第150回 株式会社サウンドクリエーター 取締役 安福元柔 氏【後半】
今回の「Musicman’s RELAY」は株式会社ジャパンミュージックシステム(JMS) 鈴木健太郎さんからのご紹介で、株式会社サウンドクリエーター 取締役 安福元柔さんのご登場です。兵庫県宝塚市出身の安福さんは、大学入学後にコンサート業界でバイトを始め、コンサートのあらゆる裏方仕事を経験。紆余曲折を経てサウンドクリエーターに入社されて3年後に10-FEETの担当に。結成10周年を記念して開催した「京都大作戦」はアーティスト主催のイベントの先駆けとなり、現在も大人気イベントとして毎年開催されています。そんな安福さんにご自身のキャリアから、10-FEETと「京都大作戦」、そして地方におけるイベントの今後についてまでお話を伺いました。
(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也/山浦正彦)
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第150回 株式会社サウンドクリエーター 取締役 安福元柔氏【前半】
5.このバンドだけは絶対やりたい〜10-FEETとの出会い
ーー10-FEETはその頃デビューしたてだったんですか?
安福:いや、97年デビューですからもうずいぶん経っていました。で、僕が担当して1、2年ぐらい経ったころに10周年の話があって、そこで「京都大作戦」の話が出たんです。
ーー先ほど「10-FEETはやりたいバンドだった」と仰っていましたが、昔から知っていたんですか?
安福:はい。10-FEETの現場もバイトの頃からずっと行っていました。当時のマネージャーの松川さんがいるのですが、最初出会ったのは僕がバイトの頃やったんで。彼は僕の一個先輩ですけど。
ーー10-FEETとの出会いもそうですが、よく考えてみれば安福さんは20歳の頃からずっと同じ仕事していらっしゃるんですよね。
安福:そうです。僕は広く浅くですけど、飽き性ではないと思っているんです。割とずっと同じことを続けるのは好きですし、あと「辞める」という勇気がないんやと思います。「辞めて別のことやろうかな」っていう勇気は、僕にはないですね。
ーーやはり10-FEETというバンドと出会ったのは大きいですか?
安福:それはデカイですね。もうこのバンドだけは絶対やりたいってずっと思っていましたから。
ーーそれは音が好きだったんですか? それともメンバーの人柄に惹かれたんですか?
安福:その両方ですね。メンバーもすごく可愛がってくれたというか、バイトながらにも声かけてくれたりしましたし、音楽もそのスタイルもバイトの頃からすごく好きでしたね。「かっこいいな!」ってずっと思っていました。
ーー話を少し戻しますが、10-FEETが「デビュー10周年に何かやろうぜ」といったのが「京都大作戦」ですよね。これは当初から大がかりな話だったんですか?
安福:最初は、そんな大がかりな話でなかったと思います。これには諸説あって、メンバーの記憶と僕の記憶が結構バラバラなんですが(笑)、10-FEETのライブの打ち上げで「10周年ですね。何かやりたいですね」みたいな話から、「ほなちょっと場所探してみましょうか」と盛り上がっただけの話やと思うんですよ。
ーー酒の席で盛り上がった話だったと。
安福:そうです。「なんかイベントとかできたらええよね」みたいな。僕らもちょうどHi-STANDARDとか「AIR JAM」世代のど真ん中やったんで、そういう憧れはどこかにあったんかなって思います。
ーー10年も続くような大きなイベントにしようとか壮大な計画とか目標があったわけではなかった?
安福:全くなかったですね。単純に10周年記念のお祭りというか。世間では「アーティスト主催のイベントの先駆け」みたいなことを言ってくれますが、そんなつもり全くなかったんですよね。
ーーそして「京都大作戦」の第1回目は台風で中止になってしまいますね。
安福:ええ。当時、僕は28歳で、10-FEETのマネージャーの松川も29歳で、この二人でイベントやっていて、大人っていう大人がいなかったので、もう「どうする? どうする?」みたいな感じでした。「台風来ているな・・・保険入っているから大丈夫ちゃうかな」とか思いながら。
ーー結局、台風は直撃しなかったんですか?
安福:しなかったです。それで朝起きたら晴れていたんですよ。「あー、めっちゃ晴れてるやん」って。
ーー大事を取ったつもりが?
安福:本当に設営が間に合わなかったんですよ。それで「朝7時、8時にバイトかき集めたらできんのか?」みたいな話にもなったんですが、「いや、それは無理やろ」と。遠方からも来る人もたくさんいるから、早めに中止ってジャッジしてあげた方がいいんじゃないかと当時の僕らは思ったんです。今思えば、恐ろしいですね。
ーーいや、その判断はやっぱり正しかったというか、それしかなかったでしょう?
安福:それしかなかったですね。ただ、悔しかったですね。
ーーお客さんも「晴れているから開催されるんじゃないか?」と思って?
安福:そうです。前日の夕方くらいには中止の告知を出したんですが、その情報が行き届いていなかったのか。その頃ってTwitterやFacabookもなかった?はずなので。。
6.「京都大作戦」はライブハウスの延長にあるイベント
ーーそれ以降は悪天候で中止になることはなかった?
安福:ないですね。でも雨はほぼほぼ降りますからね。
ーー要するに7月初旬ってまだ梅雨が残っているということですよね。
安福:梅雨が全然明けてないんですよ。設営のときは毎日雨とか。だから2日間どっちも晴天だった日って2008年以来、今年で2度目だったんですよ。「10年振りやな」みたいな。とにかく雨対策しか考えていないイベントなんです。
ーー例えば、日にちをずらすとかは、会場の関係とかでなかなかできないんですか?
安福:そうなんですよ。1週ずれると会場のプール開きが始まるんで、お客さんが多くなるのと、1週前に行くと高校野球の京都大会をやっているんですよ。だから今の1週間しかないんですよね。たまに入れ替えはあるので、「我々的にはここが良い」ってリクエストだけは毎年出しているんですけどね。
ーーでも、今年はついに3日間になりましたよね。
安福:思いつきというか「10周年なので、なんかしなあかんよね」っていう僕の勝手な責任感で、地元の行政と会場とメンバーみんなで協議しながら3日間の開催に踏み切りました。
ーー「京都大作戦」は順調に観客数を伸ばしているんですか?
安福:いや、もう会場には2万人しか入らないので、増やせないんですよ。チケットは初年度から毎年売り切れていますし、どう頑張っても2万5000人にもならないし3万人にもならないです。
ーー屋外でもそういう場所なんですね。
安福:メイン会場が京都府立山城総合運動公園の第2競技場というところなので、これはもう増やせないです。
ーーなぜ、そこを会場にしたんですか?
安福:今、太陽が丘っていうところでやっているんですけど、そこはプールがあるので京都の若い子は絶対行く場所なんです。「京都で知らない人がいないような場所」っていうのを、メンバーと、部下の京都出身の人と話し合ったときに太陽が丘の話で盛り上がったんですよ。「もうあそこしかないんちゃいますか?」と。でも、知り合いもいなかったので、そこで初めてFM京都さんの力を借りたみたいな感じですね。
ーーキャパ的には増やせない、でもイベントのパワーは年々増していますよね。
安福:そうですね、ありがたいことに。先行申込の数で言ったら定員の3倍以上ですから。
ーーそうするとチケットはかなりの争奪戦になっている?
安福:はい。「チケットが取れない」ってクレームが毎年山のように来ます。
ーーチケットは6,000円とかなり安いですよね。
安福:10-FEETはライブハウスのバンドですし、「京都大作戦」は都市型商業フェスではなくて、やはりライブハウスの延長でやっているんですよね。
ーーキャスティングに関してはずっと10-FEETのメンバーが関わっているんですか?
安福:メンバーも主催者としての僕らと同じような目線でイベントを考えてくれています。
ーー例えば、11年目からは会場を大きいところに変えてとかは考えてないんですか?
安福:それは絶対ないですね。会場さんもすごく親身になって色々なことをやってくれはるんで、その想いを裏切れないですよね。一時「もうちょっと入れた方が良いんじゃないか?」「観たい人がいっぱいいるんやったら期待に応えた方がいいんじゃないか?」みたいな話はありましたけど、やっぱり「あの規模感が良い」って最後は落ち着きましたね。
ーー現在、関西でも色々なイベントをやっていますよね。やっぱりマーケットが大きいんだなって感じます。
安福:結構ありますね。今は東京からイベントを持ってきたりもしはるんで。特に7月末から8月にかけては多いです。でも、今後はイベント自体もお客さんが選ぶ時代になっていくと思うので、各地でどれだけ特色を出していけるかというところをもっと考えた方が良いと思いますね。
ーー夏祭りの一種みたいな感じですよね。
安福:そうです、そうです。この前もその話を他の方としましたね。本当に夏の風物詩、その街の夏祭りみたいな感じでみんな考えてはるよねっていうのはまさにその通りやと思います。
7.今、イベントは地方の方が頑張っている
ーー安福さんにとっても、「京都大作戦」に関わっているのはものすごく大きいんじゃないですか?
安福:デカいですね。関西ってやっぱり地方都市なので、東京でできたものを受ける立場という部分がどうしても多かったと思うんですよ。もちろん今も多いと思うんですけど、自分が担当しているもので言うならば、「京都大作戦」で関西独自のものを発信するということが、初めてできたんちゃうかなとは思いますね。
ーー安福さんが考える「京都大作戦」の特色って何ですか?
安福:やっぱり「京都色」ですかね。京都色っていうのは出しやすいですよね。デザインとか。
ーー「京都色」というのは一口で言うと何ですか?
安福:やはり和テイストじゃないですかね。だからTシャツも「舞妓さんがギター持ったらええんちゃうかな」っていうので、初年度から変えていないです。毎年、舞子の絵は変わりながらも、そのテイストはずっと変わらずですね。
ーー安福さんが1年のうちで一番労力を掛けているイベントっていうのは、やはり「京都大作戦」ですか?
安福:そうですね。大体12月か1月くらいに「京都大作戦」の発表するんです。そのまま先行やブッキング、会場の打合せだなんだで半年くらい費やして「京都大作戦」を迎えて、12月にもイベントをやっているんで、その下準備も被りながらやっています。
ーーその2本のイベントを軸に1年が回っている感じですね。
安福:そうですね。その間にライブハウスの新人のやつとか東京の案件も色々やったり、それこそアリーナやスタジアムクラスの現場もあります。
ーーサウンドクリエーターにはプロモーターとして現場を仕切っている人は何人くらいいらっしゃるんですか?
安福:20人くらいですかね。社員は全体で45人くらいいるんですが、実際の現場チームということは20人くらいですかね。
ーー他の会社さんがやっているライブやフェスとかは観に行ったりしますか?
安福:もちろん。それこそ自分のために、あとは自分のところで担当しているバンドが出ていたら顔を出しに行ったりとか。それはどんな地方でも行きますね。もしいいものがあったら真似てみたいなと思いますし、そういうのを観るのがめちゃくちゃ好きなんで。海外でも観に行きますしね。
ーー国内で「このイベントはすごいな」ってイベントはありますか?
安福:高松の「MONSTER baSH」や山口県の「WILD BUNCH」とかはもう地元の特色とか、ものすごく徹底しているなってすごく感じます。街全体が盛り上がっていますからね。「MONSTER baSH」なんか、街の電車が「MONSTER baSH」ってなっていたり、高松駅でロゴが入ったお土産が売っていたり、この一体感はすごいなと思いました。
ーー東京では街を挙げてという風にはなかなかならないですよね。街のサイズも大きすぎますし、「東京国際○○祭」とか言われてもどこでやっているんだか全く分からないです。でも、地方は街がコンパクトじゃないですか。だから盛り上がるんだろうなと感じます。
安福:今、地方も町おこしとか行政も含めて、すごく頑張っています。行政も街のPRをしたいから、そういうイベントに乗っかりたいというのはすごく感じますし、地方再生じゃないですが、特色としては本当に出ているなって思いますね。
8.「京都大作戦」を1年でも長く続けていきたい
ーー「京都大作戦」の今後の展開について、どう考えていらっしゃいますか?
安福:もう1年でも長く続けることだけが、僕らの願うところですね。新しくガラッと何かを変えてしまうと今まで良かったものも崩れてしまうでしょうし、我々のスタンスも今以上の飛躍は多分ないでしょうしね。今のスタンスで20周年迎えられたらいいな、15周年迎えられたらいいなっていうことぐらいしか今はないですね。あとは時代の流れとともにどうなっていくか、我々がどう取り組んでいくかというところはあるとしても、1年でも長く続けていきたいという想いだけです。
ーー特に大きなモデルチェンジとかはしない方が良い?
安福:お客さんも僕らも多分みんな望んでいないと思います。あの距離感であの規模感でやるのがお客さんは良いんだろうし、我々も良いんだろうなという感じはします。
ーーイベンターさんは土日がないですよね。基本的に土日が仕事みたいな。
安福:そうですね。言ってもサービス業なんで。みんなが働いているときには休んでいますけど、みんなが休んでいるときには僕ら働いているんで。
ーーでも、みんなが働いているときも結構働いているでしょう?
安福:はい。でも、昔は今ほど週末土日土日っていう感じじゃなかったんですよ。やっぱりETCが普及して、色々なインフラが整って、関西も一地方じゃもうなくなっている気はしていて。今は安い飛行機もいっぱいあるし、バスもいっぱいあるので、みんな色々なところに行きやすくなってきていると思いますから。だから、どんどんライブの本数が稼げるようになったんですよね。
ーーなるほど。音楽不況の中、ライブ産業だけはずっと右肩上がりに来ていると言われていますが、実感としてありますか?
安福:それは実感しています。弊社も本数は年々増えております。
ーーこの先もこの状況がずっと続く?
安福:もっと上がると思います。
ーー10-FEETがそれを実証している。
安福:そうですね。今、ほんまにアーティスト主催で地元歓迎するというイベントは結構多くなってきていますしね。色々なところで皆さん頑張ってはるんで、何か日本がキュッとなっているなっていうのは感じますね。
ーーその「キュッ」っていうのは?
安福:今までよりも色々な土地が身近な距離感にあるような気がするんですね。今までって絶対誰も来なかったところにイベントがあるから行く。そういうところがどんどん増えているなって思いますね。
ーー最後になりますが、コンサート業界を目指す若い人たちにメッセージを頂きたいのですが、今やプロモーターは大変な人気ですよね。
安福:やっぱりフェスブームで「あのイベントに携わりたい」っていうのは面接していても二言目には絶対言いますからね。でも夢と現実とのギャップはすごくあるじゃないですか。この業界って華やかなところはほんのちょっとなんですよね。僕が入社したときに言われた「3年は我慢」というのは、ほんまにそうなんやろうなって今は思います。3年とりあえず我慢して、それでもあかんかったら答え出してみたいな。なんか、みんなすぐに答えを出そうとしますからね。
ーーある程度の我慢は必要?
安福:本当に必要だと思うんですよね。僕は「あのイベントを作りたい」と思って入社した人間ではないですけど、ずっと雑用ばかりやっていた年もありますし。
ーーそういう中からチャンスに巡り会ったりするんですね。
安福:そうだと思うんですよね。色々な仕事を一生懸命することで、横の繋がりを作ったり、情報をもらえる立ち位置にいられるように努力しないと、この業界では多分続かないと思いますし、良いバンドとも巡り会えないと思うんです。音楽が好きなのは大切だけど、やっぱり好きだけではできないんだよって若い人には伝えたいですね。