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内沼 映二 氏 スペシャル・インタビュー (株)ミキサーズ・ラボ 代表取締役社長/レコーディングエンジニア

インタビュー スペシャルインタビュー

内沼 映二 氏
内沼 映二 氏

 CDから新しいメディアへの移行が模索される中、5.1chサラウンドチェック・ディスク「CHECKING DVD BY MUSIC」が登場した。レコーディングエンジニア内沼映二氏が構想・制作を手掛けた今作は、オーディオ・チェック・ディスクと観賞用ディスクの2枚組。無味乾燥なチェック・ディスクと異なり、R・コルサホフの交響組曲「シェエラザード」を楽しみながらサラウンドシステムのチェックができる画期的な作品だ。

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 DISC1ではジョン・カビラ氏のナビゲーションに従い各項目をチェックすることによって、最高のリスニング環境を獲得できる。また、EXTRA- TRACKとして収録された「音の歴史体験」では、蓄音機、アナログレコード、CD、そしてDVD-Audio サラウンドとスペックの違う音源が収録されており、各音源を聴き較べることによりDVD-Audioの魅力をより味わえる。特にCDとDVD-Audio の差は歴然で、DVD-Audioの可能性を感じずにはいられないだろう。
 そして、DISC 1でチェック、調整したオーディオ・システムで体感するDISC 2『シェエラザード』は、斎藤ネコ氏によるジャズや打ち込みも交えた大胆な編曲で、ダイナミックかつ繊細に響くはずだ。
 今回は内沼氏とこの作品のA&Rを務めた株式会社ミキサーズ・ラボ 吉川浩司氏に、制作にまつわるお話や、DVD-Audioの可能性と未来について語っていただいた。 

株式会社ミキサーズ・ラボ ウェブサイト http://www.mixerslab.com/
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[2004年11月17日/ 株式会社ミキサーズ・ラボ WESTSIDEにて]

プロフィール

内沼映二(うちぬま・えいじ)
(株)ミキサーズ・ラボ 代表取締役社長/レコーディングエンジニア


1997年 第一回日本プロ音楽録音賞「新日本紀行 冨田勲の音楽」から(新平家物語)で優秀賞を受賞。
2001年 第八回日本プロ音楽録音賞「ベイビーフィリックステーマソング集」(テーマソング:Vo大貫妙子)でパッケージメディア・ポップスロック部門にて優秀賞を受賞。
2003年 第十回日本プロ音楽録音賞Stardust Revue「LOVESONGS」より(追憶)でニューパッケージメディア部門(DVDオーディオ作品)で最優秀賞を獲得。

【主な作品(順不同)】
[CDパッケージ]角松敏生(デビュー〜ほぼ全作品)、冨田勲「新日本紀行」、前川清、SPEED、西城秀樹、MAX、石川さゆり、キンモクセイ、天童よしみ、C-C-B、ANRI、ZOO、郷ひろみ、KinKi Kids、中西圭三、V6 他多数。
[サウンドトラック]踊る大捜査線MOVIE1・MOVIE2、Returner、ジャングル大帝。ドラえもん、王様のレストラン


▼BACK NUMBER→ 【Musicman’s Reley 第41回 内沼映二氏インタビュー】


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——この「CHECKING DVD BY MUSIC」を作るきっかけは何だったのですか?

内沼:過去に斎藤ネコさんと取り組んだ仕事で、ストラヴィンスキーの『春の祭典』というのがありまして、それはトータルアレンジが市川秀男さんで、当時の日本のトップミュージシャンを全部集めたような制作でした。その時の経験が忘れられなくて、DVD-Audioが世に出た5年前に斎藤ネコさんと「あの『春の祭典』みたいなのをやりたいね!」と話していたんです。それから結構時間が経ってしまったんですが、ミキサーズ・ラボも創立25周年を迎えたこともあり、何か1つ世の中に良いものを残そうじゃないかと今回制作する運びになったんです。

——斎藤ネコさんとはどのようなご関係なのですか?

内沼:斎藤ネコさんとは、彼が東京芸大の学生の頃から30年近い付き合いなんです。もともとネコさんは学生時代に市川さんのところでお手伝いをしていたので、そこで知り合いました。僕がまだ日音スタジオをホームグランドとしてやっている頃に、ネコさんは暇があるとスタジオに来て、スコアを見ながら歌謡曲の勉強をしていたんですよ。

——実際の制作はどのように進められたんですか?

内沼:まず、ネコさんがミュージシャンのためのガイドを作らなくてはならなくて、各パートを全部シンセで打ち込んでProToolsに取り込み、それに合わせてドンカマを3種類作ったり苦労しました。そのシンセの音をベーシックとして、各パートごとバラバラに録音したわけです。つまりシンセのモニターミックスをガイドとしてミュージシャンに聞いてもらいながら、各パートごと生の演奏に差し替えていったんですが、最後にコントラバスを録った時は、他は全て生の音になっていたわけですね。

吉川:そもそもパートごとにマルチ録音するというのは、クラシックではないんですよ。

——クラシックでマルチ録音はないんですか?

内沼:まずあり得ないです。僕もこういう録音方法をするとは思っていなかったんですよ。せめてストリングスだけとか、木管だけとかそれくらいだったらあるかもしれませんが、最初からパートごとにやるのを、ネコさんがどうしても挑戦してみたいということになって、そうすれば我々もこのスタジオ(ミキサーズ・ラボの自社スタジオ WESTSIDE)でできるかなというのもありました。

——実際、演奏家は何人くらい参加されたんですか?

内沼:オーケストラがのべ67人ですね。

——それをマルチ録音ですか…とても手間のかかることをされたわけですね。

内沼:ネコさんが一番大変だったんですよ。ガイド・トラックを作っただけで1つの仕事が終わったくらいの労力ですからね。ネコさんは一週間かかりっきりでガイドを作って、生の録音が10日間くらいかかりました。DTMは角松敏生さんのところの山田君にお願いして、それが2日間。あと市川さんのジャズ・パートは1日で録りました。その後、MIXが本編とリミックスで6日間くらいかかりました。特にDISC 1はMIXが終わったあとも色々手を入れなくてはならなかったですね。だから今回はProToolsの便利なところは全部使いましたし、そのProToolsをオペレートしたうちの安達(義規)も貢献してくれました。そもそもProToolsがなかったら、この作品はできなかったですからね。あと、モニタースピーカーはWESTSIDE Ast常設のセットを使用しましたが、元々あったフロントのラージモニターを活かして、後から残りのスピーカーを追加した5.1チャンネルのセットが上手く機能しました。

 

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——この作品で内沼さんが目指したものは、やはりDVD-Audioの素晴らしさを伝えることなのですか?

内沼:それは当然あります。CDが出たのは’83年ですから、もう22年過ぎているわけですよね? アナログレコードの頃はカッティングの難しさやスクラッチノイズがあったので、CDができて「これは便利だ」と喜んでいた時代もあったんですが、実際に聞いてみると「何か違うよね」とエンジニア同士でも話をしていたんです。「周波数特性だって20Hz〜20KHzまで入るんだから、全然問題ないんじゃないの?」という話もあったんですが、やはり何か違うんですね。その後、芸能山城組の大橋 力先生が新聞に“人間は20KHz以上の音も感じるはずだ”と、アナログレコードとCDの周波数特性の比較図を出して説明されていたんですね。確かにアナログレコードは、20KHzを軽く越している音があるんですよ。それはレベル的に非常に小さいんですが、25KHzとか30KHz近くまで出ているんです。それがないというのは、音色にとても影響しているという記事を見て、「確かにそうだ」と思ったんです。僕は弦の音が好きなんですが、昔アナログでやっていた弦の音が、3348(MTR:SONY PCM-3348)も含めて出ないんですよ。

——そのCDの限界を乗り越えるのが、DVD-Audioというメディアなわけですね。

内沼:そうですね。あと、アナログレコードの頃は制作に携わっている人の多くが、いい音楽を聴くためにお金を投資していたんです。例えば、クラシックを聴くときは「カートリッジはortofonのSPUがいい」とか、ジャズを聴くときは「SHUREのV15」とか、レコードによってカートリッジを変えて、針圧を変えたりするのが1つの楽しみだったんです。だけど、CDになって、入り口のところで調整できるものがなくなっちゃったんですよね。音楽を生活の一部として定着させたのはCDの功績だと思いますから、どちらが良い悪いとは一概に言えないんですが、昔あったオーディオ・マインドを持っているか、持っていないかによって、音楽に対する考え方も変わってくると思うんですよね。そのオーディオ・マインドをもう一度蘇らせたいという思いがあったんです。 この『シェエラザード』という曲はクラシックなんですけどポップなので、ネコさんと相談して決めたんですが、何故クラシックにしたかというと、クラシックの各楽器というかアコースティックな楽器を誰も知らないんですよ。若いエンジニアも楽器がどういう音をしているか、どういうアレンジで、どういう構成で演奏されているかを知らない人が多いんで、この作品を聴いて勉強してもらいたいな、という思いもあってクラシックの楽曲を選びました。

——楽器本来の音を知って欲しいと。

内沼:そうですね。サンプリングされた音が氾濫していますけど、生の音を知った上で音を作ってもらいたいなと思うんです。

——なかなかDVD-Audioへの移行が進みませんが、それはハードの普及率から推測して、DVD-Audioに切り替えると売り上げが落ちると考えられているんでしょうか?

内沼:DVD-Audioは44.1KHzと96KHzと同居でき、CDクオリティーのものも入るので、値段さえ変わらなければ売り上げ的にもあまり変わらないと僕は思います。しかもDVD-AudioのコピーコントロールはCDと違い完璧ですし、製造コストも下がってきているので、DVD-Audioにメディアが変わってくれた方が良いと思うんです。それによって機器メーカーのビジネスチャンスも広がると思いますしね。

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吉川:DVDというメディアの魅力的なところは、作る側がデータ領域をどう使うかアレンジできるので、5.1ch サラウンドとともに2chも入れられるし、そのスペックも容量によっては複数のスペックを入れられて、再生環境によって選べるところなんですね。ですから、その内容によって、将来いいオーディオを買えばハイクオリティー・サラウンドの一番美味しいところを聴けるし、現状2chでも聴けるわけです。しかも価格はそんなに高くしなくていいところまで来ています。ハイスペックなところばかり売ろうとするとなかなか大変ですが、両方抱き合わせにしてユーザーに選択してもらえばいいと思うんですけどね。

内沼:例えば、SACDはCDとハイブリッドになっているものが多いので、SACDプレイヤーはなくてもとりあえず買っておこうという人が多いみたいなんですね。

——先ほど内沼さんは「DVD-Audioのコピーコントロールは完璧」と仰っていましたが、例えばDVD-Audioの音源をi-Podに落とすということはできるのですか?

内沼:いったんアナログにすればできますが、デジタルのままではできないです。ですからパソコンでもコピーできないですね。

——では、DVD-Audioに切り替えることによって、違法コピーも含めて音楽業界が抱える様々な問題が、一気に解決する可能性が大きいわけですね。

内沼:そうですね。根本的な問題として作品的に売れる売れないということもありますが、CDというメディア自体が抱える問題点は、DVD-Audioに移行することによって解消されると思います。

——それなのに何故各レコード会社は、CDからDVD-Audioへの移行をしないんでしょうか?

内沼:当然CDと違って、マスタリングとあとオーサリングとが必要ですから、その分はお金がかかりますけどね。あと、プレス工場等の環境が整えばという感じでしょうか。

吉川:業界的にメーカー自体、体力がない時期を過ごすにあたって、その転換がまだ上手くいっていないのかもしれません。

 

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——この「CHECKING DVD BY MUSIC」は5.1CH サラウンドですが、リスニング環境さえ整えば、家であろうと車であろうと、このハイクオリティな音を聴けるわけですよね?

内沼:そうです。今5.1chは車での普及がすごいんですよね。

——考えてみれば、車はスピーカーの配置がすでにサラウンドになっているんですよね(笑)。やはり車における普及は伸びているんですか?

内沼:各自動車メーカーとも力の入れ方はすごいですよ。値段が高いクラスの車は、5.1chが標準装備のようなんですよ。

——これから日本のポップ・ミュージックにおいても、DVD-Audio 5.1ch サラウンドという仕様での発売は増えていくとお思いですか?

内沼:増えていくと思います。今、売れているビッグ・アーティストがDVD-Audioの5.1chを出す話もありますし、エイベックスさんとかもDVD-Audioに力を入れていくらしいんですよ。

——少なくとも録音段階ではDVD-Audioに全て対応していくらしいですからね。

内沼:ビッグ・ネームの方がそういう試みを続けていけば、見方が変わるかなと思いますね。

——ちなみにDVD-Audioの音源を配信するときにはどうなるんですか?

内沼:圧縮すれば配信できますが、同じクオリティーでは配信できないですね。

——ということは、将来的に手軽な配信とDVD-Audioのようなハイクオリティのパッケージ、2極化するということになるのかもしれませんね。

内沼:そうですね。ハイクオリティなものが欲しければパッケージ、そこまで求めない人は配信ということになるでしょうね。

——DVD-Audioの普及に対して今はどのような動きがあるのですか?

内沼:松下電機産業さんはDVD-Video/Audioを押してますし、DAP(DVDオーディオプロモーション協議会)には20社近く参加して積極的に活動しているんですが、まだDVD-Audioは独り立ちできていないですね。

吉川:そういう普及活動をされている方々が、DVD-Audioという世界をプロモーションするときに使えるDVD盤がこれまでなかったんですが、この「CHECKING DVD BY MUSIC」はドンピシャだと言っていただいています。

内沼:そもそも「チェック・ディスクを作ろう」というところから始まっていますからね。このスタジオも「CHECKING DVD BY MUSIC」のDISC 1で改めてチェックしてみると、色々とアラが出てくるんですよ(笑)。

——ご自分のスタジオも、この作品で調整しているんですね(笑)。

内沼:通常、音楽をかけたり、いわゆるピンクノイズという音を出して調整するんですが、その後に音楽をかけるとちょっとずれるんです。でも、「CHECKING DVD BY MUSIC」を使うとしっかり調整できますね。ですから、自分で作っていてなんですが、この作品はいいなと思っています(笑)。

——最後に、この「CHECKING DVD BY MUSIC」を誰に一番聴いて欲しいですか?

内沼:もちろんオーディオが好きな人に聴いてもらいたいですが、音楽業界でも制作関係者、エンジニア、あと経営者の方々に是非聴いてもらいたいですね。

——経営者というのは、レコードメーカーのTOPですね。

内沼:そうです。音楽の制作に携わる全ての人に聴いてもらえたらと思っています。

 本来であればレコードメーカーが先頭に立ってやるべきことを、制作現場の第一線にいる内沼氏から発せられたことの意義は大きい。このインタビューではあえて割愛したが、コピー問題を初めとし、レンタルCD問題、制作スタイルの問題等、実に様々な点に話は及んだ。
 レコーディングエンジニアのトップとしてCDというメディアの限界を誰よりも強く認識し、次なるメディアに活路を見いだすべきではないかという内沼氏からの警鐘に対し、音楽業界は真摯に耳を傾け、業界全体で考えていかなくてはいけないのではないかと改めて感じた。音楽制作に関わっている全ての人に、是非ともこの作品を体験して頂きたい。

 

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