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TOKYO BOOT UP! 2010実行委員会 渡邉ケン氏インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

渡邉ケン氏
渡邉ケン氏

SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)を基本理念に、日本での音楽見本市開催を視野に入れた新イベント「TOKYO BOOT UP! 2010 <Vol.0>」が、9月3日〜5日の3日間、新宿のライブハウスや専門学校などで開催される。このイベントを開催する狙いや経緯、今後の展望などを TOKYO BOOT UP! 2010 プロデューサー 渡邉ケン氏に伺いました。

▼TOKYO BOOT UP! 2010 オフィシャルサイト
http://tokyobootup.jp/

 

プロフィール
渡邉 ケン(わたなべ・けん)


35年間音楽業界を本籍地とする音楽ビジネス萬相談アドバーザー。海外アーティスト招聘、音楽制作、音楽出版、マネージメントに従事。内外レコード・出版契約、各種交渉などに幅広く携わる。以後フリーランス活動中。00〜05年SXSW-Asia事務局長。レヴォン・ヘルム、トム・ウエイツ、ジャクソン・ブラウン、トーキング・ヘッズ、エア・サプライドリームズ・カム・トゥルー、りんけんバンド、ゼルダや映画音楽、国体障害者スポーツ大会閉会式典などに多数関わる。

TOKYO BOOT UP! top02

——なぜ「TOKYO BOOT UP!」を開催しようと思われたのですか?

渡邉:そもそも、なぜ日本にSXSW※ のようなイベントがないんだろうと思っていたんです。業界が停滞している今、数多くの人が何らかの変化を求めているにも関わらず、なぜか事が動かない。だったらそういった問題を抱える人たちが集まって話し合い、共有してアクションを起こすような場が必要なのではないかと思ったんですね。

 それはSXSWが20何年前に立ち上がったときの動機と全く一緒で、テキサスのオースティンという街で「アメリカ中に自分たちのアーティストをマーケティングするにはどうしたらいいか?」ということに悩んでいた3人のマネージャーが始めたのがSXSWなんです。モデルはニューヨークの「ミュージックセミナー」で、彼らがミュージックセミナーに出向いたときに「オースティンでもこういうことをやろう」と思ったのがSXSWの発端となっています。

——初回のSXSWはどのくらい人が集まったんですか?

渡邉:1回目は700人集まったと聞いています。今は大変な規模になっているんですが、1回目のイメージが自分の中にあり、かつ、ここ一年色々な人に会うとみんな同じ問題を抱えていたので、SXSWのようなイベントを日本でやろうと思い立ったわけです。

——もう少し具体的に皆さんが抱えている問題について伺いたいのですが。

渡邉:どうやってマーケティングしたらいいのかとか、どのように自分の事業を維持していったらいいかとか、そういった問題ですね。せっかくインディーズというシーンができて、自分が一歩進める環境ができたのに、次のステップに進んだときに、マーケティングの問題やお金の問題だとか、インディーズシーンが確立されてきたにもかかわらず、その形態自体は全然変わっていないという閉塞感にぶつかっているわけですよね。そこを打破したいという気持ちが発端ですね。何か変わろうとしている意識があるということは、解決する意識を持っているということに通じるわけですから、あとは実行に移せる環境さえあれば、みんな実行するんじゃないかなと思ったんです。

——もう自分たちでやるしかないな、と。

渡邉:そうですね。それで実行委員会にも参加している村田さんと関口さんとで集まって、最初に考えたのは大江戸線を上手く使ってみようということでした。実は大江戸線の沿線にはたくさんの音楽系専門学校とライブハウスがあるんですね。西に東放学園があって、東には尚美があって、その間は大江戸線で20分で行けるんです。その尚美と東放学園のファシリティとインフラを上手く使い、その間にあるライブハウスをくっつければ面白いことができると思ったんですね。

——「TOKYO BOOT UP!」に対する業界の方々の反応はいかがですか?

渡邉:8割ぐらいはポジティブですね。

——それはメジャーメーカーも含めてですか?

渡邉:どちらかと言えばメジャーの方がポジティブです。インディーズの人は「今までと同じじゃん」という印象があるみたいなんですよ。でもマーケティングに対する検証は進んでいないと思うので、今はその検証も含めてこのイベントで精度を高めませんか? というところですね。先ほども言いましたけど、メジャーの方たちのほうがポジティブなんですが、それはメジャーの方たちのほうが変化をしたいという意識が強いのかもしれないですね。

※SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)
毎年3月、アメリカ・テキサス州オースティン市で11日間にわたり開催される音楽と映画、インタラクティブの見本市。特に音楽の4日間の開催期間中は、約300mの通りを挟んで点在する30余のライブハウスで4夜に渡り早朝まで世界中から集結した1900組の有名/無名バンドがショーケース・ライブを行う。また、ミュージック・フィルム・インタラクティブと3種類のカンファレンスも行われる。世界を席巻中のtwitterは、2007年SXSWのインタラクティブ・アワードを受賞。
★SXSW オフィシャルサイトhttp://sxsw-asia.com/

 

TOKYO BOOT UP! TBUpreS

——「TOKYO BOOT UP!」が従来のイベントと違うところはどんなところにあるんですか?

渡邉:まず音楽見本市が日本に存在しない以上目的をイメージするのは難しいと思います。ましてやSXSWやMIDEMも体験をしていない限りこの種のイベントを想起するのはできないでしょう。内容として、音楽見本市の多くは「ショーケース」、「カンファレンス」、「トレードショー」で構成されています。発掘、商談、ネットワーキングが目的で、「見る・聞く」、「出会う」、「学ぶ」、「共有する」、「解決する」、「拡張する」というキーワードがあるかと思います。

主催者としてはこのイベントのポジティブな部分の1つはしがらみのない立場にある者たちが携わっていること。実行委員会の全員が業界に何らかの形でリンクしているけれど、フリーの立場であるということがこの主のイベントを主催するときにとても利点なのではないかなと思っています。今、音楽業界だけじゃなく全部の業界が低迷しているので、音楽業界に留まらず、他の業界にリンクしている人たちとみんなで作っていければと思っています。事実音楽業界は音楽を中心に他の業種と切っても切れない関係で成立しています。それを再確認したいこと。またこれまでの意識の枠をとっぱらえればいいんじゃないかと思います。

またボクたちは本開催までにたくさんのプレイベントを行っていきます。プレイベントの目的は、TOKYO BOOT UP!の意味を伝える重要なPR活動との位置づけです。毎月複数回の開催で、ライブ、セミナーなどで構成します。そしてMusic DIYみたいな発想が出てきたというところですね。

——Music DIYというのは?

渡邉:例えば、デザイナーや写真家の方々とミュージシャンを引きあわせてジャケットを創り上げるというようなネットワークを作ってもらうことですね。あるいはフリーのエンジニアの方と仲良くなってもらってもいいし、そういう場を作っていこうということも裏テーマにあって、ライブはその結果としてできてくればいのかなと。

——「東京」っていうと大きすぎてイメージがわきづらいと思うので、もう少し小さい街の名前にしたほうがいいのかな? とも思うのですが。

渡邉:ゆくゆくは国際的なイベントにしたいので、あえて「Tokyo」という名前を付けました。東京はインターナショナルな街ですし。実はすでに海外からの問い合わせもあるんですよ。

——立ち上げの段階でそこまで広がっているんですね。

渡邉:それは開催発表会にいらしていただいた方のネットワークですね。そういうイベントが世界中いたるところにあると思っている人たちがいるんですよね。でも日本にはないと言うとみんなびっくりするんですよ。

——世界的に音楽見本市の運営はどこも苦労しているじゃないですか? そのような状況をどのように考えてますか?

渡邉:世界3大音楽見本市のポップコムとミデム、SXSWを比較すると、ポップコムは去年の開催がキャンセルになりました。ミデムは音楽関係者の参加が減っていますが、減った分IT関係の人たちでプラスマイナスゼロになっています。そして、SXSWだけが毎年堅調な伸びの数字を残しているというこの事実をどう考えるかだと思うんです。

 SXSWがなぜ廃れずに開催できるかというと、アーティスト・オリエンテッドなイベントだからなんですね。たぶんこれがヒントだと思うんです。それと、業界の変化に対して昔から適応していたからこその差だと思うんですよね。ライブだけではないし、そもそもの発端がカンファレンスだったこともあって、いろんな人に出会って、問題をディスカッションして、変化がちゃんと根付いてる部分があるんです。そもそも音楽でご飯を食べるという覚悟みたいなものが、日本にいるとすごく希薄になっちゃうんですよ。それはどうしてなのか?これこそ日本の音楽業界の根源的問題だと考えています。

——諦めている人が多いですよね。

渡邉:そうですね。僕がミデムに初めて行ったのが、1984年頃だったんですけど、汚い格好をした作曲家がホテルのロビーなんかでデモテープの売り込みをしているんですよ。彼は毎年デモテープを作ってミデムに売りにきていて、次の日に会うと「1,500ドルで売れた」って言うんですね。それで何日かしてもう一度会ったら、そのときには「デモテープの費用が浮いた」って言うんですよ。それで次の年にまた会うと着てるものも少しよくなったりしていて(笑)。しかも毎年会う度にホテルまで変わってるんですよね。彼は少しずつステップアップしていって、最終的には音楽出版社を作りましたからね。

 つまり、これで食っていくという実感みたいなものを、僕はミデムで教わりました。SXSWに行っても同じで、一台のトレーラーをシアトルの方から運転してきて、会場に寝泊まりしてビラをまいてショーに出て・・・といった地道な姿を、連れて行った日本のバンドに見せることによって「音楽で食べていくというのはこういうことなんだよ」と教えるのは本当に楽しかったですね。

——日本でも将来的には「TOKYO BOOT UP!」の期間中に、ライトバンに乗って地方からバンドが押し寄せてきて、みんな必死に自分たちをプロモーションするような、そういう場を作りたいということですね。

渡邉:そうですね。それが原点なんじゃないかと思うんですね。今は大きな事務所と契約して「月30万ください」というのが1つのゴールだと思っているバンドが多すぎるんですよね。僕はそれは違うんじゃないかと思いますね。

——あるいは配信でちまちまやって納得、みたいな感じでしょうか。

渡邉:音楽が流通される確率がインターネットとデジタル化ですごく高くなったわけですよね。だけど、いざその環境にいても、自分たちはその環境を活かし切れているのかというとそうではないわけですから、その原因についても「TOKYO BOOT UP!」を通じて、みなさんと色々考えていきたいと思っています。

 

TOKYO BOOT UP! 1

——実際にエントリーを受け付けてから、どのように出演アーティストを選ぶんですか?

渡邉:非公開で業界内で広範囲な人選による審査員で選びます。

——選考基準はシークレットですか?

渡邉:そうですね。でも一般の人もインボルブさせようとは思っています。審査の視点は当然違ってきますけども。

——アーティストの参加資格はあるんですか?

渡邉:そこは有名・無名関係なくオープンです。

——エントリー料はいくらですか?

渡邉:3,000円です。タダにしたいという気持ちもあるんですが、僕たちも責任ある仕事をしたいというところでお金をいただくことにしました。また、我々はこのイベントのために合同会社を作るんですが、それは覚悟の現れのようなもので主体をはっきりさせないと責任がとれないと考えました。

——どれぐらいのエントリー数を予想しているんですか?

渡邉:見込みとしてLowとMidとHiの三つがあると思うんですが、Lowは100〜300組ぐらい。Midが600ぐらい。HIが1000以上。これは僕の経験値で、参考例は一番最初の「MINAMI WHEEL」の例、「JAPAN MUSIC WEEK」の例、SXSWは日本から参加すると渡航費からなにから含めてバンド4〜5人で200万ぐらいかかるのに、いつも100強のエントリーがあったという事例なども含めて、100〜300ぐらいが一番現実的ではないかなと思っています。

 それで本番までに、我々は何を考えているのか、どういう集まりなのかということを知ってもらうために、プレイベントを定期的に開催していきます。1つの例で言うと、20人規模の交流会や、アジェンダに沿ったカンファレンス、そしてコンサートも行っていくつもりです。

——今のところ金銭的なものはエントリー料のみですか?

渡邉:そうです。あとはスポンサーからの援助とチケット収入ですね。

——スポンサーは何社か決まっているんですか?

渡邉:現在営業中ですが、東放学園さんが施設設備や人員を提供してくださいます。さらに学校の授業として特別ゼミナールという形で我々が提供していくと。そこに学校から希望者を募って、ゼミに参加していただいて我々がそこで講義をする。その見返りとしていくらか報酬を得るというような形ですね。また会場のライブハウス4店も望外な条件での会場提供をしてくださいました。その他当たり前のように、ガイドブックの出稿や、ホームページのバナーなど主な広告収入になります。

——学生がスタッフとして手伝ったり?

渡邉:そうです。学生たちとは開催までに特別ゼミを通じ濃い人間関係を作り現場で活躍できる人材に近づけて行きたいです。

——出演バンドを押さえることはできると思うんですが、もっと大変なのは観に来てくれる音楽関係者をどうやって呼ぶかを考えないといけませんよね。

渡邉:これはやはりプロモーションの質だと思うんですよ。それこそマーケティングのアイディアを盛りこまないといけないと思うんですよね。対象はまず業界が1つですね。そのためには、大小問わずレーベル、マネージメント、流通関係、配信業者、スタジオ、ライブハウス、メディア、ライター、各種クリエーターなど業界を構成するところへ働きかけをして300〜500人の業界の人に来てもらいたいと思います。今、毎日が行脚です。あと、一般の人を呼ぶための特典の展開も考えています。

——基本的にライブハウスサーキットになるわけですよね。

渡邉:そうですね。新宿のLOFT、MARBLE、MOTION、MARZが100m程の間にあるのでその4店舗を使います。

——観客動員の目標は?

渡邉:学校のホールを入れると1日1,400人がキャパ的なマックスなんですね。おそらく1日1,000人ぐらいが目標になってくるのではないかと思っていますが、最初は500〜600ぐらいなのかもしれません。この辺りは厳しく覚悟して臨みます。当然満員御礼を目ざし最大の努力をします。

——あと併催で音楽映画祭も開催しますよね? これはどういったものでしょうか?

渡邉:音楽と映像は切っても切れない対な関係ですね。ますますその意味が大きくなっています。また世界中に映画祭はたくさんありますが、音楽映画祭に特化したものはありませんので音楽の映画だけを集めた映画祭を開催することにしました。ドキュメンタリー、MV/PV、音楽をテーマにしたドラマなどを集めます。そして、今年がニューポート・フォーク・フェスティバルから50年なんですよ。ワイト島ミュージック・フェスティバルは今年で40年ですし、このふたつのドキュメンタリーを撮ったマレー・ラナー監督をキーノートスピーカーに招聘し回顧上映会も行います。また彼はディズニーの『マジックジャーニー』という3Dの映画を10何年前に撮ってる3D映画の先駆者ですよね。

——それも東放学園で上映するんですか?

渡邉:東放学園でも上映しますが、歌舞伎町界隈に映画館がたくさんあるじゃないですか? そこをも使わせてもらおうと思っています。あと、将来的には業界に特化した就職セミナーを開催して、セミナーにきたお客さんとショウケースライブにきたお客さん、映画祭にきたお客さんを全てのイベントにうまく誘導できる仕組みを作れれば一般の人の来場数は増えるのではないかと考えています。

 

TOKYO BOOT UP! 2

——ところで「TOKYO BOOT UP!」の”Boot”ってどういう意味なんですか?

渡邉:一番分かりやすいのはコンピューターの起動を「Boot Up」と言うんですよ。あと、古い英語の慣用句に「ブーツのベルトを締めてがんばれよ!」というような意味があるそうなんですね。要するに自立しろという意味です。

——ちなみに「Boot Camp」もそういうような意味なんですか?

渡邉:ブートキャンプは新兵訓練ですよね。SXSWオーストラリアがSXSWを効果的に過ごすために出場者は1ヶ月前にBoot Campを張るんですよ。ホールを借りて「オースティンに行ったらこういうことをやること!」って仕込むんですね。かつて僕も音制連の会議室を借りてやりました。どういうふうに4日間を過ごすかということをレクチャーするんです。これは好評でしたね。「TOKYO BOOT UP!」でも出演が決まったバンドにはそういうこともやりたいと思っているんですよね。無駄だと思えば無駄ですけど、実はそれは無駄じゃないと。無駄こそ非常に重要なノウハウだと思うので。

——自分たちとしては成功の確率は?

渡邉:僕は意外とあるんですよ。一人だけそう思っているのかもしれないですけど(笑)、イメージは見えますね。最低限、今自分たちでできるインフラと心の余裕や金銭の問題も含めてできる範囲のところだけはやりきれる規模にしたのです。

——実際やらなければいけないことはいくらでも出てきてしまうでしょうね。

渡邉:いやぁ、打合せでもアイディアがいっぱい出過ぎてなかなか進まないです(笑)。

——早くBoot Campで東放学園の生徒の方々を鍛えて、実働部隊として戦場に送り込むしかないですね(笑)。

渡邉:(笑)。今、バンド活動をしている中央大学の学生たちがボランティアで働いてくれていますが、ボランティア次第のところもありますよね。あと、余計なお世話かもしれませんが、人を育てるのは面白いんですよ。ある種、業界が人を育ててこなかったというか、その問題が閉塞感として露呈しているのも事実ですし。

——渡邉さんはSXSWの「JAPAN NITE」でもかなり苦闘されていましたよね。

渡邉:日本から海外へ持って行こうという事業を始めるとなるとこれは大変ですよね。SXSW本部が審査を通過したバンドで構成する「JAPAN NITE」は、助成金や協賛金で成り立っているのですが、 でも、その協賛金に関して批判も結構ありました、協賛金がないと出られないというのは問題だろうという批判とずっと戦いながらやってきたんですが、乱暴な言葉を言ってしまうと、SXSWは音楽見本市なんですからお金をかけて出るのはあたりまえなんですよ。事務局として効果ある出方を作りそこに見合ったコストを全部でシェアした結果、1つのバンド当たりがいくらという協賛金が必要なんですね。そのためにアジア事務局は多くの集客を図る努力をするんです。TVの特別番組製作もその一環でした。そういう簡単な構造が理解してもらえなかったという時期は確かにありました。

——「連れて行ってもらえるんだろう」という甘えになっちゃってるんですね。

渡邉:そうですね。果ては旅行代理店みたいになっちゃうから、そういうことではダメだということで、アジア事務局所にいるときはそこから改善しました。それから自分でチラシをまいたり、批判してくる人たちとコンタクトをとって、直接説明させていただいたりして、やっと理解が深まっていったという感じでしょうか。

 そう考えると、くるりの岸田君は立派でした。街角に立って甚平着て目立つような格好をしてチラシを配ったりしていましたからね。センスのいい人たちは自分が見本市に出るということのテーマをはっきり持っているからあの場で何をしたらいいのか、要するに多くの人に自分のパフォーマンスを観てもらうんだということを理解できるんですが、なかなかそういうアーティストばかりではないですからね。

 

TOKYO BOOT UP! TBUFs

——これだけ壮大な計画を、この音楽業界が絶不調の時に立ち上げるなんて、渡邉さんはすごい精神力だなと感銘を受けています。

渡邉:でも、今だからこそ意味があるんじゃないかなと思うんですよね。いいときには逆に誰もそんなことに耳を貸さないかもしれない。今の状況だからそういう新しいことに力を貸してみようかという人もいらっしゃると思うんです。

——メーカーなど内部にいる方々はなかなかこういうことはできないと思います。渡邉さんのような立場の方たちが立ち上げるのは本当に素晴らしいことだと思います。

渡邉:やるっきゃないというか、乱暴にそう思うことでしかできないですね。ほんとにそういう意味で馬鹿者がやらないとダメなんですよ。あとよそ者と若者(笑)。

——日本では開催するのが難しいと言われていた野外フェスも今ではすっかり定着したわけですし・・・。

渡邉:そうですね。SXSWのライブの部分だけを模した「MINAMI WHEEL」も定着しましたしね。あと、名古屋の「SAKAE SP-RIN」とかああいったものが出てきたのは良い傾向だと思いますね。ただ、僕らはショウケースライブだけでは解決できないという気持ちがあるので、そこは他のイベントと違うところですよね。業界に意識的に接点をもちたいとは思います。

——それはやはりSXSWのような形で、ということですよね。

渡邉:SXSWってみなさんはフェスティバルだと思っていますが、実は非常にクローズドなイベントですから。一般の人が観られるライブは限定されていますしね。

——そうなんですか? 渡邉さんはそうやって生のSXSWを見続けてきたわけですから、成功のイメージも明確にあるわけですね。

渡邉:そうですね。あとはそのビジョンにどれだけ近づけるかということと、日本独自の何を付け加えるかということですね。

——ただ、エントリー料を取るという第一関門は結構高いのではないかと思うのですが。

渡邉:3,000円を取る中で例えば本番のときに、チケットを何枚か渡すとか、セミナーを無料で受けられるとか、それに該当するような特典も考えていますので、単純に3,000円が0になるわけではないんですけどね。ですから3,000円以上価値があるような特典を付けることでなんとか解決しようとは思っています。とはいえ、もう不安だらけですよ(笑)。

——(笑)。それはそうですよね。これだけ大きなイベントを立ち上げようというのですから正に命がけですね。

渡邉:ええ。3月4日の説明会だって発表したのは1週間前でしたからね。誰も来ないんじゃないかなと思いましたけど、90人ほど来ていただけました。びっくりですね。

——そういう時代なのかもしれないですね。何か新しいことを求めていると。

渡邉:とにかく前例がないことをしようとしているので、あっち行ってはぶつかり、こっちへ行っては凹みというようなことがこの先どれくらいあるか・・・それはそれで楽しみですね(笑)。

——Musicmanとしても出来る限りの応援、協力をしたいと考えています。「TOKYO BOOT UP!」の開催を楽しみにしております。本日はありがとうございました。

-2010.4.24 掲載

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