IODA CEO ケヴィン・アーノルド 氏インタビュー
米国の大手デジタル・ディストリビューターである Independent Online Distribution Alliance, Inc.(IODA・アイオダ)と、インディーズレーベル / アーティストのデジタル・ディストリビューションを展開するバウンディ株式会社が相互契約を締結し、IODA契約音源を日本国内に、バウンディ契約音源を海外に向け、相互にディストリビュートする契約に合意した。
IODAは2003年に米国で設立、世界各国の300以上に上る音楽配信サイトへ様々なジャンルの楽曲約150万曲以上を流通している。今回はIODA CEO ケヴィン・アーノルド 氏に海外のデジタルマーケットやバウンディとの相互契約を締結するまでの経緯などを伺った。
● 設立:2003年春 ● 設立者/CEO:Kevin Arnold
● 本社:米国 カリフォルニア州 サンフランシスコ
● 米『フォーチューン誌』「2005年ブレイクする会社25」の1つに選ばれた。
▼Independent Online Distribution Alliance, Inc. (IODA) :http://www.iodalliance.com/
▼バウンディ株式会社 :http://www.boundee.jp/bd/
——まず、現在のアメリカの配信市場の状況を教えてください。
ケヴィン:デジタルは業界の中でも成長分野で、アメリカではだいたい市場の20パーセント前後を占めています。この下半期に関しては、デジタルセールスの伸び率は下がっていますが成長分野に変わりはありません。しかし、フィジカルセールスは下がる一方です。
——マンハッタンにはレコードショップがないと聞いたのですが。
ケヴィン:それは違います(笑)。タワーレコードはご存じの通り閉店してしまって、ヴァージンメガストアもマンハッタンにある大きな店舗が閉店してしまったんです。とはいえ、小さいインディーズストアのようなものはたくさんありますね。
マンハッタンにあるインディーズストアで、Other Music(アザーミュージック)という有名なお店があるんですが、そのお店がオンラインストアもオープンしたんですね。だからデジタルとフィジカルを両方販売しているようなお店もあります。
——デジタル楽曲の販売方法はiTunes Storeがメインになるんですか?
ケヴィン:デジタルの中でもiTunesは圧倒的ですし、先日、フィジカルも含めた音楽全体のマーケットの中でもiTunesがトップになったとアナウンスされました。以前はウォルマートという量販店が1位で、同じく量販店のベスト・バイが2位、3位がiTunesでしたが今はiTunesが1位になっています。
——アメリカではインディーズのアーティストもパワーを持っていますが、どのような方法でプロモーションしているのですか?
ケヴィン:もちろんアメリカでもラジオなどの通常のプレス活動はいまだに影響力があります。それに加えてデジタルでのプロモーションも非常に重要で、MySpaceやLast.fmという音源を聴けるようなサイトで展開したり、ブログやポッドキャストを利用して口コミでバズを作ることも重要ですね。
——オンラインのパワーはかなり成長していると感じられますか?
ケヴィン:そうですね、そう感じます。これまではインディーズのアーティストにとって流通の方法に大きな問題があったと思うんです。ローカルの地域から始まって、それを全国レベルにして、さらに世界中に広めることはとても難しいことですが、デジタル化されたことによってインディーズのアーティストが世界中に流通できる環境になりました。
それはプロモーションに関しても一緒で、これまでは、メジャーを通さないとラジオや新聞にアプローチできなかったんですが、デジタルは自分が発信すれば世界中の人にアプローチできるということでインディーズのアーティストにとっては、このデジタル化が可能性を広げていると思います。
——アーティストの中にはデジタルだけでフィジカルをやらないという人もいるんですか?
ケヴィン:例えばMySpaceを見ると500万人程の人が自分たちの音楽をすでにアップロードしています。その中でCDリリースもしているのはたぶん1万人程度なので、パーセンテージで考えると99パーセント以上がデジタルのみで音楽を発信していると言えるんですが、やはりクオリティが高いもの、売れるものはデジタルだけではなくフィジカルでのリリースも考えてプランニングするのが通常です。
——では、インディーズでそれほど売れてないアーティストはデジタルのみで楽曲を流通しているんですね。
ケヴィン:そうですね。デジタルのみでMySpaceに音源を上げるだけの場合が多いですね。ですが、そういったデジタルのみでリリースしているインディーズのアーティストが、MySpaceでプロモーションしつつ、iTunesにデジタルのみで流通をすることによってファンが増えて口コミが広がり、その後のCDリリースに繋がる場合もあります。
——MySpace上で楽曲販売はできないのですか?
ケヴィン:アメリカではつい最近できるようになりました。日本ではまだですね。MySpaceの楽曲販売は「MySpace Music」で行われており、楽曲はアマゾンから提供されるDRM freeのMP3ファイルで販売されます。「MySpace Music」は基本的にはスポンサーからの広告費で音楽やビデオの無料ストリーミングがメインになります。
——MySpaceでの楽曲販売は利用してるミュージシャンからすると好ましいことなんですか?
ケヴィン:以前もスノーキャップという会社が、MySpaceから音楽ダウンロードができるようなシステムを提供していたんですが、それはあまり反響がなかったんですね。現在は別のシステムが入っていて、それによってアーティストがどれだけ収入を得られるのかはまだ定かではないんです。ただ、アーティストが自分の音楽を売れるという環境が整ったこという点では意味のあることだとは思います。
MySpace Musicという会社はメジャーレーベル4社とのジョイント・ベンチャーで作られた会社で、最初はメジャーの音源しか買えなかったんですね。でも、つい最近IODAも楽曲を提供を始めましたし、もう一つ「Orchard(オーチャード)」という大手のインディーズディストリビューターがいるんですけども、Orchardも提供して、今ではたくさんのインディーズコンテンツが購入できるようになりました。将来的にはアーティスト個人がMySpace Musicと提携して自分の音楽を売れるような関係になるとは思うんですが、条件はとても悪く提示されるんじゃないか思います。それを代行することによっていい条件を引き出すことがIODAの役割だと思っています。
——では、ここからはバウンディとの業務提携について伺いたいのですが、まず、IODA設立のいきさつをお聞かせ下さい。
ケヴィン:とても長いですよ(笑)。IODAは2003年の春に設立されて、今は5年半ぐらい経ちました。もともと私はリアルネットワークスのグループで、「Rhapsody(ラプソディ)」という音楽配信サイトを運営しているListen.comにいたんですが、Listen.comは当時、インディーズのコンテンツを集めようとしていたんですね。しかし、インディーズコンテンツを個々に交渉して集めていくのは非常に難しく、インディーズレーベルもデジタルの技術がわからないので、コンテンツの獲得がうまく進まなかったんですね。そのときに、インディーズデジタルコンテンツの流通会社を作ることを思いつきました。
——Listen.comではどのようなお仕事をされていたのですか?
ケヴィン:データベースのマネジメントのようなことをやっていて、配信に関する技術的なコンテンツの管理だったり、印税報告のようなシステムをデジタル化する部署にいました。
それとは別で、私はコンサートプロモーションの仕事もやっていました。サンフランシスコのNOISE POP(ノイズポップ)という音楽イベントがあるんですが、そこでブッキングやコンサートのプロデュースをしていたので、インディーズへのコネクションがたくさんあったんですね。そういったデジタル業界とインディペンデント業界へのネットワークを両方合わせたものがIODAなんですね。
最初は1つずつレーベルと提携するところから始めたので、それこそ50ぐらいのレーベルしかなかったんですが、徐々に大きくなっていって現在は150万曲のトラック、60万アーティストのライセンスを扱ってます。50カ国以上の様々な国の楽曲を扱っており、その流通先もPCサイト、モバイルサイト含めて数百にのぼります。現在IODAは4大メジャーに次ぐ、1位2位を争うほどのコンテンツ数を扱う会社になりました。
——たった5年ですごいですね。IODAの競合はOrchardになるのですか?
ケヴィン:もちろんOrchardが一番大きな競合ではあるんですけど、アメリカに関して言えば、メジャーレーベルの流通経路も競合として考えられます。というのも、メジャーレーベルはADAやフォンタナというインディーズの流通部門も持っているんです。あと、各国それぞれにローカルの流通会社があるので、そういった会社も世界的にネットワークを広げるIODAとしては競合として存在しています。例えば日本だとライツスケールなんかもデジタルのみの流通会社なのでIODAにとっては競合とも言えます。
——メジャーもインディーズの流通部門を持っているとのことでしたが、あえてインディーズで流通することによるメリットは?
ケヴィン:基本的にメジャーは巨大企業なので動きが遅いと言えます。それに、メジャーの流通部門というのは、自分たちのコンテンツをまず優先するので、インディーズコンテンツが優先順位から外れてしまうこともあります。大きな企業の低いプライオリティ作品になるか、もしくはインディーズ流通の高いプライオリティ作品になるかというところで、IODAを通して流通してもらうことでインディーズの中でプライオリティになる可能性は、メジャー流通を使うより高いと思います。
あと、IODAはレーベルやアーティストのために流通ビジネスをやっているという考えが会社の方針としてあるので、ビジネスは透明性を非常に重視しているんですね。なので、契約するレーベルやアーティストに料率などの契約内容を全てを公開しています。さらに柔軟性もありクライアントと密なコミュニケーションをとっているので、大企業の中の一部ではなくて、インディーズの中の重要な顧客の一人として扱えるというシステムの違いが大きくあるかと思います。
——日本のデジタル市場はモバイルが9割を占めているんですが、海外ではPCが8割ということで、そこに日本と海外の大きなビジネスモデルの違いがあると思うのですが、日本ではどのようにアプローチしていくのでしょうか?
ケヴィン:日本のマーケットは非常に開拓が難しいと思いますし、特にインディーズにとっては難しいマーケットだという認識はあります。そこで今回のバウンディとの提携によってその日本特有なモバイルマーケットに進出したいという狙いがまずあります。
——バウンディはモバイルもやっているんですか?
ケヴィン:はい。日本のモバイル配信市場は「レコード会社直営」が7割を占めているんですが、レコ直でインディーズのコンテンツを配信するのは難しく、非常に狭き門なんです。しかし、レコ直との良好な関係があり、インディーズ流通の中でコンテンツ供給がスムーズにできるのはバウンディだけとも言えるのです。
レコ直に強いパイプがあるというのはもちろんバウンディの強みだと思うんですが、それと同時に日本のマーケットでどんな楽曲が欲されているかはローカルの会社じゃないとなかなかわからないと思うんですね。今回のバウンディとの提携によって日本でどんなコンテンツが求められているのかを翻訳してIODAに伝えてくださるので、そういった意味でもバウンディの存在は大きいと思っています。
——IODAを通じてバウンディの管理楽曲も海外に配信されることになると思うのですが、日本のアーティストは海外で需要を見込めるんでしょうか?
ケヴィン:海外のインディーズが日本でブレイクするのは難しいと思うんですが、それと同じように日本のコンテンツが世界で注目を浴びるというのも同じく難しいことではあると思うんです。ただ、そのコンテンツに適したマーケットを見つけてそこにリーチできれば売れる可能性は十分あると思っています。例えばピチカートファイブや、コーネリアスやギターウルフなどはすでにアメリカでもファンベースを作って活躍してきたので、今後十分可能性はあると思います。特に今、日本カルチャーに対する注目度が上がっていて、そのマーケットがとても伸びているので、提携第1弾としてバウンディからコンテンツ流通させてもらった元気ロケッツもブレイクする可能性はあると思います。
——日本のマーケットの魅力はどんなところにあると思いますか?
ケヴィン:日本に限ったことではなくて、IODAの考え方として「音楽はどこの国の音楽であっても、どこでも手に入る環境を作るべき」という考え方があるので日本のマーケットに進出するのは自然な流れであるということが1つと、世界全体のマーケットを考えたときに日本はアメリカに次いで2番目に大きなマーケットなのでそこにチャレンジするというのもまた自然な流れであると思います。なのでIODAが提携するレーベルにとって、日本のマーケットへの進出機会ができるということは非常に有意義なことでもあるし、IODAに限らずどこの会社も日本のマーケットへの進出を視野にいれていると思います。
——アメリカのデジタルミュージックの流れとして、モバイルはあまり普及していませんがモバイルは今後伸びていきますか?iPhoneは何か影響しましたか?
ケヴィン:iPhoneに関して言いますと、アメリカのマーケットでiPhoneはモバイルというよりはiTunesとリンクしていますので、iTunes Storeの一部として見ています。なのでモバイルに与えた影響というのはそれほど大きくないと思います。一方でベライゾンやスプリントなどその他の携帯会社も着うたや着うたフルを売ろうと、とても努力していますし、総体的にモバイルも成長している分野ではあります。
——ヨーロッパのデジタルマーケットに特徴はあるんですか?
ケヴィン:アメリカよりはモバイルがやや強いかなという感じではありますが、ヨーロッパとひと言で言っても地域によって全く違うマーケットがあります。例えばスペインは違法ダウンロードがひどく、デジタルマーケットがほとんど存在しない程なんです。一方でイギリスはデジタルが健全なマーケットとして存在しているので、ヨーロッパをひとくくりにして何かを言うことはなかなか難しいですが、全体としては成長していると思います。
——アメリカの違法ダウンロードはあまり心配しなくていいんでしょうか?
ケヴィン:問題がないということはないのですが、現状、デジタルマーケットはアメリカが一番伸びているということが事実としてありますし、違法ダウンロードに関してどうやって撲滅するかを考えるよりも、むしろ、どうやったらユーザーにとって買いやすく魅力的にできるかということに注力したほうがいいんじゃないかと思っています。それは価格帯の設定や、簡単にダウンロードできる方法、あとは音質だったりそういった環境を整えることの方が重視するべきだと思います。
——今はアメリカではMP3でDRM freeが主流ですか?
ケヴィン:いわゆるアラカルトダウンロードという好きな曲を選んでダウンロードするモデルだとDRM freeが主流で、唯一iTunesがDRMのかかった楽曲を販売しているぐらいです。もちろんサブスクリプションサービスなどは色んなモデルがあって、ある程度コピーできないものもあるにせよ基本はDRM freeが主流です。今サービス会社はユーザーにフレキシブルに使ってもらうことに重点をおいているのでDRMがほとんどなくなってきています。
——では最後に今後の予定をお聞かせください。
ケヴィン:デジタル世界において、今後を予想するのはなかなか難しいことなので、あまり先の先までプランニングをして、という段階ではないんですが、さしあたってはいかに多くのIODAコンテンツを日本のマーケットに持ってこれるかということと、逆に、バウンディのコンテンツをいかに世界に広めていけるかということがまず今後とりかかる事項ですね。
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