広告・取材掲載

ヒット志向でトップクラスに 〜 ワーナーミュージック・ジャパン 代表取締役会長 兼 CEO 石坂敬一氏インタビュー

インタビュー スペシャルインタビュー

石坂敬一氏
石坂敬一氏

11月1日付で前ユニバーサルミュージック相談役 石坂敬一氏がワーナーミュージック・ジャパン 代表取締役会長 兼 CEOに就任した。その電撃移籍に驚いた人は多い。ワーナーミュージック・ジャパンの受付ロビーには、今回の就任を祝い、各レーベルや音楽関連企業から贈られた花束が一面に飾られており、その光景からも石坂氏の動向が業界から注目されていることがわかる。

石坂氏は東芝EMI(現EMIミューッジック・ジャパン)時代から常に音楽業界の最前線で活躍。ユニバーサル ミュージックでは2008年同社設立以来のマーケットシェア ナンバーワンを達成している。

再び現場の指揮官として、ワーナーミュージック・ジャパンという新たなフィールドで動き出した石坂氏にCEO就任の経緯やワーナーミュージック・ジャパンの今後について話を伺った。

[2011年11月11日 / 港区北青山 ワーナーミュージック・ジャパンにて]

——ワーナーミュージック・ジャパン 代表取締役会長 兼 CEOご就任おめでとうございます。まず、率直なご感想からお伺いしたいのですが。

石坂:ワーナーミュージック・ジャパンという会社は比較的中くらいのサイズなので、経営者の考えと行動がより率直に伝わるような感じがしますね。あと社内全体を見渡せるワンフロアのオフィスというところも気に入っています。

——どのような経緯で今回の就任に至ったのでしょうか?

石坂:ワーナーミュージック・ジャパンを統括している人たちの中に、私の古い友人が多いんですね。まず、ラッキー・ラザフォードさんですが、彼は私の東芝EMI時代から一緒に仕事をしていました。それからワーナーグループ トップのリオ・コーエンさんは、ポリグラムやデフジャムの頃にお付き合いがありましたので、そういったご縁がそもそもありました。

 私は法治主義、人知主義、文治主義の3つの中で、人知主義がエンターテイメントの中で一番大事だと思っています。つまり人間関係ですね。貴重な人間関係がビジネスとして活きるエンターテイメントの世界はやはりいいなと感じています。

——今回のCEO就任で現場の指揮官に戻られるわけですね。

石坂:そうですね。ビジネスにおいてはここからが引退という区切りはあまりないですよね。今まで培ってきた人間関係や、ビジネスの経験はいくらでも活かすことができるので、チャンスがあればいつでも現役に戻ることができます。私が現役に戻ることで励まされる60代、70代の方もたくさんいるのではないでしょうか(笑)。

——(笑)。

石坂:ダグ・モリスさんはユニバーサルのトップからソニー・ミュージックのトップになりましたが、これもすごいことですよね。年齢だけではなくて、彼の人間関係やキャリアが評価されている。そういうものに影響を受けますし、憧れます。

——素晴らしいバイタリティですよね。

石坂:日本人はもっとバイタルにならないと駄目だと思います。日本人は「礼節を知り謙虚」「優しくて内気」といった人格が好まれる国民風土がありますが、勝海舟や伊藤博文、桂小五郎、大隈重信のような明治時代の男を再現しようじゃないかという気持ちはありますね。その頃の日本人は気骨がありました。国際社会は強い人、大きいことを言う人が好まれますが、日本では大きいことを言う人は好まれず、謙虚であることが好まれます。ですが、これでは二重基準になってしまう。日本は世界基準で戦いに出るべきです。

——日本の文化やアーティストを海外に輸出するためにも、これまで以上にそういった戦い方が必要になってくるのかもしれませんね。

石坂:日本の音楽文化はとても古いんです。それは大宝律令が制定された時代(西暦701年)からで、文武天皇が刑部親王、藤原不比等らに命じて、音楽分野で、今で言うところの文化庁を作ったのが、日本の音楽の発展、ひいては音楽産業の発展に繋がっているんですね。そして、こういったものを古くから記録として残しているのは日本だけなんですよ。これほど素晴らしい音楽文化の歴史を有す日本人は、誇りを持って音楽産業に従事するべきだと思いますね。

——今後はどのようにワーナーミュージック・ジャパンを変えていこうと考えていらっしゃいますか?

石坂:ヒット志向ですね。マネーメイキング志向に徹します。それはまずシングルヒットを出すことから始まります。ヒットが充満してきたら、また新しい文化活動を始めればいいんです。文化活動から始めるのは傲慢ですよ。そのためにはオリコンなどのチャートにもっと敏感になるべきです。

 昔の洋楽はシングルヒットが多かったですが、今はシングルを出さないですよね。でも、今はデジタルになって着うた、ダウンロードビジネスが起こり、シングルヒットの時代になりました。シングルヒットは当てることを目的に、そしてアルバムでは好きなことをやる。シングルで好きなことをやっても当たらないじゃないですか。だからシングルヒットは産業の米なんですね。

——それは「音楽産業の米」ということでしょうか?

石坂:もちろん音楽産業にとってもですが、産業全体のですね。今K-POPの勢いがすごいじゃないですか。日本のシングルが世界でヒットしたら共通の話題が生まれますし、政治交渉もやりやすくなると思います。日本も早くそうなりたいですね。

——これまでのワーナーはシングルヒット志向ではなかったということでしょうか。

石坂:傍から見ている限りヒットソング志向が薄いですね。アルバム志向もいいのですが、それだけじゃ駄目ですよ。今大きく言えば、アイドル、K-POP、アニメソング、子供の歌、それからJ-POPがあって演歌、洋楽。この中で、今のトレンドの中心はアイドルですよ。トレンドを掴んだ上で反骨するのは一向にかまわないですが、わけもわからずやっていてもしょうがないのです。

 

石坂敬一氏 ヒット志向でトップクラスに 〜 ワーナーミュージック・ジャパン 代表取締役会長 兼 CEO 石坂敬一氏インタビュー

——今はどのような曲がヒットする時代なんでしょうか?

石坂:アメリカは以前、世界の歌謡工場でした。でも今は極端に言えばニューヨークのラッパーの工場になってしまった。今、トニー・ベネットのニューアルバムが売れていますよね。やはりああいった音楽を求める人もいるんですよ。リズムばかりでは生きていけない。メロディーも必要なんです。だから日本は豊かなメロディーでいこうと。

 なぜかと言うと、日本語の歌詞の響きは素晴らしいからです。だからこそ、まずはなんと言ってもメロディーですよ。それからリズムやサウンド。それを簡潔に言えば「上半身歌謡曲、下半身ユーロダンスビート」がいいですね。これは絶対当たると思います。もちろん詞も重要です。私は、なかにし礼さんが最も優れた詩人だと思っているんですが、彼はそれまでは禁句だった「奴隷」や「爆弾」という言葉を初めて歌詞に入れたんですね。そういった言葉は歌に合わないと思われていたんですが、なかにし礼さんはあえてやって、見事に溶け込みました。あとは二重否定ですね。「私は愛していないわけでない」。こういう日本語の面白さですね。

——そして、プロデューサーの存在も重要になってきますね。

石坂:もちろんです。私は世界最高のプロデューサーは長戸大幸さんだと思うんですよ。彼は曲を知っている。1万曲知っていますよ。

——石坂さんよりも知ってらっしゃるんですか?

石坂:そうは言いません(笑)。ただ、彼は制作能力が高いですからね。短期間にあんなに当たった人はいませんよ。長戸大幸さん、エイベックスの松浦勝人さん、ソニーの酒井政利さん、コロムビアのいずみさん、東芝EMI時代の新田和長さん、EMIを代表するヒットメーカー草野浩二さん、ビクターの磯部健雄さん…こういう最高のプロデューサーたちについてみんなもっと勉強すべきだと思います。

——今の若いプロデューサーたちは彼らから学ぶことがまだまだあるということですね。

石坂:そうですね。詩を読まない、音楽を聴かない、先輩の話も聞かないでは話になりません。給料をもらっているんだから、もっと勉強してヒットを出さないと。「シングルが売れない」とか能書きばかり言っている人は駄目ですよ。

 シングルはちゃんと売れているじゃないですか。AKB48の新曲なんか2週間で135万枚売れている。曲もいいですよ。嵐は1週目で57万枚くらい。シングルでも価格が適正でいいものはいくらでも売れるんです。フィジカルが売れているのは日本だけですが、それはものがいいからですし、価格が適正だからです。プロモーションも適正ですし、日本人が優秀だからですよ。

——今や日本が世界で最もCDの売れる国になってしまいましたしね。ただ、デジタルの成長も著しいですし、日本でも何かしらの対策は必要だと思うのですが。

石坂:デジタルは最終商品としてはどこもそんなに売れていないんです。メディアとして進んでいるだけですね。最終商品としてのデジタルはまず価格が安過ぎます。音楽、書籍、新聞、何でもそうですが、価格が安くなってしまうのでみんな困っていますよね。利便性は確かにありますし、求められている商品でもあります。ですから、デジタル自体はやってもいいと思いますが、伝統的商品を大事にしないでデジタルばかりやっていたら失敗すると思います。つまり、共生の原理ですよ。棲み分けの原理。デジタルの時代になるのは間違いない。もうアメリカはなっていますよね。日本は少子高齢化の影響もあって速度はゆっくりですが、それだけではなくて、日本人は伝統的価値観を持っているので新しい物にも飛びつくけど、全員が飛びつくわけではない。国によっては全員が飛びつくわけです。

——前回お話を伺ったときに、欧米は「あれか、これか」の二択の文化で、日本は「あれも、これも」と両方受け入れる文化だとおっしゃっていましたね。

石坂:覚えていてくれたんですか? 嬉しいですね。これは非常に重要なことなんです。アメリカは特に「あれか、これか」の文化なので、新しいものが出た場合、それを支持すると古いものを捨てる。日本は必ず両方維持する。アジアは国によって違いますが、アメリカに向いていますね。アメリカ、イギリスが良く見えるのかもしれません。ただ、最近は日本も存在感を増しています。アニメやアイドル、カワイイものとかが注目されていますからね。

——CEOに就任されて、最初に着手されたことはなんでしょうか?

石坂:先ほども申し上げたように、ヒットに関しての意識が低いように思えましたので、ユニバーサル同様、ヒットを出した場合のインセンティブを設けました。

——それは大変わかりやすいですね。

石坂:今の時代、エンターテイメント産業は勝たなければ負ける。間がない。勝ちか負けかしかないんですね。1割が勝ちで9割が負け。その勝ちの1割の中でまた競争があります。そこに休憩はないんですね。要するにゆとりや余裕はありません。特にデジタルになったら全くないですよ。勝っても勝利の美酒に酔う暇もない。そんなゆとりのない時代、ご褒美がないといけない。だからインセンティブ制度を作りました。インセンティブがないと人間は動かないですよ。

——それもすべてはシングルヒットのために、ですね。

石坂:シングルから始まってアルバム、あるいはフィジカル、デジタル、音楽出版権、マーチャンダイジング、映像商品、とシングルヒットは全ての原点なんです。ユニバーサルではその意識を徹底してきました。ワーナーもそうなりますし、その形が合っていると思います。
 比較的大きい会社は会社固有の文化がわかりづらくなります。対してワーナーのような中規模の会社は独自の文化が色濃くありますので抵抗もあるでしょうが、徐々に正しいことを確立していきます。ヒットを否定するならレコード会社をやらない方がいい。文化的に、あるいは研究や趣味として好きな音楽をやるのはヒットを出した後です。

——まずは売ることを考えろと。

石坂:角川春樹さんがおっしゃった「まず売ることだ。文化は後からついてくる」というのは至言ですね。本当にそう思います。例えば、青山テルマはよく売れましたよね。あれはプロデューサーの川添象郎さんの見事な手腕ですが、大ヒットが出たときの醍醐味って影響力も含めて素晴らしいんですよね。やはり大ヒットを創出すべきですよ。

——それはみなさん望んでいることですよね。

石坂:売れている曲にみんなもっと注目するべきですね。売れている曲がある限り、音楽が売れる可能性があるんです。あと、レコード会社の重役会議ではもっと音楽の話をするべきだと思いますね。これは当たり前のことです。あと、私は音楽評論家の再興を願っています。日本には、民族音楽は中村とうようさん、ラテンは永田文夫さん、ジャズは油井正一さん、ビルボードは福田一郎さん、ショービジネスは湯川れい子さん、ポピュラーボーカルは青木啓さん、鈴木道子さんなど立派な音楽評論家がたくさんいますよね。こんなにたくさんの評論家を生んだ国は他にはないんですよ。

——日本の音楽の海外進出についてはどのようにお考えですか?

石坂:韓国のようにアジアから進出していくでしょうね。韓国はプロの作家が書いているので、ツボを得た作品が多いですね。日本はプロの作家が書く機会がなくなってしまいましたが、アイドルの時代になるとプロの作家がまた出るんですよ。だから期待しています。概してAKB48の曲はいいですよね。秋元康さんが選んでいるんでしょうけど、プロの作家が書いているのでいいメロディーの曲が多いですよね。

——メジャーメーカーらしいプロダクトを期待している声はたくさんあると思うんですよ。

石坂:クオリティの高いヒット曲ということですね。それはこれからワーナーから出ますよ。赤西を筆頭にCNBLUE、FTISLANDなどのK-POPや、サラ・ブライトマンを抜く可能性のあるキャサリン・ジェンキンスにまずは期待しています。

——最後に今後の抱負をお聞かせ下さい。

石坂:天の采配でワーナーのCEOに就任しましたので、もちろんトップクラスを目指しますが、短期間で結果を出したいですね。だいたい2年間とプラスアルファで世界のワーナーのステイタスを日本でも獲得しようと考えています。世界のワーナーのステイタスは、歴史上ナンバー1かナンバー2なんです。日本のワーナーはもっとマーケットシェアを上げて上位に食い込むべきです。また、日本の文化産業の雄たる音楽産業が物言わなくちゃいけない。そのためには今まで散々申し上げてきましたが、やはりヒットソングが不可欠になりますので、ヒット指向を推し進めていきたいと思っています。