「DirectorsGear」サービス開始記念 座談会
<出席者>
株式会社フォレスト 専務取締役 エグゼクティブ・プロデューサー 常行邦夫 氏
株式会社ブルース・インターアクションズ Jポップ・マーケティングセクション 制作グループ グループ・ヘッド 森 知樹 氏
株式会社マグネット 代表取締役 山浦正彦 氏
株式会社FM802 業務推進局 編成部編成課長 古賀正恭 氏
株式会社エル・ディー・アンド・ケイ 音楽事業部本部長 菅原隆文 氏
エフ・ビー・コミュニケーションズ株式会社 代表取締役 屋代卓也 氏
株式会社ZIP-FM 経営企画局 企画室 次長 山田誠治郎 氏
株式会社エル・ディー・アンド・ケイ A&R 後藤義浩 氏
ニフティ株式会社 DirectorsGearプロジェクト マネージャー 真下誠一 氏
「より効率的な音楽プロモーションをしたい!」、「サンプル盤の廃棄は心苦しい・・・」、「放送局のCDライブラリをコンパクトにしたい、放送音源をサーバーに固定したい」、「権利者団体への全曲報告を実現したい」・・・ そんなレーベルや放送局の現場、そして経営者からの声を受けてプロジェクトがスタートした「DirectorsGear」(以下 DG)が11月26日よりいよいよサービスを開始しました。
DirectorsGearトップページ DGはレーベルから放送局にインターネット上でプロモーションできるツールで、放送局は必要なものだけ選んでサンプル盤を依頼でき、また放送用音源ファイルの取得も可能となります。
番組制作者・ライター・バイヤー約180名、レコード会社94社(241レーベル)が参加した過去2回の実験で寄せられた多くの意見を取り込みつつ、7年の歳月をかけて完成したDGは、今後の音楽プロモーションのあり方やサンプル盤の配布・廃棄問題などを解決するツールとして今注目されています。
また、今後はレーベル、放送局に限らず、活字媒体やWEBサイト、ショップなど幅広い展開も予定しているというDGのサービス開始を記念して、今回、放送メディア、レコード会社の第一線でご活躍されている方々にお集まりいただき、現状の音楽プロモーションとDGも含めた今後の音楽プロモーションの可能性について話し合っていただきました。
山浦:僕は70年代にレコード会社にいまして、洋楽のプロモーションをするために放送局へ毎日行って宣伝するというのが仕事でした。忙しく仕事をしている放送局のディレクターに「曲をかけて下さい」とお願いして、非常に迷惑がられたり(笑)、仲良くなったりしながらやっておりました。
今回、DGのお話を聞いたときに、これが浸透して放送局の人とレコード会社の人が使っていったら素晴らしく有効なんじゃないかと感じました。プロモーションをした次の日に放送局へ行ってゴミ箱を覗くと、配ったテスト盤が捨てられているのもよく見ましたし(笑)、そのたびに「無駄なことしてたんだな」と思っていたので、DGが機能すれば、すごくスッキリとしたプロモーションがやれるんじゃないかと思います。
今回の座談会では現状の音楽プロモーションとDGも含めた今後の音楽プロモーションについて話していきたいと思い、関係する方々に集まっていただいた次第です。まず、(株)フォレスト 専務取締役 エグゼクティブ・プロデューサー 常行邦夫さんに長く放送局にいらっしゃった立場から、どんな印象でレコード会社のプロモーションを受け止めていたのかお伺いしたいのですが。
常行:僕は放送局に30年以上いたんですが、自分で音資料・紙資料を集めようと思ったら、大変なエネルギーと時間と金が必要です。ところが放送局の中の制作部というセクションにいるだけで、そのディレクターの力量は別にして、黙っていても最新の情報が集まってきます。だから、プロモーションを受けるときには本当に感謝して受けなさいと、現場のディレクターに口酸っぱく言い続けてきたんですね。ただ、それが放送局全体として浸透しているかと言ったら、そんなことはなくて、僕もかつて先輩ディレクターの「えっ!?」と思うような部分をたくさん見てきました(笑)。
話が飛んでしまいますが、今、私はラジオの制作会社にいまして、最近までZIP-FMにいたディレクターを東京に転勤させたんですね。で、東京で半年間デジタルラジオとインターネットラジオの番組ディレクターを任せていました。この秋からFMの番組を担当してもらうことにしたのですが、彼が「すいません。ルートが無くて新譜が集まりません」と僕に泣きついてきたんです。つまり、デジタルラジオもインターネットラジオもまだ認知度が低くプロモーションを受けられないので、新譜がなかなか集まらないんですね。ZIP-FMの頃はそこにいるだけで情報が集まってきていたのが、東京に来て半年間も経つと全くパイプがなくなってしまったと。
音楽業界と媒体サイドは音楽という同じ船に乗った仲間だとよく言われますが、このDGを双方がうまく作り上げていけばディレクターにとっても便利ですし、メーカーにとっても効率のいいプロモーションができるチャンスになるんじゃないかと思って、陰ながらこのDGを応援させていただいているんです(笑)。このDGが上手く機能すれば、先ほど例に出したディレクターのパイプも途切れずに済むと思うんですよね。
古賀:すごくありがたいことにFM802はエリアプロモーターや東京からの方々も含めて、色々な情報を持ってきてくださるんです。ただ、情報を持ってきてもらえる放送局の制作だからかもしれませんが、ここ10年くらい、制作の人たちは与えられた情報の処理しかできないんですよ。見事なくらいにプロモーションされないものに関しては一切かからない(笑)。放送局としてそれはどうなのかなと感じます。
開局してしばらくの頃は関西でうちみたいに制作を独立した形でやっている局はほとんどなかったので、自分たちを売り込まなくてはいけなかったですし、自分たちの存在価値を出すために、当然プロモーターの人たちにアピールすることもあったんですが、それ以外にレコード屋さんへ行って新しい音楽を輸入盤で見つけてきて、実際にかけてみて「これだけリアクションがありました」という情報をレコード会社の人に戻したり、「なんでこれ国内盤で出さないんですか?」と提案してみたりしょっちゅうしていたんですよ。でも、今、月に一回レコード屋に行く奴なんて、半分もいないんじゃないでしょうか。行っている余裕もないしですしね。
そこでもう一回戻って考えると、ある意味「これさえ聴いておけばなんとかなるぞ」と情報を与えていったプロモーターさんたちが偉いと思うんですよ(笑)。そこまでいくと情報を届けるプロモーターという「人間」の力は非常に大きいと思いますし、逆にこのDGを経由して情報がダイレクトに行き交うことによって情報が均一化してしまい、その中だけで物事を判断すると、今よりももっと制作の人たちの頭が固くなるんじゃないかなとも危惧しています。それと情報の処理だけに関わって、「それをどう取り上げた方がいいか?」という自分の価値判断が薄くなってしまうのではないかという気もするんです。
常行:制作会社の立場からしても、今、古賀さんが話されたことは、これからラジオ業界がどうやって音楽業界と動いていくのかということに関する大きなテーマだと思うんです。恥ずかしい話ですが、うちのある超多忙なディレクターに「今年に入って映画何本観た?」と聴くと「観てません」、「ライブは何本?」「仕事以外は3本です」、「ベストセラーの小説は読んだ?」「読んでません」・・・と極端に言えばパソコンの前だけで仕事をしているんですよ。多くのラジオディレクターが似たり寄ったりではないでしょうか。それは何故かというと、おおむねのラジオやテレビの下請け会社は悲惨な状況で(笑)、時間的な余裕もなく、安い制作費で何本も番組を抱えないと会社が回っていかないんですね。
そういう悲惨な状況に今置かれている中で、ネットから得る情報やプロモーターさんから頂く音をそのまま鵜呑みにし、何とか形にしているみたいなことで本当にいいのだろうかと考えると、やはり問題があると思うんです。そこでこのDGというツールを使って、送り手側と受け手側の双方が忙しい中でも上手くコミュニケーションがはかれるように機能していけばという期待があるんです。当然、番組のクオリティアップにも繋がると思うんですよね。
山田:ZIP-FMもディレクター一人あたりの担当番組も増え、外にも行けないという状況になっています。その中でDGの実験の時にディレクターに「DGはエリアプロモーターが持ってくる以外の音が探せる玉手箱みたいなものだから、ここから新しいものが生まれるかもしれないよ」と紹介したんです。そもそも、音楽を聴く喜びを知り、それを他の人にも伝えたいからみんな番組のディレクターになったと思うんです。でも、いつの間にか局の言う通りに仕事をミスなくやらなくてはならないという風な気持ちになってしまうと楽しくないですよね(笑)。我々もFM802さんも制作会社の方に番組作りをお願いしていますので、なるべく制作会社の方に多くの選択肢を用意したいと考えています。そこでDGは多くの情報の中から取捨選択ができる機会に繋がるものだと思いました。
山浦:メーカー側のご意見も伺いたいんですが、現状のラジオプロモーションに対してご意見などお伺いできればと思います。
森:今、私が所属しておりますレコード会社P-Vineは地方のブランチが一切なくて、東京だけなんです。しかも、メジャーさんとは違って制作もやり宣伝もやります。宣伝部自体はまた会社に独立して有るのですが、なかなか地方局のディレクターさん達までと考えますとフォローしきれていないなという思いは強くあります。またうちは自社流通のP-Vine、AVEXマーケティングさんに配給をお願いしているAlmond Eyes、ここ はクレイジーケンバンドやRIKIが所属していまして、他にビクターさんに配給をお願いしてるP-Vine Special、BMGさんに配給をお願いしているP-Vine Non Stopと様々なレーベルを運営しているのですが、全体の99%は洋楽で、残りの1%でクレイジーケンバンドといった邦楽を扱っているのですが・・・。実際、邦楽と言うよりは洋楽になりますが、正直なところ予算も結構限られておりまして(笑)、サンプル盤も枚数が限られています。そんな中でうちの洋楽のアイテムをメジャーさんと同じ土俵に上げてもらえるDGは非常にありがたいシステムだと思いました。
菅原:LD&KもP-Vineさんと同様にインディーズとしてやらせていただいておりまして、うちはブランチが大阪と沖縄にあるんですが、とはいえそこまで細かい宣伝がちゃんとできているのかと言われると疑問です。うちはレーベルの人間で約30人いて、A&Rが5人、プロモーターといえる人間が本社に2人、大阪に1人という規模でやっています。そうなってくるとメディアに対してどこに重点を置いてやっていくかというと自ずと決まってくるんですが、やはりFM局をメインに動かなくてはいけない楽曲が多いものですから、東京のステーションもそうなんですが、特にFM802さん、ZIP-FMさんを始め地方の力のあるステーションをプロモーションするようにしています。
僕は名古屋出身なので(笑)、特にZIP-FMさんは年に4、5回は出張させていただいて、一生懸命プロモーションするんですが、それぞれの番組のディレクターさんたちに一日ではなかなかお会いできませんから、そこにジレンマがありました。また、うちはサンプル盤を1〜2,000枚作っているんですが、実際にその中で500枚しか売れないアーティストもいますので、全然サンプルの方が多いなということが結構あります(笑)。そのサンプル盤を毎月毎月送っているんですが、その製造費と物流コストも馬鹿になりませんから、DGが使えたら非常に効率的になるなと思いまして、実験に参加しましたが、当時は上手く機能していない部分もありました。
それは現場の人間が人ではなくてWebと対しているので、プロモーションをしている感じがあまりしないから止めちゃうのかなとは思うんですね。何でそうなるのかと言えば、DG上にまだ情報が完全に集まっていないからだと思うんです。情報がもっと多くDGに寄せられるようになれば、お互いいい関係が築けるのではと考えています。他のレーベルさんがDGに対してどういう考えをお持ちか分かりませんが、LD&Kとしては今後どんどんトライアルしていきたいと思っていますし、場としては素晴らしいんじゃないかなと思います。とはいえ「人と人の繋がり」も非常に重要だと思っていますので、年に一回は全ステーションを回って、関係性を築くことも続けていくと思います。
真下:実験段階では繋がりの部分が薄かったので再考しまして、今回リリースしたバージョンではそのあたりをサポートする仕組みがだいぶ改良されたと思っています。また、11月26日のサービス開始時には、利用者も実験の時とは違って、放送だけでなくいろいろなメディアの担当の方にお使い頂くことで調整してまして、以前にも増して情報が集まってきます。
後藤:今、菅原が言ったことと重複してしまいますが、うちの場合、メジャーメーカーさんと違って各地にブランチがないので、やはり一番最後は人対人だと思っています。うちは組織力がないですし、政治力もないですし(笑)、本当に「いい音」と「信頼関係」でしか勝負できないんですね。
山浦:後藤さんは実際に全国を回られているわけですか?
後藤:そうですね。全国を回る中で信頼できるディレクターさんと飲んで話をすると、皆さん「会ってもいないプロモーターが電話一本で『ブッキングして』と連絡してくるのは、正直ふざけるなと思う」と仰るんですね。僕も電話でブッキングをすることもあるんですが、必ず1回でもディレクターさんにお会いして、アーティストを売り込む前に自分自身を分かってもらった上でプロモーションしているつもりではあるんですね。なので、NETだとそういった人間関係が見えない部分があるので、そこは仕方がないのか、改善する余地があるのか・・・難しい部分だと思います。
真下:DGだけでプロモーションが成立するわけでは決してないんですね。実験の結論として、対面プロモーションは無くならないだろうし、発送等の手間が省けるぶんプロモーターさんはコミュニケーションなどに時間を有効に使えるようになります。
屋代:むしろDGは人間関係を補うために使うと非常に有用なのかもしれませんね。
常行:そうですね。DG上にはプロモーターさんのプロフィールも出るので、逆に局側のディレクターもDGを利用して、「僕はこういうディレクターです」とアピールするような場になるといいんじゃないかなと思いますね。
真下:先ほど話に出ましたが、こういうツールがあると便利すぎちゃって、逆にディレクターさんの情報収集能力が落ちてしまうんじゃないかという危惧も囁かれてますが(笑)、DGがスタンダードになっていくと色々な権利者が乗ってくると思うんです。そうなると幅も広がってきますし、限られた時間内で膨大な情報の中から選曲していくディレクターの補助ツールとして活用してもらえると思います。実験の時には通常のプロモーションでは流通しない洋楽ものや、配信限定ものがいち早くプロモーションされ、テーマに使われたりヘビーローテーションになるなど、幅広い選択肢の中からいい曲が発掘され、リスナーの人気も上々だったようです。
屋代:ITの時代になってリスナーや若い人たちの音楽の聴き方がどんどん変わっているのに、音楽を作ってプロモーションする側はずっと変わらずに来たわけで、そろそろ新しい時代のプロモーションスタイルを作っていかないといけないのかなと感じますね。
山浦:すごくいびつなんですよね。プロモーションに来るところは来るし、来ないところには全然来ない。また欲しがっているところに音源が行かないし、必要のないところに山のように来ていたり・・・。DGはそこを公平な形にしてくれるのではないでしょうか。
古賀:DGはシステム的にはいいと思いますし、効率的にはなると思います。ただ、一番疑問なのはうちだと番組1時間で8〜10曲かかるんですが、DG上に楽曲がどんどん増えて、選ぶ楽曲の選択肢が増えることがいいことなのか、それは考えておかないといけないです。うちは手に入るものに関してはメジャーとインディーズの区別は全くないんですが、情報として全てが均一化されて、その数が増えてきたらどうやって選ぶのかな、と。そこで誰かが選ぶサジェスチョンを出さなくてはいけない。そのときに人と人の部分がどこまで見えるかだとか、選ぶ方も自分の価値観だけじゃなしに違う人の価値観も入ってくることによって、伝わってくる音ってすごくあるんですよ。例えば、プロモーターの人たちが「この音楽いいよ」と話すときに、他の話もする中で番組を作る側は色々な発想が広がってくるんですが、ネットってすごく便利な面と、探したいものがどこかにあるからそれを引っ張ってこれる便利さと、あまりに情報がありすぎて逆に選べない面とあると思うんです(笑)。それと同じようなことがこのDGにも起こると思うんです。そうなると「あまり今までと変わらないのかな?」とも思っちゃうんですよ(笑)。
常行:ただ、少なくともいちいち封を切ってプレーヤーにセットしたり、資料が山のようになってしまったりすることは少しは解消されますよね。
古賀:でも、「あのメールはどこへいったかな?」とメールのフォルダ内を探しきれなくて、紙もないから余計探せないということと同じような可能性もありますよね(笑)。だから、どういう使い方になるのかなと思っているんです。
屋代:どのプロモーターから送られてきたのか、どういう関係の人が送ってきたかは分かるわけですから、選ぶことは可能なんじゃないですか?
古賀:今まで人が介在していた部分がネットになると、やはり希薄になる部分はありますよ。だから、先ほど伺った後藤さんのプロモーションの仕方はものすごくよく分かるんですよ。1年に1回でも地方を回って顔が見えるようにする。その間で電話でやりとりしたとしても、その関係性があったらいいんですけど。
屋代:でも、メールだけ送りつけて「曲をかけてくれ」というまで図々しくもないんじゃないですかね、みなさん。
古賀:いや、そんなこともないですよ(笑)。実際にそういうことも増えていますしね。
山田:そういうプロモーションを受けた場合、古賀さんだったら曲をかけますか?
古賀:それは素材によって違います。人が介在するけども最終的にはその音楽の中身がいいかどうかですから、いい音楽だったら全然知らないプロモーターさんでも捕まえて、色々教えてもらうか、勝手にかけてしまうかですよ。
常行:これは古賀さんを否定しているわけではないのですが(笑)、おそらくFM802さんには常日頃たくさん情報が来ているからそういう発想になるのかもしれません。逆にレコード会社さんが「今後、放送局に対してサンプル盤を一切出さないようにしましょう」となったら、大変なことになると思うんです。自分たちでお店へ行って買ってこなくてはいけないですから、その経費だけでも馬鹿にならない。ですから、そこは放送局サイドも感謝の気持ちといったら変ですが(笑)、それがないと・・・。
古賀:もちろんそうですね。ただ、その「感謝」という部分にもやはり人が介在してくるんですよ。もちろんこのDGはツールとして素晴らしいんですが、このツールだけを中心に置きすぎて、いかにこれが凄いかと話し合っても、結局今までのプロモーションの仕方と何ら変わらないと思います。今の音楽業界の中で昔からの習慣が残っている部分に対して、「なぜ残っているのか?」をもう一度考えた方がいいと思います。
常行:このDGで全てがクリアにあるわけではなりませんしね。これだけでプロモーションが成立することはありえませんから。
山田:あくまでもDGは人間によるプロモーションを補完するものですからね。DGの試用の時に土岐麻子のCDを聴いていて、DGに曲を入れがてらにスタッフに「この曲知ってる?」と聞いたら、「いい曲ですね」とそこで初めてそのスタッフはLD&Kというレーベルの存在を知るきっかけになったんですよ。そういう始まりは沢山あった方がディレクターとしては素敵なことだと思うんです。
音楽を作っている方から見ても、聴いてもらうきっかけが増えるということは色々なところで紹介してもらえるチャンスが増えるわけですからいいと思います。もちろん1時間のうちにかけられる楽曲の数には限界があるんですが、デジタルラジオやインターネットラジオ、携帯電話では音声ラジオ風のサービスが出てきて、音楽のチャンネルが増えるわけじゃないですか。そういったサービスが一気に増えていったときに、同じようなものを作りたいと思う人がどんどん出てくると思うんですね。そうなるともっとたくさんの人が音楽に関わってきて、色々な価値観の人が出てきて、それに触れるリスナーの人も色々増えてくる。結果、色々な人にチャンスが増えること自体でみんながハッピーになるんじゃないのかなと思うんですよ。
今は現場が疲弊しているので、DGによって番組が均質化するおそれは確かにありますが、音楽であれ放送局であれ人間一人の持つ時間を奪い合うわけですから、そんなことをやっているとメディア自体が見捨てられてしまいます。逆にこのDGがあることによって、より広い価値観のものが色々と流通していくきっかけとなればいいんじゃないかなと思います。
屋代:DGにも負の側面もあるのかもしれませんが、結果的にはきっかけに過ぎないツールであり、最終的にそれをどう利用するかは各メディアなり各レーベルの考え方が重要になってくるんだろうと思います。そのきっかけにはDGは適したツールだなと個人的に考えています。もちろん古賀さんが危惧しているようなことは当面あるでしょうし、利用者が使いながら考えていくことによって、このDG自体も成長していったらいいんじゃないでしょうか。
古賀:そうですね。何度も言うようですがツールとしては素晴らしいので、どんどん進化していったらいいと思います。ただ、僕が気にしているのは先のことよりも、現状としてDGを試用してみて自分のところでも問題点が出ているので、それをどう解決させるかなんですね。今、殆どのディレクターが自分から企画をして、申請し、取材をする能力がないんですよ。だって、ゲストにしても外の人が「どうですか?」と言ってくれるものだと思っているから。
山浦:受け身なんですね。
古賀:完全にそうですね。ディレクターも「こういう番組にしたいから、この人に取材したい」と考えたとしても、どういう風にオファーをかけたらいいのかわからない(笑)。
菅原:それと同じようなことが色々なところで起こっていますよね。テレビのプロデューサーやディレクターと話をしていても、企画なしでも枠が決まっていて、みんなそこに群がっている。そこでどういうことをやるかが均質化してしまっているのは、本当に危険だと思っていて、音楽制作者も番組制作者も価値観の提示がなくなってきてしまっているように感じます。
ラジオが何故楽しかったかというと、色々なものを提示してくれる楽しさみたいなものが薄れてきてしまっている中で、情報が更に集まってしまうとどうなるかは本当に分からないですが、情報があること自体、僕は悪いことではないと思います。
古賀:そういった事実を早めに把握して、ではどうするかを考えて行かなくてはいけないと・・・。
菅原:もちろん、通り一辺倒のプロモーションしかしていないプロモーターも多いと思うので、そこはメーカーサイドもあらためなくてはいけないタイミングなのかもしれませんけどね(笑)。
古賀:最近、一番ショックだったのが2、3週間前からレディオヘッドがダウンロードだけでアルバムを発表したじゃないですか。あのニュースをどの番組も前後一週間くらいやたら流すわけですよ。ところが番組をずっと聞いていると肝心のレディオヘッドの新曲がかからない(笑)。「なんでだろう?」と思っていたら、誰もプロモーションしないし、個人的にダウンロードしたディレクターは何人かいましたが、こういうものをかけていいという感覚がないんですよ。で、三、四日経って、誰もかけないから自分でダウンロードして、ライブラリーに置いて、ディレクターたちにも渡して「情報を流すんだったら曲をかけろ」と言って、やっとかけるくらいでした。
山浦:それはやはり未経験のことだったからでしょうか?
古賀:そうでしょうね。先ほど常行さんが例えで出した「レコード会社がプロモーションをしなくなったらどうなるか?」をあからさまにされているみたいで・・・(笑)。今回のレディオヘッドのアルバムは来年パッケージで発売されますが、ダウンロードに関してはタダでも落とせるわけですから、すごく大きなプロモーションとして、余計なガードをとってくれているわけですよ。でも、その思いを受け取れない自分たちがいると言うことは凄い恐ろしいことだなと感じました。
先ほど山田さんも仰っていましたが、これからはもっと選ばれる立場になってくるので、そこら辺の勘とか能力が必要になってくるんですが、今ちょうど第2FMができて10年くらい経ち、それなりの形になりながら各エリアで言うとFM局の存在感は出てくる中で番組を作っている人たちの感覚がちょっと麻痺してきているところがあるのかなと思います。このDGの機能で上手くいけば刺激が与えられると思いますし、使い方を間違うとマイナス面も出てくるとは思います。
山浦:最後にDGに期待することを伺えたらと思います。
常行:DGはツールを使う人の力量が問われると言いますか、そういう時代になってきていると思います。ラジオの制作会社の立場として、僕はこのDGをどう使いたいかというと、情報を得る機能への期待もあるんですが、うちに何十人かいるディレクターは、今まで会社の名前で放送局さんにアプローチをしていたわけですが、これからは一人一人のディレクターをスターにしていこうと思っていまして、その中でDGを個人をプロモーションしていくツールとして使いたいなと思っているんです。
菅原:これまでのメディアのあり方が変わっているなと思っているんですね。やはり、これまではステーションから音が流れてユーザーが聴くという一方通行のメディアだったと思うんですね。でも、今は一見発信者がないようなメディアがすごく増えているので、発信するものを投げてあげて、勝手にユーザーの間で流通させるイメージのプロモーションを考えているんです。
DGをメーカーさんとステーションさんの間で使うというのもあると思うんですが、僕が面白いなと思ったのが、ステーションサイドに情報が行ったときに、例えば、FM802のディレクターさんとZIPのディレクターさんが繋がるわけじゃないですか? そうすると僕が面白いネタを考えて、そこに投げる。それをステーション間という横のつながりで勝手に盛り上がってくれるようなプロモーションができたらいいなと考えているんです。そうなれば面白いことが起きるんじゃないかなと思うんですけどね。
真下:実はそれは他の方からも言われたんですよ。ディレクターは自分の好きな楽曲を人にも知らせたいので、ディレクターがディレクターにプロモーションするような機能を作って欲しいと。いいものは広めたいという(笑)。
菅原:今は結構そういうことで広まっていくと思うんですね。
山田:ディレクターが自分の好きな曲を伝えたいように、ユーザーも自分の好きな曲を伝えたい。そしてユーザー一人一人が放送局・メディアになる。そうなったときに音楽を作ったアーティストから見たら、自分の作った曲がどこでどう使われているのか分かるのは必要で、それをやらないとアーティストはやはり不安ですよね。DGでその権利を安全に守って、履歴をもてれば、放送局も制作者も一個人も、色々な媒体で色々なものを使いたいと思ったときにDGに登録して、そこに音楽を寄せてくる人も増えて、結果それが音楽の底上げになれば、メディア側も特色を出すために努力するでしょうし、両者共にプラスになるきっかけになるかなと思いますね。特にノン・パッケージの楽曲を発信したいアーティストがこういうツールを欲しがっていると思うので、一気に変わっていくかなと思っています。
後藤:経験上、普通に宣伝してもしょっちゅうディレクターさんと会っているメジャーさんには勝てないと思って、単純に仕事抜きにして各ディレクターさんに「好きな音楽は何ですか?」と訊いて回ったんですよ。例えば、その人がレゲエと言ったら、ハードコアは渡さないとか(笑)、やはり好きな人に好きなものを伝えるように心掛けているんですが、DGでディレクターさんのプロフィールで好きな音楽の傾向が分かれば、プロモーションしやすいですし、もっと音に突っ込んだ番組作りにも協力できるんじゃないかなと思います。また、ベテランのディレクターさんに比べて、熱意はあるのに若手ということでなかなかサンプルが届かないディレクターさんもいらっしゃる現状もありますから、そういった差が埋まればいいなと思いますね。
古賀:今日は一番否定的なことを色々と言ってしまいましたが(笑)、山浦さんが先ほど仰ったようにラジオは20年以上変わっていないというのはある意味事実で、なぜかと言えば許認可事業だし既得権で成立している産業ですから、やっぱりおかしいのはおかしいんですよ。レコード会社の再販もそうですが、音楽って文化としてもすごくいびつな広がり方をしていると思うんですね。それがDGのような新しいものが出てくることで崩れる分だけ、最終的な結果は面白いものになると思います。
でも、その途中で自分がこの世界で必要とされる人間なのかどうなのか、一般の人たちが同じようなことができる時代になったとして、放送もできるとしたら、自分たちの能力って何だろう? ということが試されてくるんだろうなと考えています。そこに向けて今のことも多少は守らなければいけない立場としては(笑)、さっき言ったような不安なことも沢山あるんです。今でも不安なことがたくさんあるのに、DGのような新しいものに飛び込んでいくのはどうなるのかな・・・と不安に思いながら、多分一番最初に僕が使うんだろうなと(笑)。自分の好きな音楽をどんどんアピールしたり(笑)。結局は皆さんが仰ったように、どう使いこなすかになるんでしょうしね。
真下:今日は貴重なご意見をいただきましてありがとうございます。DGはあくまでもピュアなプラットホームなんですが、使い方によっては今後のビジネスに対してとても面白いものになるんではないかと一歩引いてみている部分もあります。ですからDGの上で何をやるかは、皆さんと一緒になって考えていきたいと思っています。DGはWeb2.0的な使い方を考えていて、ユーザーさんのご意見をどんどん取り込んで進化させて行きたいと思っていますので、是非一度体感して頂ければと思います。
屋代:このDGが音楽文化の底上げと放送を含めた色々なメディアの質の向上に繋がれば素晴らしいことだと思います。本日はみなさんお忙しい中、ありがとうございました。
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