「コンテンツID」でYouTubeコンテンツの著作権保護と広告収入が可能に 〜グーグル株式会社 執行役員 YouTubeパートナーシップ 日本代表 水野有平氏インタビュー
2007年にスタートし、すでに多くのレコード会社やテレビ局も導入しているYouTubeのコンテンツ管理プログラム「コンテンツID」。コンテンツのブロックや広告収入、さらにはマーケティングまでもカバーしながら無料で利用できる画期的なプログラムだ。このプログラムを導入することによってどのようなメリットが生まれたのか。また、今後の音楽業界にどのような影響を与えるのか。グーグル株式会社 執行役員 YouTubeパートナーシップ 日本代表 水野有平氏にお話を伺った。
プロフィール
水野 有平(みずの・ゆうへい)
グーグル株式会社 執行役員 YouTubeパートナーシップ 日本代表
東京生まれ。一橋大学大学院修了。
作曲家・作詞家でJASRAC正会員。TVCMプランナー、CM音楽ディレクターを経て起業。
その後、ヤフー株式会社を経て、現職。
YouTube パートナー プログラム:http://www.youtube.com/yt/creators/ja/partner.html
YouTube:http://www.youtube.com/
Google:https://www.google.co.jp/
[2012年5月10日 / 港区六本木 株式会社グーグルにて]
——「コンテンツID」はいつスタートしたのですか?
水野:2005年5月にアメリカでYouTube が始まり、2007年6月に日本でのサービスが始まりました。「コンテンツID」は、2007年10月からベータ版として公開されています。
——具体的に、どのようなプログラムなのでしょうか?
水野:「コンテンツID」は、著作権に対応するため開発したものです。「動画認証技術」や、「音声認証技術」により、動画や音声にIDを付けて、そのIDを元にアップロードされた動画を1つ1つ認証していくという技術です。
例えば、権利者が保有する音楽や動画のデータをシステムにアップすると、ユーザーが著作権に関わる内容を含む動画をYouTube 上にアップロードした際、権利者に通知が行きます。そこで、権利者は、その動画をブロックするか、動画の視聴動向についてトラッキングするか、広告表示をさせて収益を得るかを選択します。ブロックする際には、国ごとの公開・非公開の指定も可能です。また、公開した動画をどこの国の人が見ているのか、性別や年齢などを分析し、マーケティングとして利用することもできます。さらに、アップロードされた動画に広告を表示して広告料の一部を得ることもできます。 これがYouTube の提供しているコンテンツ管理プログラム「コンテンツID」で、権利者の方に無償で使っていただいています。
——YouTubeがJASRACらと包括利用契約を結んだことで、自作の映像と楽曲を組み合わせた動画もアップできるようになりましたよね。こういった動画の場合はどのような対応をされているのですか?
水野:音声認証技術により、音楽の音源だけでも著作権に関わる動画かどうか判断ができます。人気バンドの曲を流しながら曲に合わせて踊った映像をアップした場合、映像の権利者は撮影した本人、音楽の権利者は人気バンドになりますが、音楽の権利者は、音楽の使用について通知を受け取り、その動画の音声を「無音」にするのか、そのまま使用を許可し、その動画に広告を表示させ、広告料の一部を受け取るかを、選択できるのです。
——「コンテンツID」を利用するにはどのようなプロセスが必要なのでしょうか?
水野:まず、パートナープログラムへ参加していただく必要があります。
——「コンテンツID」に対する音楽業界内の反応はいかがでしょうか?
水野:この技術については、非常に高い評価をいただいていると感じています。YouTubeに動画をアップしているユーザーは、そもそもそのアーティストのファンです。自分がその動画をアップロードするのと同時に、自分のブログに貼り付けたり、自分の友達にリンクを送ったりすると、ファンのコミュニティーの中で紹介され、「これ最高だね」などのコメントが付くこともあります。そのような拡がりが意義あるフェイズのアーティストの方については、収益化を選択することで、プロモーションにしていただきながら利益をあげていただき、そうではないフェイズの方には、ブロックしていただくという、柔軟な運用をしていただいています。総じて、多くのレコード会社の方に満足していただけていると思います。もちろん、我々は、さらによりよいものになるように、努力を重ねていきますが。
——音楽の場合、1曲まるまるアップされた動画を視聴できるとなると、CDがさらに売れなくなるというような弊害もあるのでは?という意見もありますよね。
水野:最近、あるレーベルの方と話していたのですが、YouTubeには、SDレベルの画質の映像を公開。そして、HDレベルの画像については、BD/DVDで販売を、と切り分けている方々も多いようです。音源の質も同様ですね。YouTubeは、ハイクオリティの動画もアップできますが、もちろん、HDからSDまで、アップする動画の画質を、アップする方が自分で決めることができます。実際、ファンは、所有したいものと、そうではないものとを、無意識に分けているようにも思うので、そうした多様な選択肢をファンの方に提供するのも、ビジネスとしてよいかもしれません。実際、デビューしたてのアーティストと、パッケージで確実に収益を見込めるアーティストとでは、YouTubeの利用方法が変わっているのだと思います。
——日本のレコード会社を始めとする権利者には、どれくらいの収益がもたらされると考えられますか。
水野:レコード会社の場合は、1つのレーベルに多くのアーティストがいるので、様々なパターンがあり一概には言えませんが、いわゆる個人クリエイターの場合、その方一人で、サラリーマンの平均年収より多く、YouTubeからの広告収益をもらっていらっしゃる方もいます。
——クリエイターは、動画をアップするだけで収益が得られる上、世界中からファンを獲得することも可能なわけですね。
水野:はい。潜在的には、8億人にリーチできる可能性があります。最近、我々はYouTubeで成功しているユーザーからのヒヤリングをもとにした、YouTubeで成功する動画の作り方というハンドブックを無償で提供開始しました。
さらに、動画の統計情報を見ると、各動画が、世界のどの国から見られているのか、世界地図で表示していて、よく再生されている国ほど色が濃くなっています。
現在、韓国のアーティストが非常に積極的にYouTubeを使っているのは、まさに、グローバルな市場を視野に入れているからだと思います。
——韓国のメディアはYouTubeの活用に非常に積極的だそうですね。
水野:はい、そうですね。先日、韓国のMBCという大手テレビ局がYouTubeと合同で記者会見を行ないました。そこで、MBCは同社が保有している過去1万時間分のあらゆる番組をYouTubeにアップするほか、放送終了後の見逃し番組も毎週かなりの番組をYouTubeにアップすると発表しました。また、ちょうど5月には、1940年代から1990年代までの韓国映画のチャンネル、「コリアンクラシックムービーチャンネル」が公開されました。しかし、彼らが最もプッシュしているのは、ドラマや映画よりも、K-POPの世界展開です。
——日本のテレビ局にそういった動きはないのでしょうか?
水野:YouTubeの利用はとても積極的だと思います。韓国ほど大胆ではないですが、日本でもほとんどの放送局が「コンテンツID」を利用して動画を公開されています。例えば、TBS、テレビ朝日は、ニュースや番組連動のコンテンツなどを積極的に公開してくださっていますし、NHKも、ためしてガッテンなど、多くの過去のアーカイブを展開されています。テレビ東京も、多くの番組の宣伝にYouTubeを使われており、フジテレビは、「ノイタミナ」というアニメーションチャンネルや、アイドリングの番組を持ち、オリジナルコンテンツや、アーカイブを公式チャンネル上に公開したり、FNNニュースやBSのニュースなども見逃しとして配信してくださっています。音楽でいうと、テレビ朝日は、先日、ミュージックステーションのスピンオフ番組をYouTubeに公開されました。
——動画は全て無料なんですか?
水野:はい、YouTubeは基本的には無料です。しかし、最近では、ハリウッドの映画などを、有料で提供するサービスも開始しました。権利者の方々からの多様なご要望にお応えするためです。PCでYouTubeから映画を購入しスマートフォンなどアンドロイド搭載端末で、同じ映画を視聴でき、逆にスマートフォンで購入しPCで視聴も可能です。課金方法は、クレジットカードと、携帯電話の各キャリアを通じて課金する二つの方法があります。
——どのような映画会社がコンテンツを提供しているのでしょうか。
水野:ハリウッドからは、ディズニー、ユニバーサルピクチャーズ、ソニーピクチャーエンターテインメント、ワーナーブラザースなどです。日本では、東映やバンダイなどが参加されていますが、これからもっと増えていきます。
——デジタルコンテンツの収益化のモデルが多様化してきたことによって、これから局面がずいぶん変わってきそうですね。
水野:はい、多様化というと、収益モデル、配信する国、デバイスなどが多様化しているわけですが、コンテンツに応じて、YouTube 上でそビジネスごとに最適化をはかっていただけたらと思っています。YouTubeでは、あらゆるデバイスに向けて配信されるプラットフォームを目指して、日々努力をしており、また、権利が複雑なコンテンツのために、公開する地域や国を選択できる技術も提供しています。
——「コンテンツID」は、将来的にレコード会社やインディーズレーベル、プロダクションを救う手だてとなるのでしょうか。
水野:まず、大前提として大切なのは、時々、インターネットの時代になると、すべての「情報」は、無料化していくと言う方がいらっしゃいますが、私は、「作品」が同様に無料化していいということではありません。「作品」には、多くの希少な才能が注ぎ込まれているわけですから、その対価を得ることは重要です。ただ、その対価の受け取り方が、直接ユーザーから受け取るだけではなく、広告料の一部を得る方法など多様化しています。そして、作品を提供する側は、アーティストのビジネスのフェイズに応じて、どのビジネスモデルを選ぶかを、選択されていくことも重要です。そして、何よりも大切なのは、そのアーティストのお客さま方が、今、何に時間を使い、何にお金を使い、何を求めているか、ということを考えることでしょう。最終的には、ファンの方々とどう向き合うかということかと思います。その時に、今までのメディアだけでなく、YouTubeなどの新しいメディアをどうやって組み合わせて、そのアーティストとファンの関係性を開拓し、強化していくを考えていくと良いのではないでしょうか。我々は、今後の音楽ビジネスがどんどん多様化していく中で、YouTubeがさらに有益なものをとしてご利用いただけるように、さらに素晴らしい技術を開発し、提供していきたいと思います。
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