全日本CDショップ店員組合 CDショップ大賞 実行委員長 行 達也さんインタビュー
第二回目を終えた「CDショップ大賞」の大きな成果と今後の目標、さらにCDショップの現状について、全日本CDショップ店員組合 CDショップ大賞 実行委員長 行 達也氏に伺いました。
プロフィール
行 達也(ゆき・たつや)
株式会社ウルトラ・ヴァイブ mona records事業部
’68年、大阪府出身。前職はタワーレコード新宿店にて勤務。現在、mona records店長。及び全日本CDショップ店員組合CDショップ大賞実行委員長。ラジオ・パーソナリティーとして昨年までTBSラジオ”ストリーム”、TOKYO FM”Music Storage”、”暁の自由時間”を、現在はmona recordsのインターネットラジオで活動。又、ライターとして各音楽誌、新聞等でもコラムを執筆。近著は『葉っぱカタログ』(mille books)
「CDショップ大賞」受賞作品は1年間でも音楽配信を停止してほしい
——CDショップ店員組合を立ち上げた経緯をお聞きしたいのですが。
行:CDショップ店員組合は、「CDショップの店員も何かできるんじゃないか?」「CDショップ発で音楽を盛り上げていきたい!」という想いから、有志のメンバーで何ができるかを話し合ったところから始まりました。そうしたらみんな意外と興味をもってくれて、改めて組合員で話し合った結果、「本屋大賞」のようなものとして、「CDショップ大賞」をやるのがいいんじゃないかという話に発展していったんです。
——もともとショップ店員間の横の繋がりはあったんですか?
行:あまりなかったですね。現場レベルで1つの目的に向かって、ショップを越えて何かをやるということは、それまでやったことがなかったんです。
——CDショップ大賞の認知度は1回目から比べたら飛躍的に上がっていますし、ショップの店員さんたちの意識も変わってきているんじゃないでしょうか?
行:あくまでも「やりたい!」という人が自主的に参加していますので、上から参加しなさいと言われて、わけもわからず参加している人はいないと思います。
——CDショップ大賞には「地方賞」という賞がありますよね。これは地方の店員の方もやりがいがあってすごくいい企画ですよね。
行:そうですね。地方賞は今回のハイライトですね。
——CDショップの店員が選ぶわけですから、一般には認知度が低いアーティストが選ばれたりもするわけですよね。
行:ええ。特に地方賞はユーザーからしたらよく知らないアーティストがすごく多かったと思いますよ。地方賞を受賞したTHE YOUTHはかつてメジャーで活動していたから多少知名度はあったかもしれませんが。でも、THE YOUTHのようなバンドもすごく大事だと思うんですよ。1回ちょっと売れて、その後、売り上げが下がってくるとイメージが悪くなりますよね。でも、すごくいいCDを作っていて、地元で地道にずっとやっていて、しっかりお客さんもいてという状況を、地方賞で知らしめることができましたから今回の地方賞はすごく意味があると思いますね。メジャーがいいとか悪いということじゃなくて、それ以外にもいっぱいいい音楽があるということを地方賞を通してアピールしていけたらいいと思うんですけどね。
——実際、THE BAWDIESや清竜人は大賞を受賞してから、メディアの露出がより増えて認知度が上がったように思います。
行:全てとは言えませんけど、プラスにはなっていると思います。
——またそれが店員さんにとっては嬉しいじゃないですか。自分がいいと思っているアーティストがたくさんメデイアに出ていると。
行:それがはっきり目に見える形になれば選ばれる側も嬉しいでしょうしね。なので、すでに売れてる人たちには投票しないでねとは言ってるんです。
——でも、Superflyはすでに売れていますよね?
行:これは結果論なんですけども、こういうアーティストが一組でも入っていることでスケール感が出るんだと思います。知らないアーティストばかりだったら地味な賞なのかなって思われてしまうので。
——ちゃんと考えていますね(笑)。
行:いやいやいや! そういうことではなくて(笑)、本当に偶然なんですよ。ただ、賞の知名度が上がって参加してくれる人が増えたら、どうしても中身が薄くなります。スケールメリットも大事ですが、それと質のバランスが崩れたら意味がないということです。
——知名度と雰囲気だけはスケールが大きくなっていっても、実はこぢんまりと濃密にやってるっていうのが大事なのかもしれないですね。
行:CDショップ大賞自体のステイタスがつけば中身は何を選んだってついてくるんでしょうけど、そこまでは辛抱ですね。
——認知されると協賛とかもつきやすいですね。今はほとんどボランティアに近い状態だと思いますが、やるだけやって気持ちは残ったとしても赤字が毎回かさんでいくとしたら辛い話ですよね。
行:それだと続かないですからね。そういう問題もはらんでると思いますし、今後ますます状況が厳しくなっていくと参加してくれている実行委員の人が定例会とかに出てくれるのか? という危惧もやはりあります。現に第二回の大賞を選ぶためにずっと参加してくれていたある人のお店が明日で閉店なんですよ。
——そうなんですか・・・そんなに苦労なさって作った賞なんですから、大賞に選ばれた作品が実際のセールスに結びつく形になっていったら理想的ですよね。
行:第一回目はそれなりの影響力はありましたし、二回目も1万枚とか2万枚とかそういうレベルでは売上が上がっているみたいですね。地方賞に関しても特定の地域に集中していた人気が全国的に広がったので、それはすごく成果として大きいと言ってくださっています。
でも、やはり大賞と準大賞に選ばれたらその時点で1年間だけでもいいから配信を停止するとか、そういった試みをしないと結果がはっきり見えてこないですね。この前THE BAWDIESが授賞式の打ち上げに来たときに、彼らに冗談で「配信停止お願いします」と言ったので(笑)。半分冗談じゃなかったんですけどね(笑)。
——あまり考えたくないですが、この賞が衰退するときがCDやCDショップの衰退のときとも言えるわけですよね。ぜひこの賞がいつまでも続いて欲しいと思います。
行:一応「CDショップ大賞」と掲げている以上は存続できるために何ができるかを考えていきたいと常に思っています。
——今後、CDショップ大賞をきっかけに色々と企画が出てきたり広がったりする可能性もありますよね。
行:みんな仕事が忙しかったりして、なかなか時間がとれないんですが、「コンテンツをちゃんと自分たちで決める」としておけば、ポテンシャルをキープできるような気はするんですね。ですから今後新しい企画が出てくるとは思うんですが、まず今やるべきなのは、地方賞をどうやって大賞に組み込んでいくかということだと考えています。
「現場の意識が低くなっている」〜CDショップの現状
——ピーク時の92年から現在までに、日本レコード商業組合の加盟店の約75%のお店が廃業しているということですが、こういった現状についてはどうお考えですか?
行:まず、売上が下がるということは自分たちの持ってる力を発揮できないっていうことだと思うんです。タワーレコードもこの2月からほとんどの店舗がセントラルバイイングになって自分たちでイニシャルを入れられなくなりました。そこに店員の人たちの意志がほぼ反映されない。
でも、バイヤーとしての仕事ができない人があまりにも多いからそうせざるをえないんです。任せておいても結果が出ないからこういうことになるわけで、CDショップに関して言えば上層部が悪いわけではなく、働いてる人の意識の問題だと思います。
——意識の低下はどのような点から感じるのでしょうか?
行:自分たちがバイヤーをやっていた頃に比べると、圧倒的に知識が足りない。全然オールラウンドじゃなくてテリトリーが狭いんです。この前、名物店員さんを取材させてもらいに行ったとき、「ちゃんと教育してこなかった自分たちも責任は感じている」と言ってはいるんですけど、僕だって教えられてやったわけじゃないですし、商売に関しては色々と学ぶことはありましたけど、音楽が好きだからCD屋とかレコード屋で働いているだけで、働く以上、いろんなものを聴こうと思いますし、好きになるし、そこは趣味と実益を兼ねて成り立つもので、やっぱりプロ意識が足りないし、現場の意識が相当低くなっていると感じます。流通を遡って情報を仕入れるとか、音楽好きが高じて、という人が圧倒的に少なくなっている気がしますね。
——先進5ヶ国の中では日本が一番CDが売れているということで、まだずいぶん健闘しているんじゃないでしょうか?
行:国ごとにそれぞれ国民性や環境が違いますから一概に比較できないと思います。例えば、韓国なんかは「コピーして何が悪いの?」というような国ですし、僕が3年ぐらい前に韓国に行ったとき、ソウル市内ではすでにCD屋は個人でやってる1店ぐらいしか見なかったです。
ですから「頑張っているから」というよりは、国民性や環境の違いが理由だと思います。CDショップはずっと受け身できたじゃないですか? CDのバブルがあって、それ以降は自分たちの立場を見失ってるというか、その時点で危機感をどこかに置いてきてしまって、レコード会社があるからこそ、自分たちの商売は成り立っているということを忘れてしまっているような気がします。
——一時期、店員さんがちょっと天狗気味だったり・・・。
行:まあ、僕も然りなんですけど(笑)。あれはよくなかったですよね。
——(笑)。
行:レコード会社も場所がほしいし、オーダーもほしいからそういうふうになるんですが、そもそも、その時点で先を全く見据えていないというか、多分、安穏としていたんだと思います。そして、こういう状況になってやっと危機感を持つようになったと。
——ショップという立場から音楽を作っている側に何か言いたいことはありますか?
行:問題の質があまりにも深くて誰に文句を言っていいのかわからないんですよね(笑)。
——では、ここにだけは言っておきたいということはありませんか?
行:ここにだけは、というなら音楽の先生ですかね。学校の音楽の先生がちゃんとした音楽教育をしていれば、つまらない音楽をつくる人もいなかったでしょうしね。それとも国語の先生の問題なのかな? すごくチープな歌詞の応援歌とかで感動してしまうというのは、やっぱり教育そのものが間違ってるわけで、親の責任もあるかもしれないですけど、そこさえ間違ってなければ、いいものっていうのがちゃんとわかる大人になるはずですから、今みたいなチャートにはならないはずだと思うんですよ。
レコード会社は売れる物を作らないと自分たちもご飯食べていけないのは分かるんですが、その売れる物がつまらないものになってしまっている。昔はもっとチャレンジできる体力が会社全体にあったと思うんですね。それがなくなって安易で売れそうなものばかり出して、という状況が生まれているように思います。
——マーケティング主導の音楽制作、というところですね。
行:でも、それはしょうがないと思うんですよ。あんなにたくさんの従業員がいるわけですし、そこでかっこよく「これ売れないかもしれないが良い音楽なので」とか言ったって誰もついてこないですしね(笑)。残念ながらこれまで自分がプッシュしてきたCDもメジャー的な売れ方は絶対しないので・・・(笑)。
——(笑)。
行:でも、最終的にはシステムで売るんじゃなくて質で売りたい。システムで売るということはあくまで目先の話であって、その場しのぎにすぎないですから。質で集まった人は離れないかなという気がしてるんですよね。だから「ビッグネームだから売れる」じゃなくて、「良い作品だからそのうち絶対売れる」という気持ちで付き合っていく、ということを忘れないでほしいですね。
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