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(株)ワーナーミュージック・ジャパン 代表取締役社長 兼 CEO 吉田 敬 氏インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

吉田 敬 氏
吉田 敬 氏

 吉田敬氏がデフスターレコーズの代表取締役からワーナーミュージック・ジャパン代表取締役社長に電撃的に就任して5年。この間にコブクロ、絢香、 Superflyとヒットを連発させ、見事にワーナーミュージック・ジャパンの邦楽を立ち直らせた吉田氏。10月1日付でCEOに就任する吉田氏にこの5年間を振り返っていただきつつ、ワーナーミュージック・ジャパンの未来と今後の抱負について話を伺った。

[2008年9月8日 / 港区北青山 / 株式会社ワーナーミュージック・ジャパンにて]

プロフィール
吉田 敬(よしだ・たかし)
株式会社ワーナーミュージック・ジャパン 代表取締役社長兼CEO


1962年5月13日:大阪府出身 1985年慶應義塾大学経済学部卒業
同年 :(株)CBS・ソニー入社 同社販売促進部門に配属
1997年:ソニーレコード・Tプロジェクトを立ち上げる
2000年:デフスターレコーズ発足
2001年:SME社より分社化 株式会社デフスターレコーズ設立、代表取締役就任
2003年:SME社を退職
2003年:8月1日ワーナーミュージック・ジャパン代表取締役社長に就任
2008年:10月1日ワーナーミュージック・ジャパン代表取締役社長 兼 CEOに就任
▼今までに手掛けたアーティスト(50音順)
YeLLOW Generation、CHEMISTRY、the brilliant green、Sowelu、Tommy February6、平井堅、コブクロ、絢香、Superfly 等

 

——前回インタビューさせていただいてから早5年経っているんですが、そのインタビューを読み返してみて、色々と仰っていたことがほぼ実現していて驚きました。

吉田:そうですか。前回のインタビューが2003年8月26日となっていますが、ワーナーに来たのが8月頭からですから、その時点では夢みたいなこともお話していると思うんですが。

——それを実現されているので、有言実行であったなと感じます。そして今回CEOに就任されるということで、再度お話を伺いたいと思っております。

吉田:はい。10月1日付でワーナーミュージック・ジャパンのCEOに就任します。現CEOのラクラン・ラザフォードが代表取締役会長職に専任となり、僕がCEOを引き継ぐことになります。

——10月以降、最終決裁権をお持ちになるということで、吉田カラーがより鮮明になるのではないかと思っているのですが。

吉田:組織的には上にラクランがCEOという形でおりましたが、今までもかなりの部分を任せてもらっていましたので、CEOに就任したあとも業務自体はあまり変わらないと思います。

——まず、この5年間を振り返っていただきたいんですが、先述のインタビューで吉田さんはソニーにいるときは「勝っているのに負けているような感じがした」と仰っているんです(笑)。「ハードを売るためにコンテンツを作らされるような感じが嫌だった」と。ワーナーに移られてからそのへんのストレスは解消されたんですか?

吉田:そうですね。僕がワーナーに来たときはまだワーナーブラザーズという映画の会社と同じグループの会社で、社名も「ワーナーエンターテイメント・ジャパン」という名前でしたが、来たと同時に音楽の部分が分離して100%音楽だけの会社「ワーナーミュージック・ジャパン」になりました。音楽に集中できる環境になったので、そういったストレスからは解放されましたね。

——今、外側の立場から見てもソニーは変わっていないですか?

吉田:うーん、変わっていないですし、ますます親と子供の関係が強くなっているように感じます。割と親が子供を突き放すことによって均衡を保てていたのが、色々な事情で親の方が子供との距離を縮めた部分があると思うので・・・。

——子離れできない親という感じですか?

吉田:まさにそうですね。それが外から見てもわかるから「このまま行くとどうなるのかな?」と僕みたいな性分だと思いますけどね。だから、振り返ってみると僕は出るべき時期に出たんだなと思います。やはりソフトを作ってビジネスをしている僕のような人間は、そういったストレスはできるだけない方がいいと思いますし、今はすごく健全な状況で仕事ができていると思います。

 とはいえ5年前に来たときはワーナーの人や組織、アーティスト、カタログ、そしてなによりも文化が今とは全然違っていたので、とても戸惑いました。今振り返るとよくここまで来たなと思いますね。

——5年前に「早くワーナーで成功体験を共有したい」と仰っていましたが、コブクロ、絢香、Superflyと次々に成功させましたよね。

吉田:そうですね。先ほど有言実行と仰っていただきましたが、幸い3つ立て続けにヒットを出せましたし、そのうちのコブクロなんて大化けしましたからね。僕は彼らを通じて、自分自身もものすごく勉強できたなと感じています。

——ワーナーに来られて一番最初になにをされたんですか?

吉田:僕は何も知らない状態でワーナーに来たんですが、まずは自分自身を信用してもらうところから始めました。

——やはり社員の方々とは密にコミュニケーションをとられたんですか?

吉田:いや、信用してもらうには100回一緒に酒を飲みに行ったり、何百時間話し合っても駄目で、自分の力でヒットを作って「吉田はこうやってヒットを作るんだ」と周りに見せて、理解してもらうということ以外に方法はないということが分かったんです。それでありとあらゆる人脈と手法と経験を使って作ったヒットがコブクロや絢香なんです。

——吉田さんの全勢力を傾けた結果だったんですね。

吉田:もう賭けですよね。最初はコブクロしかいなかったので、そこに僕の持っている全てを注ぎ込みましたね。

 

——吉田さんを中心とした制作・宣伝部をこの5年で作り上げて、今は完全に花開いたような状態なのでしょうか?

吉田:レーベルや組織の統廃合をしましたし、スタッフも若返らせました。

——ワーナーはすごく変わりましたよね。

吉田:そういっていただけると嬉しいですね。自分が描く青写真を実行するときに、それをサポートしてくれるスタッフは非常に重要ですので、自分の構想といいますか、例えば「A&Rとは?」とか「ヒットとは?」とか何度も説明しながら組織を進化させる中で、今はだいぶ完成系に近いかなと感じています。

——CEOになられても制作・宣伝のTOPの立場はキープされるんですか?

吉田:そうですね。経営だけをして、ずっと会議室にいてというタイプの経営者もいると思うんですが、やはり僕の持ち味は自分でユニフォームを着て、グラウンドに降りてスタッフと一緒にプレーをすることだと思うので、今後も二足のわらじを履いて行きます。

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——まさにプレイング・マネージャーですね。でも、それをやると忙しいと5年前には仰っていましたが、今もお忙しそうですよね。

吉田:そうですね(笑)。できればもう少し会社全体を俯瞰で見られればいいなとも思うんですが、人脈のような部分は簡単には継承できないので難しいところです。ただ、難しいながらも継承させていかなくてはいけないと思っていますし、距離はどうであれ、現場が僕の持ち味だと思っていますので、今後も関わっていくと思います。

 5年前のワーナーはヒットが出るような状況ではなく、「自分で動いてヒットを作らないと潰れてしまう」という強迫観念というか、ケツに火がついた状況でした。幸いコブクロのヒットが出てからは上手く回り出して、それを見ているスタッフも「自分もやらなきゃ」という良い連鎖反応が起こりました。

——そしてコブクロ、絢香とミリオンを立て続けに出されたわけですから素晴らしいですね。その結果、ワーナーのドメスティックの割合もすごく増えましたよね。

吉田:僕が来たときはドメスティックの割合が洋楽の半分だったんですが、今はその3倍くらいあります。ワーナーミュージック・グループの中でもドメスティックがここまで大きい国は他にないと思います。5年前のワーナーは邦楽を潰さなくてはいけないというところまで来ていましたから、僕の最大の使命は邦楽の立て直しでした。そのためにはアルバムが売れるアーティストを育てる必要がありました。シングル・ヒットは出るけどアルバムは売れないというアーティストが10組いるよりも、アルバムが売れるアーティストが2〜3組いる方が売り上げの構築としては大きいので、初めからそういうアーティストを作ろうと思っていました。

——確かにコブクロも絢香もアルバムが売れるアーティストですね。

吉田:そうですね。どちらもアルバム型のアーティストです。コブクロのベスト盤は350万枚売れましたし、オリジナルアルバムも170万枚売れました。

——そこまでアルバムが売れると達成感がありますよね(笑)。

吉田:最高ですね(笑)。でも、それは一人ではできませんし、アーティストに恵まれたのが一番大きいと思います。ダイヤモンドの原石に恵まれても、なかなか花開かないで宝の持ち腐れになってしまうケースもあれば、人脈やバイタリティーはあるのに原石に恵まれないケースもあるでしょうし、本当に組み合わせの妙と言いますか、タイミングもあると思いますね。

——また、邦楽だけでなく洋楽もバランスよく売れていますね。

吉田:近年、洋楽が苦戦している中でもワーナーは善戦していると思います。ワーナーの洋楽はカタログが充実しているのに加え、新作もキャッチーでハイクオリティのアーティストや作品が次々と届きます。洋楽の作品でもテレビドラマの挿入歌にしたり、音楽番組に出したり、ワイドショーで扱ってもらったりと「邦楽の手法で育てていく」という方針で、一昨年にはダニエル・パウダー、ジェイムス・ブラントと洋楽の新人がブレイクしました。ただ、今年は苦戦しているので、今はそこを色々と検証しているところです。

 

——世界的に見れば日本はパッケージの売り上げが善戦していますが、これは時間の経過と共に欧米同様に落ち込み、配信などの新たなメディアの割合が大きくなってくるとお考えですか?

吉田:もちろんそうなっていくと思います。アルバムがあるからまだパッケージは堅調に見えているだけで、シングルは数字を見ていると本当に厳しいです。今後はパッケージに代わりモバイルの着うたや着うたフルになっていくんでしょうけど、音楽の所有の仕方が変わってくるだけで、音楽そのものとユーザーの距離や関係は変わらないじゃないですか。そこが変わらない限りは僕らはそう悲観することはないかなと思っています。

 そういった状況の中でパッケージとしてのアルバムを売るという事は曲を売るのではなく、コブクロというアーティストを売るという事だと考えています。「『桜』のコブクロ」と言われるか、「コブクロの『桜』」と言われるか、そこは全然違うんです。やはり何年か経ったときに「コブクロの『桜』が好きなんです」と言われるようにならなくてはいけないと思っています。

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——アーティスト自身を売るということは、ファンクラブの会員数を増やすという発想に近いかもしれませんね。

吉田:近いですね。100万枚CDが売れてもファンクラブの会員が少ないアーティストもいれば、CDは20万枚しか売れないけれどファンクラブには5万人会員がいるというアーティストもいるでしょう。僕らが目指さなくてはいけないのは間違いなく後者だと思います。ずっと応援してくれるファンがたくさんいるようなアーティストを作っていかないといけませんね。

——その状態さえ作れれば息の長いアーティストになるだろうと。

吉田:そうです。例えメディアが変わっていこうと売れていくと思います。また僕らはレコード会社なので曲というツールを使ってアーティストを売るんですが、その人自身を好きになってもらうことによって「360°ビジネス」を展開させることができます。360°のうち音楽は120°くらいでしょうか。だとしたら、あとの240°はレコード会社ではなかなか踏み込めなかったり、プロダクションの領域だったりするのが現状です。ですので、今後360°全てのアーティストの権利やビジネスに僕らが踏み込むには、新人アーティストを僕らの手で発掘し、マネージメントをして行くことが必要だと考えています。

——ワーナーとしてもそういう体制作りをしているのですか?

吉田:着々と準備をしています。去年の10月にはプロダクションのタイスケの株を70%取得させてもらったので、Superflyはワーナーグループのアーティストという認識でビジネスしています。ウルフルズやBONNIE PINKもそうですね。

——360°ビジネスとなりますとライブも大きな割合を占めてきますよね。

吉田:もちろんです。ライブはおそらく60°〜80°くらいありますね。昔、丸山さんがEPICソニー時代に仰っていたことを思い出します。レコード会社はそのアーティストを売るために何千万も宣伝費をかけて、売れた途端にプロダクションはライブをたくさんやって、その会場では物販ブースに人が群がっている。と、その儲けは全部プロダクションでしょう。「最終的なあがりはプロダクションか・・・」と丸山さんはボヤいてました(笑)。僕はその言葉が耳について離れないんですよ(笑)。

——(笑)。でもよく考えると、昔のレコード会社は作家や歌手と専属契約していたわけですから、再びそこに戻っているのかもしれませんね。

吉田:確かにそうですね。原点回帰しているのかもしれません。今まではレコード会社とプロダクションは共存共栄でやってきました。マネージメントはプロダクション、新人発掘はレコード会社とそれぞれに役割分担があって、レコード会社はアーティストをプロダクションに預けるみたいなスタイルでした。しかし、今のプロダクションは発掘からやりますし、発掘して作って宣伝してタイアップも入れてマネージメントもしてということになると、プロダクション側から見るとレコード会社はいらなくなりますよね。実際、ディストリビューションはどこでもいいわけで、そうなってしまうとレコード会社の存在意義はなくなってしまいます。

——今後はやはり原点に戻ると言いますか、発掘した人が育ててビジネスにするということになるんでしょうね。

吉田:そうですね。ですからレコード会社の中に金の卵をふ化させるだけの強さ、例えばタイアップ力とかクリエイティブ力があれば、他に預ける必要はないんですよ。

——つまり今後のレコード会社の使命としては、自ら才能を見つけ、高い確率でヒットを産みだし、そして360°ビジネスを展開させることであると。

吉田:それが理想ですね。現状をキープしてヒットを出しつつ、360°ビジネスを自社で展開できる新人を育てることによって、今までの収益構造を変えていくことが今後の目標ですね。そうなるともうレコード会社とは呼べなくなるかもしれません。エンターテイメント・カンパニーと言いますか、いわゆる従来のレコード会社ではないですよね。

——そういったエンターテイメント・ビジネスの先鋭集団にワーナーがなるのが今後の目標なんですね。

吉田:そうなったら素晴らしいと思います。

——最後になりますが、ワーナーとしての具体的な今後の予定を教えて下さい。

吉田:CEOに就任する10月1日から新しい期が始まるんですが、ワーナーミュージック・ジャパンならではの洋・邦取り混ぜたコンベンションを来期もどこかのタイミングで引き続きやりたいと思っています。また、竹内まりやのデビュー30周年を記念した初のコンプリート・ベスト・アルバム「Expressions」が10月1日に発売になります。年内はこの作品が一番の目玉になると思います。

——ワーナーミュージック・ジャパンの益々のご発展と吉田さんのご活躍を楽しみにしております。本日はお忙しい中ありがとうございました。 

-2008.8.25 掲載