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レーベルモバイル(株) 代表執行役社長 今野敏博氏インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

今野敏博氏
今野敏博氏

 デジタル音楽の秩序ある流通をリードする会社として2001年7月国内主要レコード会社5社により設立されたレーベルモバイル株式会社は、運営するサイト「レコ直♪」を通じて、いち早く「着うた」「着うたフル」を配信し、携帯電話市場の拡大とともに確固たるポジションを確立してきた。今年4月には今野敏博氏を新社長として迎え、大規模な組織改革とともに、より多くの音楽ユーザーを獲得するために積極的な事業展開を予定しているという。今回は今野氏にレーベルモバイル設立から振り返っていただきつつ、携帯電話における音楽配信のこれからとレーベルモバイルの今後の取り組みについて話を伺った。

[2008年11月17日/渋谷区渋谷 レーベルモバイル株式会社にて]
▼レーベルモバイル株式会社 http://recochoku.jp

プロフィール
今野敏博(こんの・としひろ)
レーベルモバイル(株) 代表執行役社長


1957年6月24日生
1981年4月:株式会社CBS・ソニー 入社
2000年6月:株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント デジタルネットワークグループ ネットワークコンテンツ部長
2005年4月:株式会社ソニー・ミュージックネットワーク 代表取締役
2006年6月:株式会社レーベルゲート 代表取締役社長(2008年2月退任)
2008年4月:レーベルモバイル株式会社 代表執行役社長 〜現在に至る

——今野さんは今年4月にレーベルモバイル株式会社の社長に就任されたわけですが、レーベルモバイル設立には直接関わっていらっしゃったんですか?

今野:レーベルモバイル発足の正式メンバーではないんですが、そのすぐ近くにいたという感じですね。ただ、レーベルモバイル立ち上げのきっかけとなる最初の話し合い、というか飲み会ですが(笑)、そのメンバーではあるんです。その当時、正確には1999年12月20日からソニーミュージックでbitmusicというPCのダウンロード・サービスを開始しまして、私も携わっていたんですが、その当時はYahooブロードバンドも始まる前でしたので、日本でのブロードバンドがまだ普及していなかったんです。

——まだインフラが整っていない時期だったんですね。

今野:そうです。ですから全然儲からなくて、当時の社長からは「お前たちは金ばっかり使って・・・」と言われ(笑)、僕も「このマーケットはしばらく時間がかかるな」と思っていました。それと同時に前年iモードができた携帯電話では「着メロ」の人気が上がっていましたので、「携帯電話の方が可能性があるんじゃないか?」と思っていました。

——みなさん「着メロ」で悔しい思いをしてらしたんでしょうね。

今野:その通りですね。今までレコード業界、レコード会社は古くはレンタルやカラオケなど新しいサービスが出てきても、その流れについていけなかったのは事実で、カラオケもレコード会社各社さんが独自に取り組んでいましたが、結局主流になることはできませんでした。そういう過去を踏まえた上で、携帯電話に関しては最初から自社でビジネスを行わないと絶対に駄目だと皆さん感じてらしたんだと思います。

——自らということですか。

今野:あと、ハードのフォーマット戦争に巻き込まれたくないというのも、ひとつの教訓だったと思うんですが、皆さんのそういった思いが強かったので、最初の飲み会から約半年というスピードで、レコード会社が自らサービスを行なう会社としてレーベルモバイル(株)を設立しました。

——レーベルゲートやレーベルモバイルのようなレコード会社が主導して作った音楽配信会社は欧米にもあるんでしょうか?

今野:ないですね。米国でも昔、同時期にPCダウンロードサービスで二つ会社を作ったんです。一つはソニーミュージックとユニバーサルミュージックで作ったPressplay、もう一つはEMIミュージックとBMG、ワーナーミュージックで作ったMusicNetという会社なんですが、今や2サービスともないですね。ですから、そう考えるとレーベルモバイルとレーベルゲートは世界的に見ても大変特殊なケースだと思います。

レーベルモバイル今野敏博1

——大変な成功例ですよね。

今野:そうですね。レーベルモバイルはまず携帯のサービスを勉強する意味も込めて2001年秋に「着メロ」からスタートしました。当時「着メロ」の市場規模は1,000億くらいできていたと思いますが、「着メロ」に関してはカラオケ事業者さんが中心となってサービスを展開していましたので、我々は後発だったのです。その後、新しい端末を使えば実音での配信が出来ることがわかり、携帯キャリアさんにプレゼンしたところKDDIさんで採用され、2002年12月3日に世界初の携帯向け音楽配信サービスである「着うた」がスタートしました。2年後の2004年11月からは「着うたフル」のサービスも開始しました。

——「着うた」を始める段階ですでにフル配信についても考えられていたんですか?

今野:はい。「着うた」のスタート時には技術的な問題でフル配信できなかったんです。できたとしても1曲ダウンロードするのにパケット料金だけで何千円もかかってしまう時代でしたから(笑)、それは無理だろうと。実際に「着うたフル」をスタートさせたのは「着うた」の2年後ですから結構時間はかかりましたが、「着うた」が始まる前から「着うたフル」という商標はとっていたので、計画的なものでした。

——それにしても携帯電話の進化はものすごいスピードですよね。

今野:iモードがスタートして来年の2月で10年、レーベルモバイルは来年の7月3日で設立8年になるんですが、着うたを配信してから6年、その間で随分変わったなと感じますね。電話とメールだけの世界だった携帯電話初期の頃と比較しますと、ワンセグが出てきたり、おサイフケータイが出てきたりと、マルチメディアの世界に移行していますので全く別世界ですね。

——現在まで右肩上がりでダウンロード数は増えていますが、これはどこまで伸びると想定されているんですか?

今野:今までの伸び率は特別なものだと我々は認識しています。つまり、普通だとオーディオプレイヤーや新しいフォーマットを広めるのには時間がかかりますが、携帯電話の売れ行きとともに黙っていてもオーディオプレイヤーが世の中に広がっていくような状況でしたので、自然とダウンロード数も伸び、我々にとっては非常にいい8年でした。でも、それもそろそろ落ち着きを見せるでしょうし、携帯電話そのものがあまり売れない状況になってきています。そう考えますとレーベルモバイルも第二創業のような形で、新しい段階に進まなくてはいけないと考えています。

——着うた配信から6年と言いますと、人間で喩えるならば小学校がもうすぐ終わって、中学生にという感じでしょうか。

今野:いい喩えですね。我々も中学生にならないといけないですね(笑)。その喩えで考えると、小学生の時は背もぐんぐん伸びていきますが、だんだん伸び率は低くなってくるじゃないですか?(笑) でも、その中で知恵もついてくるわけで、我々も新たなことを考えていかないといけません。今まではとにかくご飯をたくさん食べて、よく寝ていれば背が伸びていました。その伸びもスタート時の枠組みを作る段階で、レコード会社各社さんや携帯会社さんの協力があったからこそなんですね。

——確かに絶妙のタイミングでスタートさせられましたよね。

今野:そうなんです。これが前でも後でも上手くいかなかったと思います。正にこのタイミングじゃなくては駄目だったんですね。野球のバッティングに喩えると、ボールとバットが当たる角度が良ければホームランになると思うんですけど、そのボールもどこまでも飛んでいくわけではないですからね(笑)。ですから中学生になって、頭を使い始めないといけない時期で、組織を変えていくとともに色々やっていきたいと考えています。

 

レーベルモバイル今野敏博2

——先ほど「レーベルモバイルも新しい段階に進まなくては・・・」というお話が出てきましたが、具体的にはどのようなことを考えられているんでしょうか?

今野:「着うた」をスタートさせた 12月3日を「着うたの日」と命名しまして、お祝いのLIVEを開催したり、ウィンターキャンペーンを展開していきます。目標としてはこの「着うたの日」を「バレンタインデー」のようにしたいんですよ。

——それは「着うた」を誰かにプレゼントするとかそういうことですか?

今野:そうですね。いま「レコ直♪」では「着うた」をプレゼントする「うたギフト」というサービスがあるんですが、月間で数十万曲程度の利用率です。ですから「着うた」の誕生日に、日本全国の人が好きな人に曲をプレゼントするようになったらいいなと思ってるんです。

——それは大変面白い発想ですね。

今野:と言いますのも、僕のようにずっとレコード会社にいますと、常にヒットに追いまくられ続けて正直しんどいんですよね。勿論そういう部分も必要なんですが、もっと地に足がついた需要拡大をやりたいなと思ったのと、歌を誰かにプレゼントすることはすごくベタな行為だと思うんですが、こういうことはベタじゃないと絶対に流行らないと思っているんです。もともと小鳥のオスはさえずってメスに接近するわけじゃないですか?(笑) また日本人は昔は和歌を贈っていたわけですよね。歌を贈るというのはすごく本能的な行為ですし、日本人がやってきたことですから、そういう日を作ってしまえばいいんじゃないかなと思ったんです。

——まさにギフト需要を見込んでいるんですね(笑)。

今野:そうですね(笑)。「着うたの日」制定は今年になっておこなわれたので、まだ皆さんに認知されていないんですが、10年ぐらい続けていったときに「こんな日を誰が決めたんだ?」みたいな状況になったらいいなと思いますね。

——人の本能に根ざすっていい話ですね。誰かにものを贈ってモテたいとか、そういう気持ちは誰にでもありますよね(笑)。

今野:ギターを弾き始めるとか、バンドをやるきっかけって絶対にそれですよね(笑)。

——でも、自分で歌った下手なラブソングを贈るわけじゃないですから、なおさらいいですよね(笑)。しかも選曲のセンスも問われるというか。

今野:そうですね。贈るとなると歌詞も検討するでしょうし、下調べするために自分でダウンロードしてみて・・・「これも売り上げになるなぁ」とか考えちゃいますね(笑)。あと、昔はよくカセットを自分で編集して、曲名を手書きで書いてこられたりすると、怨念がこもっていそうでちょっと怖いじゃないですか?(笑) それから考えると携帯で一曲贈るってライトでいいと思うんですよね。手編みのセーターとか怖いじゃないですか(笑)。下手に捨てられないというか(笑)。

——(笑)。ただ「着うたの日」に限らずとも、「着うた」を贈るという行為が定着すれば、記念日はいくらでもあるわけですし、需要は増えそうですよね。

今野:そうですね。「着うた」を贈る習慣が浸透していけば、色々な記念日で「着うた」がギフトとして成り立つんじゃないかなと思います。

レーベルモバイル今野敏博3

——また過去の曲が再発見されたり、色々可能性はありそうですね。

今野:そうなってくれたら嬉しいですね。今、レコード会社のストラテジックの部署の方々も、まだまだネットを活用しきれていないと思うんです。僕も年齢的にはそういう方々と近いでしょうから直接ミーティングをさせていただいて、「今年はこういう音楽を流行らせよう」とか、もう少しこちらから仕掛けてもいいんじゃないかなと思いますね。

——例えば、ファッション業界は「今年はこの色!」みたいなことを毎年やりますものね。

今野:そうですね。音楽業界も昔はそういうことをやっていたと思うんです。特に洋楽なんかはそうでしたよね。

——レコード会社各社の横の繋がりでやってましたよね。

今野:僕もディスコ担当だったので、よく「今年はこれで行くよ」みたいなことをディスコの人と話し合ってましたからね。今は旗を振る人がいないんでしょうが、例えば、我々がその役割をやればいいんじゃないかなと思っています。やはり重要なのは音楽を使うシーンを作ることだと思うんですね。音楽ってもともとは行事のためとか、労働歌とか、貴族の歌とか、そういうものだったわけで、やはり使うシーンがないとお金を払う人がいないんです。ですから「着うた」を贈る行為がその手助けになってくれるのではと考えています。また「着うた」を贈ることを通じて、いままで「着うた」と接点のなかった方々にも届くようになるのではないかとも考えています。

——「着うた」をダウンロードする主体はどうしても若い人で、中高年はあまりやっていないですよね。

今野:我々はそこの需要拡大も狙っています。CDを聴いたことがない人はおそらく10%くらいしかいないと思うんですが、「着うた」の需要は携帯電話数全体からいくと3割くらいしかないんです。でも、普段「着うた」にあまり縁のない中高年の方々のところに、もし「着うた」が贈られてきたとしたら、「ちょっと聴いてみようかな」となるんじゃないかなと思うんです。

——考えてみれば中高年も結婚10周年の指輪だとか贈り物の文化は結構根付いていますしね。

今野:そうですね。逆に中高年の方が可能性がある気がします。というのは、お金を結構持っているじゃないですか。若い子はお金がないから違法サイトを使ってしまうのでしょうし、キャリアさんも着うたサイトも含めて携帯コンテンツがあまり使われていない現状があるんですよ。勿論若い人たちは利用していますが、その人たちが中高年になるまであと20年以上かかるわけですから、黙っていては駄目な気がするんですよね。

——しかも中高年層は洋楽も含めて過去にたくさんの音楽を聴いてきていますから、カタログを掘り起こしてくれますしね。

今野:そうですね。一回配信が出来てしまえば、廃盤もないですからね。それが配信の有利な点でもあるわけなので、そういった配信の利点も上手く生かしていけたらと思いますね。

 

レーベルモバイル今野敏博4

——「着うた」を贈るシステム自体は現在でもあると先ほどおっしゃっていましたが、具体的にはどのようになっているんですか?

今野:サイトで曲を買うときに「自分で買う」か「プレゼントする」か選択できるんですが、「プレゼントする」を選択しても、それを贈るのが今は普通のメールなんですよ。やはりそこは普通のメールではなくてデコメとかの方がいいと思っています。今の若い子にとっては普通のメールが送られてくることは親しみがないことらしいですからね。

——確かに文章の終わりに「。」がつくと嫌だとか、絵文字で終わらないと嫌だとかあるらしいですからね。

今野:そうみたいですね。ずっとデコメが届いていたのに急に普通のメールになると「嫌われた」と思うらしいですね(笑)。ですからレーベルモバイルでも年内にデコメのサイトをスタートさせて連携していく予定です。また、今は売り場の充実を第一に取り組んでいますが、2年後、3年後のことも考えなくてはいけないので、そのために山崎(山崎浩司氏:レーベルモバイル(株) 執行役 次世代配信開発室長 兼 ソリューション企画室長)が次世代配信の検討組織を広報と一緒にやっています。

——次世代配信というのはどういったイメージになるんですか?

山崎:まだ漠然としたイメージなのですが、音楽そのものをお届けするやり方の一つとして「着メロ」があったので、わかりやすい「着メロ」からスタートしたわけですが、音楽の届け方や楽しみ方を着信とは違った切り口で考えられないかを検討しています。また、ギフトにも近い考え方なのかもしれませんが、使ってもらうシチュエーションを考えた上で商品作りをする。つまり、音楽そのものは不変なものですから、それをどのような形で届けていくかを考えています。今の延長線上で考えていくと行き詰まってしまうと言いますか、発想が貧困になってしまう危険性がありますので、着うた配信などの現業は兼務せず、将来を見据えることに専念しろと今野からも言われています(笑)。

今野:恐らく2011年くらいがポイントなんじゃないかなと考えているんです。2011年からテレビが地デジになりますし、その時期をどう迎えたらいいのか、また「着うた」が6年間でここまで来たことを考えると、3年経つとまた全然違ったモノが出てくる可能性もありますから、今から真剣に考えないといけないと思いますね。

——携帯で音楽を聴くことが当たり前になっていきますと、音楽の作り方やレコード会社の存在とかがどんどん変わっていきますよね。

今野:目まぐるしく変わっていますね。ここ一年間で音楽の宣伝の仕方もものすごく変わっていまして、今は大体CD発売の2ヶ月前にまず「着うた」を出して売るんですね。それで一山作って、売り上げ1位とかになるものだったら、1位になったことを大きく宣伝する。そしてCD発売2週間前くらいに「着うたフル」を発売する。そうするともう一回宣伝の山が来るので、「着うた」もまた売れるんですよね。そうして、2つ山を作ってCD発売日を迎えると。つまり昔だったら一つの山しかなかったプロモーションの盛り上がりが今は三つくらいの山になっているんですね。また、昔は宣伝のために曲をラジオなどでONAIRしていたわけですが、売っているわけじゃないですから「ONAIRでNo.1」と言われてもイマイチ説得力がなかったんです。でも、実際に「着うた」「着うたフル」として売っていたとなるとユーザーへの晒し方がよりシビアになりますよね。

——そうなると今の方がイニシャル(初回出荷枚数)は正確であると。

今野:ものすごく正確ですね。みんな「着うた」や「着うたフル」のチャートを見れば分かりますしね。

山崎:CDショップのバイヤーさんも「着うた」や「着うたフル」のチャートを皆さん見てますよね。

レーベルモバイル今野敏博5

——「レコ直♪」のチャートはどういったところで発表されているんですか?

今野:サイトでも発表していますし、あとオリコンさんや『ミュージックステーション』などの音楽番組でも発表しています。当社のサイトでは毎日チャートが発表されていまして、毎朝5時に更新されるのですが、レコード会社さんでは5時に起きてチェックされている方もいらっしゃるようですね(笑)。そういうところから見ても、すごく変わったなと思いますね。

——「着うた」や「着うたフル」に関してゴールド認定みたいなものはあるんですか?

山崎:はい。日本レコード協会さんで「着うた」や「着うたフル」のゴールド認定は始められています。我々の方でも来年くらいから、そういった賞を節目節目で出していきたいと話し合っているところです。

——ますます「着うた」や「着うたフル」の重要度が音楽業界の中でも増していきそうですね。また、近々ライブも計画されているそうですね。

今野:そうですね。先ほどお話した12月3日の「着うたの日」を記念しまして、『「着うた」の日LIVE’08』を開催します。今回は大塚愛さんや加藤ミリヤさんをはじめ5アーティストに出演していただきます。先週からサイト内で観覧募集を始めているんですが、すでにたくさんの応募を頂いてます。こういったライブも含めて、今後もレーベルモバイルとして色々な事業にどんどん踏み出していきたいと思っています。

——レーベルモバイルの益々のご発展をお祈りしております。本日はお忙しい中ありがとうございました。

-2008.12.3 掲載