株式会社レコチョク 代表執行役副社長 服部 達也 氏 インタビュー
2001年7月国内主要レコード会社5社により設立され、同年11月に着信メロディサイトをスタート。2002年12月に「着うた」、2004年11月に「着うたフル」を配信、そして2008年12月には世界初の携帯電話向け高音質配信サービス「着うたフルプラス」を開始するなど、携帯電話向け音楽配信サービスにおいて、常に先進的なサービスを展開し、利用ユーザー数は1,800万人を超えている株式会社レコチョク。
今年1月にはテレビ番組「レコ★Hits!」もスタートさせた同社が、eコマースサイト「レコチョク shopping」を立ち上げ通販事業に参入した。この通販事業参入の狙いや、今後の展望などを代表執行役副社長 服部 達也 氏に伺った。
プロフィール
服部 達也(はっとり・たつや)
株式会社レコチョク 代表執行役副社長
1964年生まれ
1997年 カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 入社
2000年 株式会社ツタヤオンライン 取締役
2002年 カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 執行取締役
2003年 株式会社ツタヤオンライン 代表取締役社長
2008年 レーベルモバイル株式会社 代表執行役副社長
2009年 株式会社レコチョクに社名変更
http://recochoku.jp/corporate/company/
——「レコチョク」に社名変更された経緯をお聞かせ下さい。
服部:現在のロゴにしたのが2009年1月1日からで、実際に社名を変更したのが2月1日です。「レコチョク」は日本で一番利用者の多い音楽配信サイトだと思いますが、あまりブランドを訴求してこなかったので、旧社名である「レーベルモバイル」という言葉があったり、「レコード会社直営」という言葉があったり、サイト名でも複数の呼び方があって競合と比べるとブランドが弱いという感じがあったので、これを機に、まずユーザーに向けて印象的なものになるようにロゴをカタカナで「レコチョク」として、サイト名も全て「レコチョク」に統一しました。社名もサービス名と同じ「レコチョク」に統一することで、業界の方にもお客様にもわかりやすくするということが目的です。
——巷で「レコード会社直営」を「レコ直」と呼んでいたわけで、社名が後からついてきたという感じでしょうか。
服部:そうですね。将来的に「レコチョクって昔はレーベルモバイルって名前だったんだって」とか「レコチョクってレコード会社直営の略だったんだって。知ってる?」という風にブランドとして成長してくれればいいなと思っているんです。
——では次に新しいサービスとして始められたECサイトについてですが、Amazon一人勝ちの市場を崩しにかかりたいということなんでしょうか?
服部:Amazonさんは10年以上に渡ってECを研究して莫大な投資をされて、ブランドとポジションを築かれています。そこに我々がすっと入っていきなり脅かすなんてことは出来ないので、あまりそこにこだわっていません。現状のレコチョクサイトがたくさんのお客様にこんなにしっかり使っていただいているんだったら、音楽をコアにしてもっとサービスや「レコチョク」ブランドを拡げていって、「レコチョク」のIDさえ持っていればエンタメのことならワンストップで何でもできるというサービスを作っていきたいと思っています。それにはフィジカルの商品サービスが不可欠だったのでECサイトを立ち上げました。現在はCDとDVDの取り扱いだけですが、今後は通販商品ラインナップの拡大や、音楽以外のデジタルコンテンツの取り扱い、さらにはメディア的な取り組みも検討して、マルチサービスを提供していこうと考えています。
もう一点は、やはり世の中が変わってきていると感じる中で、音楽が好きな人同士だと「最初に買ったレコード、CDって何?」とかそういった話題をよくすると思うんですが、もはや今は「最初にダウンロードした着うたは何?」という世代になってきているんですね。「レコチョク」に来ていただいているお客様は本当に良いユーザーで、これだけ違法配信がある中でちゃんと「レコチョク」でお金を払ってダウンロードしてくれているユーザーです。なおかつコンバーションが6割以上あるんですね。ですから訪問していただいたお客様の内10人に6人は必ずダウンロードしてくれるという信じられないようなサイトなのですが、そういう人たちに今携帯のインフラでできることはシングルトラックをお届けすることだけなんですね。でも本当の音楽ファンになってもらうためには、どうしてもアルバムというパッケージで聴いてもらうことが必要だと思いますので、着うたをきっかけにそのアーティストや曲を好きになったユーザーに次のステップとしてアルバムを買っていただくところまで我々がサービスしていこうと考えています。
——「アルバムの購入はmoraで」というプランはなかったのでしょうか?
服部:やはり我々のユーザーというのは携帯でエンターテインメントを楽しむことがメインになっているお客様なので、ここから先はPCに移動してお願いしますと言っても非常に遠いんですよね。携帯で着うたを買ってみて「いいな」と思ったときに、そのまま携帯のレコチョクサイトでCDが買えるということを実現するのが、本当の顧客価値だと思っています。
フィジカルパワーというのはまだまだあると思うんです。アーティストが自分の世界観とか表現したいことを伝えていくには、ジャケットも含めて一つの作品としてのCDはやはり非常にバリューがあると思います。そういうものも一緒に楽しんで欲しいという我々の想いは強く、今回着うたのサイトでパッケージの情報をどんどん出していくことにしました。例えば、そこでお客様が新譜情報を仕入れて小売店に行っていただいても我々は全然構わないんです。クオリティーの高い、良い音楽ユーザーがどんどん育っていけばマーケット全体の裾野が広がっていくので、着うたも結果として売れるんじゃないかなという、やや概念的なんですが、そういったサイクルを作っていくことが私たちのミッションだと思っています。
——つまりユーザーを囲い込もうという考えのもとではないんですね(笑)。
服部:それはないですね(笑)。もう既にどこかのサイトでアルバムを買ってもらっていたり、お店でアルバムを買ってもらっているお客様がいてもそれはそれでいいのかなと思っているんです。初めて買った曲が着うたというお客様に、次にアルバムに目を向けて欲しいと思っていて、我々がそこをどんどん推進していく役割になれればいいですね。
——以前、今野社長に伺った着うたのギフトで裾野を広げるという戦略と同じ考え方ですね。
服部:そうですね。決して決められたパイを取り合うという感じではなくて、やはりCDのパッケージ市場も弊社がキーになって拡げられたらと強く思っています。
——曲を見つけてからCD購入までどれくらいのステップが必要なんでしょうか?
服部:我々の着うたのサイトでも同じですが、特に携帯なので、なるべく曲を見つけたら最短距離でダウンロードできることをモットーにしていますので、CDとDVDの通販のほうも限りなくシンプルなサイトになっています。
——スタートしてからの反応はいかがですか?
服部:あまり宣伝や販促に手間を掛けずに静かに立ち上げたんですが、やはり親和性はすごく高くて一日7万〜10万人のお客様がアクセスしてくれています。これは全く販促してない割にはすごくいい数字ですね。
——売り上げの目標は?
服部:我々がECサイトを立ち上げた理由に、着うたの購買層に携帯で「CDアルバムも出た」とお知らせしたら一体どれくらい買ってくれるのかな、というトライアル的な意味合いも強くあるので、現時点では明確なノルマを立てずに、例えばデジタルの特典をつけてみるとか、着うたとCD両方買った人の特典を作ってみるとか、レコード会社さんに色んなことができる実験の場として提供したいと思っています。
——商品到着までのスピードに関しては?
服部:購入からお客様のお手元に届くスピードは現在の通販の標準的なスピードです。例えば午前中にご注文いただければ翌日到着が最短ですし、新譜の予約をしていただくとほとんどのエリアで発売日当日までにはお届けできますので、そういった意味ではある一定のクオリティーは満たしていると思います。
——利用者の声はもう届いていますか?
服部:「レコチョク」ユーザーの男女比は男4:女6で、ユーザー層で言うと10代後半から30代前半までの人が多く、さらに20代では二人に一人が利用しているという、それくらい普及したサービスなんですね。この着うたユーザーがターゲットなので必然的に同じ客層が強く反応してくれています。他の通販サイトの典型的なユーザーは30代男性の割合が多いのですが、我々のサイトでは現状20代の女性お客様に多く利用いただいています。
——女性の利用者が多いのは何か理由があるんですか?
服部:もともとレコチョクのサービス自体に女性が多いというのが一つと、もう一つの要因は女性のほうが携帯をタイムリーに使いこなしているということですかね。着うたは完全にリアルタイムになっていて、例えばテレビの音楽番組があるとそれが終わってからダウンロードがあるのではなくて、放送中にダウンロードがどんどん上がるんですよ。音楽番組を見て「いいな」と思ったり、ドラマを見て最後の主題歌を聴いて「この曲欲しい」と思ったりしても、一晩寝て次の日学校や会社に行って、それからレコード屋に買いに行くという、以前までの記憶させて購買につなげるやりかたではほとんどの人がこの期間に冷めてしまうんですね。それが携帯の場合は新しい音楽に出会って胸がときめいた瞬間にその場でダウンロードしてすぐ聴けるというのがやはり強くて、特に女性の中にそういうアクションの方が多いです。
——その勢いでCD購入ボタンも押してしまうんでしょうかね(笑)。
服部:(笑)。やはりそういう流れというのがあるんですね。エモーショナルになった時に携帯というのはテレビのリモコンよりも近い場所にあるので、何よりも身近な存在になっています。朝起きるときも着うたが目覚ましですし、お風呂に入りながら携帯で音楽を聴く人も多く、身体の一部のようになっているので、「○○の新譜が予約開始」というような情報がいち早く届いた瞬間にどうしてもアクションをしてしまうという女性ユーザーの方は多いのかもしれません。
——決済の方法はどのようになっているのでしょうか?
服部:うちのユーザーは若い方が多いので、クレジットカードを持っていない方が結構いらっしゃいます。ですから、着うたと同じように携帯払いを導入していまして、半数は携帯払いなんです。これもすごく大きな特徴ですね。
——音楽業界内からの反応はいかがですか?
服部:色々な意見はありますが、我々の場合はレコード会社が出資している会社なので、「CDまで直販するの?」「そこまでやるの?」というような意見も反応としては出ていますし、着うたとして非常に強いポジションにいるので、CD通販に入ってきてほしくないという声も聞きます。メーカーさんは興味津々といったところで「果たして着うたを買っているお客様がCDを買うのかな?」という感じで見守っていただいています。いろいろな意味でとても注目していただいているのは感じますね。
——しかし、在庫管理は結構面倒なんじゃないですか?
服部:はい。やはり在庫の問題はあって、新譜を受注するにも限界がありますし、在庫切れもありますので苦労はしておりますが、現在はトライアルということもあるので、まずはやってみるというところです。ECをやってみて改めてデジタルはそこが楽だなと感じています。
——Amazonでは購入者の傾向から商品を勧めるレコメンドやマッチングがありますよね。そういったサービスも考えられていらっしゃるんでしょうか?
服部:近い将来に我々もレコメンドやマッチングをやりたいなと思っています。我々はフィジカルとデジタルの両方の販売をしますので、特にやりたいと思っているのはデジタルとフィジカルのクロスですね。例えば、着うたである楽曲をダウンロードしていただいたユーザーに、そのCDが発売されたときにお知らせすることができますから、デジタルとフィジカルのクロスで非常におもしろいことができるんじゃないかなと思っています。また、デジタルとパッケージの両方買ったお客様がお得になるようなこともしたいですし、テレビを見ていていいなと思ったら、すぐメールが届くみたいなこともしたいなと思っています。
——まだECがスタートして1ヶ月ですが、改善点などはありましたか?
服部:そうですね、改善点だらけといえばだらけなんですが、やってみてわかることもたくさんあるので、様子をみて追加で機能を足していったり、あとは全体的なレコメンドなどは着うたのサイトと同時にやっていかなきゃいけないので、そういう改修や強化を今年一年かけてやっていく感じですね。
——今後の予定は?
服部:やはり、レコチョクというものを総合的なサービスにしていくことです。「レコチョクって着うたの会社でしょ?」というのが現状だと思うんですよね。それが去年からデコメやコミックのサイト、ECを始めたり、この先エンタメの総合メディアなんかも始めたり、要するに総合エンターテインメントのサービスサイトに変わっていくのがこれからの方向性で、それを一個一個着実にやっていく感じです。1月からテレビ番組を始めて、マスメディアとのコラボレーションも今後は強化していきます。今ユーザーは目と耳で刺激しないとダメなんですよね。特に携帯は目と耳から刺激されるとユーザーはより動きやすいです。そういう意味でも映像系やメディア系と連動して一緒にやっていくというのは、音楽にとっても重要だと思います。
関連リンク
関連リンクはありません