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佐藤 剛 氏 スペシャル・インタビュー ファイブ・ディー株式会社 代表取締役社長/ (社)音楽制作者連盟 理事 in the city TOKYO 2004 実行委員長

インタビュー スペシャルインタビュー

佐藤 剛 氏
佐藤 剛 氏

 OASISのメジャーデビューへのきっかけとなったことで知られるイ ギリスの音楽コンベンション「IN THE CITY」をモデルに、音楽制作者連盟(FMP)が、1999年から東京渋谷でスタートさせた音楽産業の次代を担う新人アーティストの発掘を主眼とした都市型ミュージックフェス『in the city TOKYO』。 昨年から佐藤剛氏を実行委員長に迎えたことで、その内容・コンセプトは飛躍的な発展を遂げ、今年のin the cityは過去最大規模の音楽イベントとなっている。 常に現在の音楽業界の根本的な問題にまで目を向け、問題提起をし続ける佐藤氏が提唱する「J-STANDARD」とは一体何か、また来月1日より開催されるin the city TOKYO 2004を目前に控え、その魅力について佐藤氏にお話を伺った。

[2004年9月6日/目黒区下目黒 ファイブ・ディー(株)にて]

プロフィール

佐藤剛(さとう・ごう)

ファイブ・ディー株式会社 代表取締役社長/社団法人音楽制作者連盟 理事 in the city TOKYO 2004 実行委員長


1952年岩手県生まれ、幼稚園から高校まで仙台で育つ。
1974年に明治大学文学部演劇科卒業後、週刊ミュージック・ラボの営業・編集・ライターを経て、1977年からアーティスト・マネージメント及びプロデュースに携わる。
1982年、ファイブ・ディー株式会社を設立。
1988年から本格的にプロデュース業を開始。
プロデューサーとしてTHE BOOM、ヒートウェイヴ、中村一義、SUPER BUTTER DOGなど多くのアーティストを手がけている。
2002 年、東芝EMI、ロードアンドスカイ・オーガニゼイションとともに株式会社ファイブスターズを設立。また2003年より「in the city TOKYO」の実行委員長を務める他、様々な形で「J-Standard」の企画を行い、J-Standard RADIOの企画/番組出演の他、レコードメーカー5社から5枚同時発売というテーマ別「J-Standard」コンピレーションアルバム等を制作。

■in the city TOKYO2004:10月1日(金)〜10日(日)開催

<Official web>
http://www.inthecity.jp/live/index00.html

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——佐藤さんが実行委員長に就任されてから、今年で2年目を迎えるわけですが、今年は過去最大級の規模と伺っております。

佐藤:そうですね。今年の規模は過去最大だと思います。ただ、やってみないとわからないことがあるんですけどね。

——in the cityが始まったのはいつなんですか?

佐藤:正確に言うと99年ですね。プロトタイプというのが一回あって、2000年から本格的に始まったんです。

——最初は誰が実行委員長を?

佐藤:最初は、今の理事長の糟谷さんがこのアイデアを出したんだと思います。イギリスのリバプールで1992年から行われている音楽コンベンションにアイディアを得て、そこからin the cityという名前も許諾していただいて、始められたというふうに伺っています。

—— in the cityというイベントを国内で立ち上げるにあたって、その目的というのは何だったんでしょうか?

佐藤:当時は音楽業界の表面上の華やかさの裏側の内実というのは、かなり危ないところまで来ていて、新しいアーティストをどんどん発掘して活性化していかなければいけないな、と皆が危機感を持っていた状況だったんですよ。我々のやっている音楽制作者連盟というのは、基本的にはいわゆる『芸能プロダクション』ではない、ある種こだわった作品を作り続けている音楽プロダクション・原盤制作会社が中心になってできた団体なんです。in the cityをはじめた当初は、あくまで音楽業界内の話ですから、いわゆるレコード会社や事務所や出版社を中心に音楽業界の方達が集まって、自分たちが育てている新しいアーティストをみんなに見ていただいて、その中で様々な交流をえながら世に出していくという趣旨で始まったんですね。

——なるほど。

佐藤:ただ、 in the cityを始めた当時は、音楽業界の構造がまだ幸せな時代だったんです。いわゆるメジャーなレコード会社っていうのがトップにあって、それをヒエラルキーの頂点として大手の出版社とか大手のプロダクションが下にあって、またそれを支える形でコンサートをやるイベンターなり関連した機材会社があり、スタジオがあり、音楽制作の様々なビジネスが成り立っている。つまり事務所が新しいアーティストを見つけて育てて、メジャーのレコードメーカーがそれをさらに発見して世に送り出す、というのが音楽業界全体の使命だとされていたんです。それで99年ぐらいに『新しい才能をいい形で世に送り出す』っていうことを始めなければいけないんじゃないかと。そんな目的で、6年前に渋谷のライブハウスを中心にして、in the cityを音制連が始めたわけです。

——最初は新人アーティストの見本市のような趣旨で始まったイベントだったんですね。

佐藤:そうですね。いわゆるニューカマー・新しいアーティスト達を一堂に集めてライブイベントをやる、という目的が主だったんですよ。

——佐藤さんがin the cityの実行委員長を引き受けるにあたっては、何かきっかけや経緯というのはあったんですか?

佐藤:そもそも事の始まりは、たまたま一昨年、in the cityのスペシャルイベントが直前に何かの行き違いかトラブルでやるものがなくなっちゃったんで、S.O.S.でなんとかしてくれと頼まれたんです。それで「じゃあ僕が一本なんかプロデュースしましょう」ってことで、ライブイベントをプロデュースしたのがきっかけでした。僕としては、その時はじめて、in the cityの全体像が何かっていうのを知ったわけです。そしてその次は全体のin the cityを引き受けてくれないかというお話があり、去年お引き受けしたんですよ。

——佐藤さんご自身、予想外な展開でin the cityにそのまま駆り出されちゃったという流れだったんでしょうか?

佐藤:そうですね。正直言って、最初からやっていたわけじゃないんで、in the cityの意義うんぬんといわれても困るんですけどね。ところでin the cityは、ご存じでしたか?

——それが、まだ実際に足を運んだことはないんですよ…。

佐藤:実は僕もそれと同じで、業界にいながらも、そういうことをやってるなということは知っていても、まぁ正直言うと、それどころではないといったふうだったんですね(笑)。 自分で作ったアーティストや自分でやってる仕事の方がよっぽど面白いし楽しいし、あと忙しいしで…音楽業界全体についてものを考えるというのは、実はあまりそういう発想は持っていなかったんです。いざin the cityに関わってみたら、なるほどなるほど、と。やろうとしている志は正しかったんだけど現実とはやはりズレがあるな、と思ったりもしたんです。見ていて、やってることが現実のスピードに追いついていけないな、と。現実的には、年に一回やっているペースよりも世の中の方が早く進んでしまっていたんです。

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——就任されてすぐに、これまでのin the cityの流れや内容を『変えよう』と思われたというのは、実際はかなり凄いことだと思うんですが、具体的な方向性なんかも既に佐藤さんの頭にヴィジョンとしてあったんですか?

佐藤:そうですね。引き受けるにあたっては、現実とのズレをどう補正するのかなっていうことから始めて、去年から僕が引き受けたことで内容を切り替えたんです。というのは、音制連が中心になってイベントをやっていて、しかも公的な機関からサポートも出てる、と。音楽業界を少しでもよくしていこうという意図でやっているんであれば、もう少し現実のスピードに追いつくんじゃないか、あるいは追いつかないまでも、何か扉の開け方を工夫すれば、もうちょっと現実とリンクするんじゃないかって思ったんです。お陰様で『こういった事をやりたかったんだ』っていう反響もいただいて、今年も引き続きやってます。どうなるかはわからないんですけどね。これで今回こけたら、僕は来年は辞めますんで(笑)。

——去年はやってみて、実感としてはいかがでしたか?

佐藤:去年は「J-STANDARD」の提示だったんで、J-STANDARDとはなんぞやみたいなことをイベントでやったんですけど、今年はスタンダードっていうものを支えてる、尖った気持ちとか、継続している人達とかに、もっとスポットを当てようかなと思ってやってるんですね。去年は逆に言うとね、あまりにも閉ざされていたんで、もうちょっと、それこそMusicman-NETを見ているような人にも来てもらおうかと思ってるんですよ。完全にインサイダーなのではなくて、スペシャルイベントだけでも、もっとたくさんの人に見てもらえたらな、と思ってます。去年はほとんどの席がキャパがいっぱいで売り切れてるぐらいなので、音楽業界の人が魅力的なものを用意して、in the cityっていうイベントをやってるんだよ、ということを一般にも広く知ってもらおうと思ってるんですよ。

——今年に関しては、どんな趣旨をお持ちなんでしょうか?

佐藤:外に向けて広げていこうという趣旨は変わってないんですが、トータルで10日間にしました。一個一個の中身を考えると、今、業界で働いている人達が自分のルーティンワークとは違うところで刺激を受けたりした方が面白いんじゃないの?勉強になるんじゃないのかな、ということで、去年よりたくさん増やしたんですよね。そういう意味では、去年よりも今年の方が業界内部向けということになりますかね。こんなこと言うのも何なんですけど、裏工作も何にもないんですよ。

——というと?

佐藤:5人のプロデューサーにばっと200アーティストの応募音源を渡して、それぞれに印をつけてもらって、そこで選ばれたアーティストが40ぐらいあるんですよね。そこからイベントの一日を構成してるんですね。つまり、無名のアーティストもいれば、メジャーで出ている人もいる。極論を言うと、個人参加みたいな形で応募してきているといったアーティストもいるんです。でもやっぱりいいと思われたものは選ばれるわけですよ。なんとなく全体で選ばれましたよっていう曖昧なんじゃなくて、自分の責任で「このアーティストは、こういう取り上げ方をしたい」っていう部分が一番肝心だと思ってますから。

——レーベルであったり、プロデューサーであったり、きちんと名前を出して、責任を持って一つのアーティストをセレクトして取り上げているわけですね。

佐藤:はい。全部記名入りですよ。こういうことが一番大事なんじゃないかと僕は思うわけです。 

 

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——佐藤さんから見て、in the cityが始まった6年前と今とでは、音楽業界というのはどんなふうに変わっていってると認識されてますか?

佐藤:まず90年代に入って、日本の経済の全般がバブルがはじけて厳しくなったのとは別に、音楽業界としては、88年から99年ぐらいにアナログレコードからCDに全部切り替わった頃ですよね。いわば90年代というのは、ものすごくCDが売れた時代なんですよ。各社からミリオンセラーがたくさん出て、レコード協会のまとめた数字が総トータルの売り上げで6000億円を越えたってぐらいでしたから。20年前の約2倍の規模になったと言われた頃でしたよね。そんな背景もあって、いろんな複合的要素があってCDが売れたんだけど、総トータルで売れてるというわりに、数少ないミリオンセラーが全体を引っ張っていってるだけで、内実は、かなり危ないものでしたよ。それから、誠実にいい音楽を作っているアーティストが、ちょっと活動しにくくなったというのが90年代だったと僕は思うんです。一方、裏方の部分で言えば、当時から音楽業界の華やかなところを支えているローディーさんとか舞台コンサート周りをやってるような機材関係のスタッフの年齢がだんだんと高齢化してきた。と同時に、スタジオのブッキングも厳しくなって、バブル時代に作ったスタジオなんかはどんどん経営が難しくなっていきましたよね。よりスモール化して低予算で対応できるような小回りのきくスタジオじゃないと、なかなかやっていけなくなった。でも、そういった危機的状況が忍び寄っているということは、音楽業界の中枢で働く人たちはみんなわかってたと思うんです。

——しかし表面上ではまだ…。

佐藤:あまりそういう危機感は感じていなかったんですよね。いわゆる一番派手な部分…表側やアーティストに一番近いところは、全く危機感がなかった。振り返ってみて、それが『90年代』だったと思うんです。

——その通りですね。

佐藤:結果的に2000年に入った辺りから、ここ3、4年CDの売り上げが激減しているとか、経済的な意味で業界全体がかなり構造的に厳しい渦の中に入っていって、今はまさに音楽業界全体が「あがいている」という状況だと僕は思うんです。今思えば、6年前というのは20世紀の終わりで、音楽業界にCDバブルがあったギリギリ余韻の最後の部分だったと思うんですよ。『一元的な』アーティスト作りというのが、まだ牧歌的に信じられていた時期にin the cityは始まったわけですよね。

——たしかに牧歌的に信じていましたね(笑)。

佐藤:やっぱりそのときに最初のin the cityのテーマだった、『アンサインド・アーティスト』を契約に持っていくという場を作るっていうことでいうと、現在の状況でいえば、逆なんじゃないかと。つまり、ここ数年、大手のレコード会社の産業構造・システムからこぼれたところで自分たちが立ち上がって色んな事を始めていくという形で、インディーの中からどんどん新しいアーティストが出てくるようになりましたよね。しかも、音楽を本当に楽しむ上での『リスナー』や『ユーザー』という2つの種類の人たちがインディーから出てくるアーティストを発見して、その中から5万10万50万100万と売れるアーティストが出てくるわけですよ。どんどん自分たちで手作りで作って売って、というやり方でビッグヒットやロングセラーが生まれれてくるような状況になってきたんです。プロの音楽業界人を経過しなくたって、ストレートかつダイレクトにリスナーや観客に届くということがどんどん進んできて、この数年の間に、ある種『二元構造』になってきましたよね。

——この6年で状況が逆転したってことなんでしょうか。

佐藤:ある意味そういうことかもしれませんね。逆にいいアーティストで、キャリアもあるんだけども、売り上げの枚数でいえば2万をきったとか、1万までいかないということで、メジャーから契約をきられるアーティストがどんどん増えてきましたよね。僕は、そういったアーティスト達の活動の場を用意したほうが、音制連としては会員各社やアーティストの皆さんに寄与できるんじゃないかと考えたわけなんです。

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——ここらで本来のコンセプトに向かって軌道修正をしなければ、いけないんじゃないか、と。そういうわけですね。

佐藤:はい。方向性としては、結果的にスタンダードになるようなもの、つまり息が長いものを作っている、というのが、どっちかといえば我々の寄って立つ一番の基本じゃないのかな、ということを考えたときに、「日本のスタンダード」というキーワードで考えれば、もうちょっと一つにまとまれるんじゃないかなって思ったんです。何らかのレッテルを貼られたアーティスト、つまり一回世に出た後で商業的成功を得られなかったり、あるいは、ちょっと売り方が難しいというような理由がいくつかあって現在契約がないアーティストがいる。しかも事務所がなくなっていたりしても、継続的に音楽を続けている。そんな人たちに場を与えていくことの方が逆に本当は必要なんじゃないのかと僕は思ったわけです。だからといって、単に『契約してない』っていうだけでイベントをくくるのはちょっと無理があるなと。そこで「スタンダード」という概念を持ってきたわけなんです。

——「スタンダード」ですか?

佐藤:はい。スタンダードっていうのは、要するに、いわゆる芸能の方にちょっと目を向けて、そことの比較でなんとなく大きくみてみたら、明日1枚でも多く売れるヒット曲を作っているのかどうか、っていう。

——1枚でも多く売れるヒット曲…ですか?

佐藤:つまり『売りさえすれば』っていうところでものを作っているかどうかに焦点を当てたんです。僕は、正直言うと歌謡曲も大好きなんで、ある種デフォルメされたおもしろさが大衆芸能のエネルギーの原点みたいな所もあると思っているんで、決してこれは良い悪いじゃないんですが、『よりたくさんの人に聞いてもらうメガヒットを狙うぞ』とか『大衆的なところへアピールする力を強くしていこうか』っていう時と、反対に音楽を作る側として『この音楽はこうあるべきだ』とか『こういうふうに聞いてほしいな』という思いがありますよね。それは必ずしもセールス枚数とは一致しないわけですよ。音制連の主だったアーティストの系譜をずっと見てみれば、やっぱりヒット曲作りというよりは、よりクオリティの高いもの、より自分らしいものという、ある種アーティスティックな部分にこだわっている人達が作ってきたものが、結果的に大きなヒットに繋がった、あるいは瞬間、瞬間に売れているんではなくて、結果的に継続して時を越えて売れているんだな、と思ったんです。10年20年経って、そういったものがすごい累計になっているっていうことが、我々の一番の財産じゃないかということに気づいたんですよ。

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——そこにin the cityの概念が繋がったわけなんですね。

佐藤:はい。つまり、若いアーティストもキャリアがあるアーティストも、みんなどっかでスタンダードを目指してるんだ、というキーワードを持ってくると、何か一緒に色んな事ができるんじゃないかなと。本来的にin the cityが目指していた若くてまだ契約をしていないアンサインド・アーティストと、キャリアがあってそれなりに実績も作ってきたし、それなりに業界にも影響を与えてきたしフォロワーもいるんだけども、でも今はそんなにいい状況ではないという人達、また、すごくキャリアがあるアーティストで今は音楽の中心からはちょっと外れているけれど、たくさんの人に愛されている、敬われている、そういった人達が同じイベントに集まって、それぞれに「スタンダード」というテーマでコラボレーションするというお祭りをやっていったらいいじゃないかと考えたんです。新しいアーティストを見つけてブレイクさせましょうっていう商業的な方向ではないものでやりたい、なと。

——それは、それぞれ各社が自分たちでやっているから、もういいだろうと。

佐藤:そうです。10代〜60代までの音楽人を一堂に介してイベントをやっていく、そういうことをin the cityで作っていけたら、もう少し音楽は活性化するんじゃないか、と思ったんですね。しかも公的なお金をベーシックにして何かやるんであれば、もうちょっと”文化としての”ポップスや、”カルチャーとしての”音楽みたいなものにスポットを当てた方がいいんじゃないかと思ったわけです。

——それが「J-STANDARD。」だったんですね。去年は具体的にはどんなことをやったんですか?

佐藤:20代,30代のアーティストが自分が敬愛する40代,50代のアーティストのスタンダードナンバーを歌ったりとか、あるいはそれを歌ってもらった当のアーティストが出てきて、また自分がスタンダードと思うナンバーを歌ったりとか、あるいはみんなで一緒にやったりっていうことをやれたらいいんじゃないかな、というアイディアを出して、去年はそういったものを中心に考えてコンサートをブッキングしたんですよ。

——ベテランでいえば、ユーミンとか飛鳥涼さんとか、大貫妙子さんとかが同じステージに立つっていうのは初めてですよね。

佐藤:全く初めてのことですね。ユーミンと大貫さんは30年のキャリアで、しかも近いフィールドでずっと音楽をやっているんだけども、過去に一度も同じステージに立ったことがなかったんです。それで初めて2人で同じステージに立ってデュエットを歌ったりだとか、さらに、10代の頃からそういった音楽をずっと聞いてこの世界に入って、今現役でやっている人達が、その同じステージでコーラスをやるとか。つまり売れてる売れてないとか、新しいムーブメントなんだとか、これからの傾向は○○だ、とかいうことではなくて、『音楽そのもの』にスポットが当たる、楽曲そのものを生み出した『アーティスト』にスポットが当たる、そんなイベントを作ったらもうちょっとみんな楽しいんじゃないかなと思ったんですよ。

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——今年やられるイベントではどんなものがあるんですか?

佐藤:in the cityは今年も「J-STANDARD」っていうテーマで、誰でも知っているような曲を全面的に押し出してやってるわけなんですけど、たとえばその一方で、CLUB QUATTROでやるイベントは、70年前後、80年前後、90年前後、2000年前後のサブカルをもう一回勉強しようっていうテーマでやるんです。というのは、そういったスタンダードを支えているのは実はアンダーグラウンドシーンであり、サブカルなんですよね。結果的にメインカルチャーになっていったものを支えてるのは、膨大なサブカルなわけで、そのサブカルにもう一回スポットを当てようってことで、そういった人達の現在みたいなことをもう一回イベントでやろうと考えてます。

——延べ何本のイベントが開催されるんですか?

佐藤:「Special Live 」がSHIBUYA-AXとQUATTROと渋谷公会堂で、他に「Who’s Next 」がタワーレコード渋谷のB1で、「label Night」「Recommend」が計4箇所のライブハウスで開催します。

——渋谷のライブハウスがほとんど参加している状況ですか。パンフレットを拝見すると、スゴイことになってますね。アーティストを選ぶだけでも骨が折れそうな作業だったんでしょうね。

佐藤:そうですね。「label Night」や「Who’s Next」だけでも、プロデューサーが選んた数十アーティスト、これ全部聞かなきゃいけないの?っていうほどですよ。僕は全部聞いてますけどね。あと今年は音楽だけじゃなくて、映像もやろうということで、渋谷公会堂で2回映画のイベントをやる予定です。

——映画のイベントですか?

佐藤:ロックフィルムフェスティバルをやるんですよ。それは、大画面で大人数でロック映画を見ようよっていうことなんですよ。まぁこの手の仕事をやっていれば、ある程度常識として、例えばピンクフロイドの『ザ・ウォール』とかビートルズの『ヤァヤァヤァ〜』とか、ロックの名画というものがたくさんあるのを知っていなければいけないじゃないですか。でも現実に映画館で大スクリーンでたくさんの人と一緒に見たことのある人って業界で働いている人で一体どのくらいいるのかなって最初思ったんですよ。それで、うちの社員50人ぐらいに聞いてみても、見たことがある人間は一割もいないんですよね。みんなビデオで見たとか、名前だけ知ってるとか。常識として知っておいた方がいいんじゃないのかなっていうような作品でも、意外となかなか知る機会がなかったりしてるんです。だから、そういうイベントを設けて、フィルムのキズも音の悪さも含めて当時の映画を見て欲しいなと。これは絶対にフィルムで借りたいと思って動いてみたら、意外とこれが苦労してるんですよ〜。実は今、配給権があってフィルムもあって、っていう映画がないんですよね。みんなDVD が出てて、権利がないものばっかりなんで、『ラストワルツ』はどうやら大丈夫そうだとか、ビートルズは直接権利を持っている人達から借りれるとかいってなんとか動いているんですよ。あと今年は、ゴールデン・カップスの映画が完成したということで、映画と一緒にオリジナルメンバーで生のライブもやることになってます。ゴールデン・カップスは、いわゆる60年代のGSブームの中に一緒に出ちゃったけど、いってみれば、日本のR&Bの元祖的存在ですからね。

——それは楽しそうなプロジェクトですね。ゴールデン・カップスが見れるなんて、それだけでも楽しみですよ。チケットは一般に販売などはしているんでしょうか。どういう形で参加を募っているんですか?

佐藤:基本的には、音制連への加盟社へのメールの案内ですよね。チケットといっても、イベント全体へのパス登録がメインですから、登録すればin the cityのイベント全部を見れるわけです。

——例年思うんですけど、非常に素晴らしい企画なのに、もったいないなっていうのがあるんですよ。関係者と一般の人が盛り上がって一緒に見た方が、アーティスト側も盛り上がるじゃないですか。そういったムード作りのためにも是非一般に公開していただきたいと思うんですけどね。

佐藤:その通りですね。去年は主だったスペシャルライブはパンパンで、中に入れなかったぐらいなんですが、たしかに一般にあまり認知されていないのはもったいないですよね。そう思って、今年は学校側にはかなり声をかけてるんですよ。音楽専門学校とかデザイン関係とか、そういったところにも声をかけて、要するに学校単位で申し込んでもらう分には加盟各社と同じように参加を受け付けますよ、しかも学割でやりますよ、ってことでやってるんです。あとは、それぞれのイベントは券売はやっていますしね。ただ、全部通しで自由に見れるのは関係者の登録パス、あるいは学校に向けて案内したパスですよ、ってことです。僕も全部開かれたものにしようと思ったんで、今回のメイン・ヴィジュアルとかも、インターネットと各デザイン学校に公開して集めて、全部で60何通の応募があったんですが、選ばれたのは21歳ぐらいの若い女性でした。実はレコード業界ではかなり著名なアートディレクターとか、イラストレーターさんなんかも応募してきてたんですよ。

——なるほど。では、たとえば、今回、関係社内外でMusicman-NET上からの申込とかは受付けるんですか?

佐藤:是非受け付けてほしいですね。in the cityというのは、音楽ファン向けであるのは当然で、音楽業界で働いてる人とか働きたいと思っている人達を巻き込んでイベントをやりたいっていうことですから。僕も一般の人に呼びかけたいっていうのがあるんですよ。ですから、オセロの中島さんやカリカ家城さんなど、お笑い畑の一般の人にもある程度認知されているような方をプロデューサーに招いたりしているわけなんです。境界線っていうのはないですから。

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——色々とお話を伺っただけでも、かなり大がかりなテーマと内容だと思うんですが、ここまでくるのにさぞ大変だったのではないですか?

佐藤:まぁそうですね。みんなが開かれた形で参加できるものにしたいなと思って、その土台を今回は作れたかなぁと思ってるんですけどね。またここから先は、別の障害がたくさん出てくるんだろうなぁーと。

——障害といいうのはなんですか?

佐藤:規模、ですね。規模をある程度のものにするには、それなりにたくさんの運営スタッフがいなきゃいけない。今年は7人ぐらいなんで。

——え、たったの7人でやってるんですか?この規模のイベントを・・・?

佐藤:そうですよ。現場では5人ぐらいですよ。で、それじゃあ全然無理なんでってことで、外部のプロデューサーや力がある人達に、3カ月から5カ月だけ事務局として、この部分を全部プロデュースしてください、現場制作をフォローしてください、といくつかお願いしてお任せしてるんですけどね。こういった裏で支える力がもっと強くならないと、なかなかできないじゃないですか。だからといって、ほんとにもっと開かれているというんであれば、ボランティアを募る方法とかできるけども、まだある程度業界内のことなんで、しかも業界からお金もいただいているじゃないですか。そうなってくると、微妙な力関係みたいなものをどうフォローするかとかね、今後もっと問題が出てくると思うんです。注目されればされるだけ「是非このアーティストを入れてくれ」とかって横やりとか色々来るかもしれないじゃないですか(笑)。今のところは、そういうの一切無視してやってるんですがね。

——イベントが大きくなったら、また問題がそれなりに出てくるっていうのはあるでしょうね。

佐藤:業界の全体の流れでいうとね、基金となってくる基本のお金がどんどん目減りしてるわけですね。少なくなれば小さくしなくちゃいけないですからね、普通は。今回は自力で代理店とか頼まずに、NTTとかと直接話をして、NTTの音楽配信の実験をそこでやるからっていうことでサポートしていただいたりしてますけどね。たとえば、こういったものをやりながら、持続していくのかどうかっていうのも結構難しいところでもあると思うんです。

——今回成功するかにかかってるってことですか?

佐藤:それもあるけれど、音楽業界全体をどっちに持っていくのかっていうことをもっとみんなで考えられればいいんですけど、結局レコードメーカーとか色んなところがそれぞれの権利をいかに守るかみたいなところでやっているから、決して協力的ではないわけです(笑)。

——正直に言うと、音制連の事務局の人が現場のそういう細かいことをやっていて、佐藤さんはお飾りのプロデューサーということで、かつぎ上げられてるのかと思っていました。

佐藤:違うんですよ。事務局の人は、企画内容については全く手伝ってくれない(笑)。企画を考えることからブッキングも全部自分でやらなくちゃいけないんですよ。でも勉強になるし、たくさんの人と知り合えるから、得るものは大きいんでいいんですけどね。でも2年間もやったんで、さすがにもう本業に戻りたいよなっていうね……(笑)。

——そんなにかかっていたんですか?

佐藤:いや、別に一年中やる必要はないんですよ。でも、去年ここまでデカくしちゃったから、関連してるっていうことで、「J-STANDARD」っていう本を作ったり、3か月間とかラジオの番組をやったりだとか。それも番組構成も全部自分で台本書いて、番組に出てしゃべって、それこそ全部ノーギャラですからね(笑)。結局一年中やってるんですよね。

——よくそんな面倒くさいことをお引き受けになったというか………、大変ですよね?

佐藤:ほんとですよ(笑)。今、本業が全くできないんですよ。今はもう一年中このことばっかりで…。昨年から「日本のスタンダード」っていうシリーズでコンピレーションを出してるんです。レーベルを越えて全曲選ぶところから始まって、交渉から全部僕の方でやってるんですよ。テーマ別に5枚同時に、BMG、ソニー、ユニバーサル、ビクター、東芝EMIで計5社から出してるんです。

——うわぁ、ものすごい大がかりな企画ですね。音制連もすごい仕事をしましたね。佐藤さんをよく担ぎだしたなっていう…(笑)。

佐藤:山中さんと高橋さんに担ぎ出されちゃったんですよ。音制連そのものが僕自身、一番似合わなくてずっと出てこないでいたのに、まいったな(笑)、っていう。

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——これからますます忙しくなる一方じゃないですか。in the cityの今後については、何かお考えなのでしょうか?

佐藤:もう一年中イベントやってますよ。来年3月もソウルで、in the cityソウルという形でイベントをやる話が進んでいるんです。

——韓国でやるんですか、それは凄い企画ですね。

佐藤:今はもう韓国と日本の民間ベースのイベントはいくらでも今やってるじゃないですか。だからもっと尖ったことをやろうと、韓国のクラブとかライブハウス15カ所と提携して3日間ぐらいで色んなことをやろうかと考えているんですけどね。

——今回、フォローとして、in the cityが終わったという形でレポートとしてぜひ取材させてください。

佐藤:是非やっていただけたら有り難いですよ。たとえば、これらのイベントが終わった後の打ち上げは、全部1箇所で行われるんですよ。

——オリンピックの閉会式みたいな感じですね。そこを取材させていただけたら、面白いんじゃないかと思います。

佐藤:そうですね。レーベルナイトに出たばっかりといった若い人達と、そんな人達から見たら、それこそ伝説の人とか、雲の上の人とかって言われるような存在の人達とが全員が一緒の場所に集まって打ち上げをするんですよ。みんなアットホームでフリーな雰囲気なので、自分たちのCDを渡したり、サインをしてもらったりといった色んな交流がおきますね。人と人が交流するっていうのは、僕は一番必要だと思うわけですよ。今日同じライブをやったっていう共通点で同じ空間に集まってお酒を飲んだり、談笑したりするような機会が年に一回か二回は行われた方がいいんじゃないかな、と思いますね。

——大事なことですね。

佐藤:ここ何年か、日本で野外ロックフェスが定着して、テント(ステージ)裏に行くと色んな人がいて、色んな話ができるわけじゃないですか。CDを渡したり、はじめて口をきいたとかで、後でなんか一緒にやりましょうっていうコラボレーションのきっかけになったりするわけですよ。それと同じで、こういう場を時々作っていくことが、業界の中が活性化する一番大切なことなんじゃないのかなと思うわけです。

——たしかにその通りですよね。何か新しいことに繋がったり、音楽への愛が深まったりっていう…。

佐藤:in the cityに来て欲しいのは、音楽業界で働いている人や音楽業界を目指している人達であって、音楽の本当の面白さとか、音楽が生まれる瞬間に立ち会うっていうことが一番僕は大事だと思っているんですよ。その場に立ち会えた人はラッキーで「いいものを見たね」とか、「こういうことがあるんだったら、また参加しよう」とかって思ってもらえれば、それで十分なわけなんですよ。

——とにかく業界にいる人が見てくれないと話にならないわけですね。

佐藤:人と人が出会い頭に色んなものが生まれるから、音楽も面白いんでね。内々でずっと作ってるだけじゃつまらないから、そういう場を提供するっていうのは一番大事なんじゃないかなっていうのが、実は裏テーマなんですよ。僕にとってはね。

音楽に携わる人々の世代やジャンルを超えた様々な交流、音楽シーンの枠を越えた魅力的なコラボレーションを目的とした新しい文化を継承する形「J-STANDARD」を生み出した張本人、佐藤氏。インタビュー後には、CCCDや音楽配信についての現状など、様々な分野に渡って音楽業界のあり方についてご意見を語っていただき、大いに盛り上がったインタビューとなりました。「”ビジネスマン”なんかではなく、”Musicman”にこそ日本の音楽業界を託すべきだ」という佐藤氏の言葉は、常に音楽業界の現場を走り抜けてきたからこその重みのある生きた言葉なのだと感じました。ここではスペースの関係上、そのお話までご紹介できないのが残念ですが、Musicman編集部では是非、近々またお話を伺う機会を設けようと思っています。乞うご期待!