いことって乗り越えられるんじゃないかなと。そういう場所をアフリカにいっぱい作りたいなって思っています。
プロフィール
南部喨炳(なんぶ・りょうへい)
株式会社ARIGATO MUSIC 代表取締役
1980年9月11日生まれ
1999年 和光高校卒業
2003年 慶應義塾大学総合政策学部卒業
2003年〜2004年 自身のバンド活動をしながら裏方業務(レーベルA&R / スペシャMC等)を始める
2006年 自身のレーベル”SouthBell”設立
2010年 株式会社ザザ取締役執行役員に就任(2017年4月に代表を退任)
2013年 株式会社FYD設立
2017年 株式会社ARIGATO MUSIC設立
20代前半、TV番組パーソナリティー、ラジオDJ、レーベルA&Rなどの職歴を経て独立。現在は音楽プロダクション、レーベルの代表として活躍中。また、「MAN WITH A MISSION」のマネージャーとしてデビュー前から携わり、その手腕と実績は高い評価を得ている。